見落とされがちな男性への偏見。男女ともに気を付けるべきジェンダーバイアス

「男性だから」「女性だから」という理由でなんとなくやらないといけないと思ってしまうことがあります。こうした男女の役割意識からくる偏見は「ジェンダーバイアス」と呼ばれ、性別によらず苦しみの原因となっていることがあります。この記事では、キャリアコンサルタントの境野今日子さんに、職場に潜むジェンダーバイアスについて、ご自身の経験や当事者へのヒアリングを通して得たヒントを教えていただきます。

f:id:irakuy919yukari:20210215064909j:plain

職場に潜むジェンダーバイアス。女性だけでなく男性への偏見も

2015年9月の国連サミットで採択された、SDGs(エス・ディー・ジーズ)。定められた17の目標の一つに「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられ、今、世界全体で取り組むべき課題となりました。国内を見てみると、企業の取り組み方や力の入れようはさまざまで、社内で「ダイバーシティ推進部」と呼ばれるような部署を設置し、積極的にジェンダーバイアスの払拭に努めている企業もあれば、いまだに「男は仕事、女は家庭」という価値観でそれを前提とした働き方をしている企業もあります。私はよく、夫が上司に育休を拒否された経験をSNSで発信していますが、「今どき、信じられない!」という声と、「うちの会社も男性が育休なんて無理!」という声の、両方の感想をいただきます。それくらい、企業の認識に差が開いているのが現状です。

<関連記事>
共働き夫婦が直面する前に知っておきたい、子育て支援のための制度や企業の取り組みは?|doda
女性だから得意? 男性の仕事? 職場に潜むジェンダーバイアスに気付こう!

今回は、男性からいただいた意見を中心に、男女ともに気を付けなければならないジェンダーバイアスの問題を考えていきたいと思います。

 

「男性だから」残業するのは当たり前?

f:id:irakuy919yukari:20210215065035j:plain

男性社員からよく聞く悩みは、残業の多さです。残業した時の周囲の風景を思い浮かべてみましょう。残っているのがほとんど男性だという職場も多いのではないでしょうか。女性ばかりが早く帰るのは、根底に、家事や育児は女性がするものだという女性差別的な考えがある一方で、男性にはそれらがないため残業をさせても良いと考える男性差別の問題もあります。当然、男性でも育児や介護、持病などさまざまな事情を抱え、本当は早く帰宅しなければならない人もいるでしょう。

法律では、時短勤務や残業免除ができる制度もあり、そこに男女の区分はありません。よく、「うちはその辺の制度が充実していなくて……」とご相談に来られる方がいらっしゃいますが、会社独自で制度を定めていなくても、それらはしっかりと法律で定められていますので安心してください。

とは言っても、これらの制度は女性が使うもの、という暗黙の了解があり、申請しづらいと感じる男性もいるでしょう。しかし、今まで社内の男性に申し出た人がいなかっただけで、言えば意外とあっさり取れるかもしれません。もし、上司の賛否や会社のスタンスが分からず不安であれば、そこで制度の利用を諦めるのではなく、「時短って男性でも取れるんでしたっけ?」などと質問してみるといいと思います。対応は、その相手の答えを聞いてから考えても遅くはありません。

<参考>
所定外労働の制限(残業免除)とは|厚生労働省
短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について|厚生労働省

 

「男性だから」飲み会の芸を強要されるような例も

f:id:irakuy919yukari:20210215065106j:plain

また、飲み会に関することも、男性からよく受ける悩みの一つです。例えば飲み会で一発芸を強要されて、嫌な思いをしたことはないでしょうか。芸の披露は女性でも求められることがありますが、男性は服を脱ぐようなハードな芸を求められることもあるようです。当然ですが、服を脱ぎたくない人もいますし、その理由も、手術の痕や体形のコンプレックスがあるなど、人によっては深刻な場合もあります。強要された側は、空気的に断りづらい、という状況があるようで「嫌だけど、脱いじゃった方が楽」という意見も聞きました。

しかし、そういう時は自分がまた同じ目に遭わないためにも、また、後輩たちに辛い思いをさせないためにも、誰かに相談してみてほしいです。小さな声でも「自分は嫌だ」と意思表示していくことが、会社の文化や空気を変える第一歩になります。もしかしたら、男女関係なく同じような感情を抱く仲間も見つかるかもしれません。それだけで、1人から2人へと声が大きくなります。1番やってはいけないことは、「女性は脱がなくてずるい!」などと、怒りの矛先を誤ることです。別の人を道連れにしてしまうと、会社は良くなるどころか被害者を増やすだけになってしまいます。

 

「自分が女性/男性だったら、言われただろうか?」というアンテナを張る

f:id:irakuy919yukari:20210215065135j:plain

会社内に潜むジェンダーバイアスの話をしてきましたが、異なる環境にいる人たちから多数の共感の声が上がるなら、それはもはや会社単体の問題ではなく、社会全体の問題として考えるべきことでしょう。きっと社会人になる前から、ジェンダーバイアスを感じる経験は誰しもしているのではないでしょうか。例えば男性は、「一般職」に応募できないような空気がある気がします。しかし、「人のサポートが得意」とか「ワークライフバランスを考慮して定時で上がりたい」という理由から、一般職として入社したい男性もいるのではないでしょうか。反対に、自分はバリバリ働きたいのに、子供ができた途端に異動させられたり、昇給や昇進の条件が厳しくなった女性がいるのも事実です。

仕事に限らず日常の中で、「これ、自分が女性だったら(または男性だったら)言われたのだろうか」というアンテナを張ってみてください。世の中はジェンダーバイアスだらけだと感じることもあるかもしれません。しかし、ランドセルが「男は黒、女は赤」と決められていた時代から、少しずつ個人が好きな色を選べるようになってきたように、世の中は変わってきています。そうした変化に気付いたとき、希望を感じることができるでしょう。

 

文=境野今日子
編集=矢澤拓

【プロフィール】
境野今日子
キャリアコンサルタント、ライター。中央大学卒業後、NTT東日本へ入社し、秋田支店にて法人営業を担当。その後、帝人の採用担当へ転職し、在籍中に国家資格キャリアコンサルタントを取得。会社のセクハラ・パワハラ問題や、夫の育休が拒否された経験について、記事やSNSを通じて発信している。

【関連記事】
共働き夫婦が直面する前に知っておきたい、子育て支援のための制度や企業の取り組みは?|doda
増加している男性へのセクハラ。多様性に伴う、LGBTへの配慮も必要不可欠
異性間だけでなく同性間も要注意! セクハラについて注意しておきたい4つのこと
「ハラスメント」の記事一覧
「人間関係」の記事一覧

page top