所定労働時間? 法定労働時間? 「定時」の意味と、これからの働き方

「定時」という言葉、わりと普通に使っているのではないかと思います。しかし、そのニュアンスは人によって微妙に違っていることも。日常的に使われる「定時」は、「定時で帰れる」「定時で終われない」など、就業規則に書かれた「退勤時間」を指していることが多いのではないでしょうか。「定時」という考え方について、意外と知られていないことや、近年の傾向について、人事コンサルタントの小笠原隆夫さんに教えていただきました。

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そもそも「定時」とは何なのか?

「定時」の定義は、基本的に就業規則に書かれているその会社独自の就業時間帯のことをいいます。一般的には8時間の勤務時間に、昼休みなどの休憩時間1時間を含んだ8時から17時や、9時から18時といった時間帯が決められていることが多く、他にも勤務時間数を7時間にした9時から17時や、休憩時間を45分間にした8時45分から17時30分などという会社もあります。

この会社独自の就業時間を別の言い方では「所定労働時間」といい、「所定労働時間」に対して、法律によって決められた最低限守らなければならない労働時間を「法定労働時間」といいます。

「法定労働時間」は、労働基準法第32条に規定されている労働時間の限度のことで、労働者を1日8時間、1週間で40時間以上、働かせてはならないことが定められています。「法定労働時間」よりも長く労働させるためには、会社は労働者と労使協定(36協定)を結んで労働基準監督署に届け出た上で、「法定労働時間」を超えた残業に対して割増の残業代を払わなければなりません。

会社の「定時」、すなわち「所定労働時間」は、必ずこの「法定労働時間」の範囲内で定められているのです。

労働時間に関するさまざまな制度

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会社の「定時」である「所定労働時間」については、その時間の決め方としてさまざまな制度があります。

一般的に用いられている制度をいくつか紹介しましょう。

変形労働時間制

変形労働時間制は、その週や月の繁閑によって、「定時」(所定労働時間)が異なる制度です。通常の定時が8時間労働であったならば、例えば繁忙期は定時が10時間労働、閑散期には6時間労働とするなど、シーズンごとに「定時」が決められています。季節による繁閑差が大きい会社で利用されている制度です。

フレックスタイム制

フレックスタイム制は変形労働時間制の一種で、仕事の開始時間と終了時間を社員が決められる制度です。1カ月間の勤務時間を平均して法定労働時間内に収まっていれば、1日単位や週単位での労働時間の超過は残業に当たらないというものです。基本的な勤務時間を社員の判断に委ねる仕組みで、1日の勤務時間帯の中に「コアタイム」という全員が必ず勤務していなければいけない時間帯を決めて運用することもできます。

みなし労働時間制

みなし労働時間制は、あらかじめ1日の労働時間を会社が決めておき、その時間分だけ働いたとみなす制度です。適用できる職種が決められており、それに該当しない者には適用することができないとされ、適用できる職種や要件が、労働基準法でそれぞれ定められています。

シフト制(交替勤務制)

シフト制では労働時間や出勤日は各自バラバラとなりますが、必ず就業規則や雇用契約書に早番や遅番などの形でそれぞれの労働時間が明示されており、この時間が「定時」の扱いとなります。店舗や工場、医療機関や介護施設など、稼働時間が長い職種でよく用いられる制度です。これらの労働時間に関する制度は、すべて労働基準法の中で法律的に認められたものとなります。逆に言えば、これ以外の制度は法令違反の恐れがある、好ましくないものということは認識しておきましょう。

「定時」に対する感じ方の変化

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昔から、「“定時”なんてあっても意味がない」という言葉を聞くことがありますが、最近はこの言葉のニュアンスが、以前とはやや変わってきている様子があります。

少し前の、長時間労働が当たり前だった時代であれば「“定時”になっても終わらない、帰れない」ということから、終業時間が決まっていることの意味がないという話が多かったと思います。

しかし最近では、裁量労働制などの時間管理をしない働き方や副業の解禁、リモートワークの導入による労働時間把握の難しさ、さらに短時間勤務やみんな一律ではない多様な就業時間の設定など、「定時」を画一的に決めておくことが無意味になっている人たちや、「定時」で縛られることが不便だと感じる人たちも増えてきています。

全員が一斉に「定時」で働くことは「製造業モデル」ともいわれることがあり、その業態としては最も効率的だったことから普及していきました。

しかし、現在の日本の産業構造として、経済産業省が出している「ものづくり白書2019」によれば、日本のGDPに占める製造業の割合は2割ほどであり、その他はサービス業のように交代で休憩したり、1日の繁閑差で人員体制を変えたり、一斉に動くことが逆に非効率になるような業種となっています。

また、クリエイティブワークのように、集中とリラックスといった気分のメリハリが必要な仕事では、「定時」という考え方に意味はありません。業種や職種によって仕事の成果も異なるため、時間で管理される「定時」の考え方では、残業時間にも差が生まれてしまいます

かつては一斉にチャイムが鳴って時間を知らせるような会社が多かったのですが、今は少なくなり、昼食時間や休憩時間は、社員個々の判断で柔軟に取らせている会社が増えています。雇われない形での「副業」などの働き方であれば、まさに「定時」という概念はありません。

このように、「定時」に対する考え方は、すでに大きく変化してきています。

これからの「働く時間」はどうなっていくのか

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では、「定時」という考え方によらない、これからの働く時間の概念はどうなっていくのでしょうか。

ここで一つ言えるのは、「ただ時間を過ごすのではなく、見合った成果を出すことがさらに要求されるようになる」ということです。

会社と働き手である社員との関係は、これからも大きく変化し、さらに多様化していくはずで、労働時間という概念が変化するばかりではなく、フリーランスや業務請負、個別契約など、会社で働いていても雇われていないといった、今までとは異なる働き方をする人が増えていくことが予想されます。

そうなれば当然、報酬の支払い方法も「時間」に対してではなく、「結果」「成果」に対して支払われる方向に徐々に変わっていくでしょう。もちろん、時間と成果が比例する仕事は必ず残りますから、職種によってはこれまでと同様の考え方も必要です。

複数の会社で雇われる人や、短時間勤務のほか、多様なシフト勤務などで「定時」という考え方は残ったとしても、それぞれ個別のものになっていきます。働く時間の裁量が働く人自身に任されるようになっていけば、そもそも「定時」という概念自体が消失していくでしょう。

このように、これからの働き方はこの「定時」に対する捉え方を始めとして、大きく変化していくことが予想されます。

企業は当然この変化に対応していかなければなりませんが、働く側も同じように変化していく必要があります。ただ言われたことをやっているだけ、決められたことだけで時間を過ごしているだけのような働き方では、仕事をする場所自体を失ってしまうかもしれません。自分なりの働き方をよく考えなければならない時代になってきていることを、認識しておく必要であるでしょう。

文=小笠原隆夫
編集=矢澤拓

【プロフィール】
小笠原隆夫
人事コンサルタント。IT企業で開発SE職を務めた後、同社で新卒中途の採用活動、人事制度構築と運用、ほか人事マネージャー職などに従事。二度のM&Aでは責任者として制度や組織統合を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表に。以降、人事コンサルタントとして、組織特性を見据えた人事戦略や人事制度策定、採用支援、CHRO(最高人事責任者)支援など、人事・組織の課題解決に向けたコンサルティングをさまざまな企業に実施。2012年3月より「BIP株式会社」にパートナーとして参画し、2013年3月より同社取締役、2017年2月より同社代表取締役社長。

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