「主食をイノベーションして、健康を当たり前に」のミッションのもと開発された、完全栄養食があります。それがベースパスタです。
完全栄養食とは、健康を維持するために必要な栄養をすべて含んだ食品や食事のこと。しかしパスタといえば麺類ということもあり、炭水化物のイメージが一般的ではないでしょうか。ビタミンやタンパク質などの栄養素は、野菜などの食材で補うのがマスト。しかしベースパスタなら、1食で1日に必要な栄養素の1/3を摂取できるのだそうです。調理も簡単で、おいしく食べられることから注目を集めています。
開発したのは、ベースフード株式会社代表の橋本舜さん。橋本さんは新卒で入社した会社に勤めながら、完全栄養のパスタ開発に着手。27歳だった2016年4月にベースフード株式会社を設立し、世界で唯一のパスタを完成させました。その開発秘話から今後の展開まで、食の世界での革命を目指す橋本さんのビジョンに迫ります。
主食を改善して、日本人を健康に!
―新卒で入社したIT系のベンチャー企業で、自動運転技術の新規事業に携わっていた橋本さん。一見、無関係に思える「食」のジャンルで独立し、ベースパスタを開発するまでの経緯を教えてください。
実家を離れて会社で働くようになった新卒の頃の僕は、忙しさのあまり食事がおろそかになっていました。1年目はなんとか自炊もしていましたが、4~5年目になると99%外食になってしまって。前の職場は渋谷にあったので、気づけばランチはコンビニ、夕飯の選択肢はラーメンか居酒屋か中華というサイクル(笑)。ジムに通って運動をしていたとはいえ、健康を保つためには、毎日の食生活を改善する必要があると感じていました。
この僕個人の課題と、当時僕が向き合っていた日本が抱える課題を同時に解決できる方法はないだろうか。そう考えたときに思いついたのが「主食を完全栄養食にする」のアイデアだったんです。
―当時、橋本さんが向き合っていた「日本が抱える課題」と言いますと?
前職では自動運転の新規事業を手がけていました。
少子高齢化や過疎化の進む地方は、タクシーやバスのインフラが整っていないので、高齢者がなかなか通院できない状況にあります。そのため健康が維持できず、入院へとつながってしまう。すると高額の医療費がかかり、税金の多くが社会保障費用に充てられる……などの問題へと膨らんでいるんです。携わっていた事業は、その問題を自動運転で解決できれば、高齢者の健康寿命が延びて社会保障費の削減につながる意義がありました。
そんな自動運転のプロジェクトを進めるうち、社会保障費を削減するには病気になる前に手を打つことが重要だと考えるようになっていきました。そこでまず自分の生活習慣を振り返ると、栄養のある食事をほとんど取っていないことに気づいたんです。サプリメントはあるものの、どの栄養素を摂ればいいか分からないし、それは補助食品であり食事ではない。僕はそこを抜本的に解決したかった。そのためには主食を改善しよう、と考えたのが開発のきっかけです。
昔から世の中のためになる事業を興したいな、とも思っていました。そして事業をやるからには、自分でも「本当に欲しい」と思えるものを生み出さなければモチベーションも湧いてこない。僕個人の課題と社会の課題をリンクさせ、「食で人々の健康を支える」という思いでベースフードを立ち上げたんです。
―しかし、パスタの開発自体は、前職で勤められているときにはすでに着手されていたそうですね。
仕事を続けながら、半年間は週末や平日の夜に開発をしていました。ある程度試作を進めていたら、それをいつの間にか日々の朝食として食べている自分がいて。「めっちゃいいじゃん。これ早く作った方がいいんじゃないか」と思うように(笑)。
自動運転の新規事業はやりがいも感じていたし、おもしろかったですよ。でも、完全栄養食のパスタ開発は僕以外の誰もやってないんですよね。自動運転は僕以外にもたくさんの人たちがやっているけど、パスタは僕がやらないと誰もやらない。そこで2016年に独立を果たしました。
スーパーで売っている食材から生み出された完全栄養食
―いま、他社からはドリンクタイプの完全栄養食も販売されています。主食ではないそれらの製品と、ベースパスタのコンセプトは違うということでしょうか?
そうですね。ドリンクタイプの完全栄養食は食事時間の削減を目的にしていますが、僕らは「健康を当たり前にしたい」というビジョンがあります。ですので、より多くの人が食べてくれなければ意味がない。例えば、自分の両親がドリンクタイプの栄養食を飲んでいる姿はイメージしにくいものですが、パスタなら自然にイメージできませんか?
―主食ということに注目すると、米やパンも思いつきます。パスタを選ばれた理由とは?
僕らが一番に掲げているのが、主食にイノベーションを起こすこと。なので、パスタだけでなくライスやパンももちろん該当します。ただ、いきなり米そのものを開発するのは難しいので、最初の製品には家庭でも試作できるパンとパスタが候補に上がりました。最終的にパスタを選んだのは、トッピングやソースで味を変えられ、いろんな食べ方を楽しむことができるからです。
―「良薬は口に苦し」と言われるように、昔から体に良いものとおいしさはトレードオフのような認識がありますが……。
いままでの栄養食は味がイマイチだったり、調理が大変だったり、何かしら犠牲を伴うものが多かったかもしれません。けれど健康は毎日が楽しいことから始まるわけで、健康のためにマズいものを食べるとか、苦労するとかではプラマイゼロ。
だからトレードオフを解消できる「簡単に調理できて、おいしくて、栄養価の高い食品」を作らなくちゃいけないと思ったんです。
―食品の専門家ではなかった橋本さんが、どうやって製品化を実現できたのでしょうか?
