「正しい丸投げ」で仕事を楽に!自分の成長にもつながる任せ方のコツ

社会人経験を積むにつれ、後輩の育成やプロジェクトの仕切り役など、人に仕事を任せる機会も少しずつ増えてくるでしょう。しかし、うまく仕事を任せられず、常にたくさんのタスクを抱えてしまっている……と悩むビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。そんな悩みを解消するためのポイントを、『任せるコツ』の著者で、マーケティング業界でこれまで数々のプロジェクトをまとめあげてきた山本渉さんに伺いました。

「正しい丸投げ」で仕事を楽に!自分の成長にもつながる任せ方のコツ

なぜ任せられない? 「自分でやったほうが早い」思考から抜け出すには

なぜ任せられない?「自分でやったほうが早い」思考から抜け出すには

他人に仕事を「任せる」のは、簡単なように見えて意外と難しい技術。管理職やマネージャーのみならず、新人の教育係などを担う若いビジネスパーソンも直面する課題です。山本さんによると、うまく仕事を任せられない人にはいくつかの共通点があるといいます。

仕事の任せ方が自分基準になっている

「特に仕事で成果を出している優秀な人に多いのが、自分基準で考えて『相手も当然できるだろう』という前提の下で仕事を任せてしまうというケースです。組織には、キャパシティが大きい人・小さい人、仕事が早い人・遅い人、プレッシャーに強い人・弱い人……さまざまな人がいます。そうした視点が抜けて、『自分はできていたから大丈夫だろう』という基準で仕事を任せると、相手に過度な負担をかけてしまうことがあります。

新人教育の一環で仕事を任せるような場合も、ビジネスの常識や基本的な業務の進め方を教えることから始めるなど、相手の目線に立って順序だてて任せていかないとなかなかうまくいきません」(山本さん・以下同)

「自分でやったほうが早い」と考えて任せられない

「他人のスキルを信頼できず、『自分でやったほうが早い』と考えて、そもそも仕事を任せられない人も多いです。結果として、自分にばかり仕事が集中し、ほかのメンバーは手が空いてしまうなど、組織全体としてのバランスが悪くなってしまいます。

それはつまり、短期的な考えを優先し、長期的な視点に立てていないということでもあります。半年~1年というスパンで見ても、仕事を任せて後輩が育てば自分もラクになるし、チーム全体のパワーも増していくはずです。このように考えることで、『任せる』ことに対する姿勢は変わってくるのではないでしょうか」

失敗を通じて気づいた「任せる」ことの大切さ

失敗を通じて気づいた「任せる」ことの大切さ

現在、大手マーケティング会社で年間100件近くのプロジェクトのアサイン(仕事の割り振り、適任者への依頼)を担当している山本さん。若手のころに経験した数々の失敗を通して、「任せる」ことの大切さに気づいたと話します。

「仕事でそれなりに成果を残していると、どうしても自分が主役だと思い込みやすい。かつての私もそうでした。後輩の思いを汲まずに自分のチームに入れて、プロジェクトの途中で『自分がやる意味を感じられないので抜けたい』と言われてしまったことがあります。そこから、相手に任せる・育てることを真剣に考えるようになりました。

そんなとき、あまりに忙しくてやりきれなかった仕事をたまたま後輩に任せてみたら、とても伸び伸びとこなし、良い成果を出して取引先からも感謝されたことがありました。正しい任せ方ができれば、自分のためにも相手のためにもなる。任せる大切さを自覚した瞬間でした」

仕事を「任せる」とどんな良いことがある? 

それでは具体的に、仕事を任せることで自分(任せる人)と相手(任せられる人)にどのようなメリットがあるのでしょうか。

-任せる人:仕事を客観的・俯瞰的に見られるようになる

「仕事を任せると、単にラクになるだけでなく、仕事に対する客観的・俯瞰的な視点も得られます。今まで自分がやっていた仕事を一歩引いて冷静に見られるようになり、『こういう風にするといいよ』とアドバイスする中で、これまでとは違う新しいアプローチを発見できることもあるでしょう。視野が広がれば、自分自身が次のステップに行けるような、成長の感覚も味わえると思います」

-相手:モチベーションや主体性が向上する

「仕事を任せられた側も、上司や先輩から信頼され、評価されていると感じることでモチベーションや主体性の向上につながります。そこで成果が出れば、満足感や達成感も得られるでしょう。特にリモートワークだと各自が何をしているのか見えづらく、プロジェクトの進行・管理が難しい面があります。メンバーに『この作業をやりたい』『プロジェクトをもっと良くしたい』と、自ら意欲を持って主体的に取り組んでもらう重要性は増していると言えるでしょう」

