- そもそも他責思考とは
- 他責思考と自責思考の違い
- 他責思考な人の特徴
- 他責思考に陥ってしまう原因
- 他責思考に陥ったときのビジネスシーンへの影響
- 他責思考を改善する方法
- 他責思考な人との上手な接し方
- 成長できるよう意識を変えていくことが大切
仕事で何かトラブルが起きたとき、あなたは原因をどう考えますか?「他責思考」とは、物事が上手くいかない原因を他人や環境に求める考え方です。一時的な心の防衛反応という面もありますが、その考えが習慣化すると自身の成長機会を逃し、人間関係に悪影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、東京大学の特任研究員で、メンタルヘルス対策の専門家である関屋裕希さんに伺った話をもとに、他責思考の特徴や改善方法、チーム内に「他責思考」な人がいる場合の対処方法まで、詳しく解説します。
そもそも他責思考とは
他責思考とは、何か出来事が起きたときに、その原因を他者に求める考え方です。例えば、業務上のトラブルやミスが発生した際に、自分が責任を取りたくないという心理が働き、「あの人の指示が悪かった」「会社のシステムに問題がある」というように、問題の原因を外部に求めてしまう思考パターンを指します。
他責思考と自責思考の違い
ビジネスシーンにおいて何か問題が発生したときなど、あなたはどのような思考パターンになりやすいでしょうか?まずは次のチェックリストで、自分の傾向を確認してみましょう。
◼︎他責思考の人の特徴
・上司や同僚に対して怒りや不満を感じやすい
・組織や会社の制度に不満を持ちやすい
・環境や他者に改善を求める傾向が強い
・自己防衛的な態度をとりやすい
・ストレスは溜まりにくい
◼︎自責思考の人の特徴
・失敗を過度に自分のせいにして落ち込みやすい
・新しいチャレンジをためらってしまう
・完璧主義的な傾向が強くなることがある
・プレッシャーを抱えやすい
・チーム内の人間関係は良好に保てている
どちらの考え方が良いといったものではありません。自分の考え方の癖を把握するようにしておきましょう。それでは、他責思考な人と自責思考な人のビジネスシーンにおける思考パターンを見ていきましょう。
営業成績が悪いとき
<他責思考の場合の思考パターン>
他責思考な人は、営業成績が悪いときに次のような思考パターンに陥りがちです。
- 「上司の指示が適切でなかった」
- 「同僚の協力が足りなかった」
- 「クライアントが理解してくれない」
他責思考になると、自分に指示を出した上司や、一緒に進めた同僚のせいで上手くいかなかったと考えて、不満や怒りを態度に出してしまい、職場の雰囲気を悪くするリスクがあります。
不満や怒りを周囲に出し続けることで、次第に同僚から距離を置かれたり、社内での評価を下げたりしてしまいます。結果として、自身のスキルアップの機会を逃してしまうかもしれません。
<自責思考の場合の思考パターン>
自責思考な人は、営業成績が悪いときに次のような思考パターンに陥りがちです。
- 「自分の努力が足りなかった」
- 「もっと良い提案ができたはず」
- 「営業スキルが不足している」
自責思考が強すぎると、「自分のせいで上手くいかなかった」という考えにとらわれ、過度の自己否定に陥ってしまいます。その結果、不眠や食欲低下といった心身の不調を引き起こすこともあります。また失敗への不安が強くなるあまり、新しい営業手法や革新的なアプローチへのチャレンジを避けるようになり、チャレンジの機会を逃してしまうこともあります。
上司から評価されないとき
<他責思考の場合の思考パターン>
他責思考な人は、上司から評価されないときに次のような思考パターンに陥りがちです。
- 「上司の評価基準が不適切」
- 「人事評価制度に問題がある」
- 「周囲の理解が足りない」
他責思考が強すぎると、現状での社内評価に対して上司から適切に評価されていないと不公平感を募らせたり、組織の人事評価制度が悪いととらえたりして、不満を持ってしまいます。その結果、仕事へのモチベーションが低下し、周囲との関係性も少しずつ悪化していく傾向にあります。
<自責思考の場合の思考パターン>
自責思考な人は、上司に評価されないときに次のような思考パターンに陥りがちです。
- 「自分の能力が足りない」
- 「もっと頑張るべきだった」
- 「仕事の質が低い」
