会社の人間関係や、仕事の重圧……。ビジネスパーソンの日々はさまざまなストレスにさらされています。それによって自律神経が乱れると、身体に影響を及ぼすことがあります。そんな症状をケアできるのが「自律神経トリートメント」。東洋医学の手法を用いたセルフケア方法で、自律神経を専門としている鍼灸師医の船水隆広先生がさまざまな体調不良の症状に対処する中で、専門知識を持たない人たちでも、日常生活に取り入れて効果が出せるようにノウハウをやさしく落とし込んだものです。
人間には本来、自分で疲れを回復する力が備わっていて、その力をきちんと引き出すために「自律神経トリートメント」を編み出したそう。このメソッドを活用して、身体のセルフマネジメントに役立てましょう。
身体のさまざまな働きをコントロールする自律神経
――そもそも自律神経とは、どんな役割を果たしているのでしょうか?
自律神経とは、自動で動いている身体の機能をコントロールする役割を果たす神経を指します。たとえば、呼吸したり、食べ物を消化したり、体温を保つために汗をかいたりするのは、自律神経があるからです。
交感神経と副交感神経の2つから成り立っており、活動時や興奮時、そして緊張しているときに活発な神経が交感神経、寝ているときやリラックスしているときに作用しているのが副交感神経と言えば、わかりやすいでしょう。
この2つの神経のバランスが保たれながら、自身の意識や状態とは無関係に24時間休みなく働いているのが正常な人間の体の仕組みです。
――そういった自分の意志ではコントロールの難しい働きをケアすることが、「自律神経トリートメント」ということでしょうか。
船水:はい。普段、僕が鍼灸師として鍼をさすようなところに、一般の方々でも効果的なアクションができるように、具体例を落とし込んだメソッドになります。
――書籍では、ツボ押しやストレッチが紹介されていますが、それだけで自律神経を調整できるということでしょうか。
船水:そうです。東洋医学では、自律神経を“陰陽”という表現を用います。人間は交感神経と副交感神経を入れ替えながら生きているように、“陰陽”では昼間を“陽”、夜を“陰”として考えます。
その“陰陽”を整えるのに、東洋医学ではツボを使います。夜寝られない人は、夜なのに“陽”気が強いので“陽”のツボを刺激して陽気を抑えたり、“陰”のツボを刺激して陰気を増やしたり……そういうようなことを我々鍼灸師は、日常的にやっているんです。
――つまり“陰”と“陽”のバランスを整えるということですか?
船水:そうですね。自律神経のバランスはシーソーに似ています。“陰”と“陽”のシーソーを適正な形に戻すことが重要なのです。
――では、自律神経が乱れてしまうと、具体的にはどんな症状を引き起こすのでしょうか?
船水:特に症状が現れやすいのは肩こりです。デスクワークが多い人の場合、目と肩のこりはほぼセットで現れます。同じ体勢を続けていたり、PCを見続けたりすることが原因と思われがちですが、何度治療してもまた同じ症状が出る、定期的に症状が出る場合は、人間関係や、仕事の重圧からくるストレスによる自律神経の乱れを疑ったほうがいいでしょう。
――なるほど。単純にフィジカル的な原因のように思いますが、精神的なストレスによるものもあるということですね。
船水:その通りです。肩こりの話をよく聞いてみると、実は大きな悩みを抱えていて、そのストレスに起因することが多いです。「肩がこる」「頭が痛い」「疲れが取れずに身体がだるい」といった症状を軽く見てはいけません。
自律神経の乱れを診断する3つのチェックポイント
自律神経のバランスをチェックするには、“陰陽”から肉体の変化を診るという船水先生。わかりやすい例として、眠りすぎて体が痛いというケースを挙げてくれました。睡眠は“陰”のため、寝すぎて頭が痛いのは“陰”が強すぎるということ。
このとき、散歩するなど身体に刺激を与えることで頭痛が軽減することがあるそうです。これが“陽”を付け足すということです。“陰”が多いなら“陽”を加える。“陽”が少ないなら、“陰”を足す、もしくは“陽”を削るということになります。
チェックポイント01┃まぶた
チェックする事項として、わかりやすいのがまぶた。他の人に見てもらうか、スマートフォンで自分の顔を動画撮影してみましょう。
