いつ、何を、どのくらい飲むかを意識するのが大切
気分転換をしたいとき、眠気を覚ましたいとき、リラックスしたいとき……。何となくの知識で、漠然と飲み物を選んでいる人は多いのではないでしょうか。
田中先生はそうしたビジネスパーソンに向けて、「体の状況や目的に合わせてきちんとした飲み物を選べば、仕事のパフォーマンス的にもメリットが生まれる。
漠然と選んだり、何も考えずに好きなものだけを飲んだりするのはもったいないし、場合によっては健康に悪い影響をあたえることもあるんですよ」と、注意喚起します。
「大切なのはさまざまな飲み物について、カロリーや含まれている栄養素をきちんと意識すること。
食べ物のカロリーや栄養素を気にする人は多いですが、飲み物についてはあまり気にしていない人がほとんど。
飲み物は食べ物よりも気軽に口にするものですから、ぜひ自分がどんなものを体内に取り入れているかを把握するようにしてください」(田中先生・以下同)
飲み物を飲むこと=体に水分を補給すること
では、飲み物が体に与える影響について知るために、まずは飲み物の基本情報をチェックしていきましょう。
喉が渇いてから水を飲んでも遅い?脱水予防には、定期的な水分摂取を
多くの飲み物は、水に何かが加えられてできているもの。飲み物を飲む意味の大半は、この水を体内に取り入れること、と田中先生は説明します。
「よく知られていることですが、ヒトの体の約6割の成分は水です。これを『体液』と言います。
体液には体の細胞の中にある細胞内液と細胞の外にある細胞外液があり、どちらも体が正常に機能するために重要な働きをしています。
そのため、体液の量や濃度は一定になるように、体内で刻々と調整されているのです。
体液は尿や汗として排出され、口から水を飲むことで補われているので、水を飲む量が足りなくなると脱水を起こします。
実は、『軽い脱水』ならば自覚症状は弱いため、日常的に起こっている可能性も。
水分が不足すると、脳の神経細胞の細胞内液が減少して『喉が渇いた』と感じるのですが、通常は細胞外液から先に減っていくため、脱水から喉の渇きを感じるまでには少し時間がかかるんですね。
ですから、喉が渇いたと感じる前に、予防的に水分を補給する必要があるのです」
1日何リットルの水を飲むべきか。排出される水分から把握する
1日に飲むべき水の量について、例えば1.5リットルや2リットル等、具体的に何リットル必要、という指標が掲げられているケースを多く見かけるようになりました。
しかし実は、必要な水分量というものは、体重の違いや運動量によってある程度上下する、と田中先生。さらには、夏と冬でも量には差が出てくるのだとか。
田中先生が勧めるのは、「喉が渇かないように定期的に水分を補給すること」「体液の濃度が濃くなりすぎないようにこまめにチェックして、今の自分に合った飲む量を把握すること」なのだそう。
「体液の濃度をチェックするには、自分の尿の色(濃さ)を確認するのがもっとも簡単だと思います。具体的な指標としては、『ほぼ透明な、薄い色の尿』がベストです。
尿の黄色は、体の中でできた老廃物であるウロビリノーゲンという物質の色。尿量が減るとその分ウロビリノーゲンの濃度が高くなるので色は濃くなる、という仕組みです。
人間の腎臓は一定以上の濃度の尿をつくることができないため、濃度の高い尿が続くと老廃物が体に残ってしまいます。
また、濃度の高い尿を生成させると、腎臓にも負担をかけることにもなるんですね。
つまり、『ほぼ透明な、薄い黄色の尿』がキープできるように、水を飲んでいければ良いと思います。
また、健康な人は朝起きてから夜寝るまでに、5回くらいはトイレに行きます。
3〜4時間経っても尿意が生じない場合は、脱水の可能性があるため、速やかに水分を摂取してほしいですね」
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多種多様な飲み物の成分を見極めよう!
