- 1on1の目的と得られる効果は?
- 1on1が企業で浸透している理由は?
- 1on1の進め方と話すべき内容例は?
- 1on1で「話すことがない」とならないために意識するべきことは?
- 質の高い有意義な1on1にする共通のポイントは?
- 1on1お悩みQ&A
- 1on1は貴重な時間であることを認識しよう
上司との1on1ミーティングで「何を話せばいいのか」という悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。今回は、マネジメント手法の一つである1on1ミーティングについて、その目的や話すべき内容を社会保険労務士兼キャリアコンサルタントの村井真子さんに伺いました。
1on1の目的と得られる効果は?
1on1で話すこととは、文字どおり、1対1で面談することをさし、基本的には上司と部下で行うケースが多いでしょう。多くの企業が1on1の導入を進めていますが、どのような効果があるのでしょうか。それぞれ解説します。
スムーズな情報共有による信頼関係の醸成
1on1で話をする場合、基本的に話すテーマを設定することが多いです。例えば、上司が場を設け、部下と1on1をする際に「部下が抱えている課題を解決する」「今後のキャリアについて」などのテーマを定め、それに沿って話します。1on1であれば、お互いにスムーズな情報共有が可能になるので、上司と部下の信頼関係の醸成が期待できるでしょう。また、チャットやメールでは、自分の気持ちや考えていることなどの情緒的な内容はいいにくいですが、1on1であれば伝えやすくなるという効果もあります。
上司と部下の自己開示の促進
先述した信頼関係の醸成には、自己開示が不可欠といえるでしょう。1on1には、相互の自己開示を促進するという効果もあります。1on1では仕事の話だけをしなければいけないわけではないので、プライベートの事情を含めて話しても問題ありません。お互いにとって無理なく仕事に必要な範囲で自己開示をし合い、お互いの共通点が見つかれば、より仲が深まる可能性も高くなります。
プロジェクトの進捗確認とリスクマネジメント
1on1をプロジェクトの進捗確認として行う場合、上司が話を聞くことによって、行き詰まっているポイントを把握できるでしょう。プロジェクトリーダーやメンバーには言いにくい不安点を共有できるので、課題や問題点に対して、上司が介入する必要があるかどうかも含め相談が可能です。それにより、進捗確認はもちろん、進行に関わるリスクマネジメントが図れます。
「1on1」と「人事評価面談」との違い
1on1は「人事評価面談」と比較されることが多いですが、大きな違いは「評価」の有無です。
人事評価面談は、その名のとおり、人事考課のための評価を目的としています。そのため、評価する上司から一方的に、評価者と被評価者の間で現状認識にギャップがないか、目標に応じてどのくらい達成したかなどについて話をすることが多いです。
一方で、1on1は部下から上司への情報共有が基本です。必ずしも課題を共有したり発見したりという場にする必要はなく、解決のプロセスを必要としません。1on1は部下が話す時間として、部下のために設定されるものなのです。
1on1が企業で浸透している理由は?
1on1で話すことは、近年、企業規模を問わず浸透してきています。その理由には、上司と部下のコミュニケーション不足やマネジメントの複雑化、雇用流動性の高まりなどが挙げられます。
近年では、「働き方改革」などで雑談等がしづらくなり、仕事以外の情報交換の場が少なく、部下から上司へ気軽に相談できる時間がなくなってきました。そのため、「耳に入れておきたい」「ちょっと確認しておきたい」といった情報を共有する場として1on1が利用されています。
加えて、企業においてダイバーシティ推進が行われており、多様な経歴やバックグラウンドを持つ人が共存している組織が増えてきたことも理由の一つ。その中で、1on1によるマネジメントコストの削減が期待されているのです。さらに、雇用流動性の高まりも理由に挙げられます。労働者不足により売り手市場になっていることから、職場の定着率を上げるためにもそのニーズやウォンツのヒアリングの場として、1on1が利用されているのです。
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1on1の進め方と話すべき内容例は?
