言い回しひとつで好印象に!柔らかいテキストコミュニケーションのすすめ

メールやチャットといったテキストコミュニケーションは毎日使うもの。しかし、「簡潔に伝えることを優先したら冷たい印象になってしまう」「丁寧さを重視したら長文になってしまった」など、テキストの温度感に悩む人は多いのではないでしょうか。そこで今回は、ビジネスメール教育の専門家である平野友朗さんに、分かりやすく、かつ好印象を与えられるテキストコミュニケーションのコツを教えていただきました。

メールやチャットの温度感、難しくないですか?

メールの送信内容で悩むビジネスパーソン

仕事を進めるうえで欠かせないメールやチャット。必要な情報のやりとりが目的ではありながら、相手とコミュニケーションを取る以上、やはり気になるのがテキストの温度感です。

「相手に冷たい印象を与えないように……」といった気遣いは、実際のところどの程度意識するべきなのでしょうか。

「私たち(一般社団法人日本ビジネスメール協会)の調査で分かっているのは、メールにおける “不快感”というのは、『情報が足りていない』『聞いたことに答えてくれていない』など、欲しい情報を得られなかったときに感じることが最も多いということです。

つまり、いくら気遣いや丁寧さを感じさせる文面を送っても、パッと見て読みにくい印象を与えてしまったり、そもそも情報が不足していたりするとあまり意味がないのです。テキストの温度感を意識するのは、そこをクリアできてからです。

必要な情報を分かりやすく伝えられているけれど、文面が堅苦しくなってしまうのを和らげたい、もう少し温かみのある伝え方をしたい、といった課題感を持っている人が意識すると良い、プラスアルファの要素と捉えてもらえればと思います」(平野さん・以下同)

冷たい印象を払拭!語気を柔らかくするテクニック

好印象でメールを作成している様子

以上を大前提としたうえで、まずは「用件しか書かず、堅苦しさを感じさせてしまうメール」を改善し、温かみを与えるテクニックを2つご紹介します。

漢字を多用せず、ひらがなを使う

「パッと見た瞬間に漢字が多いと、冷たく堅い雰囲気が伝わってしまうもの。漢字をひらがなにするだけで、柔らかい印象になります。

例えば、『宜しくお願い致します』は、『よろしくお願いいたします』に。ずいぶん、印象が変わりますよね。

また、『〇〇していただければ幸甚です』というような難しい言葉も、私は使わないようにしています。『幸甚です』ではなく『幸いです』で十分です。

ただ、漢字が堅いからといって、ひらがなを多用するのはおすすめしません。『○○していただければさいわいです』だと読みにくいですよね。

カタカナの使用にも注意が必要です。例えば『ジョインしていただけますか』といった言い方は、普段使わない人にとっては「どういう意味だろう」と悩ませるかもしれません。

もちろん業界の慣習や会社の文化で「ジョイン」という言葉を使うことが多いなら違和感なく伝わります。しかし相手が、どう理解するか、受け取るか、感じるかが分からないときは『参加していただけますか』のほうが適しています」

バランスよく改行を入れる

「テキストの行間が詰まっていても、メールの印象は堅苦しくなります。適度に空白行を入れましょう。ただ入れ過ぎると、ブログやポエムのようになってしまうので、全体のバランスをとることが必要です。

改行は、文節や句読点のタイミングで入れるのが良いでしょう。長いテキストを折り返して、段落の終わりまで改行しないと、読み物のようになってしまいます。

新聞社のメルマガなどであればそのほうが良いのですが、業務で送るメールでは格式張った印象を与えてしまいます。単語が2行に分かれてしまうこともあるので、読みやすさの観点からも好ましいとは言えません」

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丁寧さを保ちつつ、文章をすっきりさせるコツ

余計な文言を削除するイメージ

続いて、「丁寧さを意識するあまり、長文になって読みづらい」という本末転倒なメールを送ってしまう人に向けて、テキストをすっきりさせるコツを教えていただきました。

クッション言葉は必要最小限に

「丁寧であればあるほど良いと思い込んでいる人が多いのか、クッション言葉だらけのメールをよく見かけます。

クッション言葉とは、本題に入る前に述べる言葉で、『恐れ入りますが』『お手数をおかけいたしますが』などが代表的です。相手への気遣いを伝える言葉ですが、使いすぎるとくどくなり、肝心の本題が伝わりにくくなってしまいます。

