全国で図書館利用者を急増させた「読書通帳」はいかにして生まれたのか

図書館に設置された専用端末に通帳型の冊子を通すことで、自分が読んだ本のタイトルや貸出日を記録し、一覧として可視化できる「読書通帳」。人々の読書離れの深刻化が嘆かれる昨今ですが、この読書通帳を導入した図書館では、利用者数が全国的に増えているといいます。

全国で図書館利用者を急増させた「読書通帳」はいかにして生まれたのか

図書館に設置された専用端末に通帳型の冊子を通すことで、自分が読んだ本のタイトルや貸出日を記録し、一覧として可視化できる「読書通帳」。人々の読書離れの深刻化が嘆かれる昨今ですが、この読書通帳を導入した図書館では、利用者数が全国的に増えているといいます。

そこで今回は、読書通帳誕生の経緯や開発時の苦労、将来の読書環境に対する展望ついて、読書通帳の発案から開発に携わる、株式会社内田洋行の中賀伸芳さんに伺います。

「読書の宝物」「笑顔の通帳」と呼ばれる読書通帳


-まず、読書通帳とはどういった取り組みなのでしょうか?

中賀伸芳さん(以下、中賀):図書館を利用する方が、自分が読んだ本について通帳型の冊子「読書通帳」に記録し、一覧化できるというものです。


仕組みはいたって簡単です。図書館に行って本を借りると、その書籍情報が読書通帳機という専用端末に転送されるので、その読書通帳機に自分の読書通帳を差し入れます。


すると、通帳に自分の借りた本のタイトルや貸出日が印字されるのです。現在導入している自治体によっては、借りた場所や返却日のほか、本の定価を印字しているところもあります。

自治体の多くは読書通帳を小・中・高校生に無料で配っており、記帳することで手元の記録として大事にお持ちいただけるので、「読書の宝物」「笑顔の通帳」と呼ぶ方もいます。


-読書通帳を導入した図書館では、月の図書の貸し出し数が前年度に比べて倍以上になるという成果が出ていますね。

中賀:そうですね。読書通帳の発行部数は自治体の規模によってさまざまですが、貸し出し数は各地で増加しています。また、これまで子どもたちは親の図書館カードを使って本を借りていたため、子どもが借りる本も親の利用分として一緒に登録されていました。しかし子どもたちが自分の読書通帳を持つことで独立した登録が可能になったため、子どもの図書館利用が増えたことも貸し出し数増加の一因といえます。

-現在、一部の自治体では大人も読書通帳を利用することができますね。

中賀:はい。ところによっては有料で大人にも提供しています。ただ、私たちの本来の狙いは、読書通帳を配ることで子どもたちにもっと本を読んでもらうきっかけづくりをするということです。

実際に自分の通帳を持った子どもたちは、学校で読書通帳を見せ合いながら競い合うように本を借りるようになっていますし、こうした子どもたち同士のやりとりを見た先生や家族が「良い本を読んでいるね」「その本が好きならこんな本もおすすめだよ」と声をかけたりと、新たなコミュニケーションも生まれています。

-現在、全国で発行されている読書通帳を見ると、各自治体のゆるキャラや特産物など、表紙のデザインもさまざまですね。

中賀:そうですね。こちらでもデザインのテンプレートを用意していますが、図書館に人を集め、新たなコミュニティーを生む読書通帳は、地元をみんなで盛り上げようという一つの“町おこし”のツールにもなっているので、「せっかくだから町の宣伝となるデザインを作りたい」という自治体も多いです。

読書通帳は主に、自治体が運営する公共図書館をメインに導入しているので、自治体にとっては「あなたは税金で揃えた本をこれくらい有効に活用しているよ」という利用者に対するアピールにもなっていると思います。

「見た目はアナログ、中身は最先端」へのこだわり


-読書通帳発案に至る背景には、どのような思いがあったのでしょうか?



中賀:発案のきっかけは、山口県下関市立中央図書館が新たに開館することになった際に下関市から、「何か新しい取り組みをしたい」というご提案を受けたことです。

実は当時、「読書通帳」のような取り組みを手づくりでやっていらっしゃる学校や図書館は既にあり、私たちとしても「子どもたちにとってもそうした取り組みがもっとあったら楽しいだろうな」という思いはありました。

また、誰が何を読んだかという情報は個人情報に値するため、ご高齢の利用者から「このシリーズの本を自分はどこまで読んだか教えてください」と尋ねられても、図書館側は教えられないというケースが頻繁にありました。

こうした背景から、読書の記録を形にして財産として持ってもらえるものはないだろうかと考え、読書通帳を発案したところ、下関市の中央図書館の館長も「面白いね」とおっしゃってくださり、開発が始まったんです。


-最先端の技術を使えば、通帳も必要なく、ネット上で借りた本の履歴を見るということも可能だと思います。しかし、あえてそれをせず、手元に保管する通帳というアナログな形を取った理由とは何でしょうか?



