「めんどくさい」に打ち勝つ方法は?脳科学者が解説

人はなぜ「めんどくさい」と思ってしまうのでしょうか。 「新しいことが苦手」「行動力がない」「人付き合いが好きじゃない」 一見すると性格から生じていそうな“めんどくさい”の原因は、実は「人の脳がもともとめんどくさがりだから」と説くのが、株式会社脳の学校 代表取締役で医師・医学博士でもある加藤俊徳さんです。 今回は、いますぐ“めんどくさい”病から脱却するための脳力アップ法についてご指南いただきました。

その「めんどくさい」は脳のせい! 今日から行動力をあげる最短ルート

“めんどくさい”の正体は、脳が発するメッセージ

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期日間近でいますぐ取りかからなくてはならない業務があるのに、めんどくさい……。体調が悪いわけではないのに、なんだかだるいな……。そんなことってありませんか? 

人はどうして、やらなければいけないと分かっていることでも、それを頭の中で「面倒なこと」だと捉えてしまうのでしょうか。ベストセラーにもなった『脳の強化書』(あさ出版)シリーズの著者で、2017年には『「めんどくさい」がなくなる脳』(SBクリエイティブ)を発表した、株式会社脳の学校 代表取締役で医師・医学博士、加藤俊徳さんにお話をうかがいます。

「めんどくさい」とは?どういう状態を指す?

まず、そもそも「めんどくさい」とは何なのでしょう?

「例えば、20代の人はテレビゲームを“めんどくさい”と感じる人は少ないと思います。でも、50歳を過ぎている私からすれば、テレビゲームをすることがとても“めんどくさい”(笑)。人は好きなことに対して、めんどくささを感じません。すなわち同じ事柄であっても“めんどくさい”と感じるかどうかは人それぞれなのです」(加藤さん、以下同)

そもそも“めんどくさい”という感情は「人間にとって正常なもの」だと加藤さん。人間の脳は酸素が行き渡ることで覚醒しやすく、覚醒していればさまざまな情報処理を行うことができます。しかし覚醒しにくい状態だと、注意力が散漫になり、情報処理も思うようにできません。

「この状態で何かをやろうとすると、途端に“めんどくさい”という感情が湧き出てくる。いわば“めんどくさい”は『まだ動けません』『やりたくありません』という、脳からメッセージなんです」

めんどくさいと感じるのはなぜ?その原因は?

では、なぜ脳から「まだ動けません」「やりたくありません」というメッセージが届くのか? その理由として、主に3つの要因が考えられます。

脳に余裕がないから

人が”めんどくさい”と感じる要因の1つとして加藤さんは、「脳に余裕がないから」を挙げています。

「脳のキャパシティが100あるとして、すでに80%くらいを使用し、あまり余裕がないとします。その状態のときに新しい課題だったり、他の仕事だったりが追加されると、”めんどくさい”と感じるんです」

さらに脳のキャパシティは常に一定ではなく、その時々の状況において変化すると加藤さんは指摘します。

「例えば金曜の夜に新しい仕事の依頼が入ったとします。普段ならそれほど負担を感じない仕事でも、金曜の夜には”めんどくさい”と感じる。なぜなら、『もう少しで休み』という状態では、脳のキャパシティがいつもより下がっているからです。『キャパシティが下がっているこのタイミングで追加するのか』と、脳が負担を感じてしまうんですね」

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不得意なことをするから

仕事上のケースとしては「不慣れなこと、不得意なことを求められたとき」に、人の脳は“めんどくさい”のメッセージを発することが多いのだとか。加藤さんはそれを理解する前提として、人の脳についてこんな興味深い話をしてくれました。

「脳は大きく分けて8つに分類できるんです。私はこれを“脳番地”と呼んでいます」

〈8つの脳番地〉

理解系 思考系 記憶系 伝達系 運動系 視覚系 聴覚系 感情系

加藤さんによれば、どの脳番地が発達していて、どの脳番地があまり発達していないかは、「人それぞれ」だそう。自分にとって不得手な脳番地に刺激が入ってくると瞬時に処理ができず、それが“めんどくさい”につながりやすいそうですが、「それこそがおのおのが持ち得る脳の個性」とのこと。

