【海外との働き方比較】ベトナム流「幸せに生きるために働く」ということ

海外の働き方事情を知ることは、私たちの今の働き方を見直し、新たな気づきを得ることにもつながります。

【海外との働き方比較】ベトナム流「幸せに生きるために働く」ということ

海外の働き方事情を知ることは、私たちの今の働き方を見直し、新たな気づきを得ることにもつながります。

今回は日本とベトナム両国での就業経験を持つクィンさんから、ベトナムの働き方事情や日本との仕事観の違いについてお話を伺いました。日本とは一味違う、彼女の仕事に対する思いとは?

家族>>>仕事! 人生を豊かにするために働くのがベトナム流


ベトナム人の両親の間に生まれたクィンさんは香港で幼少期を過ごしたのち、3歳の頃に日本へ移住しました。家庭ではベトナム語、学校の先生や友達との間では日本語を使っていたため、気づいた頃には同時通訳(話者の話の進行と並行して、ほとんど同時に通訳すること)ができるようになっていたそうです。

「ベトナム人の両親は日本語を十分に話せず苦労していましたので、私は小さい頃から、親と日本人の先生の間に立って通訳をしていました。そんな体験もあって、学生の頃から日本とベトナムの懸け橋になりたいと強く思っていたのです」。

高校卒業後は、非常勤講師として日本の小学校に通うベトナム人の児童に日本語を教えていたというクィンさん。24歳の時にベトナムにある日系企業に就職して1年間働いた後、現地にて25歳でコンサルティング会社を設立。日本語とベトナム語、言葉だけでなくその背景やニュアンスも的確に伝えることができる、その高い語学力という強みを活かして、日本企業のベトナム進出をサポートしてきました。現在は出産を機に、フリーランスの司法通訳士と日本語教師の仕事を掛け持ちしているのだとか。

「日本で育ってきたので日本人の性格や生活に慣れていましたから、初めはベトナム人のスタッフと働くことに少し戸惑いがありました。彼らは温暖な気候のせいか時間にルーズで、30分の遅刻は当たり前。電車の遅延も数分単位で管理する日本では、考えられませんよね。仕事の指示をする時も『何を・いつまでに・どうするか』明確に伝えないと動いてくれません。

ですが、ベトナム人は優しくて温厚。彼らは仕事より家族をとても大切にしているので、基本的には残業しません。仕事は仕事で時間内に集中してきちっとこなす。後の時間は家族との時間を楽しく過ごす。また、小さなことは気にしない、寛容な心を持っているところはすてきだなと思いました。日本人は真面目で几帳面。秩序を重んじるため会社や誰かのために働いているイメージですが、ベトナム人は自分の人生を楽しく過ごすために働いている。とてもシンプルですよね」。

日本では、プライベートや家族と過ごす時間を調整してでも仕事をするのが美徳。そんな働き方を見直そうと、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が多々使われています。家族との時間を確保するために仕事を調整しようとする、ベトナム人のバランスの取り方は少し見習いたいところかも…?

お昼になると、道やバイクの上で器用に昼寝する人がチラホラ。


副業が自由なベトナム、スタートアップ企業も増加


終身雇用制度のないベトナムでは、副業を禁止していません。そのため、20代でも本業を持ちながら副業をする人は珍しくないのです。例えば、エンジニアをしながらフリーランスで別会社の仕事をしたり、OLをしながら海外から品物を仕入れてFacebookで売ったりしている人もいるそうです。

また、大学教授が企業の社長や管理職に就いているケースもあり、優秀な大学生はヘッドハンティングをして自社に採用したり、知人の会社に紹介したりすることも。

「収入が高ければ高いほどいいという考え方で、副業をする人がほとんどですね。しかし中には、趣味や好きな仕事をパラレルキャリアとして、楽しみながら働いている人もいる。ベトナム人は自由な感性を持っている人ばかりで、どちらかというと仕事より人生を楽しむことを優先します。だから自分の好きなことや家族のほうが優先度は高いんです。ベトナム人の友達と飲みに行った時は、仕事の話はほとんどせずに恋愛の話ばっかりですね(笑)」。

ベトナムで働く同世代のビジネスパーソンは、自分の人生を思い切り楽しんでいることがうかがえますね。ベトナム国内では「2020年までに100万社のスタートアップ企業を創出する」というスローガンが掲げられ、毎年多くの若い企業家が誕生しているという側面も。オンラインでコンサートやイベントのチケットの売買ができるWEBサービス「Ticketbox」は、2013年に誕生し、今やベトナムでは知らない人はいないほどの成長を見せています。

