家庭科の通信簿は3、ミシンも使えない…。そんな私でも「やりたいこと」を形にできた。泥臭くも戦略的なハヤカワ五味氏の人生

「巡ってきたチャンスを、いかに打ち返せることができるか。一定の知識を蓄え、常に余裕を持っておけば、”やりたいこと”は形にできると思うんです。」

家庭科の通信簿は3、ミシンも使えない…。そんな私でも「やりたいこと」を形にできた。泥臭くも戦略的なハヤカワ五味氏の人生

「巡ってきたチャンスを、いかに打ち返せることができるか。一定の知識を蓄え、常に余裕を持っておけば、”やりたいこと”は形にできると思うんです。」

こう語るのは、ファッションデザイナーのハヤカワ五味さん。「品乳ブラ」として話題になった、ランジェリーブランド「feast by GOMI HAYAKAWA」の立ち上げを皮切りに、ポップアップショップへの出店、ムック本の販売など、自分の”やりたかったこと”をどんどん形にしていっています。

彼女が”やりたいこと”を形にできている理由……それは巡ってきたチャンスを逃さず、打ち返し続けてきたからに他なりません。今回、ハヤカワ五味さんのキャリアから、”好き”を仕事にするためのヒントを探っていきます。


【プロフィール】
ハヤカワ五味/ファッションデザイナー
1995年、東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科2年在学中。高校時代から創作活動を始め、大学生になって立ち上げた胸の小さな女性のためのランジェリーブランド「feast by GOMI HAYAKAWA」は「品乳ブラ」として一躍有名に。2015年に株式会社ウツワを興し、代表取締役に就任。同年5月にラフォーレにてポップアップ出展。泰文堂から6月にランジェリー付きムック本『feast CollectionBook 2015 Summer』を発売。

中学生の頃、家庭科の通信簿は「3」だった。それでも”人を喜ばせたい”思いが私を突き動かした

 


-- 現在、ファッション分野を軸に活躍されていますが、もともとファッションに興味があったのでしょうか?

ハヤカワ五味(以下、ハヤカワ):正直、昔からファッションに興味を持っていたわけではなくて……。もともと、アニメやゲームがすごく好きで、将来の夢はアニメーターになることだったんです。小学生の頃、ペンネームも色々と考えていました。

それくらいアニメやゲームが好きだったんですけど、中学二年生の時に古屋兎丸さんの漫画『彼女を守る51の方法』に出会って、人生が180度変わりました。登場人物・岡野なな子が着ているロリータ服にすごく興味を惹かれて。

-- ロリータ服の何が魅力的だったのでしょうか?

ハヤカワ:女性の多くが憧れるディズニープリンセスの服装。あの雰囲気に近い感じもありましたし、何よりいつもの自分とは違う感覚を味わえるのが魅力的でした。他の人になりきると言いますか、ロリータ服を着ているときだけ、夢を実現させていく気分になれた。それがすごく好きだったんです。


-- 非日常の感覚を味わえたと。ロリータ服を”買う”選択肢もあったと思うのですが、なぜ自分で作ろうと思ったのですか?

ハヤカワ:本当は買いたかったんですよ(笑)でも、ロリータ服って1着、2~3万円くらいするんですよ。中学・高校の頃では、どれだけバイトしても買える金額ではなくて……。であれば、もう自分で作り始めるしかないなと。そうした背景もあって、自分で作ることにしました。

とはいっても、ロリータ服を作成する知識も全くなくて。家庭科の通信簿も3しかなかったですし。

-- 家庭科の通信簿は「3」だったんですか!?

