なんだか過剰になってない? 敬語の使い方が面白いほど身につく「敬語マニュアル」
あなたは、自分が普段から使っている敬語を「本当に正しく使えている」という自信はありますか?
20代のビジネスパーソンの皆さんは、日々の仕事において上司やクライアントなど目上の方に対して敬語を使う機会が多くあることでしょう。
そこで「敬語をうまく使えないと損をする」と説くのは、NHK放送研修センター 日本語センター部長を務める合田敏行さんです。
今回のキャリアコンパスでは言葉のプロである合田さんに、「正しい敬語」「使える敬語」を具体的にご教示いただきました。
自分の使っている敬語って、本当に正しいのかな? 実はいつも使っている敬語にあんまり自信がない。そんな方には必読の内容です!
丁寧すぎる敬語は禁物! 敬語の上手な人とは
お客さんとの商談や上司への連絡・報告など、毎日の仕事で目上の方と会話をする機会は業種や職種に関わらず、少なからずあるもの。
特に、相手に何かをお願いしたり質問をしたりするときは、好印象を残すためにも「正しい敬語」が欠かせません。しかし、その敬語の使い方を一つ誤ってしまうと相手にマイナスの印象を与えてしまい逆効果になることも…。
「お分かりになりましたか?」
「皆様も存じ上げている通り……」
「こちらが弊社の提案になってございます」
「これらは敬語の間違った使い方、あるいは、相手を不快にさせかねない日本語表現です」――そう話すのは合田敏行さんです。
合田さんは元アナウンサーで、現在はNHK放送研修センター日本語センターで、正しい日本語を伝える企業研修などを行っています。そんな合田さんですが、研修等で若い世代のビジネスパーソンと接するなかで、特に多いのが「丁寧すぎる敬語」と「くどい言い回し」だと言います。
「学校生活あるいはアルバイト先など、自分と近い年齢の人と話しているうちは緊張も少なくカジュアルな口調でよかったかもしれません。そして、いざ社会人になり、改まった場面に遭遇すると、目上の方と接することや敬語に慣れていないせいか、ぎこちない態度になりがちです。
そのせいか自信なさげに話すようになってしまい、さらに時間が経てば『とにかく相手に失礼にならないように』と心がけるあまり『?でございます』を多用する『丁寧すぎる敬語』を使うようになるのです。かえってその過剰さが相手の気分を害してしまうこともあります」(合田敏行さん、以下同)
しかもこうした過剰敬語を使う社会人は、意外なことに30代、40代にも多いのだとか……。
「丁寧すぎる敬語が体に染みついてしまうと、そこからなかなか抜け出すことができません。上司や先輩をお手本にしようにも、周りには過剰敬語の先輩ばかりなんてことも(笑)。そうした先輩のマネをするのではなく、20代のビジネスパーソンには社会人経験の浅い“入口”のところから正しい日本語表現を身につけ、“敬語がうまく使える人”にステップアップしていただきたいと願っています」
相手の立場になって考える――敬語上手になるためのポイント
では“敬語がうまく使える人”になるためにはどうしたらよいのでしょうか。合田さんは「簡潔でほどよく敬語を用いることができるのが、敬語がうまく使える人」だと話します。
そこで合田さんに聞いた「敬語上手になる」ポイントを4つにまとめてみました。
丁寧すぎず、簡潔に。相手への気配りが大事!
「敬語は『です・ます』をベースに、1つの文に1つの敬語が入る程度とし、敬語表現が2つも3つも入らないようにしましょう。相手の立場で聞きやすく、簡潔であることが大前提。
例えば『お願いする』という言葉も『よろしく お願い します』で十分スマートかつさわやかに聞こえます。これを『よろしく お願い いたします』と始めるとそれに続く言い回しが、雪だるま式に過剰敬語になってしまうのです」
目の前にいる“あなた”に使う敬語になるよう工夫する
「誰にでも同じように使う敬語は、心がこもっているように聞こえなかったりするものです。例えば『ありがとうございます』と伝えるにしても『お暑いなか、ありがとうございます』と言ってみたり、『遠いところを』『楽しいお話を』……など、『なぜ感謝するのか』の一言を添えてみたりするとよいでしょう。
『○○さん、ありがとうございます』というふうに相手の名前をつけるだけでも印象が変わり、『ありがとう』という言葉がグレードアップしていきますよ」
「ここぞ!」というときのクッション言葉を用意しておく
「また『ここぞ!』という場面には、普段使わない言い回しを織り交ぜると敬語の上手な人という印象を与えます。
『かしこまりました』、あるいは『おそれいります』『さしでがましいようですが』『あいにくですが』といった、丁重な言い回しやクッション言葉を頭のポケットに入れておき、いつでも使えるようにしておきたいものです」
批判・否定・命令と相手に思われないように!
