若者に対する絶大な影響力を持つことで、実際に仕事につなげる事例も聞かれるようになったインスタグラマー。果たして、インスタグラマーを仕事として生活していくことは可能なのでしょうか。
現在フリーランスフォトグラファーとして活躍し、人気インスタグラマーとしても国内外から注目を集める保井崇志さんに、インスタグラマーのリアルを伺います。
もともと撮影は素人だった
?まず、インスタグラムを始めた経緯についてお聞かせください。
保井崇志さん(以下保井):写真自体は、5年前のめいっ子の誕生を機に家族写真を残そうと撮り始めて、ブログで公開をしていたのですが、ブログだとアップした写真へのコメントやアクセス数が翌日にならないと分からないなど、タイムロスがありました。
しかし、そんななか登場したインスタグラムには、公開した瞬間にタイムリーな反応が得られるだけでなく、世界中のユーザーの写真を見ることができたり、逆に自分の写真を見てもらえたりといったグローバルな魅力があったので始めました。
もともと僕はクリエイティブとは無縁の職場で働いていたため、写真の技術も学んでこなかったので、インスタグラムも最初は専ら人の投稿する写真を見る使い方が中心でした。でも結果的にはそれが自分なりの勉強になっていたように思いますね。
?ご自身で積極的に発信をするようになったきっかけは何だったのでしょうか?
保井:インスタグラムに“個人が発信するメディア”としての可能性を感じたからです。たった1枚の写真にも、そこにキャプションやどこで撮影したかといった情報を入れ込むことができますし、プロフィール欄のページを見れば直近の写真が9枚並んで目に入り、どのような流れで各写真がアップされたかという文脈を感じられたりするんですよね。そうしたメディアとしてのあり方に気づいてのめり込みました。
インスタで国内外のフォトグラファーと交流が生まれた
-保井さんはインスタグラムに京都を中心とした風景写真を投稿されていますが、どのようにフォロワーを獲得し、インスタグラマーとなっていったのでしょうか?
保井:インスタグラムには「この人の写真がいいよ」とユーザーをピックアップして紹介する文化があるのですが、僕自身もインスタグラムの日本公式アカウントをはじめとするさまざまなアカウントにピックアップされる機会が増えたことにより、フォロワーも増えていきました。簡単に言えば口コミのように自分の写真が広まっていくイメージですね。
-インスタグラマーになったことで得られた経験について聞かせてください。
保井:国内外のフォトグラファーと交流する機会ができましたね。日本に写真を撮りに来る海外のフォトグラファーから、「この機会に一緒に写真を撮りに行こう」と声をかけていただいたりしました。
それまでは僕自身もインスタグラマーというものを全くイメージできなかったのですが、海外のインスタグラマーとの交流のなかで、インスタグラムをきっかけにクライアントから依頼された撮影の仕事のために日本に来ている人と実際に会うことができ、驚きました。
実際にフォロワーの多い人や写真のコンセプトが確立されている人に会うと、僕は僕で刺激をもらえるし、相手も京都のロケーションを知ることができるので、互いに恩恵を与え合える関係になれたことも良かったですね。
あくまでもプライベートな面を残しておく
-実際に、インスタグラマーを職業にして食べていくことはできるのでしょうか?
保井:インスタグラムを主軸に食べていくというよりも、まず何らかの別の活動があったうえで、それを発信するためにインスタグラムを活用する、というほうが自然かなと思います。
インスタグラマーはYoutuberと比べられることも多いのですが、そもそもYoutubeのプラットフォームはマネタイズできるような仕組みになっています。それに対し、インスタグラムにはそうした仕組みがないんです。
また、僕自身、インスタグラムはあくまでもプライベートな面を残しておく必要があると考えていて。インスタグラムは自分をメディア化するうえで良いプラットフォームなのですが、自分の生活と全くかけ離れた写真を公開していると、デイリーに続けていくことが難しくなってきます。さらに、完全にお金を得ることを目的にしてしまうと、自分のメディアであるインスタグラムそのもののブランド力が下がって、簡単に言えば格好良くなくなってしまうと思うんです。
新聞や雑誌と同じように、広告に頼ってしまうと読者は離れていきます。インスタグラムをきっかけにクライアントから仕事を依頼されたとしても、プライベートな場としてのバランスを保ちながら利用するのがポイントだと思います。
インスタグラマーとしてお金を得る3つのかたち
-ご自身のインスタグラムはどのように仕事へとつながっていますか?