人生は一度きり。だったら思い切って若いうちに自分のやりたいことに挑戦してみたほうがいい。ベトナムの若者からはそんな声が聞こえてきそうですね。

第1外国語は日本語? 海外に目を向けるベトナム人たち


ベトナムの人口はおよそ9000万人、国民の約半数が30歳未満です。大学進学率は約20%のため、大学を卒業すること自体がステータス。逆に大学を卒業していなければ工場勤務、バイクタクシーの運転手やレストランやショッピングセンターのスタッフなど、昇給の機会が少ない職業に仕事が限定されてしまうことも少なくはありません。

「大学新卒の初任給は約4万円。ベトナムでは一人暮らしをするという概念がなく、基本的にルームシェアや家族と暮らすため、この給料でもそれなりの生活ができます。大学を出ていないベトナム人の月収は2万円くらいでしょうか。

ベトナム人は家族を大切にするので、親もとを離れ田舎から出てきた場合、少ない給料の中から親に仕送りをします。低収入だと家族を養えないので、最優先事項は『やりがい』ではなく給与。彼らにとって仕事とは、自分と家族が生きていくためのものなのです」。

多くの大学生は給与の高い職業に就くために、大手企業や金融、勢いのあるIT企業などを目指して就職活動をします。しかし、最近では大学を卒業しても希望する企業に就職できない学生が増えているのだとか。

「首都のハノイやホーチミンなどには大手企業や外資系企業が集中していますが、買い手市場のため就職難民が増えています。一方、郊外や地方の工場などでは人手が足りていませんが、大学卒業者が就きたいと思う仕事はほとんどありません。結果、希望する企業に就職できない大学卒の若者は、ハノイやホーチミンに留まってアルバイトをしながら就職活動を続けています」。

そんな国内の厳しい就職事情を受けて、欧米諸国や日本へ留学や就職を希望する学生も多いようです。ある小学校では小学校1年生から第1外国語が日本語になるほど、日本の人気は高いそう。ちなみに、初等教育段階での日本語教育の導入は、ベトナムが東南アジア初なのだとか。

「ベトナムより給料が良いことと、親日家が多いことから日本は人気なんです。親日家が多いのは、日本が過去にベトナム戦争で傷ついたベトナムに、病院・学校・橋・高速道路・空港などを建てるなどして、支援をしてくれてきたから。ベトナム人は日本に対して恩情を感じていますし、日本人の『真面目・礼儀正しい・思いやり・和の心』といった気質や『ものづくり』といった文化への憧れも強いのです」。

中心地はバイクが多く、ものすごい熱気に包まれる。


「このために働く」明確なビジョンが世界で生きる強みになる



幼い頃に抱いた目標をかなえるために、日本とベトナム、2つの国で働いてきたクィンさん。仕事をする上で心がけてきたことは何でしょうか。

「ベトナムは平均年齢が30歳と若い人が多い国。給与水準がだいたい日本の1/5。生活はできるけど、もっと豊かになりたいという野心や高い向上心を抱いている若者が多い。待遇が良い企業への転職は当たり前ですし、先述したように起業する人もたくさんいます。

そのたくましい姿は、かつて戦後に高度経済成長期を迎えた日本人のようにも映るんです。私の両親はベトナム戦争の難民で、命からがら香港へ逃げてきました。その後、父は日本で会社を起こして成功。私自身、小さい頃から父やそのまわりの野心的な大人たちの背中を見て育ってきましたが、世界にはそんな人たちがごまんといる。

そんな中で、私は自分にしかない強みを活かすことが使命だと思って仕事に取り組んできました。そして、いつも目の前の相手に対して役に立ちたいと考えています。なぜなら相手が望むことを見つけて応えることが仕事の基本だからです。これは国内外関係なく、また、どんな仕事にも共通する大切な考え方ではないでしょうか」。

自身の仕事にかける熱い気持ちを語ってくれたクィンさん。マイペースと言われる国民性ですが、シンプルで強い「家族愛」のために仕事と向き合う姿勢は、心を動かされるものがありました。皆さんは今、何を得たいと思って仕事に取り組んでいますか?

(取材・文:ケンジパーマ/編集:東京通信社)

識者プロフィール

 


Tran To Quynh(トラン・ト・クィン)
1981年生まれ。
ベトナム人の両親と共に香港で幼少期を過ごした後、3歳で来日。
24歳で渡越し日系企業に就職。25歳でコンサルティング会社を設立。日本企業のベトナム進出をサポート。現在はフリーランスとして司法通訳士、日本語教師などの仕事を掛け持つ。

※この記事は2018/03/29にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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