多角的な視点とは?身につけるメリットや 鍛え方を解説

多角的な視点はどのような場面でメリットがあるのでしょうか。この記事では、「多角的視点」の言葉の意味や、身につける方法、ビジネスシーンでの活かし方について解説します。

多角的な視点を持っていると、1つの視点では見えてこなかった方法を見出すことができ、課題や問題の解決にもつながります。ビジネスシーンにおいては、この多角的な視点を持つことで、ビジネスチャンスが広がったり、コミュニケーションがスムーズになったりする効果が期待できます。

本記事では、多角的視点を持つメリットや実践方法などについて、拓殖大学商学部教授の長尾素子さんに伺い、わかりやすく解説します。

「多角的な視点」とは何か?

多角的な視点で仕事をこなせる人のイメージ

まずは、「多角的な視点」の意味と言い換え表現、意味合いが少し似ている「多面的視点」との違いについて解説します。

「多角的視点」の意味

「多角的視点」とは、物事を多くの角度から見ることを意味します。

身近な例としては、友人とコミュニケーションを取る際に、自分の意見や立場だけでなく、相手の視点に立って考えてみることなどが「多角的な視点」にあたります。

ビジネスシーンであれば、商品開発において、技術的課題だけでなくマーケティング、財務状況、環境への配慮など、さまざまな視点から分析することが例として挙げられるでしょう。

多角的視点には、前述した友人関係のように他者の視点を取り入れる側面もあれば、自分の視点を外側に広げて物事を分析するような、二つの方向性(二面性)があるといえます。

多角的な視点の言い換え表現

「多角的な視点」の言い換え表現には、「多様な視点」「多面的視点」などがあります。どちらも、複数の視点を持つという意味を含みます。

他にも、「複眼的視点」も多角的な視点の言い換え表現として挙げられるでしょう。「複眼」とは、昆虫の複数のレンズが集合した器官のことです。これにより昆虫は広い視野を持ち色々な方向から情報を得て、敵から身を守ったり捕食したりします。このことから複眼的視点とは、「視野が広くあらゆる観点から物事を判断する」という意味で用いられます。

多角的と多面的の違い

「多角的」と似たような言葉では「多面的」がありますが、厳密には、以下のように少し意味合いが異なります。

多角的…「角が多い」という文字の通り、あらゆる角度やフィールドに向けて、多様な角度や視点から物事をとらえることを意味する。問題・課題へのアプローチや切り口として使用されることが多い。
多面的…「面が多い」ことから、物事の多様性を表す。ある事象の複数の性質について言及する場合に使用されることが多い。

ビジネスシーンにおいて多角的な視点が求められる場面とは

多角的な視点を持ちつつ話し合うイメージ

ここでは、多角的視点が必要になるビジネスシーンの具体例について解説します。

新規事業の企画

例えば、会社の新規事業の企画において、アイデアを出したり、市場調査を任されたりすることもあるかもしれません。顧客のニーズや社会に与える影響など、さまざまな観点からアイデアを出していくときには、多角的な視点が必要になります。

AIとの共存

AI技術が進化する中で、仕事の内容や働き方も多様化してきています。AIは、事務的な作業だけでなく、創造的な文章や作品を作ったり、共感的な表現や励ましの言葉をかけてくれたりします。一見、人の仕事がAIに置き換えられると思いがちですが、AIとの共存において、重要になるのが、多角的な視点です。

今後はAIが提示する情報や提案をそのまま引用するのではなく、人間側の多角的な視点でAIが提示する情報の真偽を判断する能力が求められるようになるでしょう。

問題の分析

仕事で何かトラブルが起こったときは、何が原因でトラブルが発生したのか、あらゆる可能性をふまえて一つずつ分析していく、多角的な視点が必要になります。

例えば、商品やサービスの売り上げが落ちた原因について情報収集する際は、営業力の問題なのか、それとも顧客ニーズの変化や競合との価格競争が原因なのか、複数の可能性を考慮した多角的な視点で分析することが求められます。

トラブル解決やクレーム対応

仕事でミスをしてしまったり、トラブルやクレームを受けたりすることは、誰もが一度は経験するのではないでしょうか。しかし、そんなときこそ多角的な視点で発生した原因を分析し、検討することが大切です。

クレームは自分たちの視点では気づけなかった弱点や欠点を気づかせてくれる貴重なフィードバックでもあります。なぜトラブルやクレームが発生したのが、多角的な視点でしっかりと原因を特定することで、業務改善や顧客からの信頼性向上につなげられます。