社内評価が低いことに対して自責思考に偏ってしまうと、自己の能力や存在価値を必要以上に否定して、不眠、食欲低下など深刻なメンタルヘルスの問題につながることもあります。「自分は周囲の期待に応えられない」という思い込みから、上司や同僚とのコミュニケーションが積極的にできず、次の評価が心配になるあまり、仕事に集中できなくなる恐れもあるでしょう。
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他責思考な人の特徴
「他責思考」な人の特徴とはどのようなものでしょうか。具体的な行動パターンを見ていきましょう。
同じミスを繰り返す
他責思考が強い人の場合、何か失敗をしても「システムの不具合だった」「説明が不十分だった」など、責任を他者や環境に求めるため、自身の反省につながりません。また、自分の責任という意識が薄いため、具体的な改善策や再発防止策を考えないまま何度も同じミスを繰り返し、結果的にチーム全体の生産性にも影響を与えてしまいます。
謝罪を拒否する
他責思考な人は問題が発生しても、自身が不当に責められていると感じてしまい、自分の責任や関与を認めたがらない傾向にあります。チーム内で謝罪や振り返りの機会を逃してしまうと、後々の問題解決を妨げたり、チーム内で信頼関係を失ったりする可能性もあります。
怒りを感じやすくなる
他責思考な人は、同僚や社内のシステムのせいで上手くいかなかったというパターンに陥る特徴があります。その結果、過度に周囲を攻撃したり、些細なことでもイライラして職場の雰囲気を悪化させたりしてしまいます。
他責思考に陥ってしまう原因
なぜ人は他責思考に陥ってしまうのでしょうか。その背景には、自分を守りたい、攻撃されたくないという気持ちなどが深く関わっています。ここでは、他責思考の原因について、詳しく説明します。
自己防衛反応
人は誰しも、自分の失敗を他者や環境のせいにすることで、自尊心を守ろうとする本能的な傾向があります。他責思考は、この自己防衛メカニズムの一つの表れと言えるでしょう。
そのため、成功したときには自分の能力や努力のおかげとする一方で、失敗は他者や環境のせいにする傾向があります。誰しも思い当たることではありますが、このように自分の課題と向き合うことを避けていると、成長の機会を逃してしまいます。
自己効力感の低さ
「自己効力感」とは、ビジネスシーンなどで困難にぶつかったときに、「自分はこの課題を解決できる」という確信や信念を持つことです。この「自己効力感」を持てない場合は、問題解決や行動を変容する力が自分にあるとなかなか信じられません。その事実に向き合うことを恐れてしまい、結果的に他責思考に陥りやすくなります。
コントロール感の低さ
「コントロール感」とは、人生や仕事のさまざまなことを、自分の能力や意志で決めていると考える感覚のことです。「コントロール感」を持てない場合は、自分の人生は運や環境に左右されると考え、主体的に動けなくなってしまいます。結果的に何か問題が起きても、自分で解決できるとは考えられず、他者や環境のせいにして、現実から目を背けてしまいます。
他責思考に陥ったときのビジネスシーンへの影響
他責思考や自責思考のように思考の傾向が極端になってしまうと、客観的な振り返りや問題解決ができず、自身の成長にはつながりません。
重要なことは自分の傾向を認識したうえで、柔軟に周りの人とバランスを取ることです。ここでは他責思考になった場合、ビジネスシーンにおいてどのような影響があるのか考えてみましょう。
人間関係への影響
他責思考が強い場合、人間関係に大きな影響を与えることがあります。例えば、仕事上でトラブルが発生したときに、上司の指示や同僚の対応を原因としてとらえ、怒りや不満を感じるとします。しかし、それを表面に出してしまうと、築き上げてきた信頼関係が損なわれる可能性があります。
成長機会への影響
他責思考が強くなると、物事の原因を他者や環境などの外部に求めるため、自己の振り返りや改善の機会を逃してしまう傾向にあります。すると、同じような失敗を繰り返し、改善策を見つけないので、成長が滞ることも考えられるでしょう。
キャリア形成への影響
他責思考が強すぎると、環境への不満から頻繁に仕事を変える可能性があります。その結果、キャリアが中断したり、専門性の構築が難しかったりすることもあるでしょう。不満を口にすることで、周囲からの評価が下がり、社内異動の選択肢も狭くなる恐れもあります。
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他責思考を改善する方法
