なぜ人は不安になるのか?不安を軽減する5つの方法

不安は誰しもが持っている感情です。ではなぜ人は不安になるのでしょうか。本記事では不安の原因や不安を軽減する方法について解説します。

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不安は、誰しもが持っている感情です。その原因は明確な場合もあれば、「なんとなく安心できない」といったケースまでさまざま。ここでは、心理学・コミュニケーション学の専門家で、早稲田大学オープンカレッジ心理学講座講師の晴香葉子先生に「人はなぜ不安を抱くのか?」をテーマに、不安の正体について教えていただきました。

そもそも不安とは?不安の種類は大きく2つに分けられる

人は、様々な場面で不安と向き合います。学生時代であれば受験勉強、社会人であれば大きなプレゼンや新しい分野へ挑戦するときなどが、最たる例でしょう。そんな不安の正体を分解してみると……。

「一過性で原因が明確なタイプ」と「ある程度持続的で原因が曖昧なタイプ」の二種類に分かれます。

1:一過性で原因が明確な不安

例えば「乗り物酔いをするがバスに乗らないといけない」という状況から生まれる不安は、「一過性で不安の原因が明確なタイプ」です。「乗り物に酔いやすい」という原因が明確で、かつバスに乗る行為自体が一過性と捉えられるためです。

2:ある程度持続的で原因が曖昧な不安

一方、「このままでいいのかな」「なんとなく」といった不安は、「ある程度持続的で不安の原因が曖昧なタイプ」です。具体的な原因は明確ではありませんが、未来予測的な心配が不安感情を引き起こします。

それでは、日々の仕事における不安は、どちらに当てはまるのでしょうか。

一見すると、「先が見えない不安」から「ある程度持続的で不安の原因が曖昧なタイプ」と捉えられるかもしれません。しかし、「初対面が苦手」「新しいことを始めるのが苦手」「早起きが苦手」といった原因が明確なケースも少なくありません。そのため、どちらの要素も絡んでいると考えられるのです。

ちなみに不安は、個人差はありますが、「ミスを恐れない」「楽観的」な人よりは、「慎重でミスを避ける」「完璧主義」な人のほうが、強く感じやすい傾向にあります。

不安が生じる主な3つの原因

不安の原因は人によって様々ですが、ここではよく見られる3つの原因を紹介します。ご自身が抱える不安と照らし合わせてみて、不安の原因を突き止めてみましょう。

不安の原因①:心身の健康の変化

心や体に何かしらの不調がある状態は、不安を引き起こしやすいといえます。「なんとなく歯が痛い」「なんだか熱っぽい」「最近、疲れやすい」など、原因が特定できない不調は不安感を募らせます。

健康状態に不安がある場合は、健康診断や医師の診察を受けるだけでも不安解消につながるかもしれません。例えば、原因不明の頭痛があるときにお医者さんから「眼精疲労が原因と考えられます」と説明されたら、なんとなくホッとしますよね。

何か心身の不調がある場合には、無理をせず専門家に早めに相談してみると不安解消につながります。

不安の原因②:人間関係や将来への不安

人間関係や進路、キャリアなど、「社会の一員であるからこそ生じる不安」もよく見られるケースです。

近年はネット社会が進んだことによる「人間関係の希薄化」や、終身雇用・年功序列の見直し、年金2000万円問題に代表されるような「将来への不安」が世の中に蔓延しています。格差や貧困は年々広がっており、そのような背景によって不安を抱える方も増えているのです。

不安の原因③:ネガティブバイアス

人はネガティブな情報のほうが、ポジティブな情報よりも意識しやすく、記憶にも残りやすい傾向にあります。この性質を「ネガティブバイアス」といいます。

楽しかった体験やうれしかった出来事はすぐに思い浮かばないけれど、「傷つくことを言われた」「人前で恥をかいた」などのマイナスな記憶はすぐに思い出せるという方は多いのではないでしょうか。ネガティブバイアスによって気持ちが後ろ向きになり、必要以上に不安が引き起こされていることも考えられます。

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不安な気持ちを正しく把握する

不安を抱えている場合には、まずその状態を正しく認識しましょう。不安を見てみないふりをしていると余計悪化してしまうこともありますから、次に紹介する方法を試し、不安の正体を捉えてみることをおすすめします。

不安を把握する方法①:数値化

不安がある場合には、その不安を数値化するのがおすすめです。例えば、「10段階中6段階くらい不安だな」「この2日間不安が続いているな」といったようにレベルや時系列で、自分自身の状態を可視化します。

そうすることで不安の度合いを認識できるようになり、対処しやすくなるでしょう。さらに、定量的に不安を測ることで、一過性なのか持続的なのか、不安のタイプも把握しやすくなるでしょう。

不安を把握する方法②:傾向の把握

「どのような状況になると不安になりやすいのか」、自分の傾向を知っておくことも有効です。自分の性格や傾向を客観的に把握することを一般に「メタ認知」といいます。これができるようになると、自分が今抱えている感情を整理しやすくなります。

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同時に、過去を振り返って不安をどう乗り越えてきたのかを思い出してみるのもいいでしょう。不安が始まるところから解消されるまでの流れがわかれば、それだけ不安への耐性も強くなります。それを繰り返すことで少しずつ乗り越える強さも備わっていくはずです。

