「地方への転勤が決まったけど家庭の事情が…」 その転勤、拒否できる?

突然の辞令により転勤が決まった! だけどさまざまな事情で今いる場所を離れたくないビジネスパーソンも多いのでは。そんな時、拒否することはできるのか? その疑問の答えを探るため、社会保険労務士(社労士)であり、株式会社リーガルネットワークス代表取締役の勝山竜矢さんを直撃。実はある事情を抱える方は拒否することができる可能性もあるそうです。それはどんな人?

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転勤を打診された場合、断ることはできますか?(原則、できない)

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社会保険労務士の勝山竜矢さん

「一般的に、会社は労働者に対して人事権を持っています。つまり、社員を採用、配置、異動、人事考課、昇給、休職、解雇等をする権利を持っているということです。そのためフルタイムで定年まで働くことを前提としている日本の正社員の多くの労働契約の場合は、原則、この人事権において転勤を断ることはできません。」

そう語るのは社会保険労務士の勝山さん。
ただし、原則的に断ることができないだけで、拒否できるケースがあるそうです。

そのケースとは自分以外、代わりがない場合。

「過去の判例では、両親が介護を必要としており、自分以外、誰も両親のケアができず遠方へ行けない社員。重篤の病気を抱える子供がおり、特定の病院でないと治療ができない、かつ単身赴任をすると配偶者の負担が大きい社員。そういった方々が会社側の権利濫用を主張し、社員にとって通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでないかという点において転勤を拒否し、受理されたことがあります」(勝山さん)

ただし、家族の介護を要する社員でも兄弟や親せきが代わりにできるなど、代替可能なケースは転勤を断ることが難しいそうです。マイホームを購入したから、恋人と遠距離になるから、赴任先の環境が嫌だから、といった個人的な理由は受け入れられません。

もし転勤を断ったら解雇される?(解雇されない、たぶん)

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転勤を拒否することは業務命令違反なので懲戒の対象となり得ます。

「懲戒」の中で一番軽いものから順に並べると以下のようになります。

・戒告(口頭注意)
・譴責(始末書を書く)
・減給(給料の減額)
・出勤停止(一定期間、働くことができない)
・降格(役職や職位を引き下げる)
・諭旨退職・諭旨解雇(企業側が労働者に退職届の提出を勧告)
・懲戒解雇(企業側から一方的に労働契約を解約する)

「転勤を拒否したところで、懲戒解雇は現状の労働法令の範疇においてはほぼほぼないけれど、それなりの懲戒処分を受ける可能性はあります。また拒否をしたということは会社命令に背いたということに。人事評価が下がることはなくても上がることがないことを認識しておいた方がいいですよ」(勝山さん)

辞令の前の内示で転勤を拒否できるの?(いや、できない)

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いきなり転勤辞令がきたらどうしよう…と不安を抱えるビジネスパーソンもいるのでは? 安心してください、多くの企業は辞令を出す前に、非公式に通知をする内示をすることがあります。

「特に大手企業では、いきなり転勤して欲しいと辞令を出す場合は少なく、転勤に関し社員の意向を聞いてくれます。そして打診された社員が『転勤できます』と意思を表明した後に、辞令を出すのです。とはいえ、内示の段階で断ったけれど、辞令が出ることもあります」(勝山さん)

しかし、正社員の中でも断ることができる人が…それが、転勤がない旨や、職種や勤務地を限定する旨の記載のある「限定正社員」です。

「限定正社員は労働時間、勤務地、職務・職種等の就業条件のいずれか(組み合わせる場合もあり)を限定したうえで、限定した就業条件以外については正社員と同じ役割を担う社員です。限定正社員の中には働くエリアを限定したうえで労働契約を結んでいる方もおり、そういった場合、辞令が出ても拒否することができ、さらに懲戒処分の対象となりません」(勝山さん)

転勤はチャンスだ!(それを活かさない手はない)

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「転勤は嫌だな」と感じるビジネスパーソンもいますが、その辞令が出たということはあなたが評価されているということも言えます。

「なぜ会社は転勤の辞令を出すのかというと、それはあなたが有能で見込みのある社員、成長させたい社員だからです。遠隔地でも業務を任せられる、または経験を積んで成長してほしいという想いが会社にはある。ですから転勤は嬉しい辞令とも言えますね」(勝山さん)

ということで、転勤はピンチでなくチャンスです。せっかくですから、そのチャンス、活かしてみませんか。
どうしても転勤したくない方は、契約書の中に転勤の有無が明記されていますので、会社と雇用契約を結ぶ前に契約書の確認をしてくださいね。

記事監修=勝山竜矢(社会保険労務士)
文=野田綾子
編集=TAPE

監修者プロフィール
社会保険労務士(社労士)┃勝山竜矢
株式会社リーガルネットワークス代表取締役。1976年東京都生まれ。2005年に開業。独立する1年前よりソニーグループの勤怠管理サービスの開発、拡販などに参画。これまで1,000社以上の勤怠管理について、システム導入および相談を担当してきている。
http://www.kintaikanrikenkyujo.jp/

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