- 天気が変わるだけで不調に?気象病のメカニズム
- 気象病・天気痛を引き起こす「自律神経の乱れ」とは?
- 気象病対策その①:不調が起こる前に、先手を打つ
- 気象病対策その②:症状を軽減する方法を試してみる
- まとめ
天気が変わるだけで不調に?気象病のメカニズム
そもそも「気象病」とはどんなものなのでしょうか。その定義について、佐藤先生に解説いただきます。
気圧・気温・温度が、気象病の3大要因
「天気の変化が体に影響を及ぼし、心身にさまざまな症状を引き起こすことを、気象病と呼びます。要因と考えられるのが、気圧・気温・湿度です。これら3つの変化を起因として、『自律神経』が乱れ、不調が起こってしまうのです。
耳の奥の方にある内耳と呼ばれる部分を、私は“内耳センサー”と呼んでいます。内耳センサーは気圧の変化に反応し、脳を介して自律神経を乱すことがわかっています。寒暖差が大きい気温の変化によっても自律神経は乱れやすいですし、湿度が高くなり体に熱が溜まることによっても、同じ理由で不調を招く原因になり得るのです」(佐藤先生、以下同)
気象病・天気痛の主な症状は?
気圧・気温・湿度の変化によって自律神経が乱れると、私たちの体にはどんな不調が起こるのか、解説いただきました。
「主に頭痛を訴える人が多いです。私のクリニックの患者さんの8割は、頭痛に悩まされていらっしゃいます。他にも、めまい、眠気、倦怠感、お腹を下す、息苦しさを感じるという方も。動悸や不整脈といった循環器系の不調も少なくありません。こうした症状のうち、痛みを伴うものを“天気痛”と呼んでいます。
体はもちろん、気分が落ち込むなど心に影響を受け、メンタルクリニックを受診して鬱病と診断されるケースも。私のクリニックへ訪れる患者さんは、平均4〜7施設をまわってから当院へいらっしゃっています。病院や整体院、鍼灸院などいろいろなところで相談したものの原因が分からず、当院へ来て初めて、天気が原因だと自覚する人はとても多いのです」
気象病・天気痛は、男性よりも女性が多い
佐藤先生の患者さんは、7割以上が女性とのこと。女性の方が、天気の変化に敏感だということなのでしょうか。
「女性には妊娠・出産という、子孫を残すための機能が備わっています。ですから自分の体を守るために、気圧をはじめとした変化に敏感だと考えられています。それに、女性は1カ月の中でホルモンが絶えず変化していますから、そのホルモン変化と天気の変化がぶつかった時に、不調が出やすい傾向にあるのです。
また、頭痛の一種である偏頭痛は、自律神経を介さずに直接、内耳センサーから気圧の変化による影響を受けて起こるもの。この性質上、もともと気圧の変化に敏感な、女性に多くみられる症状のひとつになっています」
急激な気象変化で気象病・天気痛の患者が増加
近年、天気の変化に合わせて体調を崩す人を見かける機会が増えたような気もします。実際、気象病や天気痛で悩む人は、増加傾向にあるのか、佐藤先生に伺いました。
「日本には四季がありますし、台風も多く、全国平均で3日に1日は雨が降り、もともと天気の変化が著しい国と言えます。それに加えて、近年の気候変動により、ますます天気の変化が激しくなっていますから、不調を訴える人が多くなっているのです。
スコールのような雨が降ったり、夏の湿度が高かったりと、日本もまるで東南アジアのような気候になりつつありますね。東南アジアに暮らす人々は、亜熱帯に適した体質になっていますが、日本人はそうではありません。そのため、似たような気候であっても、日本人はより不調が起こりやすいかもしれません。
自律神経は、気圧・気温・湿度の“変化”に大きく影響を受けます。その高さにかかわらず、安定している場合はそこまで影響を受けません。ですから、気圧が低い日が続く梅雨の時期は、意外と平気な人も多いんですよ」
気象病・天気痛を引き起こす「自律神経の乱れ」とは?
