スマホゲームとして爆発的な人気を誇る「パズドラ」。その人気の要因の1つが、キャッチーで多彩なキャラクターです。
今回のインタビューは、そんな「パズドラ」でも大人気のイラストレーター日野 慎之助さん。
多くの人からたくさんの支持を集めるキャラクターデザインは、「自分のスタイルがないこと」からはじまる!?その意外な日野さんのキャラクターデザインの秘訣とは?今回特別に、貴重なお話しを伺いました。
数々の名キャラクターを生み出す日野 慎之助の仕事観とは?
(インタビュアー)-----日野さんは、現在どういったお仕事をメインにされていらっしゃるのでしょうか?
(日野 慎之助)「主にゲームのキャラクターデザインです。そのままゲーム内で使用されるキャラクターを描いている事が多いです。キャラクターに関しては、自由に描いてくださいという依頼もありますし、ある程度向こうでキャラクターのイメージが決まっている場合もあります。依頼内容もいろいろですね。」
-----なるほど。そこからキャラクターのイメージはどのように膨らませていらっしゃるのでしょうか?
「そうですね。次はどうしよう…あぁでもない、こうでもないと、四六時中考えている気がします。特にパズドラはファンの皆さんの意見を積極的に見て、次の方向性を決める参考にさせていただいてます。キャラクターの進化は、1回描いて終わりじゃないので。今までのキャラクターのイメージをもって、どういうふうに成長させればいいかと・・・今はいい意味でインターネットでファンの方の意見を聞けるので、そういった意見も大切にしながら描いています」
意外なキャラクターデザインのこだわりメソッド。ースタイルのなさー
-----いろいろなキャラを描く中で、日野さんの絵にに対するこだわりはどんなところでしょうか?
「なんというか、万人に受けるもの。『この人の絵、嫌い』っていうのが出ないようにするのがこだわりかもしれないですね。僕の絵は元々割りと特徴がないんですが。極力自分のスタイルを出さないようにしています。表現を大事にする芸術家ではなくて職人寄りというか。僕が描いているのは、あくまで作品の一部品。最終的にお客さんが手に持ってしっくりくるキャラクターになればいいと思っていますね。
絵に自分らしいスタイルっていうのは案外求めないんです。キャラクターを作っていても、自分のスタイルがないからこそ色々なものが描ける。たとえば、キャラクターの依頼の中で可愛い女の子を描かなきゃいけないことが多いのですが、自分の主観なしに、人が見た普通に可愛い女の子を描けます。ですがよく言われるのは、真似できそうでできない絵。模写すると似ないってよく言われたりします。」
-----“スタイルがないスタイル”は、常に利用者を意識するからこそできあがったものなのでしょうか?
「必ず誰かが見るっていう緊張感を持っています。無理に自分のスタイルを出さず、万人が見て可愛いであったり、格好良いなと思えるキャラクターを描こうとしています。だからこそ、無味無臭のいい感じのキャラクターが描けるのかもしれません」
下積みを通してできた、スタイルのないスタイル
-----日野さんははじめからイラストレーターを志望されていたのでしょうか?
「いや、実は全然そんなことなくて(笑)高校卒業して最初はウエイターでもやろうかと思って、アルバイト情報誌を買ってきたんです。とにかく早く世に出たくて、働くと言えばウエイターかなと思って。今考えるとものすごく単純ですが、大人を見ながら“大人おもしろそう”ってずっと思っていました(笑)苦労とかつらそうにしているのとかも、自分にはおもしろそうに見えたんです。
そしたらなんかゲーム会社でグラフィックデザイナーの求人がバーンと大きく載ってて、ウエイターよりもこっちの方がおもしろいかなと思って応募したのがきっかけですね。仕事もなんでもよかったので、絵に対する執着は他の人に比べるとない方だと思います。それが『自分のスタイルがない』という部分に繋がっているのかもしれません」
-----なんと…そうだったのですか!(笑)ちなみに最初の会社ではどういったお仕事をされていたのですか?
「そこがコンシューマーゲームの開発会社で、当時はドット絵でスポーツゲームの選手を描いていました。それがスタートです」
-----なるほど。そこから何がきっかけでキャラクターデザインをされるように?
「そこで数年働いてから辞めて、上京して、とあるゲーム会社に入りました。でもその会社が潰れてしまい…。その会社で自分が絡んでいた企画が大手のゲーム会社さんと繋がっていたので、最終的にそちらに引き取っていただいたのがきっかけですね。最初はその企画だけの契約社員だったのですが、メインキャラクターのデザインが自分に回ってきたんです」
-----なるほど。そちらが転機となられたのですね!
