抽象化の思考スキルとは? 考え方のコツや鍛え方を分かりやすく解説

抽象化は、仕事をするうえで必要な思考方法の一つです。「ビジネスシーンで抽象化をする」とはどういうことなのでしょうか。抽象化の意味やメリット、身につける方法などを専門家監修のもと解説します。

抽象化の思考スキルとは? 考え方のコツや鍛え方を分かりやすく解説

ビジネスシーンで耳にする「抽象化」という思考法、分かるようで分からない…と思ったことはありませんか? 「抽象化」は、理解して使えるようになるとビジネスだけでなくさまざまな場面で役立ちます。この記事では、人材育成事業会社で代表取締役を務める高田貴久さん監修のもと、「抽象化」の意味やメリット、ビジネスに活用するための方法などについて解説します。

抽象化とは? その概要を解説

抽象化とは? その概要を解説

辞書によると、抽象化は「ある事象から特徴的な要素を抜き出すこと」などと定義されています。より簡単に説明するなら、「似たようなものも含まれるように、ざっくり広げたまとめ方を考えること」(高田さん、以下同)ですが、具体的にどういうことなのか例を2つ挙げて考えてみましょう。

  • 例1…ボールペンを抽象化する

ボールペンと似たものは「鉛筆」と考え、ざっくり広げて「書くもの」とまとめる。似たものが「お箸」だと考えたなら、ざっくり広げて「利き手で持つもの」とまとめる。

  • 例2…「メル」という飼い猫を抽象化する

「メル」と似たものは「猫」であり、さらに広げて「動物」とまとめる。

抽象化についてイメージができたでしょうか? 高田さんがとある大手企業の人事部長から聞いた話では、「仕事ができる人・成長する人は、抽象と具体の間をうまく往復できる人だ」と言っていたそうです。抽象化はビジネスでも求められるスキルの一つ。ただし、むやみに抽象化すればいいというものではなく、ことビジネスシーンにおいては意味のある抽象化をすることが重要です。主に次の2点を参考にしてみてください。

抽象化のポイント1:その場の目的にあった抽象化をする

抽象化する場と目的を見極めて抽象化することが重要です。ボールペンを例に、異なる2つのシーンで考えてみましょう。

  • 化学メーカー(場)で製品開発(目的)を検討するシーン
    「ボールペン」→「プラスチック製品」
  • ノベルティグッズ会社(場)で商品企画(目的)を検討するシーン
    「ボールペン」→「安い販促物」

抽象化のポイント2:抽象化の度合いを考慮する

抽象化の度合いを考慮することも、仕事に活かすうえで重要です。営業先で「提案資料を忘れた」「名刺を忘れた」「会社概要を忘れた」という理由で怒られた場合を想定して考えてみましょう。

  • 抽象化が小さすぎる場合
    「印刷物を忘れて怒られた」
  • 抽象化が大きすぎる場合
    「営業に行くと怒られる」

この場合は「忘れ物をすると怒られる」と抽象化するのが、ちょうどいい度合いと言えるでしょう。

抽象化と具体化との関係は?

抽象化と具体化との関係は?

具体化は「漠然とした物事をはっきりとした形にすること」などと定義され、抽象化と逆の関係にあります。ここでは分かりやすく言い換えて「頭の中で考えるだけでなく、実際に行動できるようにすること」としてみましょう。

例えば、「利き手で持つもの」という抽象的な言葉を具体化すると、「実際に行動できる状態」のものは、先述のボールペンや鉛筆、お箸などです。

抽象化と具体化を“視点”という分け方でまとめた表がこちらです。

視点

抽象化

具体化

何をする?

大きくまとめてぼやっとさせる

細かく決めてはっきりさせる

どんな状態になる?

