若き漁師たちが起こしたイノベーション! 次世代が憧れる水産業を目指す「フィッシャーマンジャパン」とは

「カッコいい」「稼げる」「革新的」の“新3K”を実行する、水産業界のトップランナーになることを理念に掲げ、宮城県石巻市で2014年7月に発足した団体「フィッシャーマンジャパン」。

若き漁師たちが起こしたイノベーション! 次世代が憧れる水産業を目指す「フィッシャーマンジャパン」とは

「カッコいい」「稼げる」「革新的」の“新3K”を実行する、水産業界のトップランナーになることを理念に掲げ、宮城県石巻市で2014年7月に発足した団体「フィッシャーマンジャパン」。

水産業界の深刻な後継者不足に真っ向から取り組み、まずは自分たちが「真にカッコよくて稼げるフィッシャーマン」になることで、未来の世代が憧れる水産業界の形を目指しているそう。

これまでの水産業界の常識を打ち破り、革新的なチャレンジを続ける彼ら。今回は同団体の最年少メンバーであり、銀鮭の養殖・販売などを行う株式会社マルキンの常務である鈴木真悟さんに、水産業界の抱える課題や現在、進行中のプロジェクト、今後の展望までをお聞きしました。若き漁師たちの姿勢には、学ぶべき点が多くありました。

消費者の顔が見えない、世襲による後継者不足…水産業界の隠れた闇

ここ20年で半数近くまで減ってしまったという漁業人口。人手不足とともに、業界全体の高齢化の課題も浮き彫りになっています。そもそも、なぜここまで水産業界が衰退してしまったのでしょうか? 鈴木さんは、業界のゆがんだ構造を指摘します。

「水産業界の従事者が著しく減ってしまったことには複数の原因がありますが、一つは“イメージの悪さ”だと思います。漁師って3K(きつい・汚い・危険)な仕事だというイメージが強いんですよね。あとは、流通の課題も深刻。ほとんどの生産者は加工メーカーや地元の市場に食材を卸したあと、その食材がどのように使われたり、販売されたりしているのかを知りません。消費者の顔がまったく見えないと、どうしても生産者側のモチベーションが上がらず悪循環なんです」(鈴木真悟さん:以下同じ)

さらに、水産業界への新規参入を阻んでいるのが根強い「世襲」の風習なんだとか。

「漁業をする権利のことを『漁業権』といい、この権利の付与は都道府県から各漁業共同組合に委託されています。これは地元の漁協の判断により与えられる権利なので、よその土地から移り住んで漁業を始めようと思っても、まず無理です。とはいえ、地元を離れて就職する若者が増えている中で、このような世襲だけで存続できるはずがないんですよね」(同)

そんな閉鎖的な水産業界に、さらなる追い打ちをかけたのが2011年3月11日の東日本大震災でした。津波によって大きな被害を受けた宮城県石巻市では、設備も船もすべて流されてしまったのです。

震災をキッカケに若手漁師が立ち上がり「フィッシャーマンジャパン」を設立

 


震災後、何とか石巻市の漁業を復活させるべく、漁師たちは組合や組織を次々と誕生させたそうです。しかし、本質的な解決にはいたらなかったと鈴木さんは言います。

「そもそも組合を作り始めたのは、組織化することで国からの補助金が下りるから。最初こそ、なんとか復興を図りたいという気持ちで皆が団結していたものの、時が経つにつれてお金の問題等でもめ始めてしまって……。これまで個人経営者としてやってきた漁師たちは、結局、自分たちのことしか考えられない人ばかりで、本当の意味で連携することができなかったんです。

そういった現状をどうにか変えたい、水産業界のイメージを一新して若い世代を呼び込みたい、そんな思いから誕生したのが『フィッシャーマンジャパン』でした」(同)

現在は団体を株式会社と社団法人の2つに分け、活動しているとのこと。メインとなる社団法人の活動では、次世代の漁師の育成や生産者と消費者をつなぐ交流イベントを積極的に行っているそうです。

「次の担い手の育成事業としては、空き家を改修したシェアハウスを用意し、住み込みで漁師として働ける環境を整えました。現在は20代の男性4名が定住、その他にも季節労働や研修で数人が常時住んでいる状態です。本人の希望に合った漁師に弟子入りし、そこから独立を目指します。