中賀:例えば、SNSなどを使って自分で発信する力のある大学生の場合は、通帳よりもウェブ上で完結する形のほうが喜ばれるかもしれません。しかし読書通帳のターゲットは、お年寄りや子どもたちです。手元にあるものを大切にしたり、どれだけ読書通帳を使っているかをステータスとして捉えたりする層なんです。

そして私たちとしても、読書通帳を通して実際のコミュニケーションが生まれることを期待していました。だから、子どもたちやお年寄りに向けた取り組みとして、そのアナログ感は大事にしたかった点なんです。

読書通帳や読書通帳機の造り自体には最先端の技術を使用していますが、“ITっぽさ”を感じると操作が面倒くさく思う人もいます。だから裏側には複雑な仕組みがあったとしても、利用者にとってはワンタッチで済むという使いやすさがあることが大事なんです。そうした意味で、見た目はアナログ、中身は最先端という点にこだわっています。

企画・開発には苦労もあった


-読書通帳の発案に関して、苦労されたことは何ですか?



中賀:どんな主義、主張を持ち、どんな宗教を信仰するかは個人の自由ですので、「この人はこの本を読んでいる」という個人情報を図書館側は知っていてはいけません。そういう意味では、個人の読んだ本の記録が全て出てしまう読書通帳は最初、個人情報保護の観点で引っかかりました。

そこで通帳を配布する際、名前は自分で書いてもらうようにしたのですが、それでもやはり導入当初はいろいろな議論があったので、読書通帳をお渡しするときに、内容が個人情報に値すること、紛失の責任は負えないという点に了承していただいてお配りしました。

-では、読書通帳機の開発に際して、難しさを感じたことは何ですか?

中賀:下関市での導入を提案する前に、先行して韓国では本の貸し出し履歴を印字する機械が使われていたので韓国の企業と一緒に組んで日本でも使える形に開発をし直したのですが、言葉だけでなく、プログラムや電源の仕様、機械のインターフェースの部分などが全て違いますので、そうした点での意思疎通は難しかったですね。


それから、日本の皆さんがとても大切に使うことを考え、それなりのクオリティーを備えたものを作ろうとするとコスト面の折り合いがつかなかったり、通帳のデザインにおける度重なる修正を韓国側のメンバーになかなか理解してもらえなかったりということもありましたね。

あとは自分で通帳を開いて機械に差し入れるという構造上、いかに子どもの手を引き込まない安全な造りにできるかという点は、今も改良を加えております。

-読書通帳の全国での導入後、新たに取り組んでいる課題はありますか?

中賀:読書通帳を使ってもっと積極的に図書館を利用してもらえる方法について考えています。昨年も既に読書通帳を導入している自治体の方に集まってもらい、どんな使い方の工夫をしているか、どんなことが課題になっているかについて意見をもらうためにサミットを開催しました。今は、より図書館の利用者層を広げる方法はないか、福祉に役立てられないかなど、次の使い方に知恵を出していこうと話し合っています。

町の図書館を大切にする文化を築きたい


-読書通帳を通じて、将来的にどのような読書環境を展開していきたいかをお聞かせください。

中賀:図書館には、今はやりの本を置くことだけではなく、昔から大切にされている地域の情報や資料を保存し、提供するという大切な役割があります。しかしそうした貴重な資料は図書館内での閲覧に限られたものが多く、その役割はなかなか理解されていないところでもあります。

図書館にはそのような、学校にはない資料がたくさんあるので、読書通帳を通して子どもたちに地域について学んでもらったり、「図書館に行くといろんなものがあって楽しい」と気づいてもらうことで、町の図書館を大切にする文化を築いていきたいと思います。

デジタルとアナログが共存する読書通帳


今注目されている読書通帳のサービス。多くの方に受け入れられた背景には、「見た目はアナログ、中身は最先端」というこだわりがありました。

年齢層の隔てなく、平等に図書館の価値を理解してもらうにはどうしたらいいか。そんな考えから生まれたこのこだわりからは、課題を解決するのは必ずしも最先端技術のみを使ったサービスであるわけではなく、ときにはアナログ感をあえて出すことが有効であるというヒントが見えてきます。皆さんも商品やサービスをつくる機会があれば、ぜひ参考にしてみてください。


株式会社内田洋行のプロフィール
1910年創業。学校教育市場への教育機器・教材・コンテンツの製造・販売をはじめとした「公共関連事業」、オフィス関連家具の製造・販売などの「オフィス関連事業」、民間企業・福祉事業者向けの基幹業務ほかのコンピュータソフトウェアの開発・販売などを行う「情報関連事業」を展開する。地域公共施設分野においては、「ICタグと空間デザインが実現するユビキタスライブラリー」をコンセプトに、ICタグを導入した図書館システムを国内で初めて構築。

※この記事は2016/03/22にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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