好きなことで生きるの、疲れません? 意気込みすぎない過ごし方を、佐藤満春に聞く

お笑い芸人、放送作家、トイレクリーンマイスターなど、さまざまな立場で活躍中の、佐藤満春さん。仕事に取り組む際に大切にしていること、「自己実現」との向き合い方などについて伺います。

お笑い芸人、放送作家、トイレクリーンマイスターなど、さまざまな立場で活躍中の、佐藤満春さん。仕事に取り組む際に大切にしていること、「自己実現」との向き合い方などについて伺います。

お笑い芸人、放送作家、トイレクリーンマイスター…さまざまな肩書きを持ち、マルチに活動を続ける、佐藤満春さん。特に放送作家としては、多数のレギュラー番組の構成を担当しており、まさに八面六臂の活躍を見せています。今回は、佐藤さんがキャリアを形成していく過程などについてインタビュー。後編では、多数の仕事に取り組む中で大切にしていること、「自己実現」との向き合い方などについて、ざっくばらんに語っていただきました。

※インタビュー前編はこちら
向き不向きは、自ずと見えてくる。佐藤満春が語る、焦らず生きるためのメソッド

能力は数値化できない。できる限りのことをして、あとは天命を待つのみ

――メディアで拝見していて、佐藤さんはオードリーのお2人や南海キャンディーズの山里亮太さんをはじめ、多くの方から厚い信頼を寄せられていると感じます。仕事において、他者から信頼を得るために意識されていることはありますか?

チームや集団において自分の役割を把握するようにしています。お笑い芸人をやっていることが僕のストロングポイントだとして、たとえば情報番組の中に、笑いのエッセンスを足す役割を求められることはすごく多いですし、得意な方だと思います。それから、芸人さんがスタジオで話すときに、どうすれば話しやすいかの判断は、他の作家さんやディレクターさん、プロデューサーさんよりできるはずです。仕事を依頼されたら、番組のテイストや出演者さん、スタッフさんの人数や布陣、人柄を見て、なぜ呼ばれたのかをよく考えていますね。信頼されるには、その積み重ねが必要なのかな。

でも、同じやり方でも信頼されない場合もあるでしょうし、人によって合う、合わないはあるのかもしれません。それに、僕のそういう能力値って数値化できないですよね。だから「佐藤はこれが得意だろう」と思って依頼してくださったときに「思ったよりそうでもないな」と思われることも当然あると思うんですよ。そこに対してはもうしょうがないと思っています。

――自伝エッセイ『スターにはなれませんでしたが』(KADOKAWA)でも『「他者のジャッジ」は左右できない』と書かれていましたね。多くの人は他者にどう評価されるかを気にして一喜一憂しがちですが、なぜそう思えるようになったんでしょうか。

どうなんですかね…自分のことを高く見積もってないからじゃないでしょうか。「見損なった」「もっとできると思った」って思われるのは悲しいことではあるけれど、全力でやった上でそうジャッジされたら仕方ないです。自分にはできない仕事だったと思うしかありません。

もちろんできるようになったほうがいいに決まっているけど、10分くらいで思いついた企画をババッと送って「あのアイデア、助かったよ」と評価していただくこともあれば、5時間かけて考えて「ちょっと違う」って言われることもあるんですよね。前者のほうが楽だけど、そうなるかどうかは出してみないとわからないから、全部の仕事を平等に全力でやって「あとは好きにしてください」と思っています。

能力は数値化できない。できる限りのことをして、あとは天命を待つのみ

――それがなかなか難しいんですよね…。

何ともならないじゃないですか。そりゃいろんな人に良く思われるのがベストなんでしょうけど、無理なので(笑)。作家として仕事するときも、演者として出るときも「この人に良く思われたい」とか、もっと言えば「世の中に良く思われたい」みたいなことは考えないですね。センスがあるわけでもないし天才放送作家でもないから、大したことはできないんです。今の僕の経験値と持っているもので、できる限りのことをして、それで大丈夫だと思ってくれた人が良く思ってくれればいいかな、と。逆にいうと、そうやってどんどんジャッジしてもらって冷静に自分のことを見ていかないと、自分を高く見積もってしまったりするのかもしれません。

逆に、低く見積もりすぎても良くないんですけどね。これだけ仕事をいただいているということはある程度ちゃんと結果を出してきているんだと思いますし、そこは自分のことを信じてあげたほうがいいなとたまに思うんですけど、やっぱり自分の実力にはすごく懐疑的なんです。「大丈夫かしら」と思いながら、いただいた仕事を日々やるという繰り返しです。それがいいのか悪いのかわからないですが。

目標設定は、疲れない範囲でいい

――他者からの評価に加えて、「仕事で自己実現しよう」「何かを成し遂げよう」といった自分との付き合い方も難しいところだと思います。内面化しすぎて、理想と現実とのギャップに苦しくなる人もいると思いますが、そこから抜け出す手がかりがあるとしたら、どんなものだと思われますか?

