謎のベールに包まれた職業「ボディーガード」 その過酷な業務と驚きの収入とは?

今回お届けするのは、世界中の要人(VIP)やセレブを守るボディーガードです。

謎のベールに包まれた職業「ボディーガード」 その過酷な業務と驚きの収入とは?

キャリアコンパスでは、これまで「サッカー審判員」や「プロYouTuber」、「データサイエンティスト」、「スーツアクター」、「プロの紙芝居師」、「スピーチライター」、「初生ひな鑑別師」など多様な職業を紹介してきましたが、今回お届けするのは、世界中の要人(VIP)やセレブを守るボディーガードです。

ドラマや映画で目にする「ボディーガード」。人の命を守るという仕事のため危険なイメージですが、謎のベールに包まれた部分が多い仕事です。今回は、ボディーガードの仕事内容や、年収、やりがいなどを、IBA JAPAN(国際ボディーガード協会)の副長官とアジア地域統括責任者を務めるかたわら、現在も現役のボディーガードとして警護業務などで活躍する小山内秀友さんに伺います。

ボディーガードは依頼者の「身体」を守るだけじゃない


─小山内さんのボディーガードとして経歴を教えてください。

小山内秀友さん(以下、小山内):海外の著名人(有名歌手や俳優、アスリート等)、企業要人、政府要人、海外の王族メンバー(ロイヤルファミリー)などの警護を行ってきました。警備対象は9割以上海外のVIPです。

─ボディーガードの仕事といえば、銃を持った悪人から依頼主を守る……というイメージがありますが、実際の業務はどのようなものでしょうか?

小山内:一般的には、有名人や要人等の「身体」だけを守るイメージが強いようですが、われわれボディーガードが守るのは、その方の身体・生命はもちろんのこと、ライフスタイル(生活)や、社会的イメージ、財産、情報も併せて守っています。例えば有名人の場合、社会的な知名度だけでなく、社会的なイメージがあるため、そのイメージを守るのも、ボディーガードの役割の一つです。

─「財産を守る」とはどういうことなのでしょうか?

小山内:警備対象者の中には、高価なものを身につけている方もおり、着ている服やアクセサリー類を合わせると数億円になる場合もあります。公の場でファンなどにネックレスや鞄などを取られないように注意したり、歌手の方がステージに立っている際に、控え室や更衣室に不審者が侵入して私物を窃盗されないようガードするのもボディーガードの仕事です。

ボディーガードになるための2つの方法


─ボディーガード(身辺警護・要人警護)になるためには、どのような方法があるのでしょうか?

小山内:大きく二つの方法があります。まず一つは、公的機関での警護業務で、警視庁のSPや皇宮警護官になる方法です。

公的機関でボディーガードになるためには、最初に公務員試験を受け、警察官や皇宮警護官となることが求められます。その後、昇進試験等を受けながら、SPなどの警護業務担当を目指します。

もう一つは、民間での警護業務で、こちらの場合は、警備会社に所属、または自身で警備業を営んで実施する方法と、有名人や要人らから直接雇用されてボディーガードになる方法があります。民間の場合、世界各地で行われている身辺警護・要人警護の訓練機関等で専門教育訓練を受け、必要な資格等を取得し、経験を重ねながら実績を積んでいく必要があります。

決して、格闘家だから、元警察官だから、元軍人だから、といってなれるものではありません。警護業務には、かなり高度な教育と訓練、資格やスキルが必要となります。

─ボディーガードになるためには、訓練機関などで専門教育訓練を受けて必要なスキルを習得する必要があるとのことですが、どのようなスキルが必要なのでしょうか?

小山内:ボディーガードには、最低限6つのスキルが必要だといわれています。

1:Protective Escort

徒歩移動中の警備対象者の安全を確保するために行う、エスコート技術

2:Protective Driving

車両移動中の警備対象者の安全を確保するために行う、特殊運転技術

3:ESD(Electronic Surveillance Devices)& ESD Search

盗聴器や盗撮器、発信機など遠隔で情報を収集しようとする電子機器(ESD)に関する知識と、これらを見つけ、対処する技術

4:IED(Improvised Explosive Devices)& IED Search

犯罪者やテロリストなどが利用する爆発物(IED)の構造や爆薬の種類、起爆装置などに関する知識と、これらを見つけ出す技術

5:Conflict Management

ストーカーによる尾行やパパラッチによる写真撮影など、直接身体に害はないものの、間接的に影響のある脅威から、直接的な身体への攻撃まで、あらゆる脅威に対処する技術。格闘技や銃器訓練などはここに含まれる。

6:EFA(Emergency First Aid)

ボディーガードが行う救急法。持病を持っている警備対象者の緊急時の対応や、警備中に発生する急な病気、襲撃等によるけがなどへの対処と緊急搬送などの技術。

─かなりたくさんの知識やスキルが必要そうですが、上記のスキルを習得するにはどれくらいの費用がかかるのでしょうか?

