ダブルスタンダードな状況をどう改善するか。上司への状況共有が鍵

部門横断の大きなプロジェクトや様々な視点を必要とする複雑な業務など、複数部署が協力して仕事を進めなければならないことがあります。各部署の上司やプロジェクトマネジャーなど、似たような立場で指示する役割を持った人が2名以上いて、両者が別々のことを言うことを「ダブルスタンダード」と言います。部下の立場としては「言っていることが違う……」となり、対応しづらく不満も募りがち。今回は「ダブルスタンダード」に陥ってしまったときの上司との関わり方を人事コンサルタントの小笠原隆夫さんに教えていただきます。

<上司に関する体験談はこちら>
上司の気分で何度も振り出しに戻ってウンザリ。こんなことにエネルギーを使いたくない!
丸投げ上司はお気楽に「残業ゼロにして」って言うけど、お客さんを見捨てろってこと!?
「男性上司のホンネが聞ける」~明日から変わる、上司への接し方~

「ダブルスタンダード」が起こる三つの理由

「ダブルスタンダード」が起こる最も大きな原因は、意思決定する者同士の意思疎通や情報共有が不足していることです。問題はなぜそれができないのかということです。理由として考えられることは三つあります。

1.「感情」が邪魔をする

まず一つ目は「感情的」な問題です。関係する上司やマネジャー同士の気が合わない、仲が良くない、信頼関係ができていないなど、感情的なわだかまりがある場合です。本来は当人同士が理性的に振る舞えば済むことですが、感情を排するのが難しい関係は存在します。

2.「社内政治」の問題

二つ目は「政治的」な問題です。それぞれの上司やマネジャーがお互いに「プロジェクトの主導権を持ちたい」「業務の決定権が欲しい」とマウンティングをし合っているような状態です。それぞれを競争相手と見ていると、そこに協力態勢が生まれにくいのは当然でしょう。

3. 社内の「体制」の問題

さらに三つ目としては、「体制」の問題があります。どこまで手を出していいのか、自分が決めても良いのかダメなのかが明確でないなど、指示の出し方やチーム運営方法が確立できていない場合です。ピラミッド型組織では、命令系統が一元化したワンボス・モデルが原則とされますが、部門横断プロジェクトのようなマトリックス組織では、ツーボスかそれ以上の多元的な命令系統が必要になります。当人同士で解決できる場合もありますが、前述の感情的、政治的な問題があると、そうはいかないことが往々にして出てきます。

これらの問題を解決しなければ、意思疎通や情報共有の不足から起こる「ダブルスタンダード」の状態から脱するのは難しいでしょう。

 

「ダブルスタンダード」の状態を理解していない上司たち

さまざまな理由で起こる「ダブルスタンダード」ですが、上司だけでの解決が難しいのは、実は本人たちは「ダブルスタンダード」になっていると思っていないケースが非常に多いことがあります。複数の違った指示が部下に出されている状況を、意思疎通がとれない上司たちはよく理解していません。上司個人は自分で把握した状況を基に指示を出していますから、情報や認識に不足があったとしても、周りからの指摘や新たな情報提供がなければ、自らそれに気付くことは難しいでしょう。

まずは現場の部下たちが、統一されていない「ダブルスタンダード」の指示のせいで混乱して困っている状況を、意思決定者である上司たちが理解することが重要です。

 

「状況の共有」を行って意思疎通や情報共有につなげる

こんな「ダブルスタンダード」の状況は、指示決定者である上司やプロジェクトマネジャーたちに第一義的な責任があります。まず当事者たちが状況を理解して、具体的な意思疎通と情報共有を進めなければならないことは明らかです。

しかし、だからといって部下の立場で何もせずに状況を眺めていても、それがいつ改善されるか分かりません。実際の困りごとは自分たちにも降りかかってきますから、仕事をスムーズに進めるためには、何らかの行動をする必要があります。

ここで部下ができることとして、それぞれの上司に意思疎通や情報共有を促すこともありますが、重要なのは全ての関係者が「状況の共有」を行えるようにすることです。今何が起こっているのかという現場の状況を、論評なしの事実として関係者が共有することで、上司やマネジャーたちは、そこでの問題解決のために意思疎通と情報共有を進めなければならなくなります。本筋でないことにこだわって仕事自体が失敗してしまっては、自分たちも大きな痛手を被るからです。

ダブルスタンダードである状況に感情や政治的な思惑が絡んでいたとしても、それが仕事を進める上での不都合となっているならば、上司はまずその解決を優先します。事実としての「状況の共有」をすれば、例えば「自分の指示を優先しろ」などの言動や、上司同士の食い違いは徐々に収束していきます。部下として、まずは様々な方法で「状況の共有」に取り組んでみると良いでしょう。


文=小笠原隆夫
編集=矢澤拓

【プロフィール】
小笠原隆夫
人事コンサルタント。IT企業で開発SE職を務めた後、同社で新卒中途の採用活動、人事制度構築と運用、ほか人事マネジャー職などに従事。二度のM&Aでは責任者として制度や組織統合を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表に。以降、人事コンサルタントとして、組織特性を見据えた人事戦略や人事制度策定、採用支援、CHRO(最高人事責任者)支援など、人事・組織の課題解決に向けたコンサルティングをさまざまな企業に実施。2012年3月より「BIP株式会社」にパートナーとして参画し、2013年3月より同社取締役、2017年2月より同社代表取締役社長。

【関連記事】
指示が多すぎる上司の対応に困っている…"あるある上司"と円滑に仕事を進める方法
「人間関係」の記事一覧

page top