グローバルコミュニケーション

近年はグローバル化が進み、外国人顧客との接点が増えるケースや、将来的に海外プロジェクトに関わる可能性など、グローバルなコミュニケーションが求められることも予想されます。

ビジネスシーンにおけるグローバルコミュニケーションでは、語学だけでなく、文化・商習慣の違い、政治・法律の違い、宗教の違い、価値観の違い、サプライチェーンのリスクなど、多角的な視点で課題と向き合うことが求められます。日本人にとっては「常識」と思われることも、海外の人にとっては「非常識」である可能性があるため、常に多角的な視点で物事を分析し、実行していくことが重要です。

多角的な視点を身につける5つのメリット

多角的な視点を身につけて対人関係が広がる様子

多角的な視点を身につけると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。主なものについて見ていきましょう。

物事に対する理解が深まる

表面的に物事を捉えるのではなく、別の角度からも見ようとするため、より深く客観的に物事を見られるようになるでしょう。

例えば、タスク管理が苦手な場合は、業務の見える化や優先順位の付け方に原因があると思いがちです。しかし、仕事が早い先輩や上司の仕事の進め方を注意して見てみると、進捗を振り返るタイミングやメリハリをつけた時間の使い方など、自分の頭になかった解決方法が見つかることもあるかもしれません。

対人関係が広がる

自分とは異なる価値観や文化的背景を持っている人とコミュニケーションを取るときは、多角的な視点を持っていると、自分と異なる意見も理解しようとするため、コミュニケーションが比較的スムーズに取れるようになります。

固定観念にとらわれることなく、多様な人々との会話が弾むようになれば、人脈が広がったり、異文化に対しても柔軟に対応できたりするようになるでしょう。

リスクに強くなる

異なる角度から物事を検証することで、見落としや盲点を発見しやすくなります。あらかじめ発生しうるリスク要因を洗い出し、対策を立てられるので、結果的にリスクマネジメント力が向上するでしょう。

柔軟性が身につく

一見、解決が困難に思えることに対しても、多角的な視点で分析すれば、異なる切り口で解決の糸口を見つけやすくなります。トラブルや意見の食い違いなどが発生しても、「自分の意見が正しいはずだ」とネガティブなものとして否定するのではなく、「そういう考え方もあるのか」と、肯定的に考えられるようになるでしょう。

自己成長につながる

異なる意見にも耳を傾け学ぼうとする姿勢は、自己成長にもつながります。視点の幅がせまいと「こうあるべき」と限定的になり、それ以外の意見は受け入れられなくなることもあるでしょう。

さまざまな意見を受け入れられるようになれば、新しい情報やアイデアに対して肯定的になり、新しい自分へと変革を遂げられるようになります。

多角的な視点を身につける方法

多角的な視点を持つためには、今よりも多くの情報に触れ、視点を増やす必要があります。ここでは、多角的な視点を身につけるための具体的な方法を紹介します。

多様な媒体から情報を得る

現代では多くの人がスマートフォンで情報を得ていますが、多角的に情報を得るには、他の手段を意識的に取り入れることが重要です。

例えば、新聞にはあらゆるジャンルの情報が掲載されており、ページをざっと読むだけでも視野が広がるでしょう。また、通勤時間にニュースサイトの記事を読んだり、ラジオやポッドキャストを聴いたり、週末に本や新聞のまとめ読みをしたりしてみるのも有効です。

さらに、直接人から得られる情報も、多角的な視点を得るために必要なことです。先輩や同僚との何気ない雑談からも、意外な視点に気付くきっかけになります。情報が偏らないように、なるべく複数の方法から情報を得ることを意識してみましょう。

異業種の人たちと交流する

あえて異業種の人と交流してみるのもおすすめです。営業部に所属しているなら、エンジニアなどの技術系の部署の人と話をしてみるなど、普段はふれることのない分野に接してみると、新たな気付きがあるかもしれません。

年代の異なる人との交流も、多角的な視点を提供してくれます。親世代から子どもまで、年代も関係なく、他者から学べることはたくさんあるでしょう。

自宅と職場以外に自分の居場所を作る

行きつけのお店をつくったり、趣味やボランティア活動などに参加したりするなど、自宅と職場以外にも訪れる場を作ることで、多角的な視点が養われます。

アメリカの社会学者、レイ・オルデンバーグは、そのような場所を「第三の場所(サードプレイス)」と呼び、家族や職場の人間関係から離れた安心できる居場所をつくることの重要性を説いています。

「第三の場所」は、利害関係での結びつきではなく、信頼できる人とのより創造的な交流が生まれる場所であるとしています。多様な人との出会いやネットワークを通して、多角的な視点が身につくでしょう。