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正しい丸投げの極意は「どう頼むか」と「誰に頼むか」

正しい丸投げの極意は「どう頼むか」と「誰に頼むか」

個人の成長を促し、組織全体の活性化にもつながるような任せ方として、山本さんが著書の中で提唱しているのが「正しい丸投げ」です。

「ここで言う『丸投げ』とは、相手に仕事を押し付けるとか、とにかくタスクを振ってしまうという意味ではありません。重要なのは『どう頼むか』と『誰に頼むか』です」

「どう頼むか」:任せ方のコツ

「正しい丸投げ」の基本となるのが「どう頼むか」。そのポイントを大きく次の3つに分けて解説します。

-意欲創出・欲求充足

「依頼するときにまず大事なのは、相手がその仕事をやりたいと思える、意欲が湧くような頼み方をすることです。例えば、議事録を代わりにまとめてほしい場合、『忙しいので代わりにやってください』などと依頼する側の都合をそのまま伝えるのではなく、『前回の議事録がとてもよくまとまっていたので、今回もお願いできますか?』など、相手の意欲や欲求に寄り沿った言い方に変える。『褒める』『感謝する』『その人にしかできない特別感を伝える』という点を押さえて、利己的依頼を利他的依頼に変換することがポイントです」

-目的の明確化

「とても重要なのに、できていない人が多いのが目的の明確化です。その作業がなぜ必要なのか、何のためにやるのかという目的をしっかりと伝えましょう。地味な作業でも、大きなプロジェクトの一部として大切な工程なのだと伝えれば、モチベーションが上がるし、パフォーマンスも変わってきます。

さらに、その作業をすることで身につく技術や役立つタイミングなども示せるとベストですね。例えば、細かい数字を計算して資料を作る作業なら、『その数字を知ることでビジネスの成り立ちが理解できるよ』などと伝えると、作業の価値が上がり、向き合い方も変わってくるはずです」

-選択肢の提示・負担の配慮

「近年は、過剰労働やパワハラなど労務的な観点からも、相手に無理をさせない工夫が求められています。依頼を断る余白やスケジュールに相談の余地を残しておくことが大切です。

特に、経験の浅い人に依頼する場合、相手ができるかどうか不安を抱えていればこまかく状況を確認し、やり方をアドバイスする。一人ではできないと悩んでいるようならチームでフォローするなど、負担軽減の配慮も求められます。逆に経験値の高い人に任せる場合は、最終的に何をしてほしいかというゴールだけ示して、その人のやり方を尊重するといった配慮も必要ですね」

「誰に頼むか」:相手の選び方のコツ

任せた仕事に対して良い成果が出るかどうかを左右するのが、「誰に頼むか」という任せる相手の選び方です。

「優秀な人に頼むというのも決して間違いではありませんが、それ以上に考慮するべきなのが相手の『意欲(何がしたいか)』と『適性(何ができるか)』です。これまでの経験から、うまくいったプロジェクトを分析してみると、この2つに合致した人に仕事を任せられたときほど良い結果が出ました。何に意欲を感じるかは人によって違うので、それを踏まえたうえで、任せる仕事の特性とマッチングさせていく。また、誰にも得意・不得意はあるので、適性を見極め、短所よりも強みにフォーカスした人選をすることが重要です」

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「丸投げ」の前後にあるもの。日ごろの関係づくりこそが大切

「丸投げ」の前後にあるもの。日ごろの関係づくりこそが大切

しかし、いくら任せ方や頼む相手を工夫しても、そもそもお互いの関係性が構築できていなければ「正しい丸投げ」にはなりません。

「丸投げ」の下地づくりは日ごろのコミュニケーションから

「気持ち良く仕事を依頼するには、普段から相手の話に耳を傾け、信頼関係を深めておくことが大切です。自分自身が若手のうちは、仕事を任せる相手は新人や2年目くらいの経験の浅い後輩が中心になると思います。教える立場になるとそのような場面ではどうしても自分が話す側になる傾向にあるため、日ごろのコミュニケーションでは、話す割合は自分が1、後輩が9くらいを意識しましょう。相手の話を深掘りしていくのもおすすめです」

「丸投げ」のあとは感謝とフィードバックを忘れずに

「仕事を任せた後のフォローも大切です。感謝を伝えることはもちろん、『ここはうまくいって、ここはうまくいかなかったね』など、しっかりとフィードバックしてあげましょう。経験の浅い相手だと、どうしても期待通りのパフォーマンスができなかったり、失敗してしまったりすることもあるので、それを許容することも大切です。

とはいえ、失敗すると全体が破綻してしまうような状況ではそんなことは言っていられません。まずは規模の小さい作業から任せたり、多少うまくいかなくてもリカバーできるようなスケジュールで依頼したりするなど、失敗を前提とした事前の配慮も必要ですね」

まとめ

「正しい丸投げ」は今の時代にもマッチすると話す山本さん。新時代のリーダーに求められるのは、カリスマ性や統率力よりも、相手の立場になって考えられる「共感力」だといいます。

そうした意味でも、周りの良さを高めてチームを強くしていける「任せる」力はとても重要。小さなプロジェクトのリーダーから、これからマネージャーを目指していく人まで、幅広く活用できる技術と言えそうです。

話を聞いた人:山本渉さん
マーケティング会社ディレクター。ジェネラルマネージャー兼部長を束ねる統括ディレクターとして、小さなプロジェクトから100億円を超える大型案件まで、年間100近いプロジェクトをチームメンバーに依頼している。任せる過程で数多くの失敗も経験し、その学びをまとめた『任せるコツ』が8万部突破の大ヒットとなる。

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