「頼まれごと」発、海外農業コンサルタントが育てたマルチなビジネス展開

ここ数年、PC一つで場所を選ばずに仕事を完結させる、「ノマド」という働き方が浸透してきました。ノマドワーカーたちは、会社やオフィスに通うことなく、自宅や外出先で仕事をこなしています。

「頼まれごと」発、海外農業コンサルタントが育てたマルチなビジネス展開

ここ数年、PC一つで場所を選ばずに仕事を完結させる、「ノマド」という働き方が浸透してきました。ノマドワーカーたちは、会社やオフィスに通うことなく、自宅や外出先で仕事をこなしています。

そんなノマドワークを実践している宮崎大輔さん(28)は、フリーランスの「海外農業コンサルタント」。農業なのにノマドワーカー…? そう思う方もいるかもしれません。しかし宮崎さんは日本だけでなく、アジア、南米、アフリカで農業技術の指導を行いながらライター、カメラマン、メディアコンサル事業などを行っています。

今回はそんな宮崎さんに、現在のワークスタイルを確立するにいたった経緯と、今後の農業界へ若者が参入していくには何が必要か、農業は国内外でどんな可能性を秘めているかを伺いました。

頼まれごとを受けていたら仕事になっていった


長野の兼業農家に生まれ育ち、幼少期より農業に興味を持っていたことから、大学と大学院ではイチゴの研究をしていたという宮崎さん。卒業後、青年海外協力隊に参加したことが、今の仕事を始めるきっかけになったそうです。

-現在はどんなお仕事をされているのですか?

主にイチゴ、野菜など農業のコンサルがメインです。日本企業の海外進出の支援や、海外企業の現地でのビジネスの立ち上げを支援しています。そのほか、ライターとして複数のwebメディアで記事を書いたり、カメラマンとして写真を撮ったり、また英語とスペイン語が話せますので、通訳兼カメラマンとして観光客のガイドをすることもあります。

-今のお仕事をされるようになったきっかけを教えてください。

青年海外協力隊参加時に、パナマ共和国の無電化集落で2年間、野菜の育て方と野菜ビジネスを指導していました。そのとき、パナマ国内に住んでいる日本人やイギリス人など、いろんな人から「農業のことを教えてくれ」「農業に関するものを売るので手伝ってくれ」ってチラホラ言われて。

そんな頼まれごとを受けていくうちに、ブログ経由で海外から仕事の依頼が入るようになりました。ですので、自分でやろうとかアイデアがあったわけじゃなく、頼まれていることを受けていたら、いつの間にかそれが仕事になっていたんです。

実演しながら農業を指導する宮崎さん

-初めてのお仕事はベトナムでしたよね。

はい。去年2015年にイチゴ栽培のコンサルとして行きました。日本の企業がベトナムでイチゴビジネスを始めていたのですが、うまくいかないので指導してほしい、という依頼でした。

その企業はイチゴを育てる技術が未熟だったため、2回ほど現地に出向き、それぞれ1週間ほど滞在して指導していましたね。その後は、インターネットで写真や動画などを送ってもらい、リモートワークで栽培の指導をしました。私の強みは、大学院で植物学を勉強していたので、気温や日照時間のデータをもらえれば、ある程度、農作物が育つかどうか分かることなんです。

-日本と海外を行ったり来たりする生活を送られているのですか?

そうですね。プロジェクト単位で海外に行っては滞在し、帰ってくる…という繰り返しなので、日本に定住先がないんです。日本にいるときは、ホテルに宿泊したり、実家に帰ったりしていますね。

日本と海外の農業はこれからどうなる?


-今、日本でも若い方が農業に興味を抱き、ITを利用したビジネスを展開するベンチャー企業も見られます。宮崎さんから見て、今後の農業はどんな可能性を秘めていると思いますか?

農業はITなどと違って、アフリカでも南米でも世界中どこでも行われています。地域ごとにその手法が違ったり、意外な共通点があったりするのが面白いところですね。そのやり方というのもさまざまで、植物工場のようにハイテクな技術を使うこともできるし、有機農法もできる。バリエーションがある分、可能性があり、発展途上国の貧しい農民でも、もしかしたら農業で成り上がることができるかもしれません。

日本の農業は元気がないなんて言われていますが、日本の優れた技術や品種を使って海外進出へ向かうことは、ビジネスとして大きな可能性を秘めていると思います。逆に海外の大規模で生産するようなやり方を日本に導入するのもいいんじゃないでしょうか。
日本の農家って、“農業の経営者”という概念を持っていない方が多い気がしますので、もうちょっとビジネスとして捉えて取り組むといいかなと。

-しかし、農業は「もうからない」というイメージがありますが…。

いえ、単に二極化が進んでいるだけだと思います。「もうからない」って言っている人たちは、年金で暮らしているご高齢者だったり、サラリーマンをやっている人だったり、そこまでもうけなくてもいい人たちなんです。
日本はJAが全部対応してくれて、売り先など自分で探さなくても済む仕組みのため、農家が受動的です。そこは変えていかないといけない部分だと思います。

また、今は普通のものを普通に売るだけではもうからないので、差別化をするなりブランド化をするなり、アイデアや、やり方次第でまだまだ可能性があると思います。日本でも最近は農園単位でブランド化を進めている動きなどがあって面白いですね。

-海外の農業トレンドなどはありますか?