「そうですね。今思えば、最初の会社でスポーツ選手のドット絵ばかりを描いていたので、人型を描くのに長けていたのが評価されたのかもしれません。動き、身体のバランス、筋肉など、ドット絵でそれらをどう表現するのか…試行錯誤していましたから。今思えばドット絵で学んだことが本当にためになっていて、その基本ができたから、スタイルがなくてもやっていけているんだと思います」
-----ドット絵って大変なのですね。。ちなみに日野さんは現在独立されていると伺っておりますが、独立したきっかけは何だったのでしょうか?
「前の職場の人が新しい会社を立ち上げて、そこでデザインをやっていたんですが、ずっと自分がメインのキャラクターを描いていくというのは…難しいんですよね。若手にやらせないといけないので。となると、自分は管理職に上がることになる。当時名前が売れ始めたところだったので、そこで消えていくのもおもしろくないなって感じて独立しました」
-----それはやはり日野さん自身が、絵を描くことに魅力を感じられていたからでしょうか?
「うーん。どうでしょう?単純に働くのは楽しかったですね(笑)僕の場合は、描いた絵によってその人にとってプラスになるというか、後々まで残るものが作りたいっていう感じです。後は働いていく中で、いろいろな難関があって、それをクリアする快感というか、絵を描くというよりは働くということに対して魅力を感じていたのかもしれませんね。自分らしさとかの表現ではなくて、受け手が可愛く見えるもの、かっこ良く見えるものという部分ばかり意識していますし」
-----では…もし日野さんはゲーム会社に入ってなかったら、イラストデザイナーにはなられなかったのでしょうか?
「ならなかったと思いますね。今頃カウンターバーでウエイターやってたと思います。今でもやりたいですよ、僕(笑)」
大切なのは、自分ではなくて誰かに喜んでもらえるということ
-----今に至るまでに、長年このお仕事を続けてこられた秘訣は、どういったところにありますか?
「見てくれている人がいるというか、このキャラがずっと好きですっていってくれるファンの人がいて、それはとても力になっていますね。後は、やっぱり自分のスタイルが決まってないというのも大きいかもしれません。僕の場合、働き方にしても、イラストにしてもスタイルがないというのは、主義主張による衝突が少なくいろいろな場面に対応しやすいんです」
-----いろいろな局面に合わせて対応できる柔軟性が、日野さんらしさなのですね。
「そう、おかげでフットワークも軽いかもしれないですね。加えて新しいことにチャレンジするのも好きなんです。パズドラも、プロデューサーと飲んでる時に企画の話を聞いて、『じゃあ描くよ!』ってすぐ決めました。それが今に繋がっている。
例えば、ずっと同じフィールドで仕事をしていてもなかなか幅が広がらないじゃないですか?あの時期にスマホで新しいゲームを作るって聞いても、臆せずすぐに飛びつけたのが、今スマホとかパズドラの仕事をできているきっかけですしね。」
-----なるほど。柔軟に新しいことにチャレンジしながら、ファンの方に喜んでもらえることを日野さんは大事にされていらっしゃるのですね。
「スケジュールの厳しい仕事でも納期とかデザインをクリアして、お客さんに喜んでもらえるのが本当に嬉しいし、それで作ったキャラがカッコいい!カワイイ!ってゲームをする人に刺されば最高です。これから20年後くらいに子供だった人達が大人になって、飲み屋で『俺このキャラに惚れてたんだよね~』とか自分のキャラで言われたりすると、仕事していてよかったって思うでしょうね(笑)1人の人としてキャラクターが生き続けてくれれば、すごく嬉しいです」
目の前にあることを頑張れば、いつか繋がる
-----日野さんのお話を聞いていると、点と点が繋がって今があるんだな、ということをすごく感じます。
「すべてはアルバイト情報誌から始まって、ドット絵の経験がキャラクターを描くのに活かされて、それが今のパズドラに繋がって…今考えれば自分がやってきたことすべてが繋がっているんですよね。今を頑張れば次に全然違うことが待っていても、対応できる。そこでまた楽しくやっていけるっていう感じで、ここまできました」
-----どんな時でも、今を一生懸命頑張るということですね。
「きっと僕が下積み時代に怠けていたら、今はないなと思うんですよね。入口はなんでもいいので、その場その場で頑張り続けると、楽しいことに繋がっていると思います。なので、目の前にあることを真面目にやり続けるということが大切かもしれません。僕は将来の目標は特にないのですが(笑)、死ぬ時に納得できる生き方をしたいと思っています。だからこそ、今、僕の描いたキャラクターで笑ってくれたり、幸せになってもらえるように頑張りたいと思っています」
※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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