掛け算が心奪う新商品を生む! ガリガリ君の商品企画担当者に聞く「アイデアを形にする方法」

ソーダにコーラ、梨に桃。コーンポタージュにナポリタン…!?

掛け算が心奪う新商品を生む! ガリガリ君の商品企画担当者に聞く「アイデアを形にする方法」

ソーダにコーラ、梨に桃。コーンポタージュにナポリタン…!?

なんと、これは全てアイスの味。清涼感あふれる味から、私たちの意表を突くようなユニークな味まで幅広いラインナップをそろえているのが、アイスメーカーの赤城乳業が開発・販売している「ガリガリ君」。すべての世代から愛される「ガリガリ君」はさまざまなアイデアでいつも私たちの心とおなかを満たしてくれています。

毎年新たな商品が発売され、今までに100種類以上という数の味を世に送り出してきたガリガリ君。その商品のアイデアは一体どのように生まれ、どんな試行錯誤を重ねながら私たちの手元に届くのでしょうか。

今回は2012年に“売れすぎて販売中止!”とニュースになった、あの「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」の企画・担当をした赤城乳業株式会社マーケティング部所属、商品企画担当の岡本秀幸さんに、数々のヒット商品を生み出す商品企画のお仕事についてインタビュー。

岡本さんは一体どのようにして、当時の話題をさらったこの商品を作り上げたのでしょうか…?

商品企画職にとって必要なのは、さまざまなスキルのバランス

 


「商品企画職」といえばメーカーの中では花形の職業。希望する人が多くいるからこそ、商品企画職に就くことは難しく、多くの企業では理系出身で、さらには営業や他の職種を数年ほど経験したのちに抜擢されるケースが一般的だといわれています。

赤城乳業の場合はどんな流れで商品企画や開発の担当になるのか、岡本さんに聞いてみました。

「弊社の場合は少し特殊で、理系・文系は関係なく、なおかつ入社1年目から商品企画・開発に携わることができます。私自身、大学では理系の学部に在籍していましたが、途中から文系寄りの経営について学んでいましたので、文系出身といってもいい学生でした。就職活動中に赤城乳業の、どの若手にもチャンスが巡ってきやすい方針を知ってぜひ受けたいと思い、新卒の採用試験を受けたんです」(岡本秀幸さん、以下同)

見事内定を勝ち取り、入社1年目から開発部で新商品の企画・開発を担当してきたという岡本さん。気になる赤城乳業の商品企画職ですが、具体的にどんな仕事を担当するのでしょうか?

おおまかな流れは「(1)市場調査 (2)商品の企画 (3)試作品作り (4)社内外へのプレゼン (5)宣伝」だと岡本さんは語ります。

(1)市場調査


「消費者がなにを求めているか?

これを広く深く知るために市場調査として世の中のトレンドを追うことは重要な仕事のひとつです。新聞を読むことはもちろん、休日に人気スポットや話題のスイーツ店に行って、実体験することもしばしば。ですので日頃からトレンドを追うことが好きな人が多いですね。私の場合、他社のアイスの新商品は必ずチェックしています」

(2)(3)商品の企画と試作品作り


「『ガリガリ君』の場合、開発担当、営業担当、技術担当、購買担当、デザイナーなどの違う部署から担当者が集まって“『ガリガリ君』プロジェクト・チーム”を結成し、商品の企画をしています。商品を企画する際に大切にしていることは人々の間で話題になる商品を作ること。“ただおいしい商品”だけでは売れませんので、つい誰かに話したくなる商品だったりSNSにアップしたくなる商品だったりしなくてはならないんです。企画会議ではチームごとに30種類以上のアイデアを出し、そこから選ばれた5種類ほどの試作品を作り、改良を重ねてプレゼンに備えます」

(3)社内外へのプレゼン
「これから世に出したい商品のプレゼンは社内向け、社外向けと2回行います。まず、社内プレゼンが通ったら商品化が決定します。そして商品が出来上がったら次はスーパーやコンビニなどの販売店や卸店に向けてプレゼンをします。
データをもとに“売れる”という裏付けをつくって、相手を説得する。社内外の相手に納得されるような提案をしていきます」

(5)宣伝
「他のメーカーは広報部が宣伝を担当していることが多いようですが、赤城乳業では開発部と一緒に商品企画をするマーケティング部も宣伝を担当します。宣伝で大切なことは消費者に“『ガリガリ君』を食べたい場面”をアピールすること。

初夏に駅前で『ガリガリ君リッチ グリーンスムージー味』と、同じく弊社の商品『ガツン、とアロエ』を計2,000本無料配布するイベントでは、『夏の朝はアイスでシャキッと爽快! 朝アイスはじめてみませんか?』というキャッチコピーを掲げ、朝にアイスを食べる習慣を提案しました。そうやってモノを売る仕掛けをつくることも商品企画の仕事です」

イベント開始の8時になった瞬間、学生やサラリーマンなど一斉に人だかりが!