今の海外のトレンドは有機栽培で、特にアジアや中南米でトレンドになっています。スーパーに行くと「オーガニック」という言葉がついた野菜が棚の一角を占めるようになっています。ケニアでは、有機栽培農家だけが集まったファーマーズマーケットが開かれたりしていて、どの国にもオーガニック食品を求める富裕層がいるため、盛り上がっているようです。

また、タイやベトナムなどは人口が多いのでマーケットサイズが大きいですいし、隣国に中国やシンガポールがあるので、将来的に輸出も狙えます。国自体も経済的に成長しているため将来性があり、TPPが開始されれば、タイから日本への輸出も可能になります。

-海外の方が農業におけるビジネスチャンスは多いかもしれませんね。

たしかにチャンスはあるのですが、その分リスクが大きくハードルも高いです。まさにハイリスク・ハイリターン。日本では土地の取得などを含め、なんでも買えるし販路も確立されていますが、海外だと、まず種や肥料が手に入らなかったり、外国人が土地を持てなかったり、さらには土地ごと奪われたりすることがあります。現地人からだまされてお金をとられてしまうことも…。

海外の農業系ビジネスは、経営者、コンサルタント、従業員の3つがセットで行われていることが多いのですが、日本だと農家がそれを全部一人でやっているので、海外では少しやり方を変える必要がありますね。あと価値観も違って、日本だと味のクオリティーを求めますが、海外だと国によっては、野菜は大きければ大きいだけ良い、という風潮があったりします。スーパーでも量り売りで、味よりも重さ勝負!みたいな(笑)。

海外のイチゴ農園

リスクは承知。まずは前向きにやってみる


-海外で働いてみて変わった価値観や、考えさせられたことなどはありますか?

海外に出てみて、日本人は働く民族だなって感じました。例えばパナマは、サラリーマンの月収が日本円で3万円くらいなんですね。日本人はだいたい10倍くらいじゃないですか。だから「日本人は金稼いでるな」ってパナマ人に文句を言われたこともあったのですが、パナマ人の働いている量って日本人の50分の1くらいなんです。

日本は一人当たりの生産量がすごいから、こんなに成長したのだと思いますが、その反面、過労死や自殺の問題にもつながっているとあらためて考えさせられました。

-そうですよね。そんな中で「海外で働いてみたい」と考える人にアドバイスをお聞きしたいです。

私が今の仕事を始めるきっかけになったのもそうなのですが、“誰かに何かをお願いされる”という仕事のやり方っていいなと思っていて。私はよく知り合いから「海外でこんなビジネスをやりたい」という相談を受けますが、その商品やサービスが売れないリスクがあるじゃないですか。
ただ、最初は人からお願いされたことに応えていき、スモールビジネスとして広げていけば、そもそも需要があるわけで、成功しやすいんじゃないかなと。それは日本でも海外でも一緒だと思います。そのために必要とされるスキルを身につけ、SNSやブログでの情報発信も大切ですね。

あと、日本の中で悶々としているよりは、一度ビザの有効期間内で短期的に海外に行ってみるのも一つの手だと思います。

「スキルのかけ算」で仕事の幅が広がる


-今後やってみたいこと、現在のお仕事の他に挑戦したいことはありますか?

今の農業コンサルの仕事は、面白いからやっているのですが、もっともっと広げていったり、深めていったりしたいですね。最近はカメラにハマッているので、カメラでもお金を稼げるようになりたいです。

一個一個の実力ではその道のプロには勝てませんが、組み合わせることで仕事になったりします。英語もスペイン語も、プロの通訳にはなれないですが、カメラと組み合わせることで、写真を撮影する旅行のガイドくらいにはなれます。

あと、今は数週間?数カ月単位で移動ばかりなので、そろそろ拠点がほしくて、南米のチリがいいなと考えています。理由ですか? 中南米の中で唯一首都が安全なんですよ。街もきれいだし、美人も多いですし(笑)。日本には長野に実家があるので、チリとの二拠点生活もいいかなと目論んでいます。

まとめ


海外農業コンサルタントとして海外を飛び回る宮崎さん。この取材をしたのはケニアから帰国されたころでしたが、その後はスペインにプライベート旅行で1カ月ほど滞在される予定だそうです。

公私共に充実した様子のノマドワーカーの話は、学ぶことも多く刺激的でした。同僚や友人からのささいな「頼まれ」ごと。それがあなたのビジネスチャンスをつくるきっかけになるかもしれませんね。

識者プロフィール
宮崎大輔(みやざき・だいすけ) 1988年生まれ、長野県飯田市出身。実家はリンゴ農家で、三人兄弟の末っ子。信州大学大学院農学研究科の修士課程を修了後、新卒でJICAの青年海外協力隊に野菜栽培隊員として参加。2013年7月から2年、中米パナマ共和国の無電化集落で野菜の育て方と野菜ビジネスを指導。現在は海外農業コンサルタントとして独立し、日本、アジア、南米、アフリカで農業技術の指導を行うほか、ライター、カメラマン、メディアコンサル、クラウドファンディングコンサルとしても活動中。HP http://jiburi.com/profile/ ツイッター https://twitter.com/jiburl?lang=ja


※この記事は2016/11/22にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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