無人オフィスで仕事が進んでいく秘密とはーー準備期間は実質1週間!?︎【実態調査! みんなのリモートワーク #2】

リモートワークを導入する企業が急増しているものの、初めてのことに戸惑っている人も多いよう。他の人たちは、一体どうやっているのか。気になる“隣のリモートワーク”をのぞいてみよう!

今回は、株式会社デジタル・フロンティアをのぞき見!

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コンピュータグラフィックス(CG)を中心に、映画やゲーム、アニメなどの映像制作を行うデジタル・フロンティア。グループ全体での社員数は300人、単体でも200人を超え、CG業界において国内有数の規模を誇ります。

大規模な実写のVFXやアニメ調のCG、ゲームの内部データ制作を受注生産、お台場に国内最大級のモーションキャプチャースタジオを有し、「デジタルヒューマン」と呼ばれる実写映像の頭部をCGで置き換える技術にも注目が集まる企業です。

現在、彼らのオフィスに人の姿はほとんどありませんが、ずらりと並ぶパソコンのモニタは明るく光っています。しかも、その画面上では作業が進められているというのです!

この投稿をしたご本人、同社のプロデューサーであり、専務取締役を務める豊嶋さんに詳しいお話を聞いてみました。

無人のモニタを操るのは「リモートデスクトップ」

全社へのリモートワーク導入を考え始めたのは2月下旬のことですが、実は昨年秋から今年の初頭にかけ、家庭の事情や健康上の理由から、先立って数人の在宅勤務を実施していました。

弊社では、「作ったデータを外に出さない」というスタンスを重要視しています。セキュリティやウイルス対策の重要性はもちろんですが、データこそが会社の資産だと考えるからです。
それを担保するため、直接外部から社内の回線へ接続することなくオフィスと同じ作業を叶えられる「リモートデスクトップ(=デスクトップの仮想化)」が、私たちがリモートワークを行う上で重要な鍵を握っていました。

そのため、先の在宅勤務スタッフのためにリモートワーク用のネットワーク回線を1本増やし、「ゼロクライアント」というリモートデスクトップ用のハードウェアを使用した動作検証を行っていました。その経験から、当初は今回の全社導入も同じ方法を取るのが理想的だと考えていました。

ところが、私たちが理想とするリモートワーク環境を200人規模で実現するには、最大で1.5億円の投資が必要であるという概算をシステム部門から出され、すぐに導入に踏み切ることは困難だったのです。

しかし、制作ラインの空きにより倒産することが多いのが制作会社。理想通りにはいかずとも、制作を止めない手段を考えねばなりません。

その時期、すでに家庭用の有線の回線工事にはかなりの待ち時間が出ている状況で、全てのスタッフにそれを行き渡らせることは不可能であり、現在の会社の回線の太さと各家庭の回線の状況を前提に、なんとかリモートワークが実施できないかを再度検討し直しました。

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株式会社デジタル・フロンティア 専務取締役 豊嶋 勇作さん

パソコンを持たない社員もいながら、決定から導入までわずか1週間!

ゼロクライアント、TeamViewer、HP RGS、Windows10pro標準のリモートデスクトップ、TGX、Parsec……といったさまざまなリモートデスクトップツールを、短期間で検証。その結果、リモートデスクトップのソフトウェアの中でもネットのデータ帯域使用率が低く、またパソコン上で動作するソフトウェアであるTGXを使用することが3月末に決定しました。

そこから4/6までの毎営業日ごとに、10人程度ずつがVPNおよびTGXに接続する検証を行い、接続が安定しているメンバーからそのままリモートワークに切り替え、4/7には完全に移行できました。

実は自宅にパソコンを所有していないスタッフも約30人ほどいたのですが、会社で廃棄する予定だった退役マシンの中身を新しいものに積み替え、持ち帰って使用してもらっています。ほかにも一部の回線がないスタッフに即日使用可能な回線を契約してもらうなど、システム部門はもちろん、制作部門もかかりきりになって急ピッチでその準備に徹しましたね。

会社にいるのとほぼ同じ感覚で作業可能

リモートデスクトップを利用することで、会社のネットワーク内には入らず、あくまでも外部からオフィスのマシンを操作している状態です。そのため、ウイルス感染やデータ漏洩リスクがありません。

そして、あたかもオフィスのマシンを使っているように作業でき、そのCG作業画面の映像を少ないデータ帯域で外部に送ることができるため、作業のインタラクティブさも担保されています。

コミュニケーションツールとしては、もともと使用しているRocketChatというチャットツールがVPN上で使えるので、そちらをメインに、Web会議用のZoomやGoogle Meet が加わった程度です。

