日本一、あったか~い部活!「バスクリン銭湯部」が社内外にもたらした効能

今回はバスクリン銭湯部の若手社員が中心になり、廃れゆく町の銭湯を盛り上げようと奮闘している部活動のお話と、その活動がもたらした、思わぬ“効能”についてご紹介します。

日本一、あったか~い部活!「バスクリン銭湯部」が社内外にもたらした効能

「はぁ~~~♪」

本格的な冬の季節がやってきました。帰宅後、疲れて冷えきった体をポカポカの浴槽に沈めると、その気持ち良さに思わずこんな声が漏れてしまいますよね。

さて、日本人の生活になくてはならないといえるお風呂ですが、そのお供である入浴剤を製造販売する株式会社バスクリンの部活動がなにやら注目を集めているそうです。その名も「バスクリン銭湯部」。今回はバスクリン銭湯部の若手社員が中心になり、廃れゆく町の銭湯を盛り上げようと奮闘している部活動のお話と、その活動がもたらした、思わぬ“効能”についてご紹介します。

バスクリン銭湯部、3つの活動


バスクリン銭湯部は2015年4月にバスクリンの社員・高橋正和さんが発足しました。現在の部員数は10名ほどで、会社公認の部活動です。活動内容は主に3つ。

(1)銭湯巡り

2カ月に一度、部員が気になった銭湯を巡る定期活動。

(2)銭湯コラムでの情報発信

銭湯メディア「東京銭湯-TOKYO SENTO-」のコラムで、銭湯やお風呂の情報発信。

(3)銭湯との共同企画

世田谷区の銭湯「そしがや温泉21」に本棚を設置して銭湯に「銭湯ふろまちライブラリー」という図書館をつくったり、10月のピンクリボン月間に銭湯の湯をピンクのお湯に染めて乳がん検査の啓発を促す「ピンクリボンの湯」を広めたり、11月26日(いい風呂の日)に銭湯で短編映画を上映する「1126THEATER(いい風呂シアター)」など、銭湯の活性化に貢献できる活動を展開。

単に銭湯を巡るだけではなく、社外とも積極的に関わっているバスクリン銭湯部。では、何をきっかけにそんな「銭湯部」は生まれたのでしょうか?

銭湯部の銭湯巡りで天神湯へ


バスクリン銭湯部は会社のルーツから?


発起人である高橋さんはベンチャー企業からの転職組。バスクリンに入社後、これから新しく働く会社のルーツを調べたことがバスクリン銭湯部を誕生させるきっかけになったのだそう。

株式会社バスクリンの前身である津村順天堂は、日本で初めて入浴剤を開発した企業。当時は婦人薬「中将湯」を販売していましたが、製造する際に出る生薬の残りを社員が家に持ち帰りお風呂へ入れたところ、体全体が温まったり、体にできた湿疹が軽減したりしたことから、1897年に入浴剤「浴剤中将湯」が誕生します。

現在、社名にもなっている商品「バスクリン」は、この「中将湯」が発汗効果が高いため、夏季には適さないということで、当時、夏向けの入浴剤として生まれました。「浴剤中将湯」を使用した銭湯は「中将湯温泉」と親しまれ、120年経った今でも日本各地でその名残のある銭湯が残っています。今でこそ家のお風呂の入浴剤として親しまれていますが、「バスクリン」の歴史は銭湯から始まったと言っても過言ではありません。


しかし昭和30年代に各家庭に内風呂が増加したことや、後継者不足などの理由で銭湯は減り続け、今では全国で2,500件ほどに。この20年間で約4分の1に減少してしまいました。

「会社の原点ともいえる銭湯文化が、このままなくなってしまってもいいのだろうか。そんな思いが芽生え、銭湯部を発足するきっかけになりました」(高橋さん、以下同じ)

まずは若手社員を中心に声をかけましたが、「若手のみが集まって内輪で盛り上がるだけでは、社内全体の共感とはいえない」と考え、高橋さんを含む若手社員3名と人事部長のベテラン社員1名の4名で部活動を結成。この作戦が功を奏したと、ベテラン社員と同世代の社員である広報責任者・石川泰弘さんは言います。「(株)ツムラから分社した時からいる社員と、(株)バスクリンなってから入社した社員の間には、世代間の開きがあるのは感じていました。でも若手が進んでベテラン社員に声をかけ、一緒に活動を始めたことでその世代間の空白を埋めてくれたように思います」と話します。

会社のルーツである「銭湯」の活性化という目的、そしてベテラン社員たちからの協力も手伝い、バスクリン銭湯部の部活動はスタートをきりました。

銭湯部がもたらした意外な“効能”


社外活動がメインではありますが、銭湯部の活動は社内にも“効能”をもたらしました。

「社内でのメリットでいうと、銭湯はベテランと若手が融合できる“場”になりました。

例えば、一緒にお湯に漬かりながら『実は「バスクリン」のあの香りは、あいつが作ったんだよ』『ゆずの香りは60回以上の試作を重ね、苦労して作ったものだ』など、若手が知らない会社の歴史や商品開発秘話をベテラン社員から聞くことができたんです。ベテラン社員の中では当たり前のことが若手社員には新鮮な驚きだったようです。

