江戸時代の歌舞伎はAKBだった!? 初心者必見、プロに聞く「歌舞伎の楽しみ方」

日本が誇る伝統芸能、歌舞伎。最近では「ONE PIECE」や「NARUTO」など、人気漫画作品との異色のコラボが話題となり、若い世代からも多くの注目を集めています。

江戸時代の歌舞伎はAKBだった!? 初心者必見、プロに聞く「歌舞伎の楽しみ方」

日本が誇る伝統芸能、歌舞伎。最近では「ONE PIECE」や「NARUTO」など、人気漫画作品との異色のコラボが話題となり、若い世代からも多くの注目を集めています。

しかし、「興味はあるけど楽しみ方が分からない」「歌舞伎って敷居が高そう」、鑑賞したことがない人には、そんな不安も大きいのでは?

今回は歌舞伎初心者のために、歌舞伎を含む演劇を6,000本以上見てきた演劇評論家の中村義裕さんから、歌舞伎の楽しみ方やマナーを教えていただきました。

歌舞伎は江戸時代のAKB48だった!?


歌舞伎の始まりは、今から400年ほど前。戦国時代が終わり、江戸時代に差し掛かろうとしているころ、鴨川が流れる京都の四条河原近くで「出雲阿国(いずものおくに)」という女性を中心としたグループが「歌舞伎踊り」を創始したことが起源だと言われています。

「さまざまな資料から推測すると、屋外で庶民を対象にしていたことや、当時としてはポップな踊りを披露していたことが分かります。そのため、現代に例えるとAKB48のようなアイドルグループに近いものだったのではないかと考えられているのです。

また、現在の歌舞伎は男性が女性の役も演じていますが、明治までは女性が演じる『女歌舞伎』も存在していました」(中村さん、以下同じ)

歌舞伎は女性から始まり、しかもAKB48のようなアイドルグループのイメージに近かった……今では想像がつきませんね。

歌舞伎の魅力は「贅沢な」ライブ


現在までに歌舞伎を含む6,000本以上の演劇を見てきた中村さん。歌舞伎の魅力とは何でしょうか?

「歌舞伎は日本の伝統芸能の中で最も贅沢な時間を楽しめる文化なのかもしれません。というのも、6、7歳から稽古をしている役者さんが、長い時間をかけて鍛錬された演技、絢爛たる衣装、豪華な大道具、生演奏といった総合芸術をライブ感覚で楽しめる。

ライブであるがゆえに、二度と同じ舞台を見ることができないのも醍醐味だと思います」

歌舞伎の語源は「傾く(かぶく)」から来ており、その意味は「突飛な行動」「異様な風体」とされています。今では日本の伝統芸能となりましたが、400年前に始まったころは、まさに時代の最先端。そして今、歌舞伎にも新しい風が吹いていると言います。

「伝統というのは、時代と共に形を変えていく宿命にあると思うんです。最近は歌舞伎もアイススケートと共演したり、漫画とコラボレーションしたり、新しい試みをしている過渡期。逆に言えば、どんなものも歌舞伎の素材になる、フレキシブルな芸能なんだよ、ということが魅力なのではないでしょうか」

なじみ深い漫画作品とのコラボレーションなら、初心者の方も気軽に楽しむことができそう。また華やかな舞台芸術を見ることを入り口にするのもおすすめ、と中村さん。

「まずは難しいことを考えず、歌舞伎の豪華な大道具、衣装のきらびやかさ、全て生の音で演奏される効果音や三味線の演奏に触れて『かっこいい』『きれい』など、純粋にいろんなことを感じてみましょう」

ともかく目や耳で楽しみ、興味を持ったことは、後から調べていけば良いわけですね。舞台の進行に合わせてあらすじや歌舞伎の約束事などを紹介してくれる音声ガイドの貸し出しもあるので、そちらを利用するのもいいでしょう。

押さえておきたい! 「歌舞伎の基礎知識」


まずは、開演場所や席の料金、チケットの予約方法など、基本的な情報についてご紹介します。

【鑑賞ができる主な場所】
<東京>

・歌舞伎座

・国立劇場

・新橋演舞場



<京都>
・京都四条南座

<大阪>

・大阪松竹座

・新歌舞伎座



<福岡>

・博多座



「国立劇場と新橋演舞場は不定期開催なので、最初は定期開催の歌舞伎座に行けば間違いないでしょう」

【上演時間】※基本的なものです。

昼の部
11時~15時30分頃

夜の部
16時30分~21時頃

★約30分、他に数回の幕間(まくあい。休憩のこと)あり

「昼の部、夜の部、それぞれ3~4本、別々の演目が並びます。1~3日が初日となり、25日間の興行ですので25~28日に千秋楽を迎えます。毎月、演目が変わるため、内容や顔ぶれの違いを楽しめます」

【チケット料金】※基本的なものです。
・1等席=18,000円
1階と2階の前側の席

・2等席=14,000円
1階と2階の後方

・3階A席=6,000円
3階の前側

・3階B席=4,000円
3階の後方

・1階桟敷席=20,000円
1階の両脇にある掘りごたつのボックス席。

「初めての方は、料金も安く舞台全体を俯瞰して見ることができる3階席がおすすめです。チケットは『チケットWeb松竹』などのウェブサイトから購入できます」

また、歌舞伎座では好きな演目だけを選んで見ることができる一幕見という方法も。4階席なので舞台からは遠めですが、1,000円前後の値段で気軽に見ることができます。こちらのチケットは歌舞伎座正面の「一幕見席チケット売り場」で購入が可能です。

歌舞伎のマナーは映画と一緒。肩肘張らなくてOK!


