これで最低限の雑談ができるように! 雑談力を養うための「会話のきっかけレシピ」とは?

日常生活の中で、雑談を“しなくてはいけない”シーンは意外に多いもの。例えば、会社の行き帰りにほとんど接点のない上司とバッタリ出くわし、5分ほどの道のりを会話しなくてはいけなくなったり、初めて訪問するクライアントとの距離を縮めるために、プレトークとしての雑談が必要だったり……。人との距離を縮めるために雑談が得意になりたくても、方法が分からずに困っている人は案外多いものです。この記事では、雑談力を伸ばすための方法を探っていきます。

「例えば、冷蔵庫の中に卵が残っていても、料理経験がなければ卵料理のレパートリーがないので、何も思いつきませんよね。雑談が苦手な人は、そんな状態に陥っていると思うんです」と話すのは、雑談下手に悩んだ経験を持つ枚岡治子さん。枚岡さんは雑談を乗り切るための「レシピ」を集め、それをまとめた書籍『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』(大月書店)の著者でもあります。

『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』(大月書店)

「雑談が苦手な人は、かつての私のように『何かしゃべって沈黙を埋めなきゃ』『面白くて、気の利いたことを言わなきゃ』と心の中でただ焦ってばかり。周囲がなんの苦もなく雑談できているように感じると、落ち込んでしまいますよね。しかも、雑談は事前準備ができないので、余計に難しく感じます。私もずいぶん悩みましたが、あるとき『自分がしゃべれないなら、いっそ他の人の雑談を書きだせばいいのでは?』と考えて、さまざまななにげない会話を集め始めました」

雑談から逃げ回るうちに気付いた、周囲の雑談ネタ

学生時代から対人関係に悩むことが多かったという枚岡さん。普段は人との間に壁を感じて無口なのに、壁がないと思った相手にはマシンガントークを繰り広げ、中間がなかったと言います。そのため、社会人になって周囲が「顔見知り程度の人」ばかりになると距離感に迷い、雑談程度の会話ができずにいきなり本題に入ってしまって避けられたり、タイミングを外した発言をして傷ついたり……と悩む日々だったそう。

「人との境界線が分からず、社会人になってからは雑談を避けて、人から逃げ回るような生活が続きました。でも、逃げ続けるのも疲れるんですよね。そんなとき、ふと『一体、ほかの人は何をしゃべっているのだろう?』と気になって、周りの雑談に耳をすませるようになりました。さらに友人にも声をかけ、さまざまなシーンごとに『こういうとき、何を話す?』と聞いて回りました。そうして集めたのが、書籍にまとめた『会話のきっかけレシピ』です」

多くの人の雑談を集めるうちに、みんなが決して何も考えずに雑談しているわけではないと、枚岡さんは気付きました。その場のTPOや相手との関係性、立場の違いなど、さまざまな面に細やかに考慮しながら、瞬間的に話題をセレクトしている。つまり、正解はありません。

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『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』(大月書店)より

「だから、いきなり会話上手を目指すのではなく『最低限これだけやっときゃなんとかなる』という、ごくありふれた会話を集め、集めたネタを『レシピ』と名づけました。この際は、実際に会話をしている風にロールプレイングもしてみたところ、声のトーンや『間』のイメージを少しつかむことができました。数が集まると、正解はなくても選択肢が増えるので、そこから少しずつTPOに応じた雑談を探し出せるようになってきました」

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雑談ができることで得られる、会社生活におけるメリット

実際、職場で雑談ができるようになってきて、枚岡さんが気づいた「雑談の効能」があるそうです。

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「このような効能に気づいて『雑談は一種の護身術』と感じるようになりました。雑談をすることで、仕事上のトラブルやストレスが確実に減るからです。ここでいう雑談のネタは、ごくごくありきたりなもので構いません。会話上手を目指す必要はないのです」

とはいえ、何を話せばいいの…? と思う方も多いでしょう。でも、枚岡さんがレシピを集めるなかで気づいた雑談のコツは、とても簡単なものでした。

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「たとえば、目の前にある状態を『今日はあったかいですね』など、見たまま伝えてみてください。返事も『そうですね、あったかいですね』のようにオウム返しでOK! さらに、雑談が苦手だと『もっと話を続けなければ!』と焦るものですが、実は雑談のほとんどは一往復で終わり、あとは沈黙というパターンです。沈黙はあって当然だし、相手もそんなものだと思っていることに気づくと気持ちが楽になります。まずはこのくらい低いハードルを越えていくうちに、少しずつ雑談への苦手意識が薄れていくと思います」

「会話のきっかけレシピ」を作り続けて、早10年。今でも「私は雑談上手にはなれない」と言う枚岡さんですが、ずいぶんコツがつかめたそうです。

「気の利いたセリフや面白い冗談を言わなくても、軽い話題やオウム返しのような『レシピ』レベルの会話で人は笑顔になれるものです。雑談が苦手な方は、ぜひ周囲の雑談に耳を澄ませて、さまざまなレシピを集めてみてください!」

次回は、会社生活の中での“あるある”を例に挙げ、枚岡さんのレシピを教えてもらいます。お楽しみに!

取材・文=富永明子(サーズデイ)
イラスト=枚岡治子
編集=村田智博(TAPE)

【プロフィール】
枚岡治子
1975年大阪府生まれ。大阪市立大学大学院前期博士課程修了後、IT企業に勤め、現在はパソコンインストラクターおよびライターとして活動。「普通」と福祉・医療のスキマにできる悩みに関心がある。著書に『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』(大月書店)がある。

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