1on1では、どのように話を進めればよいのでしょうか。ここでは、1on1の進め方だけでなく、STEPごとに上司・部下それぞれが話す内容の例についても紹介します。
STEP1:話題の設定をする
まず、1on1では上司と部下の認識を合わせるために、話題を設定します。上司の場合は、最近気になっていることや、任せているプロジェクトの進捗など、関わりのある話題についてテーマを与えましょう。また、部下の場合は、上司からの質問に対して答えるだけでなく、自分から話題を提案したりしてもよいです。
〈上司の場合のトーク例〉
- 「今日、特に話したいことはある?」
- 「時間を割いてくれてありがとう。今日は〇〇について話せればと思っているけど、ほかに話したい内容はある?」
〈部下の場合のトーク例〉
- 「ありがとうございます。〇〇についてというと、どのあたりがご懸念でしょうか」
- 「今日は〇〇ではなく、別な話題についてお話したいのですがよろしいでしょうか」
- 「今日は〇〇についてお話ししたいです」
STEP2:設定した話題の情報共有を行う
次に、設定した話題について部下の方から開示し、情報を共有します。上司は、基本的にひたすら聞くことに徹しましょう。全体のバランスとしては、上司2:部下8の割合が理想的です。部下側は仕事に支障が出そうなことや心配事などを中心に、可能な範囲で自己開示をしていきましょう。
〈上司の場合のトーク例〉
- 「〇〇について、〇〇さんがどんなふうに思っているのか教えてほしい」
- 「〇〇で、何か悩んでいることや気になっていることはある?」
〈部下の場合のトーク例〉
- 「今、取り組んでいる顧客開拓が、思うように進んでいません」
- 「プライベートなことなのですが、妻が妊娠いたしました」
- 「現在抱えている業務の量が重く、残業時間が増えてしまっています」
STEP3:共有した内容に対して提案する
情報共有した内容について話を進めていきます。上司はまず、情報共有してくれたことに対する感謝を示し、その上で部下が開示したことについて解決につながるような提案をしましょう。このとき部下側は、上司の提案に対して、「もう少し具体的なアドバイスをいただけませんか」のように、自分が共有した内容を解決するためにどうして欲しいのかという希望を伝えます。「聞いてもらえればそれでいい」という場合は、ここでSTEP5に進みます。
〈上司の場合のトーク例〉
- 「話してくれてありがとう。アドバイスとかは必要かな?」
- 「この情報は私から人事部に伝えようか」
- 「プロジェクトのリスクについてマネージャーと調整してみるよ」
- 「業務を少し引き上げるよ。すぐに渡せそうなものはある?」
〈部下の場合のトーク例〉
- 「実はアポイントを取るところから苦戦しており、アポ取りの際の提案方法について、アドバイスをいただけませんか」
- 「人事部に育休について話を聞けるようおつなぎいただけませんか」
- 「お手数ですが、ご調整いただけたら助かります」
STEP4:具体的なアドバイスをする
続いて、どのようなアクションをすればいいのかという具体的なアドバイスの話をします。上司は、次に行動すべきことについて、より具体的な方法を伝えるのが理想的です。部下はそれを受けて、疑問点などを質問して、自分が取るべき行動について確認しましょう。
〈上司の場合のトーク例〉
- 「相手に合わせて、時間帯やツールを使い分けるといいよ」
- 「人事部の〇〇さんに話しておくよ。明日以降、あなたから直接連絡してみて」
- 「改善についてはプロジェクトチームのグループミーティングで共有してもらうね」
- 「私をCCに入れて、A社の担当者に引継ぎする旨をメールしておいて」
〈部下の場合のトーク例〉
- 「その場合、このような担当者にはどういった方法がいいでしょうか」
- 「そうします。育休を取得するときは、また時期など相談に乗ってください」
- 「ありがとうございます。議題にあげてもらえると助かります」
- 「お手間かけます。追いかけて電話を入れておきます」
STEP5:次回の1on1の日時・テーマを設定
最後は次回の1on1の日時やテーマを設定します。上司は次につながるような話題やテーマを提案するのがいいでしょう。一方、部下は具体的な希望を伝えるのがおすすめです。
〈上司の場合のトーク例〉
- 「そうしたら次回の1on1で、相手の反応を聞かせてくれる?」
- 「次の1on1で話したいテーマは〇〇に変えたいけどいいかな?」
〈部下の場合のトーク例〉
- 「相手のアポをとってからなので、〇月〇日でお願いしたいです」
- 「引き続き、進捗報告をさせてください」
- 「次は、別な話題をお話ししたいです」
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1on1で「話すことがない」とならないために意識するべきことは?
どうしても、1on1に対して苦手意識を持ってしまう人もいるかもしれません。ここでは、1on1の場で「話すことがない」とならないために、上司・部下それぞれの立場で意識すべきことを見ていきましょう。
上司の立場の場合
1on1では、とにかく「傾聴する」ことを考えましょう。上司はアドバイスや指導も含め、一方的に話してしまいがちです。しかし、まずは聞くに徹することができるかどうかが鍵となるので、アドバイスは求められるまでしないという姿勢が大切です。
加えて、「テーマ設定をした後は笑顔で待つ」ことも意識しましょう。相手が話さないからといって、自分がどんどん話してしまうと、相手の自己開示の機会を奪うことになってしまいます。1on1の時間はすべて部下のために使うという意識を持ち、笑顔で話しやすい空間をつくることがポイントになります。
部下の立場の場合
1on1というのは、上司やリーダーと1対1で話せる貴重な時間です。そのため、個別・直接的に自身の考えや状況を伝えられる機会、主張する機会として活用しましょう。例えば、「今後やりたい仕事」について話をすると「意志を持ってやりたいことがある社員」であることを知ってもらえます。そうすれば、人事異動の際などに、希望部署への異動や仕事内容の調整・変更など、上司や会社が配慮してくれる可能性が高まることも。なので、今後関わってくるようなライフイベントはもちろん、自分の考えるキャリアプランなどを開示する絶好の機会として活用するといいでしょう。
また、忙しいときや話すべきことがないときに1on1をするのは時間の無駄になりかねません。そのため、話したいことができた段階で1on1の機会を設定できないか、リスケを踏まえて、そのタイミングを自分から申し出て調整しましょう。自分にとって必要なタイミングで1on1を実施してもらった方がいい時間にできます。
質の高い有意義な1on1にする共通のポイントは?
