どれほどやりがいがあっても、仕事をしていればストレスは生じるもの。過度なストレスが慢性的にたまっている状態が続くと健康被害の原因になるので「たかがストレス」と考えず、注意しなくてはいけません。今回は保健学博士の蝦名玲子さんに、仕事によるストレスの原因から対処方法までを伺いました。
仕事でストレスがたまりやすくなる原因は?
厚生労働省『令和3年労働安全衛生調査(実態調査)』によると、半数以上が「仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答しており、その主な要因として「仕事の量」(43.2%)が最も多く、「仕事の失敗、責任の発生等」(33.7%)「仕事の質」(33.6%)と続いています。
コロナ禍以前は「対人関係」がストレス要因の上位に入っていましたが、テレワークなどの新しいはたらき方が普及し、上司や同僚と物理的な距離が取れるようになった人が増えたためか、令和2年以降は「対人関係」の代わりに、他のストレス要因が上位に入るようになりました。現在、多くの人が抱えている仕事のストレス要因がどのようなものか、上位3つを見ていきましょう。
出典:厚生労働省『令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況』
仕事・業務量の多さ
ストレスの原因の最たるものとして、仕事や業務量の多さが挙げられます。特に昨今はテレワークにより、柔軟なはたらき方が可能となった一方で、オン・オフの切り替えが難しく、長時間労働となりやすい問題が生じています。日本労働組合総連合会の『テレワークに関する調査2020』によると、回答者の半数以上が「通常の勤務よりも長時間労働になることがあった」と答えています。
また「時間外・休日労働をしたにもかかわらず申告していない」とした回答者が6割を超えています。その主な理由として、「申告しづらい雰囲気だから」「時間管理がされていないから」が挙げられていました。与えられた目標や業務がやり遂げられるまではたらく「サービス残業」が発生していることがうかがえます。
出典:日本労働組合総連合会『テレワークに関する調査2020』
仕事の失敗、責任やプレッシャー
失敗が許されない環境は人に重いプレッシャーを与え、ストレスの原因になります。特に責任感の強いビジネスパーソンほど、その負担を重く感じるでしょう。
また個人の成果がより重要視され、仕事が失敗した際にはその責任が担当者個人に重くのしかかる企業風土も、責任やプレッシャーを過度に与える要因となります。
仕事の複雑さ、難易度の高さ
ストレスをもたらす要因には、「仕事の質」も挙げられていました。具体的には、緻密な作業が求められ高い集中力を必要とする仕事や、高度な知識や技術が必要なむずかしい仕事などです。こうした複雑な仕事、難易度の高い仕事はチャレンジングである一方で、うまく付き合わないと、心身に負担をもたらすストレス要因となるのです。
出典:厚生労働省『職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル ―より効果的な職場環境等の改善対策のためにー』
知っておきたいストレスサイン
仕事のストレスにより心が弱っているとき、どんなサインが出るのでしょうか? 心に出るサインと、身体に出るサイン、そしてその両方があります。それらのサインを認識し、早めに自身のストレスに気付くことが重要です。
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心に出るサイン
心に出るストレスサインの代表格は、以下の4つです。
- 「イライラ」サイン(すぐに怒りを感じる、内心腹立たしい)
- 「へとへと」サイン(ひどく疲れた、だるい)
- 「不安」サイン(気が張り詰めている、落ち着かない、すぐに不安になる)
- 「抑うつ」サイン(何をするのも面倒だ、憂鬱(ゆううつ)だ、物事に集中できない、気分が晴れない、仕事が手に付かない、悲しいと感じる)
身体に出るサイン
ストレスで体に不調が生じる可能性もあります。検査してもなかなか異常が見つからないので注意が必要です。主要なストレスサインとしては、以下の7つがあります。
- 頭痛や目まいがする
- 首や肩のコリ、腰痛がある
- 目が疲れる
- 動悸(どうき)や息切れがする
- 食欲がない、または過食気味である
- 便秘や下痢等、胃腸の具合が悪い
- よく眠れない(寝つきが悪い、夜中や早朝に目が覚める)、または眠り過ぎる
