コミュニケーションの過程においては、楽しい・うれしい・前進したなどのポジティブな感情だけではなく、ささいな指摘にイライラしてしまったり、キツイ一言に心がくじけてクヨクヨしたりと、時にはネガティブな感情を持つこともあることでしょう。
しかし、そうしたネガティブな感情が露骨に表情や態度に出てしまうと、周囲から「付き合いが難しい人だ」と思われてしまうことになるかもしれません。特に仕事関係でそうなってしまっては、仕事を進める際に支障が出てしまいます。
仕事を円滑に進めるためにも、感情をうまくコントロールするには一体どうすればいいのでしょうか? そこで、精神科医であり評論家や作家、映画監督としても活躍されている和田秀樹さんにお話を伺いました。
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イライラの本質は自分の中にある?
自分のミスじゃないのに、理不尽な理由で上司から怒られた。何度言っても部下が同じ失敗を繰り返してしまう――。
自分以外の誰かと仕事をしていれば、時にそんな場面にぶつかることがあるかもしれません。それがどんどん積もって自分のネガティブな感情に歯止めがきかなくなり、物に当たったり相手をきつく怒鳴りつけたり、ついつい“感情的”になってしまうこともあるでしょう。そんなとき、人はたいてい「あいつのせいだ!」なんて、怒りの原因を自分とは別のところに追及しがちだったりします。
「でもイライラの本質は、意外と自分の性格にあるのかもしれませんよ」
そう話すのは精神科医の和田秀樹さん。人はなぜ、感情的になるのでしょうか? 和田さんは「大前提として、感情のない人間は存在しない」と話し、次のように続けます。
「よく『あの人が怒ったところを見たことがない』なんて言われる人がいますよね? ですが、実際は外に出さないだけで、その人も心の中ではふつふつとした怒りの感情がわきあがっているのかもしれません。
問題の本質は、そのときの感情を“コントロール”できるかどうか。感情をコントロールできないと、物に当たってしまう、怒鳴り声を上げてしまう……というように、露骨に感情が表出され、“感情的な人”だと思われてしまうのです。当然、これが職場や社会の中で起こると問題のある人だと思われてしまいます」(和田さん、以下同)
感情的にならない人は「性格の偏りを自覚している」
たしかに最近は「感情的に」なってしまったためにささいなことが原因でトラブルを起こしたことが、たびたびニュースなどで取りざたされていたりしますよね。和田さんは「感情的になる人、ならない人の差」について、次のように解説します。
「感情的にならないための第一歩は、自分の性格の偏りを自覚することです。いつも不機嫌そうにしている人に気遣って声を掛けてみても『怒ってなんかいません!』なんて、また怒り出したりする(笑)。そういう人は、自分が怒っていること自体を自覚していないことが多いんです」
たとえば、友人との待ち合わせ。友人は5分遅れてやってきましたが「ごめん、ごめん」と軽い感じで謝る程度。そんな友人を見て、あなたは「そんな態度はないだろ!」と怒ってしまいました。「相手が5分遅れた」という事実だけに焦点がしぼられているため、突発的に怒りの感情がわきあがってしまった状態です。
もしもこのときあなたが「自分=時間に敏感な人間である」とあらかじめ自覚していたとしたら……?
「自分は時間に厳しいけど、よくよく考えればちょっと遅れただけだし、まあいいか」
友人のちょっとした失敗を冷静かつ客観的に判断することで、過敏に反応することは起こらないかもしれません。
「誰にでもモノの見方や考え方には“偏り”があります。だから、あるものごとが『自分の常識から逸脱している』と感じたとき、怒りなどの感情がわきあがってしまうのです。しかしあらかじめその偏りをきちんと自覚しておけば、自分の中の常識に固執することがなくなり、周りの人を怒ることも少なくなります。“おおらか”とか“大人物”だと思われている人は、実はものごとの受け取り方が人と違っていて、今の精神医学ではその受け取り方がその人の性格をつくるかなりの要素を占めている、と考えられています」
感情的にならないための対策
「『感情的にならない人になる』とは『短絡的なものごとのとらえ方を直していく』ということでもあり、われわれのような精神科医が認知療法として行っているカウンセリングもそのための心の治療法です」
なお「感情的にならない」ためには、たとえば次のようなポイントがあると和田さんは教えてくれました。
〈感情のコントロールするポイント〉
●不機嫌な顔をしていないか、自覚する
●「自分は満たされている」という実感を持つ
●「どう思われるか?」を気にしない
●「過去は変えられない」と割り切る
●「不安は起こらない」と考える
●マイナス感情を人にぶつけない
●どんな役回りも前向きに考える
●「答えは複数ある」と考える
出典:『感情的にならない 気持ちの整理術 ハンディ版』より
「感情的になりやすい人」の中には「二分割思考で考える人」がいる、と和田さんは話します。
「白か黒か、敵か味方かの二分割のみで考えてしまう人のことですね。それまで味方だと思っていた人が自分とは反対の意見を主張した――。感情的になりやすい人は、その瞬間その人が『敵になった』と考えてしまうのです。
でもビジネスの世界なら、味方からも批判されることがあるだろうし、相手が100%自分と同じ意見であることはなかなかあり得るものではなく、多少なりとも食い違うことはあるでしょう。中高生時代の仲良しグループとは違い、それぞれスキルや経験を積んできた大人同士ですから、さまざまな視点が交差するのは当たり前。
他人にも厳しくなりがちな完璧主義タイプの人にも同じようなことがいえて、完璧な人間なんていないと分かっていれば、相手に完璧を求めて怒ったりすることもなくなるはずです」
感情のコントロールは、まず自分を知ることから――。自分を知るためには、積極的に人との交流を図り、自分がどんなときに怒ったり不機嫌になったりしているのかを教えてもらうのも効果的だといえるかもしれません。
感情的になってしまった! そんなときは深く深呼吸を
また「感情的になりやすい人」の事例を通じ、“万が一”怒りの感情が芽生えたときにどうすればよいのか、和田さんに教えていただきました。
「感情的と言われる人の2つめのパターンが、瞬間湯沸かし器タイプ――つまり、感情のテンションが突発的に高くなる人のことです。万が一、自分が感情のテンションが上がっていると感じたときは、まず時間を置くことが大事。たとえば振り込め詐欺なんかにしても、身内になにかあったんじゃないかと一時的にテンションが上がり、相手に言われるがまますぐにお金を振り込んでしまう。
でも、その合間に時間をおいて誰かに相談できれば、だまされることも少なくなるはずです。このほかに、深呼吸する、甘い物を食べて脳の血流をよくする、笑える絵や写真を見て気分を変える――なんてことも効果的ですよ」
自分の感情をうまくコントロールできるということは、コミュニケーション力を高め、人間関係を円滑にすることにもつながるはず。まずは自分の感情や性格の中にある“クセ”を見つけ、自分がどういう状態のときに感情的になってしまうのか、客観視して理解を深めてみませんか。
識者プロフィール
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修。以降、アメリカ留学、東大病院精神神経科助手などを経て、現在は国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック(アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化したクリニック)院長などを務める。1987年に発刊した『受験は要領』がベストセラーとなり、以降は大学受験の世界のオーソリティとしても知られる。2007年には原作・監督を務めた映画『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞、2013年にも『「わたし」の人生』で人道的作品監督賞を受賞している。本記事の関連書として『感情的にならない本(新講社ワイド新書)』『感情的にならない 気持ちの整理術 ハンディ版』なども。
※この記事は2017/10/02にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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