書いて振り返ると、チャンスが見えてくる
山田さんは、日々の中で心が動いたことを書き、それを振り返る「振り返りノート習慣」を提唱されています。なぜ書いて振り返ることに着目しはじめたのか、そのきっかけについて伺いました。
「私はかつて、父の経営していた会社が民事再生となり、私も含めてその会社に勤めていた家族全員が無職になるという、崖っぷちの経験をしたことがあるんです。
どうやって生きていけばいいか悩む中で、何かチャンスを掴まなくては……と、毎日3つ、チャンスだと感じたことを書き始めました。来る日も来る日も書いて、それを何度も見返すうちに、自分の想いや活かせそうな強み、チャンスをもたらしてくれるキーパーソンなどが見えてきたんです。
私の場合、ノートを使うのが昔から好きだったのですが、それ自体が自分の強みだと分かるようになりました。そして、書籍を出すチャンスが偶然めぐってきたときに、そのチャンスを見逃さず、ノート術に関する書籍を出すことができたんです。それが今の仕事につながっています」
振り返りと聞くと、ダメだった点を挙げて反省する“反省会”のようなイメージがありますが、振り返りノートは全く異なるアプローチをとっていると、山田さんは言います。
「私が提唱している振り返りは、反省点を見つけたり、目標と理想とのギャップを見つけたりするものではありません。自分の良いところ、これから活かせそうな力、経験などを探して、未来につなげていくようなアプローチなんです。自分への理解を深められるので、やりたいことが分からない、自分の強みが分からないといった人は、ぜひ試してみてください」
振り返りノートの基本ステップ
まずは、ノートを使った振り返りの実践方法について見ていきましょう。
基本は、毎日記録を行い、その内容を1週間ごと、1カ月ごとに振り返ること。基本的には書いて振り返るだけなので、ノートとペンがあれば実践できますが、以下の2種類のフォーマットを使うと簡単に振り返ることができるそうです。
①ウィークリー振り返りフォーマット
②マンスリー振り返りフォーマット
フォーマットの使い方や基本のステップについて、山田さんに詳しくご紹介いただきました。
ステップ1:心が動いた出来事を毎日3つ記録する
「まずは、1日の中で心が動いた出来事を毎日3つ書きましょう。フォーマットを使う場合は、①ウィークリー振り返りフォーマットの右側に書き込みます。
書くのは、ポジティブな出来事でも、ネガティブな出来事でも大丈夫です。例えば、本を読んで感動した、上司に褒められてうれしかった、友だちが映画に誘ってくれた、仕事でトラブルが起きて焦ってしまったなど、ちょっとしたことで構いません。毎日同じことの繰り返しのように思えても、意識して振り返ってみると、何かしら浮かぶはずです。
出来事を書く際は、その出来事から得た気付きや学び、決意などを1つ書き添えてください。良かったことや“これからこうなっていくのでは”という予感でもOKです。無理に長く書く必要はありません。
例えば、『山田さんが田中さんに仕事をお願いするときに“田中さんは資料作りが上手だからぜひ協力してほしい”と一言加えてお願いしていた。私も真似しよう』『クライアントとの打ち合わせで改善案を提案したら、すごく喜んでもらえた。提案に苦手意識があったけど、意外に向いているのかも』といったように書いてみてください。
なるべく具体的に書くことも大切です。本のタイトルや上司、友人の名前など、固有名詞や人物名をきちんと記録しておくと、振り返ったときに、自分にとって大切な人や興味のあることなどが明確に見えてきます」
ステップ2:1週間分の記録からつながりや共通点を見つけてまとめる
次に、1週間分の記録をながめながら、『自分の行動やマインドが何か良い結果につながってないか』『継続できていることや強みと言えそうなものはないか』『気に掛かっていることはないか』など、出来事と出来事のつながりや共通点を探ってみましょう。矢印などを書き込んで、出来事同士をつないでみるのもおすすめです。
つながりや共通点が見えてきたら、①ウィークリー振り返りフォーマットの左側に、ポイントをまとめていきます。『提案力が私の強み?』『とりあえず連絡してみることが大切』『会議の進め方にモヤモヤ』といったように、簡単なタイトルをつけてから、気付きや思いなどを書いていくとよいでしょう。
このステップを行うと、自分の強みや関心、大切にすべき人や物事だけでなく、成功法則が見えてくるので、チャンスが巡ってきたときに気付きやすくなります」
ステップ3:行動につながるように具体化する
「ステップ2で書き出したポイントには、何らかの気付きや想い、願望などが含まれているはずです。ステップ3では、それをどう実現するか、行動に移すために具体化していきましょう。
ステップ2は、抽象化が必要なのでちょっと難しいのですが、ステップ3は、「いつ」「どこで」「誰と」「何をするのか」と、必要な予算に落とし込んでいくだけなので簡単です。
例えば、“どこかでワーケーションがしたい”という願望を書いていたら、下記のように具体化してみましょう。
いつ:3月の最終週に1週間
どこで:沖縄で
