東京には東京のドレスコードがある? 地方で直面した、東京ではたらく意味【二拠点生活のリアル#4】

北海道と東京の二拠点生活を選んだ理由や、二拠点生活をしながら働くリアルを描く本連載。前回の記事では二拠点生活を選ぶことのメリット、幸福度の高い生活について書きました。でも当然、デメリットもあります。今回は二拠点生活のデメリットや、実際に経験した心苦しい出来事について振り返ります。

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東京のドレスコードって? 離れた東京との心的距離

二拠点生活を始めて間もないころ、とある取引先の代表がFacebookに投じた言葉が目に入ってきました。

『東京には東京のドレスコードがある』

それは、地方から東京の仕事を受託するフリーランスの限界について書かれた投稿でした。曰く、住んでいる場所の距離は信頼に直結するものであり、日々の生活で吸収するはたらき方や情報はその人自身であるから、東京に住んでいるひとでなければ、安心して東京の仕事を任せることはできない、というものでした。

私にあてられたメッセージでもないのに、ひどく傷つきました。そのひとの意見が間違っているからではなく、自分自身が悩んでいる部分にぐさりと刺さる内容だったからだと思います。

二拠点生活は言い換えれば、拠点の輪の外を知る人間になるということです。

ノリで開催される飲み会、雑談から発展する打ち合わせ。そういった偶発的なイベントの多くは、その場で暮らしているからこそ享受できるものです。また、それらを違和感なく成立させるのは、同じ空気を吸っているからこそ自然に出てくるふるまいや言動なのかもしれません。だとすれば、たとえ東京に出張をしたとしても、私はその輪には入れない。

この疎外感は、二拠点生活を始めてすぐに感じました。月に1回東京に足を運ぶからこそ、東京で暮らす人々と自分の価値観や情報にズレが生じていく過程を突き付けられたのです。そして、この積み重ねが“東京のドレスコード”なのだとすれば、私は東京のドレスを身にまとうことができない地方の人間なのだと、強く打ちひしがれました。

どちらの拠点でも“はぐれ者”の自分を活かす

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この疎外感は、地方の拠点でも感じるものです。私の住んでいる場所はいわゆる地方の住宅街ですから、月1回東京に出張する30代女性は極めて異質な存在。「お子さんはまだですか?」「東京の人ってのは、やたらに忙しいんだね」といった言葉を近隣の人からかけられたこともありました。胸がざわつかなかったといえば、嘘になります。

どちらの拠点でも“はぐれ者”の自分。この感覚は、二拠点生活に対して確固たる意志がなければ、ネガティブな感情を引き起こす要因になります。

そこで私は、“はぐれ者”である自分にしかできないことを考えました。ただし、二拠点生活を仕事につなげるといった大それたことではありません。

例えば、東京の取引先とオンライン打ち合わせをするとき、アイスブレイクで家庭菜園や北海道の気候についてなどの話をします。はじめの話に戻るなら、東京のドレスだけでなく、地方のドレスの魅力も自慢するイメージです。新鮮さや発見を少しでも相手に提供できるなら、ほんの小さなことでも価値になるかもしれないから。

一方で地域の方々には、東京で仕入れてきた限定品や土産をおすそわけしたり、都心のおどろきなどをカジュアルに話したりしています。「東京の〇〇という場所に孫が住み始めたんだけれど、治安はどうなんだい?」と訊かれ、その場所があたたかな下町で、自然と会話がはずむ素敵な商店街があることを伝え、撮影してきた写真を見せたこともあります。

これはデメリットではないのですが、二拠点生活を始めてから、周囲にいる人々のことを気遣う深度が一層深くなったように感じます。自分が“はぐれ者”であるからこそ、自ら気遣い行動しなければ、それぞれの拠点から除外されてしまう気がしたからかもしれません。今は不安な気持ちなく、二拠点生活をする私から提供できる価値を探すことを楽しんでいます。

自分のために二拠点生活を選び、誰かのために価値を生み出す

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はたらき方は、自分が豊かに生きるために選択するものであり、その自由は誰にも明け渡してはいけないと思います。会社や組織に属すること、個人事業主として働くこと、東京を拠点とすること、ふるさとに帰ること。そのどれも他者によって優劣をつけられるべき話ではなく、もっとも自分に合った条件を掛け合わせていけばよいでしょう。

ただし、どんなはたらき方を選んだとしても、誰かのために自分が生み出せる価値を模索することを忘れてはいけないと、二拠点生活を選んで改めて思います。暮らし方や拠点もまた、誰かの価値になっています。あなたが東京に住んではたらくことで助かる人も、あなたがふるさとに戻ることで救われる人も、どちらもいるということです。

それをしっかりと伝えていくためには、自分が拠点のドレスの魅力を理解しておくことが大切です。二拠点生活を選んだ私は、東京と北海道のドレスを着替えながら、それぞれのすばらしさや美しさを讃えています。

そういった意識を強く持ち続けることで、私は豊かな二拠点生活を継続できているのだと思います。自分のためだけに暮らしていたならば、今ごろ東京の仕事を任せてもらえず、近隣の人々にも愛想をつかされていたかもしれません。

これから二拠点生活に挑戦する方は、ぜひ“はぐれ者”の自分が着るふたつのドレスの魅力を感じ、周囲の人々と深く関わり合いながら、ほかの誰も同じ風景を見ていないデュアルライフを楽しんでみてください。

文・写真=宿木雪樹
編集=五十嵐大+TAPE

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