可能性はゼロじゃない。あなたも楽しく・オシャレな「ボウサイ」に取り組んでみない?

2011年に起きた東日本大震災に、2016年の熊本地震。大地震だけでなく、台風や津波、火山噴火に豪雪など、世界から見ても日本は天災が非常に多い国です。

可能性はゼロじゃない。あなたも楽しく・オシャレな「ボウサイ」に取り組んでみない?

2011年に起きた東日本大震災に、2016年の熊本地震。大地震だけでなく、台風や津波、火山噴火に豪雪など、世界から見ても日本は天災が非常に多い国です。

いつ、何が起きるか分からないといったような天災に備えるべく、私たち日本人は学生時代から会社に勤める今に至っても、毎年のように防災訓練に参加し、心がまえをするよう教えられてきました。

しかし、防災が大事なことだと頭では理解しているものの、今すぐに困るわけではないからと、準備をしていない人も多いのではないでしょうか。今は目の前のことではなくとも、可能性はゼロではありません。そこで、そんな防災への意識を高めて知識を備えておくことが当たり前になるように、イベントやWEBを通して防災を身近で楽しいものにしようとしているのが株式会社R-pro代表の岡本ナオトさんです。

岡本さんは、名古屋市から「若者へ防災を広める」事業を委託され、「参加したくなる避難訓練」などの企画開発をしてきました。若者の防災訓練参加の機会を創出し続けている岡本さんから、地域防災に関わってあらためて大切だと感じたこと、そして今日からでも始められる防災知識について教えていただきました。

東日本大震災がきっかけで生まれた「ボウサイ」


もともと岡本さんはどのような経緯で防災への意識を強めたのでしょう。

「2011年、東日本で起きた大地震の支援のために現地へ足を運んだことが、防災に対して意識を強くするきっかけになりました。

震災直後から3~4年間、宮城県亘理郡にある山元町で支援に参加したのですが、そこにあったのは、津波で流された車が駅のホームに乗り上げていたり、車の上に倒壊した家が重なっているなど、通常では考えられないような光景。それを目の当たりにしましたし、被災された方々の悲痛な声もたくさん聞きました。

津波で船が流されて漁に出られない。海水をかぶってしまった土地では農作物が育たない。このような状況では、漁業・農業の方が仕事をすることができません。そのため、当時は防災ではなく「現地に仕事をつくろう」と奔走していました。環境を少しでも変えるには、仕事が必要なのではとその時は思っていたんです」


宮城県でのボランティアであらためて防災の大切さを痛感した

では、「ボウサイ」の事業を始めようと思ったきっかけは…?

「助成金の申請などがうまくいかず、現地に仕事をつくる計画が頓挫してしまって。そんな時、災害の現場を見聞きした際に必ず出る『防災』というキーワードが頭をよぎったのです。

現地で『あの時、高台に逃げていれば』『無理をして助けに行かなければ』などという声を聞き、防災の知識や災害への対策方法が事前に知られていたら、被害を最小限にできたかもしれないと強く感じました。

一番大きかったのは被災されたばかりの方に『私たちもそうだけど、あなたも自分が住んでいる町のことを考えなさい』と発破をかけられたこと。被災されたばかりの方の言葉だからこそ、強い説得力がありました。そこで、この経験を活かして将来起こりうる災害から身を守れるようにしよう、と『防災』に取り組むことにしたんです」

「デザイン」と「マチヅクリ」の事業を柱に2009年に設立した株式会社R-pro。このボランティアを経験した後の2013年、岡本さんは三本めの柱となる「ボウサイ」の事業を開始します。

「ボウサイに関しては『yamory(ヤモリ)』というブランド名で展開しています。ヤモリは昔から家を守る、つまり家守と言われてきました。そのエピソードを拝借し、この名前をつけたんです」

「ボウサイ」では、子どもや20~30代の若者に向けて、「かっこいい」「楽しい」「オシャレ」をキーワードに事業を展開。非常食の定期宅配サービス、毎日持ち歩いてもらえるようにアクセサリー化した防災グッズの販売、避難所体験プログラム、学校の授業で使える防災教材の販売などを独自の視点でデザインし、若い世代から好評を得ています。

目の前にあったボウサイへの課題


岡本さんが名古屋を拠点に地域防災に関わりはじめてから、あらためて大切だと気づいたこと、また、直面した課題はなんだったのでしょうか。

「まず前提として、ボウサイを『本当は誰もやりたくない』ということがあります。誰でも、自分が生きている間は災害に遭わないはずだと思いたいですしね。

特にyamoryがターゲットとしている20代~30代の若い世代は、『自分は大丈夫だから関係ない』と思っている方が多いのか、防災に対して積極的に取り組む姿勢があまり見られないように思います。

また、学校や町内会・自治会では防災訓練が盛んに行われていますが、毎年同じことを繰り返すだけで、参加メンバーもいつも変わらない。訓練というよりは恒例行事のようになってしまっているので、防災訓練として機能しているのかどうか分からないことも大きな課題の一つといえるでしょう」

とはいえ、日本国内では震度3以上の地震がほぼ数日おきに発生しています。果たして、これが自分には関係ないことだと言いきれるでしょうか…?

防災を“リブランディング”する


「防災のイメージを変える」という大きな課題。「ボウサイ」のイベントやサービスに参加した若者の意識はどのように変わったのでしょうか?