「他責思考」の傾向が強い人でも、普段の業務や日常生活において、思考のパターンを変えていくことで徐々に違う視点に切り替えることが可能です。日常や仕事の場で取り組める事柄をご紹介します。
周囲の人のトラブル対処法を観察する
他責思考の人は、つい主観的な視点だけで物事をとらえてしまいがちです。仕事上でトラブルが起こったときなど、周囲の上司や同僚が物事をどのようにとらえて、対処しているのかをよく観察するようにしましょう。日常的に繰り返すことで、多様な考え方や対処方法を身につける練習になります。
振り返りの時間を持つ
トラブルやミスが起こったときには、必ず振り返りの時間を持つようにしましょう。そうすることで問題の根本的な解決や、自身の成長につながります。例えば、ミスが発生したときに社内のシステムが原因だと思ったら、次回からの改善につながるように周囲と協働しながらマニュアルを変更してみる。もしくは連絡漏れなどが原因だと思ったら、チーム内のコミュニケーションツールの使い方を工夫するなど、前向きな手段で同じミスをしないように気を付けてみてください。
利害関係のない第三者からのフィードバックを受ける
他責思考を持つ人は、特に上司や同僚などのビジネスで評価される関係性の相手からのアドバイスを素直に聞き入れにくいという特徴があります。
例えば、カウンセラーや親しい友人など、客観的に判断してくれる第三者にフィードバックをもらうようにすることをおすすめします。客観的な思考パターンの見直しにつながります。
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他責思考な人との上手な接し方
もしもチーム内に他責思考の考え方を持つ人がいた場合、どのように対応すればよいでしょうか。上手くコミュニケーションを取りながら協働する方法を紹介します。
チームメンバー全体で振り返りの時間をもつ
何かトラブルが発生したときは、その出来事の流れやきっかけを一度チームメンバー全員で振り返る時間を設けましょう。
同じ問題であっても、人によってとらえ方が異なることもあります。また、問題や失敗の原因はひとつではなく、複数の要因が影響し合っていることもあります。このことを全員で確認するとよいでしょう。
チーム内で感謝を伝え合う時間を設ける
チーム内に他責思考の考え方の人がいる場合、全員で感謝を伝え合う時間を設けてみましょう。日々の中で小さなことに感謝する習慣を身につけることで、ポジティブな思考パターンを育むことができます。
特定の個人を責めないように、根本的な解決を目指す
全員で話し合いをするときは、チーム内の特定の個人を責めるようなことはしないようにしましょう。チーム内の特定の人だけが「自分が不当に責められている」ととらえないように、「責めるつもりはなく、次に活かしたい」ことを強調して話をすると効果的です。反省すべき点を指摘するだけでなく、根本的な解決を目指しましょう。
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成長できるよう意識を変えていくことが大切
どんな問題や失敗にも、原因が一つだけとは限りません。個々の行動、組織のルール、資源や予算、さらには社会情勢や法律など、さまざまな要因が影響している可能性があります。しかし、「他責思考」に陥ってしまい、トラブルの原因を他者や環境のせいにしてしまうと、自ら成長の機会を逃してしまうかもしれません。
問題が起こったときには、周囲とコミュニケーションをとり、多様な視点から状況をとらえ、改善策を見つけることが重要です。お互いに学び合い、共に成長していけるようなアプローチを意識してみましょう。
監修:心理学博士、臨床心理士、公認心理師 関屋裕希
東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座所属。
早稲田大学文学部心理学専攻卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了。専門は、産業精神保健(職場のメンタルヘルス)であり、業種や企業規模を問わず、ストレスチェック制度や復職支援制度などのメンタルヘルス対策・制度の設計、職場環境改善・組織活性化ワークショップ、経営層・管理職・従業員それぞれに向けたメンタルヘルスに関する講演や執筆活動を行う。著書は『感情の問題地図』。最新刊の『モチベーションの問題地図』(技術評論社)が発売中。
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