他の職種であってもこれだけ多くの業務を縦断することはなかなかないのでは。このように多くの工程に携わることで、より深くモノ作りへの理解が深まり、何が必要で何が足りないのかがはっきり見えてくるのかもしれません。その中で、最も重要になるのは“数字”を把握して、論理的に考えることなのだと岡本さんは話します。

「プレゼンをする際も、ただ商品の良さをアピールするだけでは相手を納得させることができません。分析したデータを使いながら“なぜ売れると思う”商品なのか、理論的に説明します。また、こういうPRをすれば宣伝効果はいくらになる、と宣伝費の広告換算をすることも。

もちろん企画力も必要ではありますが、最終的に商品として売りに出すまでには総合的なスキルが求められるんです」

企画力だけではなく、トレンドを見極める目利き力、売り上げやデータ統計などの数字などをみる分析力に相手を説得させるための交渉力。どれかに偏るのではなく、この総合力をバランスよく活かし、私たちの心をときめかせるガリガリ君は生み出されているようです。

「アイデアを生むのは掛け算だ」ヒット商品はこうして生まれた

 


アイスの常識を覆すエキセントリックな発想が話題を呼び、大ヒットを記録した「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」。この商品はなんと岡本さんが入社4年目の26歳の時に企画したのだとか。

「私自身、入社して早々に商品企画・開発を担当していますが、赤城乳業にはフレッシュな感性や過去にとらわれない発想ができる若い人に商品開発を任せようという社風があるんですね。若い人を抜擢すると経験不足というデメリットもありますが、そこは先輩がサポートします。

弊社では企画力を伸ばすための教育も行っており、私も新入社員の時は毎日3本、1年間で1,000本ものアイデアを出しました。新商品のアイデアでもパッケージのデザインのアイデアでも、とにかくなんでもいいんです。

毎日、大学ノートにアイデアを書き出していましたね。色を塗ってカラフルにしたり、自分なりに見せ方にもこだわったりして。人によってはアイデアが思いつかなくなって苦しむ人もいましたが、そうやって毎日アイデアを出すことで企画力を鍛えていくことができました」

そんなストイックな環境の中で「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」のアイデアが生まれます。

「『ガリガリ君』は友達や家族でワイワイ楽しみながら食べるアイス。そこで、ワイワイする場所ってどこかなと考えていたところ、ふと駄菓子屋さんの風景が頭の中に浮かびました。さらに駄菓子屋さんの売り上げについて調査してみたところ、コーンポタージュ味のスナック菓子が人気であることが分かったんです。

また、ある日たまたまテレビをつけていたら、芸人さんが暑い中、缶のコーンポタージュを飲んでいる様子が映っているのを見ちゃって。『(灼熱の中で熱い飲料を飲むのはつらいけれど)コーンポタージュ、おいしい~』という言葉を聞いた瞬間、何かが体に走ったんです。

『熱い商品を冷やして食べる』というコンセプトは、インパクトがあるし新しい切り口になる。駄菓子屋さんにある商品を作るという“アイデア”とコーンポタージュ味が人気という“データ”、そして日常の中で見つけた“切り口”の3つが合わさって『ガリガリ君リッチ コーンポタージュ』を思いつきました」

尖ったコンセプトに誰もが好きな定番人気を掛け合わせる。そこへさらに根拠となる数値データを掛け合わせて…。それは、3つのアイデアの素が共鳴し合い、新たな商品のアイデアがこぼれ落ちた瞬間でした。

失敗から学び得た、周囲を巻き込む力

 


コーンポタージュ味のアイスとは斬新なアイデアではありますが、周囲の反応はどうだったのでしょうか?