どう仕事のストレスに対処する?4つの方法
心や身体にストレスサインがみられたとき、実践するといいストレス対処方法を紹介しましょう。
適度に休憩を取る
ストレスを解消し、パフォーマンスを上げるためには、仕事のスケジュールに休憩時間を組み入れることが必要です。では休憩時間には具体的に何をすればいいのでしょうか? デスクから離れ軽く散歩するなど、気分がリフレッシュできれば何でも構いません。
他にも、「マインドフルネス瞑想(めいそう)」もお勧めです。身体の中で起きていることに注意を向け、冷静に受け止めると、心がスーッと落ち着いてきます。このことを専門用語で「マインドフルネス」と言います。この方法はストレスや不安の軽減のほか、高血圧症状の緩和といった心身への効果も期待されています。5分程度行うだけで、頭もスッキリします。
マインドフルネスとは? 瞑想の実践方法や仕事の合間に取り入れる効果を解説
タスクの全体像を把握し、優先順位をつける
仕事量が膨大で、終わるめども立たない状態ではたらくと心が疲弊してしまいます。そうならないように、まずタスクの全体像を把握しましょう。それから重要性・緊急性の高い仕事とそれ以外を分類します。優先順位を付けることで、混乱していた状況を整理できます。混乱が解消されれば、仕事のストレスも軽減されるはずです。
1人で抱え込まないようにする
心身のストレスサインに気付いたら、早めに助けてくれる存在を探して頼るようにしましょう。
- 物理的に仕事を手伝ってくれる人はいませんか?
- あなたが必要とする情報をくれる人はいませんか?
- あなたの心を癒してくれる人はいませんか?
- あなた自身の決断や行動に自信がないときに「あなたのやり方は正しいと思いますよ」と後押ししてくれる人はいませんか?
作業や情報の側面で助けてくれる人や、癒してくれる人、妥当性を確認し後押ししてくれる人は皆、あなたを助けてくれる存在です。そうした存在がいないか、多様な角度から探して頼りにしましょう。
状況改善に向けて、上司に相談する
自分だけでストレス対処をしようとしても難しい場合があります。状況改善に向けて、上司に相談しましょう。
相談する際に重要なポイントが2つあります。「私は」を主語にして自分の事情を伝えること。そして相手にとっても無理のない範囲で状況を改善できないか、依頼するような伝え方をすることです。こうした自分の気持ちや考えを相手に正直に伝えながらも、相手の事情にも配慮したコミュニケーション方法を「アサーション」と言います。
例えば上司に対して「私はこの仕事に不慣れなこともあり、うまく進行できるか不安があります」と事情を伝えながら、「この作業を一緒に進められる人を1人サポートで付けていただけないでしょうか 」と頼るのです。
過度なストレスが続くときは……
ストレスのサインが続き、上司に相談しても状況が改善されない場合は、産業医など医療保健専門職に相談しましょう。
また労働安全衛生法に基づき、事業者にはストレスチェックの実施が義務付けられています。過度のストレスが続き「高ストレス者」と判定された場合は、面接指導を受ける必要があります。その場合には通知が届きますので、申し出を行って医師による面接指導を受けるようにしましょう。
まとめ
先述したようにストレスは心身にサインを送ってくれます。過度のストレスを慢性的に抱える前に、そのサインに耳を傾け、自身の健康に気を配ってあげてください。ビジネスパーソンにとって、健康の維持も大切な業務の一つです。
【プロフィール】
蝦名 玲子(えびな りょうこ)
保健学博士。グローバルヘルスコミュニケーションズ代表、京都大学大学院医学研究科非常勤講師。米国ミシガン州立大学卒業後、ミシガン州立大学大学院にて修士号(コミュニケーション学)、東京大学大学院にて博士号(保健学)を取得。20年以上にわたり、官公庁や企業のメンタルヘルス対策のコンサルティングや研修、保健医療専門職の教育等に従事。日本健康教育学会代議員、日本公衆衛生学会認定専門家。著書は、『困難を乗り越える力』(PHP新書)、『折れない心をつくる3つの方法』(大和出版)等、多数。本文中に前述したマインドフルネスのやり方や、自分を助けてくれる存在の探し方、アサーションについての詳細は、著書『生き抜く力の育て方:逆境を成長につなげるために』(大修館書店)で解説。
https://dr-ebina.themedia.jp/
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