ハヤカワ:そうなんですよ。振り返ってみても、「一番ひどい評価だったんじゃないか?」と思っているくらいです。3しかなかったので、当然、ミシンも使えませんでした。ただ、初心者向けにロリータ服を作るための本が結構売られていたので、それを参考しながら作っていきましたね。

ただ、最初はすごく難しかったです。ロリータ服を作っていくうちに、ファスナーを付けるのが苦手だと気づき、全部ゴムにして縮むようにするなど、試行錯誤を繰り返してました。

すごく苦労したんですけど、実際に自分の手でロリータ服を作って、他の人に着てもらう。その楽しさが分かって良かったな、と思います。

-- 自分で着るのではなく、他の人に着せる。

ハヤカワ:もちろん、自分で着ることもありましたけど、周りの人から喜んでもらえるのが何よりも嬉しくて。ロリータ服を欲しがっていた女の子に対して、自分が作ったものをあげて、喜んでもらう。その楽しさがあったからこそ、ファッション分野で頑張り続けることが出来ているのかなと思いますね。


-- 「人を笑顔にする」ことが、ハヤカワ五味さんのモチベーションになっていたんですね。

ハヤカワ:そうですね、最初はその思いだけで動いていました。高校2年生のときに作った『キリトリ線ストッキング』。想像以上に反応があって、かなり売れたんですけど「商品を渡した相手の笑顔が見たいから」と、あまりお金を貰わずにいた。それが美徳だと思っていたんです。

でも販売してみて、「このままでは次の作品が作れないな」と。どんどん新しい作品を作って、お客さんに喜ばせ続けるためには、一定の利益を出していかなければいけない。それがきっかけとなり、利益を出すことの重要性を感じるようになりました。

-- その思いがあったからこそ、「品乳ブラ」が誕生したのでしょうか?

ハヤカワ:もともと、自分のコンプレックスから生まれたものだったので、「こういうのがあったらいいな」という構想自体は持っていました。それまでは行動に移す時間がなくて取りかかれていなかったんですけど、大学に入ってから行った展示会のあとに、ぽっかり時間が空いて……。

「この時間を上手く使えば、もう一個新しいことができるんじゃないか」。そう思ったので、品乳ブラを形にしてしまおうと。ただ、量産するつもりはなくて、「30着くらい作れればいいかな」と思っていたら、想像以上に評判が良くて。

ハヤカワ五味氏が立ち上げたブランド「feast」



実際にサンプルを作って、Twitterに撮影した写真をあげてみたら、1.5万リツイートくらいされて、「欲しいです!」という声もたくさん頂けた。「これはもう実際に販売するしかないな」と。正直、工場も決まっていない状態だったんですけど、「欲しい」という人に絶対商品を届けたいなという思いがあったので、そこは泥臭く電話しまくって工場を決めました。

工場が決まってからは怒涛の勢いで製品を作っていき、秋には「品乳ブラ」を販売することができましたね。

チャンスがボールのように来たとき、いかに打ち返せるか。それが”好き”を形にするための近道

 


-- 本当に自分のやりたかったことを次々と形にされていってますね。

ハヤカワ:日本って、我慢することが美徳とされていて、自分の好きなことを仕事にしてはいけない風潮があるなと思っているんですけど、我慢なんてする必要ない。

美術専門学校に臨時講師として伺ったとき、将来の構想をロードマップにする授業があったんですよ。その授業で、定年まで働いてから行ってみたかった場所に行くという、修行僧っぽい未来図のようなものを書いている人が本当に多くて……。別に定年後ではなくて、今行けばいいじゃないですか?

今の時代、副業的な働き方もできるようになりましたし。趣味は趣味で取っておくのも良いと思うんですけど、もし、趣味を仕事にしたいと思ったなら、それにもっと時間をかける時間の使い方をしてもいいんじゃないかな、と私は思います。

それに加えて、チャンスを打ち返す力も大切だと思っています。やっぱり、チャンスがボールのようにやって来たときに、それを打ち返す力がなかったら、チャンスを逃してしまうじゃないですか。チャンスが来たときにきちんと打ち返す。この力は基礎力として、養っておくことが重要だと思います。


-- 打ち返す力って、具体的にどうやって身につけたんですか?

ハヤカワ:打ち返す力といっても、どうやってメールを送るか、どうやって大人と接するか。そういった基本的なことを、当たり前のように出来るかどうかだと思うんです。

例えば、ある女の子に大きな仕事がたまたま降ってきたとしますよ。その女の子が敬語を話せなかったり、相手の気持ちを逆撫でするような接し方しか出来なかったりすると、大きな仕事がきても逃してしまうじゃないですか。

でも誠実な態度を取っていたら、仮に仕事ができなかったとしても、誰かしら助けてくれると思うんです。そして、その後仕事がうまくいくようになり、「今まで以上のことをやってみよう」と思うようになる。だからこそ、社会人としての基礎力はきちんとと身につけておくべきだなと思います。

大人と働いた経験があったからこそ、私はチャンスを打ち返せた!