「企画段階では、コーンポタージュ味のアイスなんて本当に売れるのか?と周囲は懐疑的でした。これまで扱ったことのない原料を使うことにもなるため、関係部署の負担も増えてしまう。たとえばスイカ味や梨味の商品を作るのなら、今あるラインナップと類似しているため、買い付けする原料先を見つける手間も少なく、工場の製造ラインもこれまで通りの工程で済みます。

しかし今まで作ったことのないジャンルの商品を作るとなると、材料の買い付け先を新たに開拓して、工場のライン工程に新しい作業を追加しなくてはなりません。そうなると作業が一気に増えるのでなかなか難しいんです」

コーンポタージュ味のガリガリ君を誕生させるまでの課題は山積み。そんな中、どうやって周囲を説得していったのでしょうか。

「社内プレゼンをする前の段階から、先輩や営業担当、工場担当の方それぞれに相談して、コーンポタージュ味を実現するための協力者を増やしていきました。

社内プレゼンを通して商品化が決まってから、関連する部署の担当者に依頼していきますが、前段階からみんなを巻き込み、準備をしていったんです。あとは常に真摯な気持ちで、誠心誠意働くこと。当たり前のことですが、誠心誠意働くという姿勢を忘れないことで信頼されるようになりますし、周りが協力してくれるようになるんです」

この商品を作るときに、岡本さんは以前経験したある失敗をもとに、心がけていたことがあるそうです。

「実は入社して1、2年目の時に大失敗をしたことがありました。以前、新商品を作ることになった時、誰にも相談しないまま勝手に進めてしまって。その結果、協力が得られず、さらには商品化しないことになった上に、テスト費用や設備投資などで大きな赤字を作ってしまったんです。この経験を機に、次は1人ではなく積極的に声をかけて仲間を増やそうと思いました。

当たり前のことですが、仕事は1人で進めるものではありません。

私が考えた商品のパッケージデザインをするデザイナーがいて、商品を作ってくれる工場スタッフがいて、商品を販売店に案内する営業がいる。そうやってみんなの力と協力があってこそ、一つの商品が世の中に出るんです。弊社の商品企画担当は、商品の企画から販売までのすべての工程に携わるため、大変ではありますが協力することの大切さをより肌で実感できる気がします」

自分の作ったものでお客さんが喜んでくれるというモチベーション

 


音楽グループとコラボした「ガリガリ君リッチ ほとばしる青春の味」や桔梗信玄餅の桔梗屋が監修した「ガリガリ君リッチ 黒みつきなこもち」など、他社とのコラボによる化学反応でガリガリ君はますます進化を遂げ、年中楽しめるアイテムとして私たちに「おいしい・楽しい」を届けてくれています。

失敗から仕事における大切なことを学び、無事「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」を世に送り出した岡本さん。仕事のやりがいについて、このように話していました。

「『ガリガリ君リッチ コーンポタージュ』は発売と同時に大ヒットし、ニュースにも取り上げられました。自分が生みだした商品がたくさん手に取ってもらえ、大きな反響を得られたことは私自身の自信やモチベーションにもつながりましたね。

なによりもお客さまに喜んで食べてもらえたことが本当にうれしかったです。これが商品企画を担当する上で、一番の醍醐味だと思っています」

バランスをとりながらさまざまなスキルを掛け合わせてアイデアを生み、さらにそこへ掛け算するように人や企業を巻き込んで形にしてゆく。変わらずに愛され続け、それでいて変わり続けるチャレジを欠かさないガリガリ君は、そんなパワーの相乗効果で生まれているようです。

失敗は成功の元。投げ出さず次への解決策を見つけることができれば、あなた自身の成長にもつながっていくはずです。20代の今だからこそ、多くの失敗や経験をすることで、学びながらも“冒険”することができるのではないでしょうか。

そして、岡本さんのように一つの枠にとらわれることなく、アイデアやスキル、そして人を掛け算して巻き込みながら、あなたの新たな価値を見いだしていきませんか?


(取材・文:野田綾子/撮影:菊池貴裕)

識者プロフィール
岡本秀幸(おかもと・ひでゆき)
「ガリガリ君」や「ガツン、と」などのアイス菓子商品を販売している赤城乳業株式会社のマーケティング部に所属。2012年に販売し、大ヒットした「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」を企画・開発。現在は主任として日々、新商品の開発に勤しむ日々を送っている。

※この記事は2017/08/30にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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