活躍の場は空想の世界から医療まで!知られざる特殊メイクアーティストの仕事とは?

映画の中でのゾンビメイクやクリーチャーマスク、超リアルフィギアなど、私たちが触れるエンターテインメントの随所に「特殊メイクアーティスト」の手がけた仕事があります。しかし特殊メイクアーティストがどんな職業なのかは、あまり知られていないのではないでしょうか。 そこで今回、「世界が選ぶ特殊メイクアップアーティスト10人」にも選ばれたJIROさんから、特殊メイクアーティストの知られざる仕事の裏側を聞きました。

活躍の場は空想の世界から医療まで!知られざる特殊メイクアーティストの仕事とは?

特殊メイクはとことんまでリアリティーを追求できる


─JIROさんは、過去に「TVチャンピオンの特殊メイク王選手権5・6」にて連勝され、国内外で多くの特殊メイクを手がけています。そんなJIROさんの日々のお仕事の内容を教えてください。

 

JIROさんが手がけた作品



JIRO:基本は映画、広告、テレビ、イベントなどの特殊メイクを制作しています。日本では特殊メイク専門の会社はひとつもなくて、メイクだけではなく人形などの「特殊造形」という造形物も受け入れないと商売として成り立たないという現状があります。

─JIROさんは東京芸術大学の工芸科出身だそうですが、学生時代から特殊メイクアーティストを目指していたのでしょうか?

JIRO:僕は工芸科でジュエリーなどを作っていたのですが、リアルな造形が好きだったのと、材料に縛られずいろいろなものを作りたいと思ったのがきっかけで、特殊メイクの道を選びました。

特殊メイクの世界は、とにかくリアルが追求されます。映画などの特殊メイクに、リアリティーがなかったらつまらないですよね。とことんまでリアルを追求できる特殊メイクの価値観が、自分の趣向にはまったのだと思います。

また、学生時代の僕はガラスや金属など限定された素材に捉われて制作するのにむなしさを感じていました。だけど特殊メイクには、どんな素材を使って作ってもよく、そんな自由さに可能性を感じたんです。今でも、やはり新しい表現をするために素材への探究は尽きません。

特殊メイクで必要な技術は「メイク」とはかけ離れている


─特殊メイクアーティストになるためには、どのような技術が必要なのでしょうか?

JIRO:普通のビューティーメイクと違って、特殊メイクは粘土彫刻をして、それをもとに型取りしてマスクを作ります。なので、素材知識や彫刻技術がないとできない仕事なんです。


「メイク」と聞いて連想するような技術とはかけ離れていますが、彫刻という観点から見れば特殊な造形制作にも対応できるので、仕事の幅は広いと思いますよ。なので、日本で特殊メイクは「特殊造形」というジャンルに分類されています。

─特殊メイクや特殊造形専門の学校というものはあるんでしょうか?

JIRO:大阪と東京にいくつかあります。また、ビューティーメイクと一緒に特殊メイクをカリキュラムとして学べる学校もあるようです。学校によって教えることは多少違うと思うのですが、僕が経営する学校(特殊メイクスクールAmazing School JUR)では、特殊造形にも対応もしています。

特殊メイクの技術は医療などにも生かせる


─特殊メイクアーティストを目指す方に必要なスキルはなんですか?

JIRO:やっぱり一番大事なのは、空想したり想像することが好きだということじゃないでしょうか。

僕たちは想像の物を形にしなくてはいけない。時代はどんどん進んでいくので、例えばデジタルとアナログをミックスした新しいアイデアなど、常に先進的な発想力がこれから必要になってくるでしょう。

また、デッサン力など一般的な美術に対する造詣も必要だと思います。ただ、そのような総合的な力を培うために学校があるので、プロの特殊メイクアーティストになりたいと考えるなら、まず、学校に入って基礎スキルを学ぶのがオススメです。いきなり現場に入っても基礎知識は誰も教えてくれないので、学校で基礎知識を学ぶのは必要条件ともいえるでしょう。

─特殊メイクを志す方は何に興味を持っている方が多いのですか?

JIRO:やっぱりこの業界は、ホラーやSFなどの映画に傾倒して入って来る人が多いですね。ただ僕に関していえば、映画用の特殊メイクに限らず、いろいろなことに挑戦してみたくてこの業界に入ってきているんです。

先ほども言った通り、特殊メイクは造形に関するさまざまな技術が必要になるので、いろんな分野に派生することができると思っています。たとえばそのひとつが医療です。特殊メイクは人の身体をリアルに表現するものなので、たとえば乳がんで乳房が欠損した方のための欠損部分の修復など、医療の現場でも特殊メイクの技術は役立つと思います。

駆け出しのころはフリーランスとして働くのが一般的


─JIROさんが特殊メイクの仕事をしていて喜びを感じるのはどんな瞬間ですか?

