「“好き”を仕事にしているのに、生きづらい…」26歳・アパレル販売職(男性)の悩みを、 アサダワタルさんに相談しました。

読者さんから悩み相談のメールが届きました。

「“好き”を仕事にしているのに、生きづらい…」26歳・アパレル販売職(男性)の悩みを、 アサダワタルさんに相談しました。

読者さんから悩み相談のメールが届きました。

件名:好きを仕事にしたのですが、悩んでいます…。

FROM:26歳・アパレル販売職(男性)

本文:学生時代からファッションが好きで、アパレルの販売員になりました。でも、販売の仕事を始めてみると、売上のノルマは厳しいし、労働時間も長い(無理なスケジュールで売り場のリセットをやらざる得ない状況が頻発し、残業が多いです)。それに、給与も決して高くない。上司に相談してもきちんと取り合ってくれないし、周りの仲間に相談してみると「好きで選んだ仕事なんだから、嫌なら他の場所に行けばいいんじゃない?」なんて言われます。だから日々モヤモヤしています。転職も視野に入れていますが、自分が次に何をしたいのかもわかりません・・・。アドバイスが欲しいです。

この悩みに答えてくれたのはアサダワタルさんです。アサダさんにあえて肩書きを添えるなら、「文筆・音楽・プロデュース・講師業」。

滋賀と東京の2カ所に拠点を持ちながら、ある日は、東京・小金井でアートイベントの企画打ち合わせを行い、またある日は、東京・恵比寿の東京都写真美術館で音楽ユニット「SjQ++」のメンバーとして芸術祭に参加し、また別日には、京都精華大学でソーシャルデザインの授業を行う。

そしてあくる日には、大阪・心斎橋の書店「スタンダードブックストア」で、芸人・西野亮廣さん(キングコング)とトークイベントを開催する。

--様々なコミュニティに所属しながらも、それらを越境し、新しいつながりやコミュニケーションを創造し続ける人。それが、“コミュニティ難民(※)”アサダワタルさんなのです。

※“コミュニティ難民”とは…特定の分野のコミュニティに重点的に属さず、同時に表現手段も拡散させることで、新たな社会との実践的な関わりを生み出す人々を指す、アサダさんが提唱する新しい言葉です。


識者プロフィール
日常編集家 アサダワタル 氏

1979年大阪生まれ。文筆・音楽・プロデュース・講師業。オフィス「事編kotoami」(東京、滋賀)主宰。滋賀県立大学大学院環境科学研究科博士後期課程単位取得退学、京都精華大学ポピュラーカルチャー学部非常勤講師。言葉と音楽を通じて、障害福祉や地域づくり、住宅政策やキャリアデザインなど領域を越境し、新しいコミュニケーションの回路を創造している。著書に『住み開き』(筑摩書房)、『コミュニティ難民のススメ』(木楽舎)、『表現のたね』(モ*クシュラ)、CDに『歌景、記譜、大和川レコード』(路地と暮らし社)等。これまでユニット「SjQ/SjQ++」のメンバー、また個人として様々な音楽プログラムの開発、アートプロジェクトの企画演出に従事。

僕も昔は、迷いの連続でした。


--やりたかった仕事、好きだから始めた仕事。でも、実際にその仕事に挑戦してみると、思っていたのと違った…。という状況に陥っている人って多い気がするんです。いくつものコミュニティを自由に行き来するアサダさん。26歳・アパレル販売職(男性)さんの悩みへのアドバイスをお願いします!!

アサダ:“自分が次に何をすればいいのか分からない”というのであれば、まずは自分が興味を持っている様々な「場所」に片っ端から顔を出してみてはいかがでしょうか。例えば、それは僕がやっているようなトークイベントでもいいと思います。

興味を持った場所=コミュニティに足を踏み入れ、そこで知り合った「横のつながり」を頼りに、また新しいコミュニティに参加する。そういった経験を積み重ねることで、新しい「居場所」を発見できると思いますよ。

※アサダさんは、様々なトークイベントやワークショップを開催しています。



--それって、アサダさんご自身が実践してきたことなんでしょうか?

アサダ:そうですね。実践してきました。そこに至る経緯を説明するために、まずは僕の学生時代の話をしますね。

--はい、お願いします!!

アサダ:学生時代の僕は、とにかく「なりたいもの」っていうのがホントになかった。僕が通っていた高校は進学校で、友人たちは将来のビジョンをしっかり持っていたんですけど、僕には全然なかったんですよね。だから、とりあえず、「なりたいもの」を見つけるための“モラトリアム(※)”を過ごすために、大学に進学しました(笑)。

※“モラトリアム”とは…人間の発達を可能にする準備期間のこと

--なるほど~。ある意味、潔い進学理由ですね(笑)!

アサダ:はい(笑)。高校時代はブラスバンドで打楽器をやっていたので、それをきっかけにドラムを始め、「越後屋」というバンドにドラマーとして参加。学業よりもバンド活動に熱中していましたね。そうしてモラトリアムを過ごしながらも、頭の片隅には「結局3回生になる頃には、就職活動するんだろうなあ」という、自分自身に対して淡い期待のようなものを持っていたんです。ところが…。

--と、ところが?

アサダ:授業にはほとんど出席せず、音楽活動とバイトに明け暮れて。結局、就職活動をせずにいつの間にか大学3回生が終わりました。そして、4回生になってからバイクで事故ってしまい、長期入院している間に就職活動の時期は終わってしまったんです(笑)。

その頃、バンドも本格的に活動していて、“くるり”がプロデュースするレーベルからCDを出すことが決まり、ライブとレコーディングにも多くの時間を費やす日々を送り、そのまま大学を卒業してしまいました。

※学生時代に「バンド」というやりたいことが見つかったまでは良かったと語るアサダさん。



--大学卒業後は、どうしていたんですか?

