紙芝居で企業PR!? 知られざる「プロ紙芝居師」の仕事に迫る

気になるあの仕事を、求人票形式で紹介する「◯◯の求人票」シリーズ。これまで、「サッカー審判員」や「プロYouTuber」、「データサイエンティスト」、「スーツアクター」などさまざまな職業を紹介してきましたが、今回お届けするのは、プロの紙芝居師です。

紙芝居で企業PR!? 知られざる「プロ紙芝居師」の仕事に迫る

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紙芝居は昔のもの……と思いきや、今も現役のプロとして紙芝居の興行を行っている方がいます。今回はプロの紙芝居師として子どもたちをはじめ、企業イベントや結婚式、寺院などさまざまな場所で紙芝居を披露してきたプロ紙芝居師の中谷奈津子さんに突撃取材! 現在の紙芝居師の仕事内容を聞きました。


■職業名:紙芝居師

■仕事内容:お客さまへの紙芝居を使ったパフォーマンス、紙芝居の創作

■平均的な1日労働時間:20分から30分の公演を1日に2回~3回披露
(※時と場合によって異なる)

■平均的な年収:一般的な相場はありません

■求められるスキル、経験:柔軟な対応力、人前に出ても心が折れない忍耐力、創作欲

■こんな人に向いている:子どもが好きな人、人前に立って何かをすることが好きな人、お話を作るのが好きな人


紙芝居で企業向けPRも


-紙芝居師と聞くと、空き地で子どもたちを集めて駄菓子と一緒に紙芝居を披露するイメージが思い浮かびます。実際の中谷さんの紙芝居師としての仕事内容はどのようなものでしょうか?

中谷奈津子さん(以下、中谷):私の場合は紙芝居公演を全国各地の商業施設、幼稚園・保育園・学校などのイベントで披露しています。また、企業向け展示会で企業PRの紙芝居を演じております。


時には結婚式で新郎新婦のなれ初めを紙芝居にしたり、寺院から仏様などのお話を紙芝居にする依頼も受けます。公演以外では、企画に合わせて自分で紙芝居を制作しています。

最近の紙芝居の多くは、公園で水あめなどの駄菓子を売って紙芝居を披露するものではありません。確かにおじいさんおばあさん世代は紙芝居が大きな娯楽であり楽しみだったそうですが、今やなかなか触れる機会の少ない“紙芝居”は、会場で演じることによってお客さまの注目を集めるインパクトのあるパフォーマンスとして認識されているように思います。

一般的に紙芝居は「興行」としての認識が薄い


-紙芝居はどのような人々から求められていると考えていますか?

中谷:紙芝居を依頼するお客さんの意図は2パターンあります。ひとつは、今までなかったイベントをしたいと考えるお客さんです。これは企業や商品PRなどの仕事をするときに感じます。今までのプレゼン方法や販促方法とは違った語り口を望むクライアントさんですね。

もうひとつは、子どもたちを楽しませたいと考えるお客さん。こちらは子どもが集まるイベントをするときに感じます。紙芝居師としては、子どもたちに楽しいことに触れてほしいということで紙芝居に目を向けてもらえるのは純粋にうれしいです。


-多くの現場で紙芝居を披露されてきていると思いますが、紙芝居師になって良かったと思う瞬間はどのようなときですか?

中谷:演じる場所や機会が多岐にわたるので、いつも新鮮な出会いがあることですね。また、子どもたちとのエピソードや、クライアントとのやりとりは毎回勉強になります。そして何より子どもたちがかわいい! 紙芝居を真剣に見る子どもたちの表情、笑顔、笑い声は、何にも代えられない素晴らしいプレゼントです。

逆に大変なことは、紙芝居は「ボランティア」のイメージが強いので、まだ「仕事」としての認識が薄いということです。特に私のようにフリーランスで仕事をしている人間にとっては、報酬の交渉など金銭的なやりとりが難航することもしばしあります(笑)。

「なぜ紙芝居にお金払わなきゃいけないの?」と最初のころはよく言われました。なかなか「仕事」として認識されない現実は、知っておいたほうがいいかもしれません。

-たしかに、興行としてのイメージはまだあまり定着していないように感じます。実際のところ紙芝居師の平均年収やイベントの報酬はどのくらいなのでしょうか?