また、尊敬語や謙譲語に関しても同様です。相手に礼儀正しさを示したり、丁寧な気持ちを表したりする効果がありますが、過剰に使うと逆効果です。

例えば、『存じます』ではなく『思います』という言い方のほうが、むしろすっきりと相手に伝わるのではないでしょうか。必要な情報を分かりやすく伝えられていれば、この言い方で気を悪くする人は少ないでしょう」

「させていただく」を連発しない

「最近、話題にのぼることが増えましたが、『させていただく』という言い方にも気をつけましょう。

『させていただく』は『させてもらう』より丁寧な言い回しです。謙譲語で、本来、相手に許可を得て行い、そのことで自分が恩恵を受ける場合に使う表現です。ですが、現在はそうした意味とは関係なく、丁寧さを装う言い回しとして多用されています。

1通のメールに『させていただく』が何度も出てくると、ストレートに情報が頭に入ってこないので読むのが大変です。読み手にストレスを与えてしまうことにもなります。

例えば『連絡する』の場合、相手から許可を得て連絡するのであれば、『連絡させていただきます』が正しいですが、自分から一方的に連絡する場合は『連絡いたします』で良いのです」

季節や時候の挨拶などテンプレ表現は省略

「『季節の変わり目ですが~』『最近、寒くなってきましたね』などの季節や時候の挨拶も、場合によってはスペースや時間の無駄遣いになります。

コミュニケーションを円滑にするためとか、形式的に書かなければいけないという思い込みから書いているのであれば、省略したほうがすっきりします。

『この人はなぜこの文言を入れたのだろう?』と、相手に余計なことを考えさせてしまうことにもなりかねません。

心からの言葉であれば意味がありますが、普段口にしないようなテンプレ表現を使っても好印象にはつながりませんし、かえって心理的な距離を生み出してしまうかもしれません」

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メールやチャットのよくあるお悩みに専門家が答えます!

専門家が回答する様子

ここからは、業務上のメールやチャットで、「送っても大丈夫だろうか?」と不安になりやすい2つのお悩みに答えていただきました。これを意識することで、相手の感情を損ねず、コミュニケーションがスムーズになるかもしれません。

お悩み1:上司への長文の相談や業務連絡、チャットで送っても良い?

「どんなツールを使うかにもよりますが、基本的にチャットというのは、対面での会話をデジタル化したものに近く、長文のやりとりには向きません。

それでもチャットを使いたいのであれば、どうしたら相手が1秒でも早く読み終わり理解できるかを意識しましょう。

一気にすべてを伝えるのではなく、情報をふるいにかけて伝える。話が分岐していく場合は、その分岐の手前でいったん切って、相手の答えに応じて次に伝える情報を再度選択する。

そうした短いやりとりを繰り返したほうが、トータルで見たときに相手から奪う時間が少なくすむことが多いです」

お悩み2:同僚や後輩に言いづらい指摘をするとき、角が立たない伝え方は?

「ひとつの方法としては前置きを入れることでしょうか。

例えば、『私もできていないので言いづらいのですが』といった一言をつけると、相手の心象は変わるはずです。少なくとも、『自分のことは棚に上げて!』といった不満は生まれないでしょう。

そうした言い方を考える際は、『角が立たない』言い方ではなく、『角が立つ』言い方をまず考えてみるんです。

攻撃的、冷たい、過剰に丁寧、馴れ馴れしい……など、10パターンくらいを頭の中で想定できるようになると、この表現は使わないようにしようといったリスク管理ができるようになります。