アサダ:音楽活動だけだと小銭を稼げる程度。だから卒業して1年目はアルバイト。2年目からは契約社員として、印刷会社でDTPオペレーターをやっていました。音楽は本格的にソロ活動を始めたり、現代美術のシーンへも活動を広げていました。

※20代のアサダさん。ライブ活動がメインだった頃の写真です。



アサダ:でも、会社で働くという「稼ぐこと」と、表現活動が一切交わらないことに違和感を覚えるようになってきたんです。会社の休憩時間や飲み会の席でも、同部書の先輩たちと音楽などお互い趣味の話をすることはなく、当たり障りのない会話ばかりでしたから。まあ僕自身が見た目を含めて他の正社員の方に比べれば浮いていたので近寄りがたい雰囲気が出ていたのかもしれません(笑)。でも、やっぱり、この“分断”が何とかならないか、と思ったんです。

「コミュニティ」の分断への違和感。それが無くなる「場所」を探したんです。

 

※「好きなこと(表現活動)」と「稼ぐこと(会社で働くこと)」、その2つのコミュニティが、なぜ分断されるのかに疑問を持ったんです。と、アサダさん。



アサダ:「表現活動」と「会社で働くこと」の並行・両立はできますが、両者を交わらせることはかなり難しいと実感したんです。そんな結論が出た頃、勤務していた印刷会社の社長に「いつまでフラフラ好きなことしてるの? 正社員になってもっと働くか、そろそろ決めたら?」と誘ってもらって…。

でも結局、印刷会社は退職しました。やっぱり僕は「表現活動」に比重を置きたかったんです。そして、こう思いました。「好きなこと(表現活動)」と「稼ぐこと(会社で働くこと)」の両方を中途半端にやるのは、もうやめよう。それがコミュニティへの違和感であり、「生きづらい」と思っている原因だから。どちらにも力を注ぎたい自分を肯定してあげた上で、次のアクションを考えたんです。

--それで、アサダさんも居場所を求め、色々な「場所」に足を踏み入れ始めたんですね!

アサダ:はい。当時住んでいたのが大阪だったので、大阪市内の様々なライブハウスや、ギャラリー、カフェ、ミニシアターなどに足繁く通いました。アーティスト活動に関わる諸先輩の仕事を間近で体験することを積み重ねて、とにかく時間があれば現場を訪ね歩いたんです。そうした中で、ボランティアスタッフとして手伝ったり、一からイベントを企画させてもらったりしました。

※アサダさんの著書「コミュニティ難民のススメ」。特設サイトもある。



--そうやってアサダさんが、たどり着いたのは?

アサダ:芸術による社会活動に取り組む「ココルーム」というNPOでした。ココルームが運営するアートスペースでライブを行ったことが縁となり、スタッフとして参加したんです。カフェ兼舞台スペースを運営し、自分も舞台に立ってライブもしながら、イベントのブッキングや舞台の展示の設営、フリーペーパーの編集など、様々な業務に従事しました。そうやっていくうちに、「表現活動」と「働くこと」の歯車がかみ合って動き始めたんです。

--なるほど。いろんなコミュニティに触れながら、生き方やキャリアを考え、見つけていく。それがアサダさんの原点なんですね。だから、相談者の26歳・アパレル販売職(男性)さんの場合も、興味を持っている様々な「場所」に顔を出してみろというアドバイスを送るわけかあ! でも、アサダさん。新しいコミュニティに一歩踏み出すことが苦手な人も多いと思うんです。そういう場合は、どうしたらいいでしょうか?

アサダ:分かります。新しいコミュニティに飛び込むのは勇気が要りますよね。そういう方は、無理に居場所を求めたりする必要はないと思います。

--え~。と、いいますと!?

アサダ:むしろ、好きなことを、ただただひたすらやり続けて、極めていった方がいい。そうすると、それに注目した周囲の人たちを中心に、新しいコミュニティが生まれていきますから。

--なるほど~。コミュニティを自ら生み出す。そうした「居場所」の作り方もあるんですね!

アサダ: はい。最近良く聞く「コミュ力」や「コミュ障」といった言葉がありますが、そういった言葉に惑わされる必要はありません。誰とでも明るく流暢に喋ることが「高いコミュニケーション能力」ということにはならないと思います。口数は少ないけど、「行動を起こすこと」それ自体がコミュケーションになり、人々を巻き込んでいる友人が僕の周りにもいます。

--では、最後に自分らしい「居場所」を見つけたいと考える人たちに、アドバイスをいただけますか?

アサダ:昔は、百の仕事ができる人のことを、「百姓」と呼びました。しかし、今は一人の人間が一つの仕事に専念するのが普通です。長い歴史から見れば、こうした今の働き方がメジャーな働き方とは言えないかもしれません。地域や職種などコミュニティを越え、色んな仕事を組み合わせて働く。そんな働き方を取り入れても、いいかもしれませんね。

 

アサダさんからの回答まとめ


1.自分が興味を持っている「場」に顔を出して、横のつながりを作り、また新しいコミュニティに飛び込んでみよう。そこから、自分のあたらしい「好きなもの」や「やりたいこと」が見つかるかも。

2.新しいコミュニティに飛び込むのが苦手なら、好きなことを、ただただひたすらやり続けて、極めてみよう。

3. 色んな仕事を組み合わせて働く」という選択肢もある!

(取材・執筆:眞田幸剛)

※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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