「校閲ガール」の実態はやっぱりスゴイ! 彼らが支える出版業界

2016年に放送されたドラマの影響もあり、「校正・校閲」という職業に興味を持った方も多いのではないでしょうか。一見地味な仕事と思われがちですが、プロを支えるプロフェッショナルであり、なくてはならない存在です。

「校閲ガール」の実態はやっぱりスゴイ! 彼らが支える出版業界

2016年に放送されたドラマの影響もあり、「校正・校閲」という職業に興味を持った方も多いのではないでしょうか。一見地味な仕事と思われがちですが、プロを支えるプロフェッショナルであり、なくてはならない存在です。

出版業界において重要な役割を果たす校正・校閲者は、実際にはどんな仕事をしていて、どんな人に向いているのかなど気になるところ。

そこで、出版業界歴40年の大ベテランの校閲担当者・Sさんに取材を敢行。新聞社の校閲部と校正・校閲専門の企業で、新聞、雑誌、パンフレット、WEBにいたるまで幅広い案件に携わってきただけあり、現場担当者のリアルな声を聞くことができました。

あまり表に出ていない出版業界や校正・校閲について、たっぷりと情報をお届けします。ぜひお見逃しなく!

似ているけどちょっと違う? 校正・校閲の違いとは


まずは、「校正」と「校閲」の仕事の違いについてご説明しましょう。一般的には、以下のように定義されています。

●校正…著者が執筆した原稿と印刷所で作られた校正刷り(ゲラ)とを照らし合わせて、著者の原稿に沿って、誤字・脱字などがないかを確認する作業

●校閲…書かれた文章そのものに対して、矛盾点や事実誤認がないかを確認する作業


厳密にいうと校正と校閲の作業は異なりますが、Sさんいわく、実際の現場では混同されていることも多いそうです。

「私は新聞社で2年、現在勤めている校正・校閲専門の企業で4年ほど、この仕事を経験していますが、新聞だと『校閲』、雑誌やその他の媒体だと『校正』と呼ばれることが多いような気がします。私の経験でいえば、現場で校正と校閲の作業が分かれていたことは、ほとんどありませんでした」(Sさん:以下同じ)

一般的には、校正刷りまたはプリントアウトした書面を目視でチェックしながら、赤字で間違いを記入するのが通例です。間違いを指摘する際は、定められた校正記号を使います。

とはいえ、新聞、雑誌、パンフレット、WEBにいたるまで広く経験してきたSさんが感じたのは、「校正・校閲のやり方や求められるものは、各媒体によってまったく違う」ということ。

「私の経験上だと新聞がもっともチェックが厳しく、誤字脱字はもちろん差別用語なども、見逃さないよう隅々まで目を配っていました。それに比べると雑誌やWEBは甘いようですね。

とくにWEBにいたっては1記事あたりの文章が短いこともあり、一字一句くまなく見るというより、事実や全体の記事内容で完全不一致な部分のみ直して、それ以外はそのままということもあります」(同)

覚えておきたい! 校正・校閲に欠かせないツールとは


校正・校閲を進めるにあたって、基本的に必要となるツールは以下の通りです。

●辞書類(広辞苑・百科事典・国語辞典・英和辞典・和英辞典・ことわざ辞典など一通り)

●記者ハンドブック(一般社団法人共同通信社から発売されている新聞用字用語集)

●赤ペン

「校閲部にはこれらのツールがすべて揃っており、言葉の使い方や表記に迷ったら、一つひとつ調べながらチェックします。その他、辞書類に載っていないようなことは、文章を書いた本人や業界の関係者に確認を取るなど、さまざまな手段を使って事実確認を行います」(同)

また、多くの人が間違えやすい言葉についても教えていただきました。ぜひ皆さんも、どこが誤っているのか考えてみてください。

~よくある誤用例~

●満天の星空
満天=空一面、星空=晴れた夜に星がきらめいている空という意味を表すため、満天の星空は「空」が重複している。正しくは「満天の星」。

●山頂から街を臨む
臨む=風景・場所などを目の前にする。向かい対する。望む=はるかに隔てて見る。遠くを眺めやる。このことから、正しくは「山頂から街を望む」。

間違いを指摘できましたか? その他にも日本語には混同しやすい言葉が多いため、文章を書くときは意識したいですね。

ベテランのSさんであっても、常に電子辞書を持ち歩いたり、毎日、記者ハンドブックに目を通したり、気が緩まないように気をつけているとのこと。校正・校閲は地道な努力が実を結ぶお仕事のようです。