保井:僕の場合、収益を得るかたちは大きく3つに分けられます。
まず1つ目は写真自体の販売です。海外の雑誌編集部からの「京都の特集を組みたいからこの写真が欲しい」という依頼や、海外の日本料理店からの「このインスタグラムの写真を店に飾りたい」という依頼に応じてデータで販売しています。
2つ目は個人撮影の依頼です。海外の観光客から「今度京都に行くからその際に個人撮影をしてほしい」と連絡をいただいて撮影することで収入になっています。
そして3つ目がブランドや企業とのコラボレーションです。昨年は夏にイタリアのバイクメーカーのドゥカティとクライアントワークで撮影をしたり、今はアーティストのクリエイティブディレクションへフォトグラファーとして参加したりしています。また、イギリスの自動車メーカー・ブランドや台湾のスマートフォンのメーカーとのプロジェクトも進行中です。
-保井さんは現在フリーランスのフォトグラファーをしていますが、フリーランスになったきっかけは何でしたか?
保井:好きなことを仕事にしたいと思ったのが一番のきっかけです。写真を続けるなかで「もっと写真を撮りたい」「もっといろんなところに行きたい」「もっといろんな人に会いたい」と思っても、フルタイムの社員だとやっぱり制限がある。毎日たくさん写真を撮ることができる環境をつくるにはどうしたらいいだろうと考え、フリーランスになることにしました。
それから35歳という自分の年も後押しになりましたね。35歳は残りの人生を決定づける時期でもあり、冒険ができる最後のチャンスだと思ったんです。
でも、今ではこうして少しずつ収益も出てきたので考えられるのですが、今思えば会社勤めを続けながら、会社に迷惑がかからない範囲内でインスタグラマーとしてクライアントワークをするという道もあり得たかもしれないですね。
インスタグラマーになるために必要な2つのこと
-人々を魅了するインスタグラマーになるにはどのような要素が必要とされるのでしょうか。
保井:インスタグラマーとなるうえで必要とされるのは「メディアと捉えて発信すること」「継続して毎日発信すること」の2つです。
まずメディアと捉えて発信することについて。インスタグラムにはさまざまなジャンルのアカウントがあり、それぞれが「この人をフォローしておけば東京の写真が見られる」「日本の朝ごはんが見られる」「ファッションコーディネートが見られる」など、その人の価値観やセンスを知るためのメディアのように存在しています。
インスタグラムのアカウントがそうしたメディアとして存在している以上、「自分の写真を見てほしい」という主観だけではなく、閲覧者の存在を意識して客観性を保ち、その写真の裏にあるストーリーや、どこでどのように撮ったかという情報を含めて発信することが大切だと思います。
そして毎日発信する継続性を持つことについてですが、例えば1枚の写真に4,000?5,000ほどLikeがつく人でも、更新を2週間休んだら、復活したときのLike数は大きく減ると思うんです。
スピード感のあるインスタグラムのなかで、多くの人に見て知ってもらうには、継続して写真を更新する必要があると思います。そして継続するには、自分が本当に楽しいと思えるものを発信することが大事です。
-今後インスタグラムの使い方はどう変化していくと思われますか?
保井:今はインスタグラムという新しいプラットフォームにおける商業施設やアーティストとのコラボレーションが新しく見えますが、いずれはユーザーの飽和状態がくると思うので、そこに依存してしまわないようにインスタグラムのほかに大枠のコミュニティーを持つことが必要になってくると思います。
その大枠のコミュニティーというのが、僕の場合、フォトグラファーのためのプラットフォームとして立ち上げた「RECO」で、今後写真のプリント販売やワークショップ、現在海外の人向けにやっている個人撮影を日本国内でもできるよう進めていきたいと考えています。
まずはインスタグラムのメディア化から
「自分の好きなことを仕事にしたい」「普段は出会えない業種の人と知り合ってみたい」「憧れの企業と仕事をしたい」。インスタグラマーになれば、そうした思いもかなえられるかもしれません。皆さんもまずはインスタグラムをメディアとして捉え直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
※この記事は2016/02/12にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
あなたの本当の年収がわかる!?
わずか3分であなたの適正年収を診断します