誰と:1人で
何を:ワーケーションをする
予算:予算は7万円
こうすれば後は、予算内に収まる飛行機やホテルを予約する行動に移すことができますよね。“英語の勉強がしたい”とか“副業をしたい”とか、どんなことにも当てはめることができますので、ぜひやってみてください。行動力が身に付くのでおすすめです」
ステップ4:1カ月分の記録を振り返る
「1カ月間書き続けると、1週間×4~5週分の記録が溜まりますよね。そうしたら、まずは溜まった記録をざっと見返してみましょう。“3週間前はこれが重要だと思っていたけれど、今はこっちの方が重要かな”といったように、変化を感じることもあるかもしれません。そうした変化に気付けるのも、振り返りノート習慣ならではのメリットです。1カ月分の記録を続けられた自分を褒めてあげましょう。
簡単な振り返りが終わったら、特に重要だと思う記録を3つから6つほど選んで、“内面”と“行動”と“結果”の3つに分類し、②マンスリー振り返りフォーマットに書いていきます。書き終わったら、メモ欄に気付いたことや学びなどを書き留めておきましょう。これを毎月行います。
記入が終わったら、すでに記入した月も含めてフォーマット全体を見直しましょう。前の月に考えていたことや取った行動が、別の月に影響を与えていたら、矢印でつないでいきます。よく出てくる人や言葉、重要そうな記録にキーワードに線を引いてみるのも良いでしょう。この作業は毎月こまめに行ってもいいですし、年の途中や年末などにまとめて行ってもOKです。
これを毎月続けていくと、“2カ月前に具体化した行動が、今月ようやく形になった”とか、“3カ月前に指摘されたことが、今月はうまくできた”といった因果関係がつかめるようになります。すると、自分の内面や行動が結果にどう影響するのか分かるようになるので、チャンスにつながる行動が自然と増えていくはずです」
振り返りノートをつけることで訪れる変化
山田さんによると、振り返りが習慣化されると、それまで見えていなかった気付きが得られるようになり、徐々に自分が変わっていくのを実感できるようになるそうです。具体的にどのような変化が訪れるのか、山田さんに詳しくご紹介いただきました。
1週間後:自分の内面に向き合えるようになる
「私は5年ほど前からオンラインコミュニティを開いていて、振り返り会を行っているんです。そういったところで見てきた人たちの傾向を目安にすると、まず1週間くらいで自分が普段どんなことに着目しているのかが見えてきます。
例えば、『仕事のことばかり書いていて、プライベートがおろそかになっている』と気付いたり、『人の名前がよく出てくるから、人間関係を大切にしているのかも』という気付きを得られたり。あるいは、『家族のことばかりで自分のことを書いていない』と気付いて、驚く人もいます。
自分の外見は鏡を見れば分かりますが、内面は見えない分、なかなか気が付きにくいものです。内面に向き合うのに慣れていない人のなかには、自分が怒っていることや疲れていることにすら気付けない人もいます。
出来事や感じたことを書いて傾向を探ると、だんだんと自分の内面に目が向くようになり、自分の状態や気になっていること、大切にしていることなどが見えてきますよ」
1カ月後:ダメージから回復する力が付いてくる
「1カ月ほど経つと、ネガティブな出来事が起きた時にそこから回復する力=レジリエンスが強くなってきます。
例えば、上司に厳しいフィードバックをもらった場合、家に帰ってからもぐるぐる考え続けて落ち込んでしまう人もいるかもしれません。
振り返りノートでは、起きた出来事だけではなく、『上司は私に期待しているからこそ、厳しく言ったのかも」『言い方はちょっときつかったけど、たしかに改善が必要かも。明日考えてみよう」といったように、気付きや学びにも目を向けます。
そのため、嫌な出来事が起きたとしても、その意味づけをポジティブなものに変えることができるので、レジリエンスが高まっていくのです」
3カ月後:決意が固まり行動が変わってくる
「人によってはさらに時間がかかる場合もありますが、だいたい3カ月くらい続けると、自分の行動が変わってきていることに気が付くと思います。
私自身、何もかも失ってどん底だった時期、何回も“自分だからこそ、できる仕事がしたい”と書いていることに気付きました。このように自分が本当に望んでいるものが見えてくると、それを叶えるためにはどうしたらいいのかと考えるステップに進めるのです。そうすると、自然と実現に向けての行動につながっていきます。
私のオンラインコミュニティの参加者の中には、仕事がうまくいかないという悩みを解決するために振り返りの習慣を続けた結果、新興国のビジネスサポートをしたいという想いに気付いて仕事を辞め、海外へ移住した人もいるんです。ここで示した期間はあくまで目安ですが、地道に続けると着実に変化しますよ」
振り返りの効果を高める5つのポイント
振り返りノート習慣の効果をさらに高めるには、どんなことに気を付ければいいのでしょうか。山田さんに詳しく伺いました。
継続できるように習慣化する