質の高い有意義な1on1にするためには、上司と部下、どちらの立場でも意識しておきたいポイントがあります。
お互いに自己開示の姿勢があること
自己開示には返報性という効果があります。返報性とは、何かをしてもらった相手に対して、お返しをしたくなるという心理法則です。上司・部下の関係でこれが行われると、お互いに共通点が見つかるなどの理由で親密化が進むため、1on1を通してより信頼関係を構築しやすくなります。そのためにも、日頃から趣味や好物などを雑談して、共通性のある情報を開示しておきましょう。人は共通の話題があると話しやすくなるため、普段からなるべく広く話題を収集しておくのがおすすめです。
前向きに1on1へ取り組もうという意識があること
お互い、前向きに1on1へ取り組もうという能動的な意識があれば、タイムパフォーマンスのいい時間にできるでしょう。さらに、定期的に1on1を実施していくと、上司は部下の悩みや課題に早く気づくことができる上、部下にとっても普段はなかなか言い出しづらい気持ちや考えなどを上司に伝えられます。1on1は、上司と部下お互いにとって、非常にメリットが多いものなのです。
1on1お悩みQ&A
ここでは、1on1にまつわるよくあるお悩みについて、村井真子さんに教えていただきました。
Q.1on1はどこでやるべきですか?
A.1on1を行う場所で多いのはオフィス内の会議スペースや会議室ですが、ほかにも会社近くの緑化スペースや喫茶店なども候補として探しておくとよいでしょう。社外秘以外の内容であれば話す目的に応じて、よりリラックスして話しやすい場所に変えるのが理想的です。
例えば、仕事上のミスを打ち明けたいと思っても、会議室だと威圧的な雰囲気になって話せない可能性があるなど、場所の雰囲気によって話題が決まってしまうこともあります。そのため、1on1のスケジュールを設定する際に、「どこで話したい?」と部下に投げかけてみたり、「少しプライベートなことなので、近くの喫茶店でもよいでしょうか」と部下側から提案したりするのもおすすめです。
また、座る位置は、上司と部下が面と向かい合って対立するのは避け、90度の位置などに座る方が話しやすくなります。
Q.1on1の時間の目安はありますか?
A.1on1の頻度にもよりますが、一般的なのは30分程度です。ただし、中には15分で設定している企業もあります。そのため、30分以上になりそうならば、最初から解決を目的としたミーティングを別途、設定するのがよいでしょう。基本的には1回の1on1につき、ワンテーマで話しきれる程度の時間で行った方が効果を得られやすいので、短時間かつ短いサイクルで1on1を組むのが理想的です。
Q.1on1のいい投げかけ例は?
A.1on1の最後には、必ず上司から「ほかに何か話したいことがない?」と確認するようにしましょう。テーマについて話し終わったと思っても、部下にとって本当に話したいテーマがまだ出ていなかったり、話している最中に浮かんできたりする場合も多いです。また、この問いを投げかけることで、部下側は「上司は自分のことをきちんと気にかけてくれている」と感じることができるので、信頼関係の構築につながることが期待できます。
加えて、部下側からは、上司に時間をとってもらったお礼を伝えるとともに、もう少し聞いてもらいたいことがあるときは、「もう少しお話ししたいことがあるので、後日お時間をいただく前に、簡単に内容を整理してお伝えしてもいいですか」などと相談しておくとよいでしょう。上司側にとっても追加の1on1にどの程度時間を見積ればいいかという目安になります。
Q.1on1でやってはいけないことはありますか?
A.時間が余ったからといって、だらだらと話し続けることは厳禁です。上司も部下も業務時間内で、限りある時間を割きながら1on1を行っています。そのため、無理に引き伸ばそうとはせずに「今の段階で話したいことは特にない」と思えば、その旨を伝えて終了するようにしましょう。
また、1on1とは別で人事評価面談を行っている企業の場合は、1on1では「評価をしない」ことを徹底しましょう。1on1ではできるだけ心理的な圧迫を外し、部下にとって話すこと自体がストレスにならない環境を整えることが求められます。
1on1は貴重な時間であることを認識しよう
1on1というのは、「上司が100%部下のために使う時間」であるということを上司・部下ともに認識しておく必要があります。1on1で話す内容やテーマは、上司・部下の認識があってさえいれば、何であっても問題ありません。そのため、「Aさんとはプロジェクトの話」「Bさんとはキャリア相談」というふうに、フレキシブルに話題を設定できることが1on1の魅力でもあります。上司・部下のどちらも、1on1の機会を無駄にせず、うまく活用して高い効果につなげていきましょう。
監修:村井社会保険労務士事務所 代表 村井真子
社会保険労務士/キャリアコンサルタント/経営学修士(MBA)。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。LGBTQ+アライ。行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』、監訳に『バウンダリーレス・キャリア上巻』『組織と従業員の間で変化する心理的契約』『経営心理学』など。
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