次に、歌舞伎を見る上でのマナーやルールについても聞いてみました。

「携帯電話の電源は切る、私語は慎む、撮影や録音はしない、子どもが泣いたり声を出し始めたりしたらロビーに出る、など映画館とほぼ同じです。

今でこそ敷居が高いイメージがあるかもしれませんが、江戸時代の歌舞伎は座席でお酒を飲み、タバコを吸い、ご飯を食べながら鑑賞するものでした。現在は会場でタバコを吸うことは厳禁ですが、3階席では缶ビールを召し上がってご覧になっている方もいますし、休憩中であればお弁当を買いに行ったり、持ち込んだ食事を座席で食べたりしても大丈夫。

休憩が入るとはいえ、2部制だとトータル4時間30分にもなります。ついつい眠くなってしまった場合は、三味線の音に身を委ねて寝ちゃってください。誰も文句は言いませんから。ただし、イビキには注意してくださいね(笑)」

映画館に映画を見に行くように、歌舞伎も気軽に行けるものなんですね。

演目は役者で選ぶのもアリ


ルールやマナーは理解できたけど、どの演目を選べばいいか分からない……。そんな時はどのように選択すれば良いのでしょうか?

「まずは、役者で選んでみてはいかがでしょうか。松本幸四郎さん、市川海老蔵さん、尾上松也さんなど、最近では歌舞伎役者さんもバラエティー番組などに出演していますよね。彼らが、本業の歌舞伎の舞台ではどんな姿を見せるのだろう、という興味を入り口にすることも一つの方法だと思います」

知っている歌舞伎役者さん目当てであれば演目を選びやすくなりそうですね。ここで、中村さんが今注目している役者さんを伺ってみました。ちなみに、人によっては男性の役である「立役」(たちやく)と、女性を演じる「女形」の両方を演じる役者さんもいます。役は演目によって変わりますので、通ううちに、いろいろな魅力が発見できるかもしれません。

・松本幸四郎さん
「現在、前に名乗っていた『市川染五郎』から十代目・松本幸四郎を襲名披露中です。二枚目で科白(せりふ)の発声が巧く、踊りも上手。有名な『勧進帳』の弁慶から、女形の舞踊では非常に難しいとされている『鏡獅子』まで、演じる役の幅が広い役者さんです」

・市川猿之助さん
「漫画『ONE PIECE』を歌舞伎に取り入れた役者さんです。

幸四郎さんは古典を分かりやすく楽しんでもらうことを考え、猿之助さんは新作をどうしたら楽しんでもらえるかということに力点を置いています。対照的な面もありますが、二人で新作を共演することも。どちらも歌舞伎の改革に力を入れているんです」

・尾上菊之助
「立役と女形のどちらも演じます。そのため、いろんな役者と共演できるので、これから充実していく役者の一人だと思います」

・中村壱太郎
「まだ20代の若手です。熱心に女形の役柄の幅をどんどん広げています。お兄さん格の立ち役たちに鍛えてもらっている最中で、将来も有望です」

歌舞伎という「教養」を身につける


中村さんはビジネスパーソンにこそ、歌舞伎を見てほしいと話しています。

「世の中の一流と呼ばれる人たちは、ビジネスだけではなく教養も深い人が多いのです。皆さん、ビジネスパーソンとしてスキルが高いことはもちろんですが、同時に、多くのジャンルに関する教養の深さとのバランスが非常に美しい。仕事の成績や効率を上げるだけではなく、彼らは豊かな知見や見識を持っています。それらがバランス良く活動することで、一人の優秀なビジネスパーソンを作り上げるのではないでしょうか。

そうした点でも、歌舞伎からは学びや気づきが多くあると思います。ですので、ぜひとも過去の事実を研究し、そこから新たな知識や見解を築く『温故知新』の視点で見てほしいですね。今、新しいと思っていたことが江戸時代にはすでにあるものだったとか、同じことを考えている人がいたとか、演目を鑑賞していると思わぬ発見があります。そんな「気づき」を楽しみながら、知見や感性を磨いていってほしいですね」

進化を続ける日本の伝統芸能、歌舞伎。その長年の軌跡や進化する演目から、私たちが学べることは数多くあるのかもしれません。

識者プロフィール


中村義裕(なかむら・よしひろ)演劇評論家。日本演劇学会会員、国際演劇学会会員。 少年の頃より芝居が好きで、現在までに6,000本を超える芝居を見て、その劇評や記録を残しているほか、多くの俳優との対談や芸談の聞き書き、演出、講演など、演劇全般の裾野を広げる活動を行っている。ウエブサイト「演劇批評」にて批評を中心に情報発信中。

(取材・文:ケンジパーマ/編集:東京通信社)
※この記事は2018/04/25にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

page top