頭の中だけにある

手で触れたり行動に移したりできる

抽象化と具体化の使い勝手

抽象化と具体化は、使うシーンに応じてメリット・デメリットが変わります。下記には、ビジネス上で使われることが多い「使い勝手」を例に挙げました。

使い勝手①記憶
抽象化:数が減るので覚えやすい
具体化:数が増えるので覚えにくい

使い勝手②応用
抽象化:さまざまなものに当てはまるので応用しやすい
具体化:個別のものにしか当てはまらず応用しにくい

使い勝手③認識合わせ
抽象化:よく確認すると認識が違っていることもある
具体化:細かな所まで同じ認識になる

使い勝手④合意形成
抽象化:最初は合意しやすいが、後から反対されやすい
具体化:最初は合意しづらいが、あとから反対が出ることは少ない

ビジネスシーンでの活用例

このような抽象化と具体化の特徴を踏まえたうえで、「飲料メーカーで商品開発をする場合」という具体的なビジネスシーンに当てはめて考えてみましょう。

  • 飲料メーカーで商品開発をする場合

抽象化:売れている商品の共通項を導き出す
売れている商品①:青汁
売れている商品②:黒酢ドリンク
売れている商品③:黒烏龍茶
抽象化すると→健康によい飲み物

具体化:それを新規商品に落とし込んだ場合の具体案
健康によい飲み物
具体化①:アーモンドミルク
具体化②:睡眠改善の乳酸菌飲料

普段、私たちが目や耳などで感じるものは「具体」であり、現実世界は「具体」で成り立っています。日ごろから意図的に鍛えなければ、「抽象化」という思考能力は磨かれにくいのです。

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ビジネスにおける抽象化・具体化のメリットは?

ビジネスにおける抽象化・具体化のメリットは?

ビジネスにおいては、抽象化と具体化を行き来するスキルを身につけることが、応用力や発想力を発揮することにつながります。ここからは、抽象化⇔具体化を行うメリットについて詳しく見ていきましょう。

応用力が高くなる

一度抽象化したものを、異なる状況にも当てはめて具体化できれば「応用力」が高まります。先述の「忘れ物をすると怒られる」の抽象化を、営業の仕事にしか当てはめられないなら応用力はゼロに近いでしょう。

そうではなく、採用担当などほかの仕事にも当てはめ、「忘れ物」という抽象化を「面接予定の組み忘れ」「結果連絡の入れ忘れ」といった形で具体化すると、「営業としての失敗」をほかの仕事にも活かせます。

発想力が高くなる

発想力とは「抽象化した複数要素の掛け算で具体化をする」ことです。例えば「安い販促物」という抽象化から、「ボールペン」という具体化しか思い浮かばなかったとしましょう。しかし、いろいろな抽象化の要素を組み合わせて具体化すれば、発想はぐんと広げられます。

下記は、抽象化した要素同士の掛け算です。

「安い販促物」で「食べ物 or 持ち物」×「重い or 軽い」×「日持ちする or しない」

2の3乗で8通りのアイデアを出すことができます。

実際に抽象化から具体化へ落とし込むと、このようなアイデアのバリエーションが生まれます。

「安い販促物」×「食べ物」×「重い」×「日持ちする」=ようかん
「安い販促物」×「持ち物」×「軽い」×「日持ちする」=ポケットティッシュ

抽象化と具体化をうまく使いこなせれば、自由に発想を広げられるのです。

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抽象化を多用しすぎた場合のデメリットは?

抽象化を多用しすぎた場合のデメリットは?

メリットだけでなく抽象化のデメリットについても知っておきましょう。ビジネスシーンでは抽象化を行うことで、次のようなデメリットを引き起こす場合があります。

相手との認識のズレが生じてしまう

本当は異なることを抽象化したはずなのに、たまたま同じ結果になってしまうケースがあります。例えば、「働き方改革が大事だ」と社員も経営者も唱えているとしましょう。社員は早く帰るなど「自分の待遇を向上する」という目的で「働き方改革」と抽象化したのに対し、経営者は生産性を上げることで「会社の利益を向上する」という目的で「働き方改革」と抽象化していたらどうでしょうか。

これは「総論賛成、各論反対」という状態です。スローガンを掲げた時点では賛成(=総論賛成)だったはずが、いざ実行しようとして具体化されると、いきなり反対(=各論反対)が出る。このような認識のズレを減らすためには、ときに具体に戻ってイメージ合わせをし、確認をしながら進めるとよいでしょう。