-- そういう意味でいうと、ハヤカワ五味さんの場合、面白法人カヤックでインターンをしていた経験が大きいのでしょうか?

ハヤカワ:そうですね。面白法人カヤックでインターンをさせていただいた時に、周りの社員さんの企画書やプレゼンなどを拝見しながら、色々なことを学ばせてもらいました。この経験がなかったら、「今企画出してみない?」と言われても、「どうやって書けばいいの……」と慌ててしまったでしょうし、会社としてやりたいことを理解しないまま企画を考えてしまったと思います。

やっぱり、自分よりも大人と一緒に仕事をしてきた経験ですね。これがあったからこそ、走り続けていく中でもチャンスかどうかを判断し、打ち返せることができるようになったと思ってます。


-- 確かに、チャンスって思いもよらぬところでやってきますもんね。

ハヤカワ:社会に出てみると、「この仕事が来るなら、これをやっておけば良かった……」と思うことが必ずあるんですよ。だから、私は最近本を読むようにしています。

基礎知識がないと、どうしても太刀打ちできないことってあるじゃないですか?でも、歴史の問題みたいに知識を蓄えておけば答えられる。そういったものがあるんだと最近気付いて、意識的に勉強するようになりました。チャンスの種類ってたくさんあると思っているので、今後も色んなところで打ち返す力を身につけていきたいですね。

自分と”好きなこと”の関係性を見直してほしい。その先に、やりたいことを形にするためのヒントが待っている

 


-- 最後に、やりたいことを形にし続けてきたハヤカワ五味さんにとっての「働く」とはどういったものでしょうか?

ハヤカワ:私にとって、人を楽しませることが何より生きがいなんですよ。そこに集中して取り組んでいきたいんですけど、そのためには最低限の生活が保証されていてほしい。やっぱり、生活するためのお金は湧き出てほしいじゃないですか。

となると、自分にとっての好きなことを仕事と合わせることがベストかなと思っているので、「仕事」という考え方をしたことがないかもしれません。実際、今やっていることが自分の生きがいでもありますし、私が生活していくための手段でもある。表裏一体ではないですけど、私にとって、必要不可欠なものだと思います。

-- ”やりたいことをやる”ために必要なことって何だと思いますか?

ハヤカワ:とりあえず、やりたいことは一回やってみればいいんじゃないでしょうか。「好きなことや趣味がない……」という人も多くいるんですけど、誰かしら、好きな芸能人はいると思いますし、何かしら好きな食べ物はあると思うんです。

まずは、興味あるものを掘り深めて、様子を見る。そこから実際にどうしていくのか、考えていくことができればいい。私自身も、それをすることによって、こうして色々なことができているので、とにかく一回やっみて欲しいですね。

-- 多くの人って、”やりたいこと”を崇高なものと捉えてしまいがちなので、その考えがあると一歩踏み出しやすくなりそうですね。

ハヤカワ:そうなんですよ。結構、遠くに離してしまって、「これ以上、私は近づいてはいけないんだ……」と思ってしまっている。これって、「クラスにすごい可愛い子がいて、その子に僕はもう近づいてはいけないんだ」っていうことと似ているような気がしていて。

でも実際は、そんなことないですよね?大切なのは、自分と自分の好きなことの関係性を一度考えてみることだと思います。そうすれば、今後の道も決まってくるのかなと。< /p>

仕事をやりつつ、自分の好きなことは好きなことで別にするのも一つの道だと思いますし、好きなことで食べていくのも一つだと思います。もちろん、仕事でめちゃくちゃお金を稼いで、仕事を辞めて好きなことにお金を費やすのもいい。一度、関係性をはっきりさせてあげることで、自分のやりたいこと形にするための一歩を踏み出せるようになるのではないでしょうか?

(取材・執筆:新國翔大 撮影:後藤亮輔)

※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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