栄養士の友人にアドバイスをもらいながら、試行錯誤しました。
厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2015年版)」という、1食に必要な栄養素を定めた指標があるので、それを満たすように食材を組み合わせる毎日です。食材とグラム数を入れれば合計の栄養素が出るシートをエクセルで作って、スーパーに行って食品粉末の種類や情報をひたすらメモしていましたね。
―食品粉末?
ココア、鰹節などの乾燥食品です。そういった一般的な食材でパスタを作りたかったので、吟味するべくスーパーの端から端までうろちょろしていました(笑)。何回かの試行錯誤の末、まずは完全に栄養を満たす食材の組み合わせができました。そこから頼ったのはYouTubeです。パスタの作り方を見て、市販のパスタマシーンで試作したのが最初ですね。
―ハンドメイドで作っていたんですね。
最初は麺がちぎれてしまったり、茹でたら溶けてしまったり。そういった問題はイタリアンのシェフにいろいろ聞いて、ひとつずつ改善していきました。
今の形になるまでに重ねた試作は100回以上。会社員時代は週末を利用して半年間、独立してからも半年間をかけた道のりでした。
試行錯誤の末完成したベースパスタ
塩とオリーブオイルだけで、ベースパスタはおいしく食べられます
―ところで、“完全栄養のパスタ”とはどのような味なのでしょう?
ベースパスタそのものに味があるので、茹でて塩とオリーブオイルをかけるだけでおいしく食べられます。そこに、バジルやプチトマトなんかを和えてもいいし、ローストしたエビとか、炒めたキノコをのせたりしてもいいですね。パスタそのものに旨味があるので、ざるそばにも鶏ガラ系のラーメンにもマッチします。モチモチした食感とそばのような自然の風味が特徴です。
シェフにおすすめされたのはサラダパスタです。塩は入れずに普通に茹でたあと、1回冷やしてから、オリーブオイルと麺つゆを合わせたドレッシングと和えて野菜を入れるだけ。これはおいしいですよ。
パスタだから見た目もおしゃれ、フレッシュチーズとトマトを添えて
辛味を効かせたトマトソースがやみつきになるプッタネスカ
―ハンドメイド発だったベースパスタも、現在は製造を岐阜県の企業が手がけています。こちらはどういう基準で選んだのですか?
ググって発見しました!(笑)。製麺会社を探すときには開発力と衛生面、そして僕らのビジョンに共感してくれるかどうかの3つの基準で探していました。いまは全てを満たす岐阜県の小林生麺株式会社にお願いしています。小林生麺さんは野菜を練り込んだ麺やグルテンフリーの麺、アレルギー25品目を含まない麺などを開発されているんです。
Webサイトに「アレルギーのある人でも安心して食べられる麺類を作りたい」というメッセージが掲載されていたことからも、きっと金銭的な関係だけじゃなくて理念を大切にしてくれると感じました。
時間と労力をかけて「自分が本当にやりたいこと」を見つける
―今後、ベースパスタはどういった展開をしていきたいと考えていますか?
いま考えているのは、ベースパスタの利用シーンを増やすことです。たとえば、朝食のスープにベースパスタのショートパスタ版を入れたり、ランチではサラダボウルの代わりに冷やしたベースパスタボウルを食べたり、ラーメン屋では+300円で麺をベースパスタに変更できたり。みなさんの日々の食事の選択肢に自然と加わっている、そういった展開ができればと考えています。
―最後に、将来に悩みを持っている若者にアドバイスをお願いします。
自分が本当にやりたいことを見つけるために時間を使ってほしいです。それは空から降ってくるものではないので、時間と労力を使ってやりたいことを探し続けてください! 仕事に何かしらの引っ掛かりを感じているのならば、仕事を少し早めに切り上げて、やりたいことを探す時間をつくってみるのもいい。起業したら必要になる、自分で時間を確保しコントロールする力を付ける、第一歩になると思います。
僕はこの事業をはじめて、まわりから批判的なことを言われたことはありません。最初の一歩を踏み出せば、親世代も上司も応援してくれるはず。
ITベンチャーから、完全栄養食品の開発というまったくの異業種に転身を果たした橋本代表。そこには自分自身と、日本の社会が抱える課題を解決する大きな目標が秘められていました。
今回のインタビューを通して感じたのは、橋本代表の目の前の課題をひとつずつこなしていく堅実な姿勢です。栄養についての知識がなければ身近な栄養士に話を聞き、原材料はスーパーで調達し、パスタ作りで失敗すれば食のプロに頼り、製造を依頼する企業もWebを使い地道に探していく。遠くの目標を達成するために、いま自分ができることからはじめるその姿勢からは、多くを学べるでしょう。
(取材・文:舩山貴之/編集:東京通信社)
識者プロフィール
橋本 舜(はしもと・しゅん)/ベースフード 代表取締役
東京大学教養学部を卒業後、2012年に株式会社DeNAに新卒入社し、オンラインゲームのプロデューサーを経て、複数の新規事業を担当する。2016年4月ベースフード株式会社を創業。「健康が当たり前」になる世の中を目指し、『ベースパスタ』を始めとした完全栄養食の開発を進めている。
※この記事は2018/05/29にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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