また、生産者と消費者をつなぐための場をつくりたいとの思いと、クラウドファンディングによるたくさんの方からのご支援で、東京の中野に『宮城県漁師酒場 魚谷屋』という海鮮をメインに扱う居酒屋をオープンさせました。ホヤ、ワカメ、銀鮭など三陸沖の海の幸を現地から直送するため、一番おいしい状態で食べていただくことができます。さらに定期的に漁師が店に出向き、消費者と直接顔を合わせる催しも開催しており、漁師たちにとってモチベーションのUPにつながっています」(同)

仕事を通して自分が何を成し遂げたいのか、その気持ちを忘れないでほしい

 


団体の設立から2年が経過した今、さまざまな変化を感じていると鈴木さんは語ります。

「民間の団体が勝手に始めた活動でしたが、今や行政や漁協が賛同しプロジェクトに対して予算を組んでくれるまでになりました。これは水産業界では異例の待遇であり、非常に手応えを感じています」(同)

革新的なチャレンジを続けるフィッシャーマンジャパンの皆さんのパワーの源を聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。

「やっぱり『日本人の皆さんに一番おいしい魚介を届けたい』という強い気持ちです。一般の方はそれほど意識されていないかもしれませんが、実はスーパーなどで売られている魚介類は輸入品がほとんど。流通上の問題で日本では高い商品が売れなくなっているため、良質な食材は海外へ輸出され、質の低い安価なものが国内で出回っているんです。だから、皆さんに自国の魚介の素晴らしさをちゃんと知ってほしいと思っています。

そのためには、水産業界の人口を増やして産業を盛り上げなくてはなりません。僕たちフィッシャーマンジャパンは、2024年までに『三陸に多様な能力をもつ新しい職種「フィッシャーマン」を1,000人増やす』をビジョンとして、活動を継続していきます」(同)

最後に、20代の若手ビジネスパーソンに向けてのメッセージをお願いしたところ、「仕事で何を成し遂げたいのか」という気持ちを大事にしてほしいと、温かいエールを送ってくれました。

「僕は漁師の家に生まれたものの、もともとは漁師の仕事を『ダサい』と思っていたんです。だから東京の大学に通い、そのまま東京の商社に入社しました。食品を扱うその会社で、たまたま魚の輸出入に関わる仕事をすることになり、鮮魚の流通の仕組みを一から勉強することができたんです。生産者がこだわっておいしいものを作っても、結局値段が高いと世には出回らないことを知り、そこで初めて『本当に質がいいものを世に出したい』との思いが生まれました。

ちょうどそのころ、東日本大震災が起こってすべてが流され、水産業界の流通がリセットされたとき、『これは流通を変えるいいチャンスだ』と思ったんです。新卒1年半で、親にも内緒で会社を辞め帰郷。家業の再建からスタートし、銀鮭漁師の仕事も一から覚えました。リスクをとった行動でしたが、今となっては漁業・水産業に関わって本当に良かったと思います。こだわりの食材を消費者に届けられるだけでなく、直接触れ合うこともできる。商社に勤めていたときは、こんな充実感はありませんでした。

皆さんにも『仕事を通して自分が何を成し遂げたいのか』という気持ちを一番大事にしてほしいです。ただ、自分の実力を過信せず客観的な視点で、『自分がやりたいこと』と『できること』を考えるといいのかなと。理想の働き方をかなえるためには、絶対にがむしゃらに働かなければならない時期があると思います。僕もそうでした。でも明確な目的が見えていれば、きっと仕事の面白さに夢中になれるはずです」(同)

まとめ


衰退の一途をたどっていた水産業界にとって、救世主ともいえる「フィッシャーマンジャパン」の存在。いつの時代もイノベーションを起こすのは、胸に情熱を秘めた若者に他なりません。

彼らのチャレンジングな活動が、水産業界の未来を飛躍的に変えることはまちがいないでしょう。新しく生まれ変わろうとしている水産業界を担うのは、今これを読んでいるあなたかもしれません。


識者プロフィール
一般社団法人フィッシャーマンジャパン 2014年7月に発足。世界三大漁場の海をフィールドに活躍する三陸の若きフィッシャーマンたちが、地域や業種の枠を超えて、ホームの東北から日本全土へ、そして世界に向けて、次世代へと続く未来の水産業の形を提案していく最強のチームを結成。まずは自分たちが「真にカッコよくて稼げるフィッシャーマン」になり、未来の世代が憧れる水産業の形を目指す。
公式サイト:https://fishermanjapan.com/#/top

※この記事は2016/11/17にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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