「“めんどくさい”も、この8つの脳番地に対応するかたちで発動しやすいのです。スポーツ選手など、運動が好きな人に『ちょっと走ってきて!』と言えば難なくこなしてくれるでしょうが、運動が苦手な人――運動系脳番地があまり発達していない人――にそれを命じると“めんどくさい”と感じる、それと同じこと。とくにビジネスシーンで大事なのは、自分がどの脳番地が得意・不得意なのかを理解することです」

〈8つの脳番地に対応する、8つの“めんどくさい”の例〉

理解系…人の話やそのときの状況を理解するのが“めんどくさい”

思考系…手順の多い仕事が“めんどくさい”

記憶系…あのときの大変な作業をまたやるのが“めんどくさい”

伝達系…人との密なコミュニケーションが“めんどくさい”

運動系…外出や地方出張が“めんどくさい”

視覚系…目で見た情報を正確に処理するのが“めんどくさい”

聴覚系…耳で聞いたことを正確に処理するのが“めんどくさい”

感情系…人の感情に配慮するのが“めんどくさい”

「ご自身の経験を振り返ってみてください。学校の授業科目でも、国語や数学では気だるそうにしていたのに、図工とか体育の時間になると人が変わったようにイキイキとする人っていましたよね? 例えば『聞くのと見るの、どっちの方がラクだと感じるか』といったことが分かれば、“めんどくさい”と感じる対象の特性が見えてきます。

また、仮に上記の『理解系』『思考系』に該当する脳番地から“めんどくさい”を感じたら、階段を上り下りしたり(運動系)、音楽を聴いたり(聴覚系)して別の脳番地を適度に刺激する。

そうすれば、その間、理解系や思考系が休まり、同じ作業に対しても“めんどくさい”が起こりにくくなります」

睡眠不足や疲労

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さらに加藤さんによると、脳の酸素不足や低覚醒を生み出す6時間以下の睡眠、つまり、睡眠不足も、昼の時間帯で脳が覚醒しにくいときなどに“めんどくさい”を発動させやすくなるのだとか。

「眠いときに何か依頼されると、誰でも”めんどくさい”と感じるでしょう。それは先に挙げた『脳のキャパシティ』が関係しています。眠いと感じているとき、人は脳のキャパシティに余裕がなくなるからです。ほかにも、疲労や体調不良、空腹時なども人は“めんどくさい”と感じやすくなります」。

「めんどくさい」に打ち勝つには?

上記の要因で発生してしまう”めんどくさい”。恐らく誰でも身に覚えがあると思いますが、実際に”めんどくさい”と感じてしまったとき、それに打ち勝つ方法はあるのでしょうか? 4つの具体策を加藤さんが教えてくれました。

頭の体操を行う

“めんどくさい”に打ち勝つためには、まず脳を覚醒させることが重要だそうです。

「脳を覚醒させるには、頭の体操が必要です。人の脳は、右半身を左脳が、左半身を右脳が司っています。右利きの人なら、日常生活の中でよく右手を使っているため左脳が覚醒しやすい。ですので、例えば朝起きたときなどに、左手で新聞紙を丸めたりするなど、生活の中で覚醒しにくい方の脳を刺激してあげましょう。そうすると、脳全体の覚醒をうながす効果があるはずです」

集中できる状況を作る

“めんどくさい”に打ち勝つ2つ目の方法は、集中できる状況を自ら作ることだと言います。

「自分の好きな音楽を聴きながら作業をするのもよいと思います。自分が調子よく仕事ができる、冷静に頭が働くような楽曲を把握しておけば、もし集中できないときにもそれをかけるだけで調子が上がるようになります。一方、音が流れていると集中できない人はノイズキャンセリングのヘッドホンをして、外界の音をシャットダウンするとよいでしょう。

またカフェに行くと他人ばかりの状況になりますから、自分のやるべきことに集中するしかなくなります。だから、『カフェで作業すると集中できる』という人も意外と多いですね」

身近な人にタスクを共有する

自分一人では甘えの気持ちも出て、つい作業を後回しにしてしまうこともあると思います。そうした傾向がある人におすすめの手段が、家族や同僚などに自身のタスクを周知させることだそう。