一番の苦労は「表現」にまつわる修正、執筆者の「心」を生かした校閲とは


正確性が求められる校正・校閲の仕事ですが、具体的にどのような人が向いているのでしょうか? Sさんからは思わず納得の答えが返ってきました。

「読書が好きで普段から活字に触れている人は、校正・校閲に向いていると思います。そして、その際に分からない言葉や事柄が出てきたら調べてみるなど、内容に興味を持てる人。私はいわゆる活字中毒で、電車での移動中や休日でも読書しているほどです。

あとは普段から多方面にアンテナを張り、社会情勢やニュースなどの情報収集をしている人。時代背景を含めて内容を確認するには、あらゆる知識が必要になりますから」(同)

40年と長きにわたり言葉に触れてきたSさんが、校正・校閲でもっとも頭を悩ませるのが「表現」に関する部分なんだとか。

「僕も執筆をした経験があるから分かるのですが、表現や言い回しには執筆者のこだわりが込められています。文章には必ず“人となり”が出る。だからこそ、その人の個性や思いは大事にしたいのです。完全な誤表現でない場合にどこまで直すかは、非常に苦労するところですね」(同)

Sさんは誤りを正すことと同じくらい、文章に込められた「心」を大事にされているのですね。校正・校閲者は、執筆する側の記者、ライター、作家にとっては、編集者と同じぐらい心強いパートナーといえそうです。

地道な苦労の末、正しく美しく読みやすい文章を世の中に生み出している校正・校閲者のSさんにとって、この仕事のやりがいとは何かをお聞きしました。

「最近はWEBの案件が増えていて、現場のライターや編集者に若い人が多いんです。そうなると、経験不足ゆえに間違いも多い。いつも通り校正記号を使って誤りを指摘したら、『校正記号が理解できないから使わないでほしい』と……。これには驚きました。

しかし、厄介だなと思いつつも『なぜ間違っているのか』の説明も加えながら丁寧に直していたら、徐々に若手の編集者たちが正しい日本語を使えるようになってきたのです。思わずニヤリと口の端が上がってしまうほどうれしかったですね。

もちろん、正しく美しく読みやすい文章が出来上がって世の中に発信されたときにも、心からやりがいを感じます」(同)

未経験者でも可能性はある! 校正・校閲者になれるステップは?


専門職ともいえるほど緻密な作業が多い校正・校閲者ですが、どのようなステップでこの職業に就くことができるのでしょうか。Sさんの場合は、新聞社時代に「校閲部」を経験したことで、新聞社を定年退職した後、縁あって校正・校閲を専門とする企業に再就職したとのことでした。

「再就職した会社では、社員のキャリアは人それぞれで、ベテランもいればまったくの初心者もいます。新人に対してもしっかりとした研修があるわけではなく、実践で覚えていくという感じです。

ですので未経験者の方であっても、校正・校閲に興味があるのであれば、新聞社や出版社、校正・校閲の専門企業などの求人をチェックするほか、積極的に問い合わせてみるのもひとつの手かもしれません。たとえば、スポーツやファッションなど得意分野がある場合は、それをアピールして就職活動をするのもいいですね」

WEBで検索をしてみると、編集や企画職に対して校正・校閲の求人情報は少ない印象でした。しかし、この世に活字がある限り、求められる職業であることは事実。諦めずに、どんどん探してみる姿勢が大事なようです。

最後に出版業界における「校正・校閲者のポジション」とは何かをSさんに伺いました。

「校正・校閲は世の中に名前が出る記者や作家とは違い、縁の下の力もちといった存在です。社内で動き回ることはあっても、社外に出ることはあまりありません。ですが新聞社に限っていえば、新聞が作られるまでの全体を見渡せるポジションでもあります」

新聞の場合、現場を取材する「現場記者」と、現場記者があげた記事を編集する「デスク」、さらには見出しやレイアウトを決める「整理記者」、そして文章の誤認をチェックする「校閲者」がいるそう。

制作過程を列挙すると以下の通り。

1、現場記者が現場を取材し、記事を執筆する
2、現場記者が執筆した記事をデスクが手直しする
3、デスクから受け取った記事をもとに、整理記者がレイアウトと見出しを決める
4、校閲者が文章の誤認をチェックする
5、印刷所で印刷する

完成間際の最終工程に携わることになる校閲者は、制作の流れや販売前の紙面を自然と把握できるポジションなんですね。後々、記者やデスクになったとしても、校閲の経験は十分に生かせるとSさんは教えてくれました。

まとめ


ドラマでもリアルな校正・校閲者の仕事現場が描かれていましたが、あらゆる現場を知り尽くしたベテランSさんの協力によって、より具体的な仕事の中身や現場の雰囲気が伝わったのではないでしょうか。


普段私たちが目にしている新聞、雑誌、WEBメディアの文章は、記者、編集者のみならず校正・校閲者の陰の支えによって作られています。
そう、あなたが今、手に取っているその紙面も。

(取材・文:小林 香織)


※この記事は2017/02/21にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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