「ビジネスシーンでよくある日本語表現として、相手に『お分かりになりましたか?』と問いかけるものがあります。これは、相手の能力・力量を測っているように捉えられかねません。例えば『今の私の説明で分かりにくいところはなかったですか?』というように、自分に非がないかを聞くようにしたほうがベターです。もちろん、シンプルに『ここまでで、ご質問はありますか?』でも十分です。
同様に、相手から資料をもらった返事として『参考にいたします』と返すのも『その程度の資料だったか……』と思われたりすることも。『参考にします』と返せば十分です。相手への配慮を第一に考えて使う言葉が、ビジネスの場面での成功につながります」
敬意を払うべき相手の立場になって考える。これが、全てに共通する一番のポイントのようですね。
尊敬語と謙譲語の取り違え、そしてバイト言葉……
さらに、仕事をしているなかでたびたびやってしまいがちなのが、尊敬語と謙譲語の取り違えです。
例えば「知る」ならば、尊敬語は「ご存じ」、謙譲語では「存じ上げる」です。ですので「皆様も存じ上げている通り」は誤った使い方。正しくは「皆様もご存じの通り」となります。
当然、社外の人に対して「ただいま社長がいらっしゃらないのですが……」「課長がおっしゃっています」なども誤用パターン。「ただいま社長は不在にしており……」「課長が申しています」が正しい使い方です。
〈よく使う尊敬語・謙譲語〉
尊敬語 謙譲語
する なさる いたす
知る ご存じ 存じ上げる、存じる
行く いらっしゃる、おいでになる うかがう、参る
言う おっしゃる 申し上げる、申す
見る ご覧になる 拝見する
また、社会人経験の浅いビジネスパーソンが陥りやすいのが「バイト言葉」。
「バイト言葉というと、よく聞くものに 『コーヒーになります』『ご注文は以上でよろしかったでしょうか』『1万円からお預かりします』なんかがありますよね。
これがビジネスシーンだと、『こちらが弊社の提案です』でいいものを、先ほどの過剰敬語も加わって『こちらが弊社の提案になってございます』というように、さらに悪いほうへと進化してしまうのです。いずれも、ビジネスの場では避けたほうがよいでしょう」
オンとオフの言葉づかいの振り幅を小さく
丁寧だけれど分かりやすい日本語を話せるようになるには、20代のビジネスパーソンは日頃どんな心がけが必要なのか、合田さんに伺いました。
「日本人は、言葉づかいがすごく丁寧になるオンの時間と、とてもラフに話しているオフの時間の“振り幅”が、どうしても大きくなりがち。この振り幅が大きすぎると敬語は上達しにくいんです。そこで、職場で同僚・部下に対して丁寧語レベルで話してみてはいかがでしょうか。たとえば『そこのファイル取ってよ!』ではなく『そこのファイル取ってもらえますか?』など、日常から言葉づかいの振り幅を小さくすることで日本語表現はきっと上達しますよ」
相手とのコミュニケーションを円滑にするべく、「もっと印象をよくしよう」と意気込めば意気込むほど言葉づかいは過剰になってしまうもののよう。
今一度、相手の立場になって、普段の自分の言葉づかいを客観的に見直してみませんか。
(取材・文:安田博勇)
識者プロフィール
合田敏行(ごうだ・としゆき)
1958年生まれ。一般財団法人NHK放送研修センター 日本語センター部長。1980年、東京大学文学部国語国文学科国語学研究室を卒業後、NHKにアナウンサーとして入局。新潟、高松、仙台、大阪などに勤務する。長崎放送局長、放送文化研究所研究主幹などを経て、現職。著書に『敬語の使い方が面白いほど身につく本』(ビジネスベーシック「超解」シリーズ)がある。
※この記事は2017/10/10にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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