急に切り替わったワークスタイルにおいても、作業効率は出社時と比較して全体で8割をキープできており、中には10割を超えているスタッフもいます。オフィスは無人ながらも、個々の作業においては会社にいるのとそれほど変わらない感覚で進められ、スムーズに運んでいると言えると思います。

とはいえ、物理的な問題点はさまざまあります。例えば、デュアルモニタでの作業は、倍の通信負荷がかかってしまうため、現状では使うことが難しいのです。

また、モニタの色の問題はクリアできていますが、モーションのタイミングにはそれぞれの環境でタイムラグが出てしまい、国内であっても時差が生まれてしまっています。配信系など4K解像度の制作をしているスタッフは苦労しているところも多いのが事実ですね。

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実写の人間の顔の動きに合わせてCGを施したデジタルヒューマンイメージ

嬉しい誤算、75%以上の社員が「リモートワークがいい」

このように物理的な問題はもちろんのこと、全社でのリモートワーク導入当初、自宅にこもりきりでの作業が続くことによって生じるストレスについても懸念していました。

ですが、開始からひと月以上が経過して社内アンケートを取ってみると、それが思い過ごしだったとわかりました。75〜80%程度の社員が、「今後もリモートワークがいい」と回答したんです。

考えてみれば、平時からPCに向かって作業をするデザイナーが多い会社なので、もともとリモートワークに向いた業種なんですよね。むしろ、郊外からの長い通勤時間や職場でのストレスから解放されたという回答もありました。

とはいえ、大規模なプロジェクトを請け負うことが多いため、スケジュールやクオリティなどのタスク管理をはじめ、チーム内の指揮命令系統が対面時と同様に行うことができているかはまだ検証しきれていません。

それによるプロジェクトの遅れなどがないよう、リモートワークでのルール作りや慣れが必要不可欠だと考えています。

完全移行も視野に入れ、さらなる検証を

今回の経験は、CG制作を進めるために1カ所に集まって仕事をすることの必要性について考える良いきっかけになったと思います。

先述したようにスタッフにも好評で、私たちのCG制作の仕事にはリモートワークが合っていると感じています。

住む場所に関わらず制作に参加できるようになれば、国内外を問わず、スキルを持ったクリエイターとの新たな出会いにも期待できますしね。今後もリモートワークを併用しながら、完全移行も視野に入れ、検討を進めています。

現在のリモートワーク環境は、あくまで擬似的なもので、最終的には本来目指したゼロクライアントによるリモートワークに移行したいと考えています。そのためには回線強化が前提となり、少し時間を要することにはなると思います。

まだまだ物理的な課題はありますが、回線強化やでデュアルモニタ使用、タイムラグを感じることのない作業環境などの要件が整えば、作業効率が100%以上となる可能性を秘めていると感じます。

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本格的に移行するのであれば、今後のオフィスのあり方について考える必要も出てきます。
現在のオフィスをそのまま保持するのか、一部あるいは全て手放すのか。サテライトオフィスを設けるのはどうか。そういった議論も、すでに社内で始まっています。納期前はやはり集まって作業したほうが良い面もあり、そのためのスペースは必要ですが、これまでのように各自決まった席を設ける必要はないと考え、フリーアドレス制の導入も検討しています。

リモートワークをするスタッフの住環境整備にも着手しなければなりません。すでに、自宅での作業は腰に負担がかかるため、「会社のアーロンチェアを持って帰りたい」という声も出ていたりします。

リモートワークする際のルールや制度の整備も急務です。
特に今回、社員教育の再定義も必要だと感じました。日本のCG業界は、先輩について学ぶというような職人然とした慣習が根強く存在します。弊社にもこの春入社した新卒社員がおりますが、教育の全てをリモートワークで行うことは現状難しく、やむなくメンターとなる先輩社員とともに出社する形で対応している状況です。このような属人的な方法でなく、マニュアル化や伝達方法の確立を急がなくてはならないと思っています。

今回のことに限らず、日本はさまざまな外圧によって変化してきている国です。
「こんな状況だから、この程度でも仕方ない」という時期を過ぎて、リモートワークをするための物理要件が全て整ったときこそ、さらなる検証をし、理想の姿に変わるべきだと思っています。このリモートワークの流れを一時的なものとせず、新旧を織り交ぜて自分たちにフィットする部分は柔軟に取り入れ、変化に負けない強い組織を目指していきたいですね。

<取材協力・写真提供>
株式会社デジタル・フロンティア

取材・文=まいにちdoda編集部
編集=末松早貴+TAPE

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