JIRO:発注いただく仕事の中には、自分のスキルを試されるようなものもあるんですね。そういったものを引き受けるのはちょっと怖いですけど、でもそれが完成したときは本当にうれしいです。

たとえば以前、バルーンで作られた10メートルの人間の顔を制作してほしいというオファーがありました。バルーン技術では顔をリアルに表現することができなかったんですね。そこで「バルーンに特殊メイクを施しては?」ということで、おそらく世界初の試みに挑むチャンスをいただきました。こういった斬新な企画は非常に大変ではありますが、常に刺激と感動があります。

─逆に仕事をしていてつらいことはありますか?

JIRO:誰もがイメージできて、創造性の少ない仕事をしているときは少し退屈に感じますね。でも、だからこそどんな仕事も自分がやることで付加価値をつけて返せるように頑張っています。

それと、映画の世界ではすごくこだわった造形も一瞬しか映らないということが多々あるんですね。仕方ないことですが、そういうときはちょっとだけ悲しいですね(笑)。

─JIROさんの1日の平均労働時間はどのくらいなのでしょうか?

JIRO:僕の仕事時間は24時間から睡眠時間を削った時間です(笑)。ただ、もちろん社員には同じ労働を課していません。納品前などはイレギュラーに仕事時間が延びたりもしますが、原則10時~20時が僕の会社の労働時間です。

─特殊造形の会社には採用募集はあるのでしょうか?

JIRO:この業界に社員の募集はほとんどないと思います。ただ、それには理由があって、特殊造形の会社のほとんどが映画の受注をメインとしているので、仕事が入っているときは大勢のスタッフが必要なのですが、それが終われば、仕事がなくなってしまいます。なので、基本的に会社は少人数で運営されていて、映画などの仕事が入るたびにフリーランスの方を集めるんです。

─それでは駆け出しの特殊メイクアーティストは皆、フリーランスから始めるのでしょうか?

JIRO:そうですね。フリーランスというと、不安定な業態のイメージもありますが、メリットもちゃんとあります。特殊造形の会社は、各会社ごとに得意分野というのがあるんです。スプラッター系の血みどろの造形が得意な会社もあれば、すごくリアルな老人メイクなど、リアリティーを突き詰める会社、テレビドラマをメインに受注する会社などです。

フリーランスの方はそういうさまざまな会社を渡り歩けるので、いろいろな分野の特殊メイクに携われるんです。その中で自分の得意なジャンルが決まってきたら、同じジャンルを得意とする会社から社員の声がかかることもあります。なので、初めのうちはフリーランスで仕事をすることが、ある種の修業といえるでしょう。

天使の様に無邪気で大胆に、悪魔の様にしつこい程繊細に


─非常に精密で大変なお仕事だと思うのですが、一般的な平均年収はどのくらいなのでしょうか?

JIRO:答えづらい質問ですね(笑)。すごくもうかるという仕事ではないと思います。ただ、アイデア次第では扱う対象を広げられるので、多く稼ぐことも可能だと思っています。

特殊メイクというのは「特殊」というだけあって、特殊メイクという仕事を職業として選ぶ人が少ないわけです。だから、その希少価値を武器に今までないジャンルもつくることも可能なんです。

たとえば、「和菓子屋さんと特殊メイクのコラボ」など、他の分野と組み合わせたときに、新しいものが生み出される可能性が高いんです。そのように、特殊メイクに新しい価値を見いだせる人はお金を稼ぐことができる可能性があると思います。

─最後に、特殊メイクアーティストに向いているのは、どんな人だと思いますか?

JIRO:メイクをするときはとても集中力が必要なんです。マスクを作っているときは、毛穴一本も見逃せませんからね。それとともに、営業をしながら自分を売り出していかなくちゃいけないわけです。だから、集中力とコミュニケーション力を兼ね揃えた人が、特殊メイクアーティストに向いていると思います。

僕は昔から「天使の様に無邪気で大胆に。悪魔の様にしつこい程繊細に」とスタッフに言っています。これは思いきったアイデアと、繊細すぎるほどの集中力という、二つの面を併せ持つことが特殊メイクの仕事にとって非常に大切だと思っているからなんです。

まとめ


実は映画以外にも、さまざまな分野で生かされている特殊メイクアーティストの技術。もしかしたら私たちの日頃の生活のなかに、その技術が生かされたものが存在しているのかもしれませんね!

識者プロフィール
JIRO 東京芸術大学卒。映画、TV(CM・ドラマ・バラエティ)における特殊メイク、造形制作の第一人者として活躍中。またPVやショー、各種イベント、舞台や屋外広告など、特殊メイクを用いた新たな創作を展開、同分野の新境地を開拓する注目の存在である。特殊メイク養成スクール Amazing School JURを主宰。


※この記事は2016/03/28にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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