「振り返りノート習慣は、継続して記録を貯める必要があります。数回きりの記録だと、自分の内なる想いや無意識の願望、自分にとってのキーパーソンなどはなかなか見えてきません。そのため、習慣化して継続することが何よりも大切なポイントです。
習慣化のコツは、記録や振り返りを大変な作業にしないこと。意味づけが難しかったら、後から見直した時に書けばいいし、時間がないときは、3分~5分ほどのすき間の時間にやればOK。振り返るだけなら電車に乗っている時や、ランチタイムでもできますよね。とにかく最初は継続を最優先に、できるだけ労力をかけずに取り組んでみてください」
反省会にせず、財産の掘り起こしと考える
「振り返りノート習慣の目的は、自分のいいところ、できること、興味関心、想いや願望を見つけ出して、未来につなげること。書いて振り返るときに、自分のダメなところを見つけて反省することはやめましょう。
自分の能力や経験について考えるときは、強み・弱みで分けるのではなく、活かせるかどうかで分けるのがおすすめです。私が昔、家族全員無職になった話は、強みか弱みかでいうと、弱みでもあるのですが、この話をすると興味を持ってくれたり、感動しましたと言ってくれたりする人もいるんです。
すごく優秀な人でも、できることよりできないことの方が多いですよね。だから、できることを探すより、ダメ出しをする方が実は簡単なんです。自分のダメなところを見つけるのではなく、使える財産を掘り起こすイメージでやってみましょう」
自分で変えられないものは、切り分けて手放す
「振り返りを行う際は、“自分で変えられるもの”と“自分では変えられないもの”を切り分けて考えることが大切です。
例えば、仕事でプレゼンを行ったのに提案が通らなかったとしましょう。失敗してしまうと、『上司を失望させてしまったのではないか』『もっと準備しておけばよかった』などと考えてしまうこともあるでしょう。でも、他人の反応も過去の結果も、自分にはどうにもできないことです。このことに気付けると、『次のプレゼンを成功させるためにはどうしたらいいんだろう』『資料はバッチリだったから、話し方を工夫してみよう』といったように、未来やこれからの行動に目が向くようになります。
すでに起きた出来事、他人、将来の結果、過去にあったことは、今の自分には変えられません。だからこそ、出来事に対する捉え方や、これからの行動、今できることなど、“変えられること”に目を向けることが大切なのです」
自分で変えられないもの |
自分で変えられるもの |
出来事 |
捉え方 |
他人 |
自分 |
結果 |
行動 |
過去 |
現在 |
他の人と一緒に振り返り会をしてみる
「友人や家族、職場の同僚と一緒に振り返り会をしてみると、モチベーションが上がるのでおすすめです。
振り返り会では、書いたものを見せ合う必要はありません。1週間の中で最も心が動いた出来事とそこから得たことを話すだけで十分です。大人になればなるほど、自分の胸の内を話す機会は減っていくので、それだけで癒されますし、絆も深まります。
ただし、職場で実施する場合は、心理的安全性を確保した上で行うことが大切です。発表内容が評価の対象にならないよう、注意しましょう」
誰にも見せずに素直な気持ちを書く
「振り返りノートは誰かに見せるためのものではないので、素直な気持ちを書いてください。どこにも見せていない本当の自分をさらけ出したり、自分自身と対話したりできる場所があると、拠りどころになりますし、自分の軸もはっきりしてきます。
頭の中でいろいろと考えていても、すぐに忘れてしまうし、整理もつきません。自分の考えなのか、他人から聞いたことなのか、分からなくなってしまうこともあります。考えたことを素直に書き出して、ゆっくり振り返る時間を持つようにしましょう。自分の内面に向き合えるようになると、自分の本当の望みが分かるようになるので、未来もきっと変わっていくはずです」
まとめ
人は、自分にない経験や知識、人脈などの方に意識が向いてしまいがちですが、これまでやってきたこと、出会ってきた人、思いついたアイデアなど、すでに持っているものが、思いもよらないチャンスにつながることも少なくありません。目標から逆算して足りないものを補おうとするより、今ここにあるものを活かしていくことに目を向けてみましょう。
キャリアや人生に対して迷いを感じているなら、まずは自分が手にしている「財産」に気付くことが大切です。書いて振り返る習慣をぜひ生活に取り入れてみてください。
話を聞いた人:山田智恵(やまだ ともえ)さん
株式会社ダイジョーブCEO。2009年にリーマンショックの影響で、父親の会社が民事再生を申請。一家全員無職となり絶望するが、ノートを使った振り返りを始めて人生が好転。一部上場企業ではソーシャルメディア事業部長として活躍、外資ベンチャーの役員を同時に務め、2016年に起業。内省の習慣化を広めるためのワークショップを実施している。
公式Instagram:https://www.instagram.com/meaningnote
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