米国雑誌で「世界の頭脳100」に選出された「電通」社員に聞く、「伝え方」のコツ

企画の立案やクライアントへの提案って難しい。どうすれば多くの人に発信できるのだろう。そんな悩みを抱えたことはありませんか?

米国雑誌で「世界の頭脳100」に選出された「電通」社員に聞く、「伝え方」のコツ

企画の立案やクライアントへの提案って難しい。どうすれば多くの人に発信できるのだろう。そんな悩みを抱えたことはありませんか?

広告代理店の電通で働く鈴木瑛さん(メイン画像左)と木田東吾さんは、臓器移植を疑似体験できるプロジェクト「Second Life Toys(セカンドライフトイズ)」を立ち上げました。そして世界中へ発信し、臓器移植のイメージアップに大きく貢献しました。

この活動によって、2人は米国雑誌『フォーリン・ポリシー』が、卓越したアイデアで社会課題の解決に貢献し、世界に影響を与えた人物を毎年発表する「世界の頭脳100」(2016年)にも選出されています。過去にはバラク・オバマ元大統領やマーク・ザッカーバーグ氏など、そうそうたる人物の名も。

今回は、鈴木さんと木田さんにSecond Life Toysの経験をもとに、企画のアイデアの出し方から人に伝わるプレゼン術、さらに世の中に広める方法を教えていただきました。

アイデアはゼロから生まれない。大量の事例をインプットする

 


まずは、あらためてSecond Life Toysについてご紹介します。このプロジェクトは、修復したい大切なぬいぐるみを持っている人と、もう遊ばなくなったぬいぐるみを"ドナー"として寄付してくれる人を、サイトで募集。壊れてしまったぬいぐるみを"ドナー"からもらったパーツを使って修復することで、修復前よりさらに魅力が増した姿にしてもとの持ち主に返してあげるというものです。

臓器移植の普及・啓発を促すメッセージというと、「ドナーを待っている人がたくさんいる。だからドナー登録をお願いします」といったものを聞いたことがある方も多いかと思います。けれど、いざ一歩を踏み出そうとすると、どこか怖くて勇気が出ないもの。

このプロジェクトはそんな不安を持つ人に対して、多くの人が大切にしていたことがある「ぬいぐるみ」をモチーフにメッセージを発信。臓器移植へのイメージを「修復をすると、以前よりもさらに魅力を増して戻ってくる」と前向きなものへ変えたのです。

このように「伝え方」を上手に工夫すれば、人の心を動かし世界を大きく変えられるかもしれません。そのコツをひもとくべく、インタビューをお届けします。

株式会社電通 シニア・クリエイティブ・マネージャーの鈴木瑛さん。マーケティングソリューション局ディレクショングループ所属。



―Second Life Toysの発想力にとても驚きました。ゼロから企画を考える時のポイントはありますか?

鈴木瑛さん(以下、鈴木):まずテーマを決める時には、2つの軸でリサーチをする必要があると思います。例えば今回のような社会貢献に関する企画であれば、1つは世の中の課題を知っておくこと。多くの人は「臓器移植提供は足りていないだろう」という漠然とした事実をきっと知っていますよね。ただ、約1万4千人も待っている人がいて、年間300~400人ぐらいしか移植が実施されていない、ということを知っている方は少ない。だから、これだけ多くの人が困っている。こういった課題を日常的にストックしておくことで、企画を出す時にテーマとするものを見つけやすくなるのかな、と思います。

もう1つの軸は、「伝え方」の新しいアイデアを考えること。どのメディアも、目新しいもののほうが取りあげてもらえるし、話題にしてもらえます。ですから先行事例を知ることも重要です。

木田東吾さん(以下、木田):2人でそのアイデアを出し合っていた頃に、大事だったなと思うプロセスが、広告の事例を大量に勉強したことです。仕事とは別に毎週末集まり、世界中の広告の事例をひたすら見続けました。こういう海外の事例があって、おもしろい。それはなぜおもしろいのか? 僕はこう思う、こういうアイデアは使えるよね! といったやりとりが、すごく効果的でした。

鈴木:事例研究がなぜ大切だったかというと、アーティストの方は違うのかもしれないけれど、たいていの人は新しいアイデアをゼロから生むことって難しいんですよね。新しいアイデアは、既存のアイデアに何かを足し合わせるとか、かけ合わせたりすることでようやくひらめくもの。世の中のすべてのアイデアを知ることはできないけれど、多くの成功事例を知っていることで、そこから先に発想していくことができるのだと思います。

相手の立場を考え、プレゼンする。当たり前のことをよく考える



―プレゼンの時に、相手に伝えたいことをしっかり伝えるために、意識するべきことを教えてください。

鈴木:大切なことは相手に伝えたいメッセージは何かを意識すること。そしてテーマとしてピックアップした課題を、わかりやすく単純化することです。

Second Life Toysの場合、ぬいぐるみの手や脚を"移植"しているので、厳密には臓器移植といえません。細部まで目をやると矛盾もありますが、僕たちが一番伝えたいことは"大切にしているぬいぐるみが誰かの好意によって救われること"。プロジェクトによってその目的を達成できますよ、と相手に伝えることがプレゼンでは何よりも重要です。