気圧・気温・湿度の変化が自律神経を乱すことが、不調の要因になる、と佐藤先生。そもそも「自律神経」とはどのような性質を持っているのか、解説いただきましょう。
身体の調子を整える、とても重要な神経
「『自律』という言葉が表すように、私たちの意思とは関係なく、体を一定の状態に保つ“ホメオスタシス”を維持するために自ら働いている神経群のことを指します。自律神経には大きく分けて、“交感神経”と“副交感神経”があり、私たちの臓器は両方の影響を受けています。
心臓は交感神経が優位になると活発に働き、副交感神経が優位になると働きが穏やかに。一方で、消化器官は副交感神経が優位なときに活動的になります。このように、器官によって交感神経、副交感神経、それぞれからの影響の受け方が異なるのです。
また、1日の中でも、昼間は交感神経が高く、夜間は副交感神経が高くなるという一定のバイオリズムがあります。例えば、副交感神経が優位になって身体を休めるべきであるはずの夜間に、遅くまでPC画面とにらめっこをして仕事し続けていると、脳が興奮して交感神経が優位になります。その結果、バイオリズムが崩れて不眠を引き起こしたり、内臓の調子が悪くなったりするのです」
自律神経が乱れる要因は、日常に潜んでいる
天気の変化以前に、自律神経が乱れるような生活習慣を送っていると、余計に天気の影響を受けやすくなりそうですね。
「その通りです。自律神経は体の調子を保ってくれている、最後の砦のようなもの。体質的にもともと自律神経が強くない子どもや女性、高齢者はもちろん、男性でもオーバーワークや不規則な生活習慣が続くと、さらに乱れて、天気の影響を受けやすくなりますよ。
また、現在20代前半くらいのビジネスパーソンの方は、高校~大学にかけてコロナ禍で人と接する機会が極端に少なかったですよね。それによって、コミュニケーション力を養う機会に恵まれず、何でも1人ですることに慣れている傾向があるかもしれません。その結果、他者から自分に対する評価を受ける経験もあまり多く積んでいないこともあるでしょう。
そうした場合、メンタル面に脆弱性を抱えている可能性があります。社会に出て、上司に叱られたり、同僚とうまく関係性を築けなかったりして、ストレスを抱え、不眠になって、自律神経が乱れ、気象病になり……と悪循環に陥ることも。社会的な背景もまた、気象病・天気痛が増えている要因のひとつと考えられるのです」
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気象病対策その①:不調が起こる前に、先手を打つ
気象病と自律神経の関連を把握できたところで、その対策方法についても学んでおきましょう。まずは、不調が訪れる前にできることについて、佐藤先生に教えていただきます。
自分の気象病・天気痛のパターンを把握する
「前提として、自分の体調がどれだけ天気の変化に影響を受けているかを知っておくことが大切です。まずは、天気の変化と体調の変化を日記などに書き留めて、自身の気象病を『見える化』しましょう。スマートフォンを使って自律神経の乱れを測定できるアプリなども出ていますから、そういったものを活用してもいいと思いますよ。
加えて、規則正しい生活を心がけて、自律神経が乱れにくい体づくりをすることも大切です。もともと偏頭痛がある人は、放っておかずに医療機関を受診してくださいね」
PCやスマホ操作中の姿勢に注意する
「猫背やストレートネックの人は、肩甲骨周りが硬くなり、呼吸が浅くなって自律神経が乱れやすいとも言われています。ですから、普段から正しい姿勢で過ごすことも対策のひとつです。
机に向かってパソコン作業をする際は、目の位置とモニターの位置に気を付けてください。モニターが低い位置にあると、どうしても首が下がって姿勢が悪くなりますから、なるべく目の高さを合わせるのが良いでしょう。
目を適度に休ませるのも効果的。30分作業したら、30秒くらいはモニターから目を話して遠いところを見るなど、工夫してください。ブルーライトカットメガネをかけるのもおすすめです。もちろん、スマホを見る時の姿勢にも要注意です」
気象病対策その②:症状を軽減する方法を試してみる
最後に、症状が現れてしまった後にできる対策法について、佐藤先生に解説いただきました。
症状に適した漢方を飲む
「症状が出ても、寝てしまえば少しは楽かもしれませんが、そうはいかないことも多いはずですね。そんな場合は、我慢せずに薬を飲んで様子をみましょう。天気痛の場合は市販の痛み止めでも良いですが、私自身は『五苓散(ごれいさん)』という漢方を処方することが多いですね。
最近はドラッグストアにもさまざまな漢方薬が置いてありますから、薬剤師に症状を伝えて相談し、適したものを選んでもらうと良いでしょう。めまいが強い場合は、抗めまい薬や酔い止め薬が有効なこともあります」
耳をマッサージして温める
仕事中でも気軽にできそうな、対処法についても伺いました。
「患者さんにおすすめしているのは、“くるくる耳マッサージ”です。耳たぶをつかんで上下左右に引っ張ったり、耳を回したり。耳の血行が良くなって、内耳センサーの感度が下がりやすくなります。カイロやホットタオルなどで耳を温めるのも良いでしょう。
内耳センサーに蓋をして気圧のブレを感じにくくする、気象病専用の耳栓も市販されていますから、そういったものも試しつつ、自分に合った対策を検討してみてください」
まとめ
要因がわからない体調不良を、ストレスやメンタルの病気のせいだと決めつけていませんか? 佐藤先生の患者さんの中には、別の医療機関で鬱病と診断されていながら、実は気象病が原因だったという例も、決して少なくはないのだとか。気象病や天気痛は、放っておくと重症化することもあります。たかが気象病と軽く見ることなく、改善に向けて、気象病、天気痛の専門医を頼ることも検討してみましょう。
話を聞いた人:佐藤純 先生
天気痛ドクター・医学博士。1958年福岡県生まれ。疼痛生理学・環境生理学を学んだのち、名古屋大学教授を経て、愛知医科大学病院で日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設。東京竹橋クリニックでも気象病・天気痛外来医として診療を手掛ける。天気痛研究・診療の第一人者としてTV番組等へのメディア出演も多数。2020年には株式会社ウェザーニューズと共同開発した「天気痛予報」をリリースし、注目を集めている。主な著書に『天気痛 つらい痛み・不安の原因と治療方法』(光文社新書)、『「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本』(アスコム)などがある。
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