パターン出しが難しければ、最初のうちは生成AIを活用するなどして言い方のパターンを洗い出してみるのもひとつの手です」

返信のタイミングや頻度……文面以外で気をつけたいポイント

返信のタイミングを図る様子

返信のタイミングや頻度なども、テキストコミュニケーションにおいて相手との関係性を左右する要素と言えるでしょう。平野さんの肌感覚をもとに、文面以外に留意したいポイントも教えていただきました。

即時の返信は、場合によっては迷惑になることも

「メールの返信は、24時間以内が基本です。なるべく早く返信することで、相手はその先の見通しを立てやすくなります。

依頼メールをしてもなかなか返信が来なければ、別の人に依頼することを考えなければならないし、そもそもメールを見てくれているのか不安になり、ストレスが生まれてしまいます。

一方で、あまりに早すぎる返信は、相手から考える時間を奪い、判断を急がせてしまうというマイナス面もあります。すぐに断りのメールを返すのも印象はよくありません。

急ぎの用件やテンポの良いやりとりが求められている場合でなければ、あえて1時間くらい間をあけるのもひとつの配慮といえるでしょう」

やりとりを終わらせるタイミングは?

「もうひとつ難しいのが、メールを終わらせるタイミングではないでしょうか。私は基本的に自分が送って終わらせるようにしていたのですが、最近はそういう人が増えている印象があります。

なので、返信しなくても支障がない状態になったら、気づいたほうがスマートに切り上げることも大切です。その目安としては、一往復半を提案しています。依頼メールを受信したケースを想定して考えてみましょう。

取引先から見積書の発行を依頼される(受信)
見積書を送付する(送信)
取引先から拝受とお礼の連絡が届く(受信)

ここで返信せずに切り上げるのが一往復半のやりとりです。拝受の旨やお礼の言葉は、「このやりとりは終わり」という合図と捉えて差し支えないでしょう」

メールを送る時間帯にも気をつけよう

「例えば、夜の8時くらいに『今日中に確認してください』と送るのは失礼ですよね。夜中や休日に対応を求めるのは、健全な関係性とは言えません。私はメールを送るのが遅い時間になってしまった時は、翌日の朝に予約送信するようにしています」

これができると上級者。相手の心に届くのはテンプレートとは対極の言葉

相手の心に届くメールを作成している様子

「相手の仕事に関心を寄せて発せられた言葉は、その人の心にまっすぐ届きます。

『今回は、〇〇さんの仕事の進め方が円滑でとても助かりました』といった言葉には、その人の体温や人柄が感じられますよね。なぜならそれは、テンプレートとは対極に位置する言葉だからです。

私の実体験で言うと、例えば相手が本を出している人であれば、『先日、著書を読みました』とひと言伝えると喜んでいただけることが多いです。ただし、これも距離感を間違えると大変です。

相手のことをリサーチしすぎて『なんでそんなことまで知っているんだ』と、くれぐれも気味悪がられないように。今はSNSで過去を遡れたりもしますが、触れるのであれば直近の情報に留めましょう」

まとめ

メールやチャットで何より大事なのは、必要な情報を分かりやすく伝えること。それができた上で初めて、テキストの温度感は意味を持ちます。

そこで大事なのは「丁寧さ」に対するバランス感覚。相手への過剰な気遣いや格式張った表現は、かえって相手の印象を損ねたり、距離を生み出してしまったりすることもあります。

まずは、その言葉を向けられたときに自分はどう感じるのかを考え、言い回しのバリエーションをたくさん用意することから始めてみてはいかがでしょうか。

話を聞いた人:平野友朗さん
一般社団法人日本ビジネスメール協会 代表理事。株式会社アイ・コミュニケーション 代表取締役。広告代理店勤務を経て、2003年、日本で唯一のメルマガ専門コンサルタントとして独立。得意とする分野は、メールコミュニケーション効率化や時間短縮などの業務改善。ウェブマーケティングの戦略立案やメルマガ・ウェブサイトの改善。メディア戦略を含めたブランド構築や出版プロデュースなど多岐に渡る。クライアントは、日本全国の企業、士業コンサルタント、官公庁から学校や団体まで幅広く、その数はのべ5000を超える。

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