軽く目をつぶったときに、まつげが震えていないかがポイント。自律神経が乱れている人は、脳からの指令があっても筋肉をしっかりと操ることができず、まぶたが小刻みに動いて、まつげが震えてしまいます。
チェックポイント02┃舌
まぶたと同じように、舌を出して同じ形をつくっていられず、震えていないかチェックしてみてください。
また、舌に歯型がついているかどうかは自律神経の乱れのバロメーターになります。水分を摂りすぎている人や疲れすぎている人は、むくんで歯型がつきやすくなっています。
チェックポイント03┃耳たぶ
耳を手で折りたたむようにしたときの弾力性、硬さでもチェックできます。耳は自律神経の乱れを判断するには重要な部位です。耳の外側は交感神経、内側は副交感神経が支配しており、耳たぶや耳の外側周囲は肩こりのツボ、耳の穴周辺のツボは内臓調整に効果があります。
つまり、眠れないなど、交感神経と副交感神経のバランスを崩している人は耳が硬いので、耳を前に倒したり、耳を引っ張ったりして痛みがないかをチェックしてみてください。
会社のデスクでかんたんにできる自律神経トリートメント
自律神経は大脳皮質がストレス受けることで乱れます。つまりストレッチやツボ押しによって身体に刺激を入れることで脳をだます。これもひとつの治癒テクニックです。
自律神経トリートメント ステップ01
腕の内側には、心を包み、守る働きをする心包経(しんぽうけい)があります。心と直接関係している大切な経(ツボ)です。腕反らしをすることで、この心包経をストレッチして、刺激します。
自律神経が乱れていると、身体を伸ばすことが困難になる傾向があり、その信号を身体に与えるだけでも、自律神経の乱れは軽減します。息を吐きながら、指まで反らすように反対の手で抑えてゆっくり深くストレッチを加えてください。それを両腕とも行いましょう。
さらに、手首から指3本分の肘側で、2本通っている筋の間が内関(ないかん)というツボ。息を吐きながら、腕を少し反らして刺激することで心の緊張がほぐれます。面接前やプレゼン前が効果的です。上手に話せない人や、目が充血しやすいようなタイプはこのツボを刺激するとリラックスできます。
自律神経トリートメント ステップ02
耳にはさまざまな内臓につながるツボがあり、マッサージをすることで身体のバランスが整います。具体的には、耳の外側を上、下、外側に引っ張って刺激を加えてみてください。耳に指を入れて、少し回してあげるのも大事です。
副次的な効果として、耳の後ろを定期的にマッサージしているとフェイスラインのたるみもすっきりします。
自律神経トリートメント ステップ03
人間の最も強い力は、噛む筋力です。この筋肉が固くなると、全身の筋肉も固くなり、日常生活に悪影響を及ぼすのでこの咬筋の筋肉を緩めてあげましょう。口を軽く開けて手で頬の筋肉をマッサージすることで咬筋が緩み、脳が全身をリラックスさせるサインを送り始めます。それによって血流が良くなり、全身の筋肉が緩みます。
今回ご紹介した自律神経トリートメントはほんの一部。慢性的な肩こりや目の疲れは、ストレスが原因の自律神経の乱れからくるものだとなかなか信じがたいかもしれませんが、船水さんいわく「どんな人にもストレスがあって当然。それを認識してケアしていくことが大切」とのこと。セルフケアで改善できることも多いので、仕事の合間に実践してみましょう。
『深い疲れをとる自律神経トリートメント』
著者:船水隆広
出版社:主婦の友社
発売日:2017年12月8日
判型:四六判
定価:1,300円+税
プロフィール
東京医療専門学校鍼灸マッサージ科科長
船水隆広
はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師として20年の臨床経験をもち、欧米やアジア各国など国内外で鍼灸の指導にあたっている。ストレスケア、こころの病が治療専門分野。修士(心身健康科学)、経絡治療学会評議員、日本伝統鍼灸学会理事ほか。著書に『深い疲れをとる自律神経トリートメント』『経絡経穴概論(共著)』『やさしい鍼をうつための本(共著)』など。NHK『土曜時代ドラマ ぬけまいる~女三人伊勢参り~』『大江戸ロボコン』などの東洋医学部門監修。
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