すぐできる不安解消法5選!実行して不安解消につなげよう

続いて不安を解消するための方法を紹介します。どれも今日からすぐにトライできるものばかりなので、ぜひ参考にしてみてください。

不安の解消法①:睡眠をとる

人間の三大欲求のひとつにも数えられる「睡眠」。食欲よりも睡眠欲のほうが一般的に強く、睡眠が足りていない状態が続くと心身ともにさまざまな支障が生じてしまいます。

睡眠不足によって不安になるケースも多く、ネガティブマインドに陥っているときには積極的に睡眠をとるようにするといいでしょう。

また、睡眠の質も重要です。ぐっすり眠ることで体も心もリセットされるので、寝る前には心が落ち着く音楽をかけたり、安心できる人とちょっと電話をしたりすると熟睡しやすくなるでしょう。パジャマにこだわったり、アロマを焚いたりしてリラックスできる環境を積極的につくるのがおすすめです。

不安の解消法②:ポジティブ思考を心がける

何事もポジティブにとらえるよう意識するのも不安解消につながります。

「不安」というのは誰しもがもつものです。「平気そうに見えるあの人もきっと何かしらの不安をもっている」というように視点を変えて考えてみると、不安に追い詰められることも少なくなるのではないでしょうか。

また、先ほど説明した「ネガティブバイアス」も本来は、自分の生存確率を高めるための生物としての重要な機能です。危険や恐怖を覚えておくからこそ安全を保てるので、不安という感情をポジティブに捉えてみるといいかもしれません。

不安の解消法③:安心できるものをちりばめる

私たちは知らず知らずのうちに、周囲の環境から大きな影響を受けています。

「感情誘導効果」というものをご存じでしょうか。これは、BGMが無意識のうちに人の感情に影響を与える心理効果です。病院でゆったりとした音楽を流すと患者さんがリラックスしやすくなる、スーパーマーケットでテンポの遅いBGMをかけると店内滞在時間が長くなるなど、私たちは知らず知らずのうちに身の回りのことから影響を受けています。

これを逆手にとって、「安心できるもの」を身近なところにちりばめると不安軽減になるかもしれません。例えば、カレンダーのお給料日にシールを貼っておくと、仕事へのモチベーションアップにつながったり、組織に所属している実感をもてたりするので不安軽減が期待できます。その他にも、家族やペットの写真を飾っておいて、視覚的な安心を得るのもおすすめです。

不安の解消法④:ふわふわしたものを触る

手軽にできる不安解消の方法としては、「ふわふわしたもの」を手にしてみるのもいいでしょう。毛布やタオルのようなやわらかいものを手にすると、緊張が和らぐといわれています。また、「温かいものを持つと心も温かくなる」ということも証明されています。

このような具体的な身体的行動が心に影響を与えることを「身体化認知」といいます。心と体はつながっているので、「何か行動してみる」というのもいいでしょう。気分転換に散歩にいく、おもしろそうな映画を見に行くなど、不安になったらなんでもいいので行動してみると心境の変化が生まれるかもしれません。

不安の解消法⑤:サードプレイスを見つける

自宅でも仕事場でもない、自分なりの「サードプレイス」を見つけるのもいいでしょう。例えば「習い事」。習い事は人間関係が広がり、気の合う人にも出会いやすく、コストを負担しているので一方的に関係を絶たれてしまうような心配もほとんどありません。習い事は干渉もされにくく、ほどよい距離感を保てる「ゆるい人間関係」を築きやすいのでおすすめです。

また、喫茶店や図書館、バーでも大丈夫。長く通えてホッとできるような場所がひとつあると、ストレスや不安の軽減に役立ちます。

自分が「変わっていない」ことへの不安を覚えるのはなぜ?

「環境が変わることへの不安」を覚える人がいる一方、「変わらないことへの不安」を覚える人もいます。

日本は、偏差値教育が普及した競争社会という面があり、人と比べて「変わらない自分は劣っている」という思想や状況を生みやすい社会。そのため、「変わらない自分」が強い不安感へと結びついてしまうこともあるのです。

一つ、例を挙げてみましょう。例えば、会社に同じくらいの営業成績でありながらも、自分を成長させたいと努力している人と、今のままでいいと考えている人がいたとします。

前者は日々自分を成長させる努力を重ね、営業成績を倍以上に伸ばしました。後者の成績はそう悪くはないとしても変わらずです。すると、当初は「今のままでもいいや」と思っていた後者も「あの人と比べて、自分はこのままでいいのかな……」と不安を感じるようになってしまうのです。

このように、人が他者と比べて「変わっていない」ことへの不安を覚えてしまうのは、日本に競争社会という面があり、人と比べる状況を生みやすいということも一因となっています。

不安を覚えることは悪いことではない

一見、不安を覚えることは悪いことだと思うかもしれません。しかし、不安は人間にとって重要な感情で、既知の危険を回避することや、将来起こり得る問題に備えることなどに役立っています。つまり決して悪いことではなく、むしろ私たちの人生や社会生活にプラスに働いているのです。

ただ、プラスに働くのは日常的にある程度の不安を覚えている場合のみ。

個人差はあるものの、頻繁に不安を覚えたり、コントロールができないほど強い不安に襲われたりする場合は、「動悸」「めまい」「頭痛」「胸痛」「食欲不振」「不眠」「消化不良」といった様々な体調不良につながる恐れがあります。ときには、行動面や心理的な面に障害をもたらす「不安障害」にまで発展することもあるため、注意が必要です。

不安は誰でも経験する現象で、決して悪いことではない。不安の正体をこう捉え、あまり自分を追い込まないようにしましょう。

文=トヤカン
編集=五十嵐 大+TAPE
更新日=2023年1月17日

【監修】
晴香葉子●作家、心理学・コミュニケーション学の研究者。企業での就労経験を経て心理学の道へ。研究を続けながら、さまざまな角度から情報を提供。執筆、講演、監修などの活動を続けている。

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