「好きを仕事に」的なことが急に言われ始めましたよね。僕はそういう風潮が得意ではなくて。そりゃ「好き」を仕事にしたほうがいいんでしょうし、夢を叶えることは素晴らしくはあるんですけど、僕はそういう大きな目標が見つからないまま生きてきちゃったんです。だから「自分らしく」と言われてもよくわからなくて。それよりも、誰に信頼されなきゃいけなくて、誰を信頼していて、誰とものづくりをしたいのかが大事だと思っています。

それに、生きる目的ってなんでもいいと思うんです。「世の中を震撼させるような作品をつくりたい」もいいけど、「週末に地元の友達とフットサルをする」でもいい。「家族と旅行に行くために頑張って働こう」とか「愛するペットのために生きていく」とか、すごく美しくて尊いと思うし、僕自身もそうです。生き方の軸をどこに置くのかはもっと多様であっていい気がします。何者かにならざるを得ない空気があるけど、そうじゃなくても楽しいことはあるし、別に何者でもなくてもいいんじゃないかなって。だって気負いすぎると、疲れませんか…?(笑)

――そうですね、疲れます。

できる人はやったらいいんでしょうけどね。放送作家さんでも「クリエイターとして1から企画を出して、歴史に残る番組をつくりたい」とか「自分の名前で出した企画でヒットを当てたい」とか、ちゃんとギラギラできている人はいるんですけど、僕はそれが全然ないんですよ。今は20本くらい番組をやってますけど、それがゼロになったとて地元で仕事すりゃいいかな、というくらいの温度感です。

目標設定は、疲れない範囲でいい

「誰にどう思われるか」ではなく、「信頼を得られるか」を大切に

もっと言えば、ありがたいことにこういうインタビューをしていただいたり本を出したりもして、「この番組に関わっています」と世に名前が出ることも多いですが、名前を隠したり別の名前にしたり、顔を出さずにやったらよかったな、とたまに思います。

――そうなんですか。

はい。「僕がやりました」って言う必要はないんですよね。今はSNSで告知する必要があるから言ったほうがいいことも多いんですけど、それがまったくなかったら名前も出さなくていいな、って。スタッフさんが僕だと知っていて依頼してくれればいいんですよね。番組のエンドロールに載っている名前も変えて知らないフリしておきたかったです。もう遅いんですが。

――世の中には「アレオレ詐欺(他人が成し遂げたことを「アレやったのオレなんですよ」などと、自分の手柄のように話すことを指す俗語)」なんて言葉もありますが、真逆ですね。

これまでやってきた番組が面白くなったのは、全部演者さんやスタッフさんの力であって。僕が何かをしてどうかなったことは本当にないんです。依頼してくれた人と出演者が「良かった」と思ってくれさえすれば、世の中に「あのコンテンツにあいつがいて良かった」と思われなくていい。『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)がどれだけ人気になろうが僕の功績じゃないし、ただ単に、あの2人が面白いだけなんです。2人から「いてくれて助かった」と声をかけてもらえるから、やってるというだけで。これは謙遜でもなんでもなくて、他の番組も全部そうです。

「誰にどう思われるか」ではなく、「信頼を得られるか」を大切に

――お話を伺ってきて、多くの人から認められることではなく、信頼を寄せてくれた人の役に立つことを一番大事にされているんだなと思いました。

自己顕示欲もないことはないんでしょうけど、自分にしてはもう十分すぎるほどの評価をいただいたので。これ以上、今からどう思われたいというのはないんですよね。なんとでも思っていただいて、石を投げたい人は投げりゃいいし。

――そんな人はいないと思いますが(笑)。

思わぬ評価をいただくこともあって、ありがたくはありますけど、それを目的にしてしまうとどうしても疲れちゃいますから。自分の等身大の生き方ができればいいかなと思っています。

――ありがとうございます。もう少し、肩の力を抜いてもいいかもしれない、と思えてきました。最後に、20〜30代のビジネスパーソンの読者に向けて、メッセージをいただけますか。

本当に僕が偉そうに言えることはないんですが…。「毎日が劇的に面白くなることはなくても、別に大丈夫だよ」ということでしょうか。僕も「毎日楽しいな」「最高だな」って人生ではないけど、そんな中でも笑い転げる夜もあって、かと思えば朝起きて「仕事がつらい」って思いながら仕事に向かう日もあります。多分、みなさんもそういうときがあるでしょうし、そんなもんでいいんじゃないでしょうか。

読者へのエール

※インタビュー前編はこちら
向き不向きは、自ずと見えてくる。佐藤満春が語る、焦らず生きるためのメソッド

【プロフィール】
佐藤満春(さとうみつはる)
1978年2月17日生まれ、東京都町田市出身。岸学とのお笑いコンビ「どきどきキャンプ」や、『DayDay.』『ヒルナンデス!』(日本テレビ)などを担当する放送作家と、さまざまな顔を持つ。2023年2月、自身の人生観・仕事観・芸人観などをつづった書き下ろしエッセイ『スターにはなれませんでしたが』(KADOKAWA)を発売。
公式サイト
X:satomitsuharu

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