木田:プレゼンをする時には、企画・制作側の視点からいいと思ったポイントだけを話しがちです。以前、僕が担当していた営業先は、日本を代表する自動車メーカーでした。彼らが求めるものは、おしゃれな広告であればそれだけでいい、ということではなく、ビジネスとしても効果がある広告です。そこでプレゼンの成功のために考えるべきは、相手が求めるものを理解するための方法は何か。どうしたら納得してもらえるか、自分なりに整理して分解すること。プロジェクトの内容を相手によって理解しやすい文脈にして伝えてあげるのです。

鈴木:僕ら制作側と、受け取る側では視点に違いがあります。制作側は、これだけおもしろいから相手にも伝わるだろうとポジティブに考えがちです。けれど、制作側の視点だけで話してしまうと、おもしろさの3割も伝わらないことも。「何がおもしろいのか」を伝えるためには、この企画が実現することで、クライアントや世の中にどのようなメリットがあるのかということを、丁寧にひもといてあげる必要があります。

世の中に広める時に大事なことは、あきらめないこと

 

株式会社電通 クリエーティブ・テクノロジストの木田東吾さん。新たな技術を使い、新しい表現を考案するCDC / Dentsu Lab Tokbyo所属。



―Second Life Toysは世界中の1,200媒体以上で紹介されたそうですね。一体なぜそれほど多くの媒体から取り上げてもらえたのでしょうか?

木田:愚直な方法になってしまうかもしれませんが、このプロジェクトを取り上げてもらうために、海外の大手も含めたさまざまなメディアを中心に1週間、ひたすらメールを送り続けました。有名人がつぶやくと一気に拡散するからと、「マイクロソフト」創業者のビル・ゲイツに送ったり、「Apple」のCEOティム・クックに送ってみたりしたけれど、当然返事はありませんでしたね(笑)。

何日間も送り続けているのにどこからも取り上げてもらえなかった時は2人で落ち込みましたが、それでもがんばろう、とひたすら発信を続けました。すると、ぽつぽつと取り上げてくれるところが現れて、ある大手メディアからの取材を境に一気に広まったんです。それからは、どの取材依頼にも丁寧に対応しました。一つひとつを丁寧に積み上げることによって、結果は変わっていくんだと実感しました。大事なことはあきらめないことですね。

誰もやらない面倒臭いことをやりきる。それが自信につながる


―プレゼンやインターネットでの発信、人に「伝える」ことに対して、自信が持てない、不安だと感じている20代へ向けてメッセージをお願いします。

鈴木:初めて自分から何かを発信する時って、不安な気持ちになりますよね。僕自身、今でも不安に思うことがありますよ。とくに臓器移植のようにセンシティブなテーマで世の中に何かを提案する時は、ややもすると、偽善的にとらえられてしまう。

しかしそこで、リスクが怖いと目をそらすのではなく、どういうリスクがあるのかをしっかり考え、ネガティブ要素を消していくことで不安は減らせるはず。発信する前に、知らない人からみたらどうか、移植患者さんからみたらどうかなど、いろんな視点から検証しておくことが大事だと思います。

木田:僕は自分に自信がないという人こそ、自信が持てるように努力することが大切かなと。僕が20代の頃、仕事で人に誇れることが何もなく、毎日、自分は何ができるんだろうと考えていました。発信しようと思っても、「誰が言っているんだよ」と思われるんじゃないかと心配になることもよくありました。

地味で地道なことかもしれませんが、広告の事例を見るといった行動は誰にでもできることです。しかし、ほとんどの人は途中で面倒くさくなって止めてしまったりする。それをやり遂げることで、自分のなかで確固たる自信が出てきます。

世の中に発信する時も、学んだ分の後ろ盾があるからこういう発信の仕方なら大丈夫、という判断基準ができてくる。時間はかかりますが、必ずあなた自身の糧となっていくものなので、コツコツ頑張ってください!

同期の2人。現在も、Second Life Toysの第2弾としてファッションをモチーフに「Second Life Fashion」や、「聞こえる選挙|Yahoo! JAPAN『東京都議選特設サイト』」を担当するなど、2人での活動が進行中。



冒頭のご紹介で、鈴木さんと木田さんのことを世界的に認められたどこか遠い世界のスーパーマンのように感じた人も多いと思います。けれど企画を始めた当時、2人はまだ20代後半。社内外で評価してもらえるほどの実績がまだなく、なんとかせねばともがいていた時期だったそうです。そんな中、週末に2人でアイデアを出し合い、2年越しで生まれたプロジェクトがSecond Life Toysです。

お話を聞いて伝わってきたことは、地道な努力。ふたりのお話は広告業界以外の方でも、仕事に通じるのではないでしょうか?

決して諦めず、地道な努力を積み重ねていくことが、きっとあなた自身を成長させてくれるはずです!

(取材・文:上浦未来/編集:東京通信社)

識者プロフィール


鈴木 瑛(すずき・あきら)
1984年生まれ。2007年電通入社。マーケティングソリューション局所属。街づくりゲーム「シムシティ」を教材に用いた新しい政治塾の設立や、視覚障がい者に向けた選挙情報サイトの開設(ヤフーとの共同プロジェクト)など、企業のプロモーションやマーケティングを通じて、社会にアプローチする仕事を多く手がける。

木田東吾(きだ・とうご)
1985年生まれ。2007年電通入社。クリエーティブ・テクノロジスト。新たな技術を使い、新しい表現を考案するCDC / Dentsu Lab Tokyo所属。最近はAIを用いて新しい表現を開発できないか、目下模索中。

●鈴木 瑛さん×木田東吾さんのプロジェクト
聞こえる選挙|Yahoo! JAPAN 東京都議選特設サイト

※この記事は2018/02/19にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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