中谷:イベントの相場は本当にピンからキリまであるので一概にはいえません。私の場合もその都度違います。パフォーマンスのみの場合、1日あたり2回~3回公演で、平均して2万円~3万円くらいではないでしょうか。もちろん、もっと高い紙芝居師さんもたくさんいらっしゃると思います。

紙芝居制作も加わる場合は、それにかかる諸費用と制作費も報酬として頂いています。私の場合、派遣会社を通してもらう仕事と、完全フリーランスで行っている個人の仕事があるので、報酬はその時々で違いますね。

紙芝居師に求められる察知力


-紙芝居師はどのような人にオススメの仕事ですか? また紙芝居師になるための必須スキルなどあれば教えてください。

中谷:紙芝居師を目指すなら子どもが好きなことは大前提です。自分が子どものようになって一緒にその場を楽しめる人。紙芝居は演じるものですので、お芝居や人前に立って何かをすることが好きな方にもおすすめです。私のようにその都度紙芝居を制作するのでしたら、お話を作るのが好きな方や、絵をかくのが好きな方、本を読むのが好きな方にもおすすめしたいですね。

紙芝居師になる上での必要資格などは特にないのですが、とっさの判断力・瞬発力・決断力は必要なスキルだと思います。紙芝居中はいつも何が起こるか分かりません。子どもが泣き出したり、暴れだしたり(いい意味でも悪い意味でも)、ケガをするリスクも当然あります。場合によっては親御さんに叱られる可能性もあります。

また、紙芝居を演じているときに子どもたちが面白がって先に「オチ」を言ってしまうことも。そんなときにどう対処できるか。その場をしらけさせずにお話を続けられるか。その瞬間瞬間に起こる出来事に、機敏に対応できる力が必要であるように思います。

また、企業からの依頼で紙芝居をする場合、クライアントが求めている目的を察知・理解するのも必要なスキルです。数あるパフォーマンスの中でも、紙芝居という珍しい媒体を選んでご依頼いただいているには必ず理由があります。そのため、打ち合わせの段階で、クライアントさんの情報から「目的」を察知できるかによって、その後の仕事の進め方も変わってくるでしょう。場を盛り上げたいのか、どのようなPRをしたいのか、紙芝居で何をしたいのか。クライアントの意図を判断する能力も必要でしょう。


-なるほど。では実際にプロ紙芝居師を目指すとしたら、どのようなプロセスがあるのでしょうか?

中谷:すぐ仕事にはつながりにくい職業だと思います。マジシャンやジャグラーなどの、パフォーマーを派遣する会社で「紙芝居師」として登録できる会社もあるので、そことコンタクトをとって、自分を紙芝居師として登録してもらうのが一番分かりやすいかと思います。

しかし、登録されたからといってすぐにお仕事がもらえるわけではありません。まずは、ボランティアでもいいですから、実践を積むこと。保育園・幼稚園・図書館などで、読み聞かせのボランティアの仲間に入るなどして、実践=キャリアを積むことが大事だと思います。

紙芝居は親しみやすい日本文化


-今後、紙芝居師という職業はどのように変化していくと思いますか?

中谷:私は、紙芝居をたんなる「読み聞かせ」「お話会」のツールとして考えていません。人の心を動かすもの、子どもの豊かな心を育むもの、人生において大きな影響を与える日本独特の文化だと考えています。その日本の文化のひとつである紙芝居は今後、より親しみ深い語り口として私たちの生活に根付いていと思います。

実際、紙芝居師となって6年目ですが、需要は確実に増えてきています。なので、たくさんの方が「紙芝居師」という職業も意識してくれるようになったらうれしいですね。私は紙芝居師という職業には、憧れの職業のひとつになれるほどの価値があると思います。

まとめ


インターネットがますます発達する現在、紙芝居は昔ながらのイメージを変え、さまざまなシーンで需要が増えていくでしょう。あなたも紙芝居師として、多くの人々の記憶に残る語り部になってみてはいかがでしょうか?


著者プロフィール
中谷奈津子(なかたに・なつこ) 石川県金沢市生まれ。NHK金沢放送局アナウンサーの後、2009年より『紙芝居師なっちゃん』活動を開始。その土地の伝説やトリビアを紹介する「ご当地紙芝居師」を展開。東日本大震災以降、東北復興地に紙芝居で元気と笑顔を届ける活動を継続中。2013年『第2回 ニッポン全国街頭紙芝居大会』優勝。2015年「いしかわ観光特使」となり2015年3月の北陸新幹線開業日には北陸新幹線車内で観光客向けに石川県PR紙芝居を披露する。Shonan Beach FMパーソナリティーとしても活動中。

※この記事は2015/11/09にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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