旅行に出かけてみる

旅行は、非日常との出会いが期待できます。例えば、初めて訪れた場所で、自然の素晴らしさに改めて気づかされることもあるでしょう。

「風がとても心地よい」「地球はたくさんある星のひとつに過ぎないんだ」など、旅行に行くと、日頃意識を向けなかったことを、改めて感じるようになります。そして、ふとした瞬間に自分の悩みが小さく見えたり、意外な解決策を思いついたりするかもしれません。

一つの事象を多くの語彙や表現を使って言語化してみる

例えば、嬉しい出来事があったときに、そのときの感情を複数の方法で表現してみましょう。「笑う」「泣く」「おいしいものを食べる」など、思いつく限りの表現で「嬉しい」を表現します。

言語とは思考そのもので、表現方法が増えれば、その分思考の幅が広がり、視点が豊かになります。

多角的な視点の注意点

多角的な視点はビジネスシーンにおいて重要な要素である一方で、注意すべき点もあります。最後に、多角的な視点で考える際に注意したいことについて解説します。

情報が拡散しすぎて収束が難しくなる

多様な意見が出たときに、多角的な視点があると意見の一つひとつに耳を傾けます。しかし、優先順位をつける、分類化する、など、収束する術をもっていないと、「みんな違ってみんないい」「人それぞれ」で終わってしまい、結論を先送りしてしまう可能性があります。

このような状態は「分析麻痺症候群」と呼ばれており、注意が必要です。多様な意見を収束の方向に整理しつつ、最終決定ができるような判断力や決断力を持つことが大切です。

視点の偏りに注意する

自分では多角的な意見を取り入れたと思っても、その意見が特定の年代や価値観に偏っていたりと、バランスを取ることは意外と難しいものです。

意見を集めること自体が目的化してしまうと、本来の目的を見失うリスクもあるでしょう。本当の意味で「多角的」になっているかを常に振り返り、さらに、バランスが取れているか、何のための「多角的視点」なのか、多角的視点はあくまでもゴールに到達するためのプロセスであることを意識することが大切です。

情報の信ぴょう性を確認する

現代は、世界中のありとあらゆる情報が簡単に手に入る時代です。そのため、情報の信ぴょう性に留意する必要があるでしょう。

多角的に情報を取り入れようとすると、専門外の分野の情報にも触れることがあります。その場合、その信ぴょう性については判断が難しくなる可能性があり、誤解や早とちりのリスクも高まります。

情報源を調べるだけでなく、専門家に確認するなど、情報の信ぴょう性については常に意識することが大切です。

感情をコントロールする

多角的な意見は、ときに対立的な意見を生むことがあります。例えば、会議は「すべてオンラインでいい」という意見もあれば、「対面で行うべき」といった意見があることもあるでしょう。

こうした場面では、自分とは異なる意見や人を批判するのではなく、意見の内容を冷静に理解することが重要です。自分の感情をコントロールし、相手の感情を理解しようとすることで、建設的な議論につながります。

本当に多角的な視点が必要か考えてみる

日本では、積極的な自己主張よりも、「皆さんの意見を聞きましょう」など、多角的に検討しようとする姿勢が一般的に好まれます。しかし、時には強いリーダーシップのもと、迅速に決定し、物事を進めていくことが必要な場面もあるでしょう。

時間、資金、マンパワーなどは、いずれも有限です。有限のリソースを活用しながら、期限までに判断するためには、どこまで「多角的に」検討しなければならないのか、今ここで一番求められているのが多角的な視点なのか、改めて考える必要があるでしょう。

時間をかけて多角的に意見を聞いた結果、結論が先送りになった、結局は結論が最初から決まっていた、などというような状態に陥らないように注意することが重要です。

多角的な視点を取り入れながら意思決定を

多角的な視点を取り入れることで、物事の理解が深まり、仕事の効率化や自己成長へとつなげることができます。ただし、多角的な視点を持つだけでなく、その視点がいかにビジネスや自分自身の成長に活かせるか、しっかりと検討することが重要です。

もしかしたら、いつも同じ視点からしか物事を判断できていないかも?という方は、ぜひ多角的な視点を取り入れ、活かすべきシーンで活用してみてください。

監修:長尾素子
拓殖大学副学長・商学部教授
株式会社TOKYO GLOBAL GATEWAY(東京都英語村)取締役COOおよび一般社団法人 社会人基礎力協議会 代表理事を兼務。コミュニケーション論を専門とし、グローバル人材の育成、社会人基礎力の育成に携わる。また、企業・団体における研修事業にも関わっている。

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