元マッキンゼーのお笑い芸人・石井てる美の人生に影響を与えた3冊の本とは

「あんな仕事をしてみたいな……」と思っても、なかなかそれを実行できるだけの覚悟を持つのは難しいのではないでしょうか。

元マッキンゼーのお笑い芸人・石井てる美の人生に影響を与えた3冊の本とは

「あんな仕事をしてみたいな……」と思っても、なかなかそれを実行できるだけの覚悟を持つのは難しいのではないでしょうか。

しかし、勇気ある選択をする人は世の中にはいるもの。過去にキャリアコンパスでインタビューしたお笑い芸人の石井てる美さんは、東京大学大学院を卒業後、コンサルティング業界トップといわれるマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職し、その後お笑い芸人になったという超異色の経歴を持ちます。

そんな石井さんの決断の背景には、いくつかの本の影響があったそう。今回は石井てる美さんに、今のキャリアを選択した理由と、人生に影響を与えた3冊の本を教えてもらいました。

エリート人生的には頂点の組織でも、違和感があった


─「東大大学院→マッキンゼー」というビジネスパーソンとしての超エリートコースから、お笑い芸人として活動することになったきっかけについて教えてください。

「もともと人を笑わせたり、人前に出て友達に喜んでもらったりすることが大好きな子どもでした。高校生のときに学園祭実行委員長としてステージに上がった際に、友達から『エンターテイナーだね』って言われたのがうれしくって。しかし、『自分こそエンターテイナーだ!』なんて自負していたものの、実際にエンターテインメントを職業にすることは、『もし生まれ変わったらやること』だと思い込んでいました。

つまりしっかり勉強して、“いい大学”に行って“いい会社”に行くことこそが、現実的な人生だと思って生きていました。自分が人生で本当にやりたいことを立ち止まって考えることもなく、気づけば自分の心の声より世間の基準に沿って生きるようになっていたんだと思います。

大学院卒業後、マッキンゼーという“エリート人生”的には頂点の組織に入ることができました。しかし、だからといって幸せだったかというと真逆で、違和感が大きくなっていきました。追い打ちをかけるように、入社した年にリーマンショックが起こり、一時的に仕事が減り、仕事が入っても自分がなかなかうまく機能できず、精神的に勝手に自分を追い詰めて空回りするようになりました」

─そのタイミングが自分を見つめ直すきっかけになったんですね。

「そうですね。結局“コンサルティングがやりたくて”入社しているのではなく“マッキンゼーだから”入社した部分があったので、『ここで評価されなければならない』と必要以上にミスに脅え、萎縮するようになっていたのです。入社2年目で身も心もボロボロになっていたある日、ようやく『これが自分が人生の主役になれていない状態か!』『自分の人生なのに何をやっているんだろう』とはっと気づき、どうせ人生一回なんだから、生まれ変わったらやりたいと思っていた“ザ・エンターテイナー”である芸人になろうと決意したんです」

本から学んだ「20代は人生最大の失敗をすべき」ということ


─学生のころはどのような本を読んでいましたか?

「私はあまり本を読まない子どもで、苦手意識すらありました。それが、高校生になって学校の国語の課題で日本の近現代文学作品を読むことになり、まず二葉亭四迷の『浮雲』を読んだことで変わりました。

自分が意外と楽しんで読むことができたことに感動し、それ以来国語の便覧で紹介されているような名作から、近年話題の作家の小説までを読むようになりました。夏目漱石、森鴎外、遠藤周作、村上春樹などです。どんなに時代が変わろうと、技術が発達しようと、人間の心や気持ちというものは不変なのだという当たり前のことが、高校生の自分には新鮮な発見でした」

─20代のうちに実践しておくといいことはなんだと思いますか?

「やりたいこと、特にリスクがあることを思い切って全部やることです。挑戦したいことをやる・ちょっとでも気になることがあれば実行する。行きたい場所に行く。会いたい人に会う。遊びも恋愛もたくさんする。20代は自分の責任で生きていける大人でもあり、かと言ってまだ失敗も勲章になるからいくらでも挑戦できます。

さらに結婚などもまだ急いで考えなくてもよく、自分の人生を最高に謳歌(おうか)できる自由な10年間だと思うんです。後に紹介する本田健さんの『20代にしておきたい17のこと』からの引用ですが、『人生最大の失敗をすること』が推奨され、その挑戦が人生を豊かにしてくれるのが20代だと思います。

以下に私が20代のころ、影響を受けた本を紹介しますので、ぜひ参考にしてみてもらえたらうれしいです」

「今できることをなぜ先送りし続けるのか」を問う


『今すぐやらなければ人生は変わらない―もっと運がよくなるシンプルな法則』ロビンシャーマ著 北澤和彦訳 海竜社

(c)海竜社



「私がマッキンゼーにいたころに『芸人になろう』といううそみたいな決断を下したとき、書店でたまたま見かけたこの本をわらにもすがるような思いで手にしました。

リーダーシップと個人的成功に関する世界的な権威のひとりである著者が、タイトルの通り、今できることをなぜ人生で先送りし続けるのかを問うこの本は、私が人生のコースを変えるにあたって、背中を大きく押してくれた一冊です」

絶対に不可能なものなどないと思い知らせてくれた一冊


『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』 石川拓治著 NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」制作班監修 幻冬舎文庫

(c)幻冬舎文庫



「『絶対不可能』といわれた無農薬無肥料栽培でのリンゴ作りに成功した農家の話です。成功する保証が全く無い状況で、周りにどんなに白い目で見られようと、自分の信念を貫いて挑戦をし続ける木村さんの姿に、思わず芸人としての自分を重ね合わせて読んでいました。

奇跡が起きるくだりでは、電車内で人目もはばからず号泣してしまいました。常識に捉われず自分に従う勇気、本質を見極める力など、人生で大切なことを多く教わりました」

20代の大きな失敗は必ず人生の財産になる


『20代にしておきたい17のこと』本田健著 大和書房

大和書房



「先ほども伝えた通り26歳で脱サラして芸人になったものの、最初は何もかもがうまくいかなくて路頭に迷う日々でした。そんなときに救ってくれたのがこの本で、最も印象的だったのが『17のこと』の最初に登場する『人生最大の失敗をする』でした。

失敗をするというのは挑戦をするということです。しかも20代のうちはたとえ挑戦が実らなかったとしても、いくらでも挽回できます。不安しか無かったころに目にしたこの本にものすごく励まされ、私の人生も『これでいいんだ』と思えました」

まとめ


東大大学院からマッキンゼーといういわゆるエリートコースを捨てて、お笑い芸人の世界に足を踏み入れ活躍している石井さん。挑戦する勇気が持てずモヤモヤしている人は、石井さん自身が背中を押された本を手に取ってみては? きっと触発される部分があるはずです。

識者プロフィール
石井てる美(いしい・てるみ) お笑いタレント。1983年東京生まれ。2002年、東京大学文科三類に入学。入学後に日本国外での現地活動を志して理系に転向、工学部社会基盤学科に進学して発展途上国のインフラ整備について学んだ。同大学工学部卒業、同大学院修了後、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。同社を退社後、現在はワタナベエンターテインメントに所属し、お笑い芸人として活躍中。著書に『私がマッキンゼーを辞めた理由―自分の人生を切り拓く決断力―』(角川書店)がある。


※この記事は2016/04/18にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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