それによって、会社での社員同士の交流も円滑になりました。部署を横断して銭湯部員がいるので、部署の垣根を超えて情報を共有したり、気軽に議論しやすくなりました」


社員のリラクゼーションや健康増進に加え、銭湯という「裸と裸」の付き合いが信頼を生み、このような効能をもたらしたようです。また、社外ではこんなメリットも…。

「社外でも銭湯好きの方々とつながることができました。銭湯好きの方は、家でのお風呂タイムも好きな方が多いんです。われわれメーカーの人間は、直接対面でユーザーとお話しする機会がなかなか少ないものですが、最近も新商品『温美浴』について『あれはすごくあったまったし、花の香りもいいですね』など、生の声を聞くことができました」

また、そんな銭湯好きの方から「銭湯を守ってほしい」「いつも通っている場所がなくなるのは寂しい」という多くの声を聞いて、「東京銭湯-TOKYO SENTO-」で銭湯コラムを発信し続ける重要性を感じているそうです。

銭湯の魅力はコミュニケーション


さて、同じお風呂でいえば「温泉」も、昔から国内外で人気があります。では、「銭湯」ならではの魅力とは何なのでしょうか。高橋さんの考えをお聞きしました。

「温泉はレジャーで非日常を味わうものですが、銭湯はもっと身近な日常の中で、家族や友人、近所の方々とのコミュニケーションを促進するという特色が濃いと思うんです」


前述した「銭湯ふろまちライブラリー」では、本を入り口にすることで古くから同銭湯を利用する年配者と、祖師谷の町に増える子持ちの若いファミリーをつなげるという効果があったんだそう。ある子どもの親からは「普段通りの生活をしていると、子どもは家族や学校の先生や近所の方など、決まった大人としか接する機会がない。でも、銭湯に来れば、幅広い年代の方と自然に交流が生まれたり、いろんな大人を見ることができるので、子どもの教育にとっても良いと感じているんです」という声も。

そう教えてくれた高橋さん自身も、小さなころから家族で銭湯に行くことが習慣だったそうです。

「父、母、姉と、家族みんなで週末は銭湯に行く家庭で育ちました。それが当たり前だと思っていたので同年代の友達に話したとき『え、まだ親と一緒にお風呂に入っているの!?』と驚かれて、逆に驚きましたね(笑)。今は姉に子どもが生まれたので、実家に帰ると姪っ子と甥っ子も加えて一緒に銭湯に行きますよ」

高橋さんの家族の仲睦まじい様子は想像に難くありませんね。株式会社バスクリンも、同じ銭湯の湯を通じることで、気を張らずに部署の垣根を超えたコミュニケーションが円滑になったのです。

革新を続けることが伝統になる

 

中将湯の看板がかかった壁は、まるでお風呂のようなタイル張りになっている



バスクリン銭湯部の活動は、街歩き雑誌『散歩の達人』や国会図書館のサイトで紹介されたり、また東急ハンズとのコラボ企画「ハンズ湯」で入浴グッズ売り場を展開するなど、今までにはなかったコラボを実現させていきました。高橋さんが目指す、バスクリン銭湯部の目的とは何なのでしょうか。

「銭湯がなくならない世界をつくりたいです。人と人、町のコミュニティーとしても機能している銭湯をこれからも残していきたいです。『お風呂っていいよね』という共感を広げていきたい。海外の方にも、もっとお風呂や銭湯の魅力を知ってもらいたいですし、日本の『和食』がそうであったように、日本のお風呂文化をユネスコ無形文化遺産に登録できたら良いなと思っています」

最後に高橋さんは、20代、30代のビジネスパーソンに、こんなメッセージを残してくれました。

「大学生時代のゼミで、僕は100年以上続く老舗企業の研究をしていました。伝統とは同じことを続けていくことだと思っていたのですが、100年以上続く企業に共通しているのは、むしろ革新。小さな革新の連続が、結果として伝統になる、ということを学びました。

弊社も100年以上続く老舗企業ですが、われわれ20代や30代の若手社員が革新を続けないと会社も元気がなくなってしまう。だから革新を起こし続けなければならない、そういう使命感があるんです。僕たちには誰だって、それを実現する力があると思います」

これを読んでいる20代や30代のあなたも、きっと誰かに“良い効能”をもたらすパワーを持っているはず。今日は温かい湯船に漬かりながら、会社を元気づけるために明日自分からどんな行動が起こせるか、考えてみませんか?


(取材・文:ケンジパーマ/編集:東京通信社)

識者プロフィール
高橋正和(たかはし・まさかず)
1986年千葉県生まれ。
明治大学在学中に学生起業(三浦市アンテナショップ「なごみま鮮果」)。
その後、ベンチャー企業を経て2012年に株式会社バスクリン入社。入浴剤・化粧品等のマーケティングを担当。
2015年4月に「バスクリン銭湯部」を新たに立ち上げ、銭湯部長を務める。銭湯部を通じて、銭湯の活気を取り戻し、日本の文化である“FURO”の魅力を伝えている。2016年から、一般社団法人HOTJAPANプロジェクト推進リーダー。

株式会社バスクリン
https://www.bathclin.co.jp/

※この記事は2017/12/12にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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