これが本当の招き猫? 小さな町を救ったイケメン猫駅長"りょうま"の物語

職場で一緒に働くのは、必ずしも人間だけとは限りません。もしかしたら隣で活躍しているのは猫だったりして…?

これが本当の招き猫? 小さな町を救ったイケメン猫駅長"りょうま"の物語

職場で一緒に働くのは、必ずしも人間だけとは限りません。もしかしたら隣で活躍しているのは猫だったりして…?

近年、地方のいくつかの駅で話題になっている「猫駅長」。彼らのかわいらしさと仕事ぶり(?)は、国内外からファンを集め、観光客を誘致するなど、地方創生において大きな経済効果をもたらしています。

過疎化が進み利用客が激減した小さな駅に現れた救世主、広島県のイケメン猫「りょうま」駅長をご紹介します。

駅長と猫駅長との出会い

 

「今日はどんな出会いがあるかにゃ?」きっぷ売り場でそわそわ。



岡山県と広島県を結ぶローカル線、JR芸備線の志和口駅(げいびせん・しわぐち)には、推定14歳のオス猫「りょうま」くんという猫駅長がいます。

美しいトラの毛並みに、キリッとした顔立ち。この名前は坂本龍馬からとったそう。りょうま駅長は2本のゴールドラインが入った特注の帽子を被り、今日も乗降客を見送ります。

志和口駅がある広島市安佐北区白木町は、人口8,000人ほどの小さな町。山や川など多く自然に恵まれ、澄んだ空気の中で美しい四季を感じることができる田舎町です。

なぜ、猫のりょうまくんは志和口駅の駅長になったのでしょうか。

りょうま駅長の世話をする中原英起さん(73)は志和口駅の元駅長で、現在はOB会の会長として毎日のように志和口駅にボランティアとして通っています。中原さんは駅長時代、志和駅に住みついたメスの猫を「ちび」ちゃんと名付けてかわいがっていたのだとか。

「退職してからもちびの面倒をみに駅に通っていたところ、2010年頃にフラッとりょうまが現れるようになったんです。りょうまは顔立ちも良いし何よりおとなしくて人懐っこい。その当時、この地域は人口が一気に減少し、町にも駅にも活気がなくなっていました。そこで、野良か飼い猫かは定かではありませんでしたが、猫ブームにのせて『りょうまを猫駅長にしたらどうか』と思いたったのです。JRは非公認ですが、りょうまは2012年に猫駅長として、ちびは助役として就任しました。

ちびが老衰で亡くなる2014年まで、りょうま駅長とちび助役は2匹仲良く駅で暮らしていました」。

猫駅長の「イケメン効果」、海を越える

 

駅をパトロール中のりょうま駅長。「今日も平和だにゃ」



駅長室で暮らす、りょうま駅長。列車の乗降客を見送り、縄張りである駅周辺をパトロールするのが日課です。線路を渡る際には必ず左右を確認します。さすが駅に勤めているだけあって、安全確認は徹底しているようです。

通勤通学で駅を利用する人々に撫でてもらったり、りょうま駅長のためにわざわざエサを買って持ってきてくれたりする人もいるという愛されっぷり。交通安全運動やお祭りのポスターにもりょうま駅長の写真が大々的に使用されるなど、地域振興にも一役買っています。

凛々しい顔立ちのイケメン・りょうま駅長の人気は、地元のみならず、ネットを通して海外にまで広がりました。2016年4月には、りょうま駅長に会いに来た人の数が延べ1万人を超え、いくつかのメディアでもニュースになります。2017年には台湾の旅行専門誌『飛鳥旅遊雑誌』5月号に紹介されたこともあり、台湾、中国、オーストラリアなど、さまざまな国の方がりょうま駅長に会いにくるそうです。

「観光客の方は『かわいい』『いい顔をしている』『癒やされる』と言ってくれますし、リピーターの方も多いですね。りょうまはどんなに撫でられても嫌がることはなく、観光客ともスキンシップを上手にとっています。今まで延べ1万7,000人ほどの人がりょうまに会いに訪れていますが、2018年11月頃には2万人になる予想です」。

「駅の入り口には大きなボクもいるんだにゃ!」



志和口駅を訪れたりょうま駅長ファンが近隣の飲食店で食事をするなど、地域の経済効果にも貢献しています。そんなりょうま駅長の人気を受けて、中原さんは2017年に有志と「りょうまを見守る会」を結成しました。地元の人を中心に、現在53人の会員がりょうま駅長のサポートをしています。

「老猫でもあるので、エサ代や病院代など健康管理にお金がかかります。会員からは会費を徴収していますが、それだけではとても足りないので、りょうまのカレンダーを作って、その売り上げの一部を出費に充てています」。

小さな駅が販売したものであるのにもかかわらず、2017年版のカレンダーは大人気で即完売したとか。

生涯現役、猫と二人三脚(?)

 

キリリッとしているりょうま駅長。



現役を退き、現在はボランティアとして毎日のように志和口駅に通い、りょうま駅長の面倒をみる中原さん。何が中原さんをそこまで突き動かすのでしょうか。

「人間も介護の時代と言われていますが、猫も最後まで面倒をみてあげなきゃいけません。猫駅長だと使うだけ使って見捨てるなんてできるはずがない。

私にとって、りょうまは家族の一員。子どもと一緒なんです。東京に娘がいるので会いに行くことがありますが、りょうまが心配ですぐ広島に帰ってきてしまいます。どっちも大切な子どもなんですけどね(笑)」。

「りょうまも愛されていることがわかるのか、よく懐いてくれています。抱っこして、とせがんできます。りょうまと接していて感じたのですが、猫はかわいがったらかわいがった分だけ応えてくれる。とても純粋なんです。私は良い猫と出会いました」。

最近は、メディアを見た観光客から「りょうま駅長のお父さんですよね?」と、家族同然のように認知されていることを、うれしく思っているのだとか。

後ろ姿も渋い。



「私自身も、りょうまに元気づけられていますし、国内外からいらっしゃる観光客の皆さんと話す機会をいただいて毎日が新鮮だし刺激的」。

「りょうまは14歳なので、人間で言ったら70歳くらいの同世代のおじいちゃん。町を元気にしてくれているりょうまが、1年でも2年でも長生きしてくれたらいいなと願っています。お互い生涯現役でいきたいですね」。

地域活性の起爆剤として、そしてみんなに癒やしを与える猫として、りょうま駅長は今日も志和口駅でマイペースに働いています。その後ろ姿は、僕がこの町を守ると言わんばかりの、堂々としたものでした。

(取材・文:ケンジパーマ/編集:東京通信社)

識者プロフィール

 


りょうま
キジトラ白のオス猫。推定14歳(2018年現在)。
2012年、JR芸備線・志和口駅の猫駅長(JR非公認)に就任。
日課は駅周辺のパトロール、ファンの対応、お昼寝。

※この記事は2018/03/21にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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