「仕事でも勉強でも、”めんどくさい”と感じてついタスクを後回しにしてしまうことがあります。しかし周囲にタスクをあらかじめ公表しておくと、完了義務が生じるので、後回しにしないようになります。私の家では、その日やるべきことを家族に見えるよう、カレンダーに入れておきます」

To Doリストを活用する

自身のタスクを忘れないために使用するTo Do リストは、”めんどくさい”の克服にも活用できるそうです。

「To Do リストをただ作成するだけではなく、1つの作業が完了したらその項目を消すことが重要です。そうするとリストの項目を消すことがモチベーションになるので、作業に取り組む姿勢が能動的になります。自分で意図的に『したい』という気持ちを作らなくても、作業に取り掛かりたくなる仕組みを構築できるのです」

「めんどくさい」と思わない脳はどう作る?

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最後に、できるだけ“めんどくさい”と思わない脳にするにはどうしたらいいのでしょう?

「させられ脳」を「したい脳」に転換

加藤さんは「させられ脳から『する脳・したい脳』へと切り替えよう」と若手ビジネスパーソンに指南します。

「先ほど申し上げた通り、“めんどくさい”は目前のシチュエーション(例えば、上司からの作業指示など)に対する、脳からの『できません』『やりたくありません』というメッセージ。いわば心のブレーキです。しかし、なかには『あ~。めんどくさい、めんどくさい』と言いながら、やるべきことをさっさとやり始める人もいる。さっさと始められる人は何が違うのかというと、脳がそのシチュエーションを自分なりに咀嚼(そしゃく)し、その作業を『したい!』『やりたい!』へ切り替え、すぐにやり始める環境を整えているのです」

やることの手順を整理する

なぜ「する脳・したい脳」へと切り替えることができるのか――その要因の1つは「作業の手順化」だと言う加藤さん。先の8つの脳番地の中でも、理解系・運動系がうまく働けば「キビキビと動く」という行動につながりますが、とりわけ、次の行動につなげるには理解系脳番地の「理解」をうながすことが効果的なのだとか。

「理解系脳番地に仕事の内容や自分の役割を理解させるには、手順の明確化が必要なんです。例えば、お手玉が上達するコツは、お手玉の作業を『1.投げ上げる』と『2.片方の手からもう片方の手に渡す』というプロセスに分けて考えてみる。

それと同様で、誰かから丸投げされてどこから手をつけてよいか分からない、すなわち理解系脳番地が働かずに“めんどくさい”と思えるような仕事も、『最初は1、1が決まれば2、次は3……』と、作業をプロセスごとに細切れに切り出して、手順の視覚化をすることが大切なんです」

規則正しい生活をする

さらに規則正しい生活を送ることも重要だと加藤さんは言います。

「正確には『頭の働く時間帯を作って、その時間に仕事をする』ということが重要です。例えば昨日寝ていた時間に仕事をしようとしても、うまく頭は働きません。いくら働きたいと思っても、昨日の影響で脳が”めんどくさい”と思ってしまうからです。だから脳が働くピークの時間を自分で把握しておき、その時間を毎日キープするために規則正しく生活をしたほうがよいということです。その時間がずれたとき、早い段階で修正すれば”めんどくさい”と感じる時間を少なくできると思います」

脳のことが分かると、仕事のやり方から生活のルーティンまで、さまざまな角度からの改善方法やアプローチの方法が見えてきそうですね。そうすることで”めんどくさい”がなくなれば、大幅な業務の効率化だって見込めることでしょう。

【プロフィール】
加藤 俊徳(かとう としのり)
脳内科医・医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニング、脳活性音読法の提唱者。加藤式MRI脳画像診断法で1万人以上の得意、不得意、適職などを脳から診断し治療を行う。『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き 「選ばれた才能」を120%生かす方法』 (ダイアモンド社)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など著書多数。
https://www.nobanchi.com
加藤 俊徳 (@NOBANCHI_Brain) / Twitter

(取材・文:安田博勇/編集:東京通信社)
※この記事は2018/01/17にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
※更新日=2023年1月17日

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