小山内:その方がもともと持っているスキルやキャリア(経験)、教育を受ける訓練機関等によってさまざまですが、海外の民間ボディーガードは、ボディーガードになるために、おおよそ200~300万円ほどかける人が多いようです。ちゃんとしたボディーガードになるためには、必要な知識や技術を習得するために、相当な時間・労力・お金がかかるのです。また、ボディーガードになっても、実績がないとなかなか仕事のオファーがなく、プロのボディーガードとして認められ、活躍できるようになるまでは、相当な忍耐が求められます。

過酷なボディーガードの業務とは


─小山内さんがボディーガードの業務で大変だと思うことは何なのでしょうか?

小山内:一般的には、VIPのそばで警護にあたる、格好の良いイメージを持たれることの多いこの職業ですが、実際の警護業務は、地味でとても気を使う仕事です。依頼者であるクライアントや警備対象者の都合ですべてが動きますので、警護にあたるボディーガードは、勤務時間や休憩・休暇など、自分の都合で決めることはできません。トイレに行きたくても自分の都合では行けず、食事なども食べられるときに食べ、食べられないときはあきらめる。警備対象者が寝たあとに翌日の警備準備を始め、夜間は緊急で呼ばれることもあるため、寝ていても常にスタンバイしておくなど、毎日過酷な勤務が続きます。決して、憧れだけでできる仕事ではありません。

─襲撃者からクライアントを守るといった危険な業務も多いのでしょうか?

小山内:機密保持の関係上、警護中に何が起きた、といったお話しは紹介することができません。ひとつ言えることは、警護の実務よりも訓練のほうがはるかに厳しく、危険を伴っていました。危険を伴う厳しい訓練を経験しているからこそ、実務では、身体的にも精神的にも余裕をもって警護にあたることができます。

給料は、月収600万も可能!?


─そんな、言葉を失うほどの過酷な訓練期間と業務をこなすボディーガードですが、お給料はどのくらいなのでしょうか?

小山内:所属する組織や勤務地(国や地域)、勤務状況などによって大きく異なるのですが、一般的な警備会社の警備員と同じ給与くらいのケースもありますし、一般的なサラリーマンの年収を1カ月で稼ぐ人などもいます。海外の話ですが、月に600万円もの報酬をもらっているボディーガードがいると報道されたこともあります。これは、軍隊の特殊部隊出身者で、かなり裕福な著名人に直接雇用されていたということが大きな理由のひとつだと思われますが、ここまでの報酬を得ることのできるボディーガードは、世界的に見てもまれです。

ちなみに、私が所属しているIBA(国際ボディーガード協会)に警護を依頼すると、ボディーガード1名を雇うためにかかる費用は、国や地域、危険度によっても異なりますが、平均1日約700USD(約78,000円)が相場です。

また日本国内においては、ボディーガードという特殊な仕事だからといって、特別な保険はなく、一般的な損害保険・傷害保険に加入するだけとなります(海外ではボディーガード用の損害保険・傷害保険がある国もある)。

やりがいはお金や名声ではない


─最後に、ボディーガードという仕事のやりがいを教えてください。

小山内:ボディーガードの業務は、身体的にも精神的も疲労困ぱいする仕事です。かなりの精神力と人間力が求められますが、普通ではできない仕事をしているという自負と、クライアントや警備対象者から「ありがとう」と言われるときが、唯一やりがいを感じます。

まとめ


時に命の危険を冒してまで人を守り抜くスペシャリスト、ボディーガード。しかし、小山内さんは自身の仕事に誇りを持ち、依頼者からの感謝の言葉が何よりの喜びだと語ります。仕事の価値観を考えさせられる一言でしたが、あなたはどう思いましたか?


仕事の概要

■職業名:ボディーガード

■仕事内容:世界の有名人・要人の警護

■求められる要素:人間性、社会性、段取力、コミュニケ―ション力、協調性 他

■こんな人に向いている:誰とでも仲良くできる人、リーダーシップのある人、好奇心のある人、協調性のある人、段取力のある人 他

 

識者プロフィール


小山内秀友(おさない・ひでと) IBA(国際ボディーガード協会)副長官兼アジア地域統括責任者、日本支部代表。AISP(国際セキュリティプロフェッショナル協会)副会長兼日本代表。有名歌手や俳優、アスリート、企業要人、政府要人、海外の王族メンバー(ロイヤルファミリー)などの警護経験を持ち、現在も現役のボディーガードとして、警護業務などで活躍。

※この記事は2016/05/09にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

page top