「イメージを変える=リブランディングすることを強く意識して、防災に取り組み始めました。どうしたら若い世代が興味を持ってくれるのか。

そこで、まず目に付いたのは『防災』という表記。いかにも堅苦しいイメージがあるし、防災と聞いても何を指しているのかいまいちピンとこない、そんな意見も挙がっていました。そこで、まずは『防災』をカタカナ表記に変え、見た目や気軽さを演出しました。yamoryがつくっていくコンテンツがこのカタカタ表記のボウサイであることが広がれば、さらに分かりやすさも向上すると考えたんです」


SAKAE CAMPは防災の概念を変えた

「SAKAE CAMP」は、普段着のまま町中の公園に集まり、テントでキャンプをしながらリアルな避難所体験をします。防災とか訓練って聞くと敷居が高く参加しづらいイメージですが、「栄でキャンプをしよう」と言って呼びかけ、ネーミングやデザインにも工夫を凝らし、誰もが気軽に参加できるようにしました。

日中は歩いて町中の危険箇所をチェックしたり仮設トイレの組み立て方などの講習を受けたりして、夜はレトルトの非常食を食べた後、テント内の寝袋で就寝。

「反応は上々で、yamoryの提供するイベントやサービスには若い世代が集まり、今まで防災業界で取り込むことができなかった層に認知させることができました。

『体験してみて初めて分かった』『子どものころ、教わったのに忘れていたことを学べて良かった』という感想も多く、さらには『子どもを助けるのは自分しかいない。だから自分自身の防災も大事だと思った』と、誰かのために防災をする意識が芽生える方も多くいらっしゃいますね」

このように参加したくなるイベントやプロジェクトを生み出し、参加者が楽しみながらも意識を高め、学ぶ機会を持つ接点を創出している岡本さん。これなら、面倒臭い、関係ない、と思っていた「ボウサイ」への入口がもっと近くになりそうです。

今すぐ知りたい防災対策と防災知識


ここからは、20代のビジネスパーソンが今からでもやっておきたい、ボウサイ対策について岡本さんに伺います。

「20代のビジネスパーソンの場合、平日は家にいる時間より会社など外にいる時間のほうが長いという方も多いはず。ですので、家と会社、通勤路で被災した時のイメージは、今からでもシミュレーションしておいていいでしょう。

平日は仕事で利用する鞄に、少しでも食べ物や水を入れておくこと。災害時にヒールでの移動は危険なので、女性で就業中にヒールを履いて仕事をしている人は、折りたためるペタンコ靴を鞄の中や会社に常備しておくといいですね。菓子類やレトルト、缶詰など日持ちする食品やトイレットペーパーなどの生活必需品は、日ごろから少し多めに購入して日常備蓄しておくのもいざというときにオススメです。

今の時代はスマートフォンを持っている方も多いので、ボウサイアプリを一つでも入れておき、携帯式の充電器や充電用の乾電池も常備しておきましょう」

アプリは、あらかじめ設定した地点の予想震度、予想到達時間をプッシュ通知で知らせてくれる「ゆれくるコール」や、あらゆる災害の情報をプッシュ通知で送ってくれる「Yahoo!防災速報」などの全国で使えるものを入れつつ、自分が住んでいる地域に特化したアプリもチェックしておくと良いそう。

当たり前のことを当たり前だと知っていながら「やらない・できない」ことが防災への大きな課題でもある、と岡本さん。ごくシンプルなことであっても、それを「やること」が防災への第一歩です!

まずは、あなたの「大切な人」を思ってみる


岡本さんが今後「ボウサイ」を通して伝えたいことはなんでしょうか。

「20代~30代の若者の防災知識や心構えを強めつつも、子どもたちへの防災教育にも力を入れています。日本赤十字社と協力して開発した「いえまですごろく」は、学校の防災教材として全国で使っていただいています。子どもが防災について学校で学び、家に帰ってお父さんやお母さんに話す。そこで防災への重要性をあらためて認識したご両親が、一緒になって防災に取り組む。このような仕組みができれば、一気に防災が広がると思うんです。

AIを活用した防災サービスの開発や、そういった事例を紹介するWEBメディアも展開しており、これが形になれば日本の防災のノウハウを海外にも輸出したいと考えています」

最後に、「分かっているけど、まだ何の準備もできていない」という20代のキャリアコンパス読者のために、岡本さんから一言。

「災害はいつ来るものか分からないし、今から防災だ!と言ってもピンと来なかったりするもの。かといって過度に心配しすぎてビクビクしながら過ごすのでは人生を思い切り楽しむことができませんよね。

『面倒臭い』と思ってしまう人は、自分を主に考えるのではなく家族や友人、恋人など自分以外の『大切な人のための防災』を考えることで、防災がグッと自分事化されると思いますよ」

30年以内に70パーセントの確率で発生すると予測されている首都直下型大地震。あなたの、そして大切な人の「防災」は大丈夫ですか?
(取材・文:ケンジパーマ)

識者プロフィール


岡本ナオト(おかもと・なおと)
株式会社R-pro代表
1977年生まれ・神奈川県出身。高校までプロ野球選手を目指すが挫折。部室の片隅に書いてあった落書き、「人生のレギュラーになれ」が今でも座右の銘。株式会社R-proでは代表として、デザイン・ボウサイ・マチヅクリを生業とし、社会・地域が繋がるデザインをプロデュースしている。
2015年に赤十字社と小中学校の防災教材となるすごろくを開発。
2016年には名古屋ダイヤモンドドルフィンズのロゴを担当。2017年にはクラウドファンディングCAMPFIREと提携し、名古屋のエリアパートナーを務める。
株式会社R-pro http://rpro4dp.com/

※この記事は2017/09/21にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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