水分補給の大切さを理解できたら、水以外の飲み物に含まれる成分についても詳しく知っておきたいところ。
市販の飲み物でよく見かける、「カフェイン」「糖類」「ビタミンC」「アミノ酸」の4つの成分について、田中先生に聞いてみました。
カフェイン
「カフェインには、神経の鎮静を抑制することで、神経を興奮させる働きがあります。
カフェインを多く含んだ飲み物といえば、まず玉露、次に抹茶とコーヒー、そしてその次に紅茶、ウーロン茶、煎茶となります。
一方、若い人に人気のエナジードリンクは高濃度のカフェインを売りにしたものが多くあります。
カフェインの摂取上限量に明確な基準はありませんが、コーヒーであれば1日3杯程度に留め、エナジードリンクの常飲は控えたほうがよいでしょう」
糖類
「糖類といえば砂糖を一番にイメージする人も多いと思います。
しかし、飲み物に加えられることが多いのは、『ブドウ糖果糖液糖』や『果糖ブドウ糖液糖』といわれる糖類です。
この2種類の糖はトウモロコシなどから作られた糖。これは肥満や糖尿病の原因になるだけでなく、依存性があるため、摂り過ぎには注意しましょう。
水分補給のために、甘い飲み物を飲むと、必然的に摂り過ぎになっていきます」
ビタミンC
「飲料に含まれているビタミンCは、ビタミン補給を謳っているフルーツドリンク系を除くと、おもに保存料の役割を果たしていることが一般的です。
『ビタミンCが入っている!』と喜んで飲んでいても、保存料として加えられている場合がほとんどなので、期待し過ぎないようにしましょう」
アミノ酸
「GABA(ギャバ)やグリシン、テアニンなどのアミノ酸が含まれた飲料が、『熟睡を助ける』と銘打って販売されているのを見かけるようになりましたね。
これらのアミノ酸には脳のリラックス効果が期待できます。
ちなみに、テアニンは緑茶にも多く含まれている成分ですが、カフェインも含まれているので、入眠前に飲むのは避けてくださいね」
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こんな時にはこんな飲み物! シーン別の飲み方を紹介
最後に、いつ、どんな飲み物を、どのくらい飲めばよいのか、具体的なところを田中先生に紹介してもらいます。
ただし、これらはあくまで一例なので、個人の好みで、アレンジしたり、好きなものに変えたりして自分に合うものを試してみてください。
朝、目覚めた直後
「朝起きた時は、体は軽い脱水状態になっています。起きたらなるべく速やかに一口でも水を飲むようにしましょう。
顔を洗って口をゆすいだ後に、コップに半分くらいの水を飲むのがおすすめです」
体が冷えがちな人や冷たい水が苦手な人は、枕元に温かいお湯を入れたポットを用意しておくのも良さそうです。
「朝食では、味噌汁やスープ、コーヒーなど好きな飲み物と一緒に、食事を摂りましょう。食物繊維を摂取するためにも、野菜や果物などをしっかり食べてほしいです。
ただ、時間がなかったり、朝は基本的に食欲がなかったり、といった場合は、せめてタンパク質が取れる牛乳や豆乳、ヨーグルトドリンクなどを飲むようにしましょう。
また、市販の野菜ジュースや果物ジュースには、食物繊維が十分には入っていません。
自家製のスムージーなどであれば、野菜や果物の食物繊維もそれなりに摂ることができます」
シャキッとしたいとき
「おすすめはレモンスカッシュです。レモンの酸味と炭酸の刺激で意識を覚醒させ、糖分で脳にエネルギーも与えられます。
酸味が苦手でなければ、柑橘類よりもさらに刺激が強い酢飲料もいいでしょう。ただ、脳の働きをよくするためにはタンパク質が欠かせません。
タンパク質は飲んですぐ効くものではありませんから、普段の食事や飲み物(牛乳・豆乳など)でしっかりと摂るように心がけましょう」
じっくり考え事をしたいとき
「コーヒーなどカフェインが含まれている飲み物が良いでしょう。
酢酸や炭酸のような瞬間的な刺激ではなく、吸収された後に神経を刺激するため、じっくりと効いてきます。
瞬発的なアイデアではなく、深い思考をしたいときにおすすめです」
眠気を覚ましたいとき
「眠いけれどがんばる必要がある時は、高濃度のカフェインの入ったエナジードリンクが効果的です。
ただし、続けて何本も飲んだり、毎日飲んだりといった飲み方は避けましょう。ここぞという勝負どころで飲むもの、と心得てください
さらに、カフェインは体質によって少量でも頭痛や動悸などの症状を引き起こす場合があります。
初めて飲む場合は一缶全部を一気に飲まず、少しずつ様子を見ながら飲むようにしましょう」
長時間のプレゼンのとき
「プレゼン前には柑橘類や酢飲料などで、頭をすっきりさせるのがおすすめ。
長時間話す時は喉の保護やスムーズに話し続けるためにも、適時、ミネラルウォーターを少しずつ飲んで口内や喉を潤しておきましょう」
ストレスを軽減したいとき
「GABAに代表される、アミノ酸の入った飲み物を試してみてもいいでしょう。先ほどもお話しした通り、これらにはリラックス効果があると考えられています。
カモミールなど、自分が落ち着く香りのハーブティーなどがよい場合もあります。
寝る前にこういったものを飲んでおくと、入眠しやすい、ということもあるかもしれません。
また、リラックスやストレス軽減には『効果がある』と信じることも重要です。いわゆる『プラシーボ効果』ですね。
飲み物に含まれるGABAなどのアミノ酸は微量なので、ただ摂取するだけでは効き目がいまひとつ、という可能性もあります。
飲んで、効き目があると信じる。これも意外と大切なことです。
自分に合ったもの、自分がよいと感じるものを選んで、いろいろ試してみるのがいいでしょう」
まとめ
ストレス軽減や脳の活性化といったさまざまな機能を謳った飲み物や、季節ごとに味やパッケージを新しくして登場する飲み物など、私たちの身の回りには常に魅力的な飲み物がたくさんあります。
けれど、ほとんど飲み物は、水に何かが加えられたもの。
ヒトの体に一番大切な水分補給を主軸に、「今、自分に必要な成分は何か、不必要な成分は何か」を意識して、飲むべきものを選び取り、仕事に還元していきましょう!
『なぜ、一流は飲み物にこだわるのか?』
著 田中 越郎
発行 クロスメディア・パブリッシング
話を聞いた人:田中越郎 先生
医学博士。専門は栄養学、生理学。熊本大学医学部卒業後、三井記念病院内科、スウェーデン王立カロリンスカ研究所留学、東海大学医学部等を経て、東京農業大学栄養科学科教授に就任。現在、同大学名誉教授。ロングセラーの『イラストで学ぶ生理学』(医学書院)ほか著書多数。
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