インプリ不能を引き起こす

「インプリ不能」とは「Implementation(考え出したソリューションを実行・実現すること)」ができないことを意味します。抽象の世界で議論を戦わせることは「空中戦」と表現されますが、これは地に足がついていないということです。空中戦の結果、抽象的な概念だけでできた理想型が生み出されることがよくあります。

例えば、レストランのメニュー開発で「空中戦」を繰り広げたのち、「安くておいしくて飽きず、世界中で安定供給ができて、調理が簡単で見栄えもよく、利益が出るようなメニューを作ろう!」といった結論が出たとします。いざ具体化しようとすると「実際にどのような方法で? 不可能なのでは?」という話になるのです。「インプリ不能」を招かないように、ここでも、具体に戻りながら検討していくことが大切です。

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抽象化が得意な人の特徴は?

抽象化が得意な人の特徴は?

抽象化が得意な人は、さまざまな場面や目的に合わせた柔軟な思考ができます。その礎となっている特徴を見てみましょう。

物事を多角的な視点から捉えることができる

1つの物事を多角的な視点から捉えることができれば、「特徴的な要素」を抜き出すときに有利です。

知識や経験が豊富

知識や経験が豊富であれば、それだけ脳内のデータベースが充実しているため、「似たようなもの」をざっくり広げて発想しやすくなります。

ビジネスにおける抽象化思考の活用例

ビジネスにおける抽象化思考の活用例

実際にビジネスで抽象化思考をどのように行うとよいのか、活用例を3つ紹介しましょう。

業務内容を上司に報告するとき

起きたことをそのまま伝えると時間がかかり、上司の頭に入らず、結果としてアドバイスをもらえないかもしれません。例えば、営業報告なら「A社は値引き要請を受けています。B社については今、提案しており、売れると◯円の見込みです。C社は契約締結まで進んでおり売上は◯円です。D社は競合とコンペに…」と情報量が膨大になるからです。

この場合は、まずは抽象化した情報を伝え、その後、具体的な情報を補足説明するといいでしょう。「既存取引先のB、C社については順調です。新規開拓先のA、D社は苦戦しています」「苦戦しているA、D社について状況を詳細にお伝えしますと~」とすれば報告が端的になり、フィードバックの時間がもらえるでしょう。

双方で「認識のズレ」が生じないよう意識して話すこともポイントです。

新しい企画案を考えるとき

例えば、飲食店のメニュー開発で新しい企画が必要となったとき、これまでに「ナタデココ」「マンゴープリン」「タピオカミルクティー」が流行したと知っていても、このままでは次の企画案につながりません。抽象化して「アジアンスイーツが流行した」と理解すれば、過去のトレンドを踏まえて韓国のホットクや台湾カステラ、マレーシアのアイスカチャンなどを提案することができるでしょう。

成功や失敗を“引き出し”にしたいとき

日々の具体的な経験から共通項をいかに見出し、抽象化して頭の中に保存していくか。これこそが「経験を通じて、学ぶか、学ばないかの差」となります。そして、頭の引き出しに保存された「抽象」は、目の前の仕事に当てはめてうまく「具体」にすることで学びを仕事に活かせます。抽象化思考の活用例としては、これが一番大事ではないでしょうか。

日常的に抽象化思考を鍛える方法は?

日常的に抽象化思考を鍛える方法は?

抽象化思考は、鍛えることで上達が見込めます。ここではおすすめのトレーニング方法をご紹介します。

現実世界は「具体」だと理解し、「抽象化」を常に心がける

ビジネスにおける抽象化は、最初は難しいかもしれません。しかし、日ごろから意識的に訓練すればできるようになります。目の前で起きているすべての現象は「具体」であり、それをいかに「抽象化するか」を日ごろから考えてみるとよいでしょう。

日ごろからさまざまな事象について共通項を探す

現実社会は目に入るもの、耳に入るものすべてが「具体」です。複数の「具体」から共通する「抽象」を探し続けてみましょう。例えば、人事担当者なら「Aさんが退職した」「Bさんも退職した」「Cさんも退職した」という事象について「まぁ、みんな事情がいろいろあるからね」で済ませると抽象化力は身につかず、何の改善にもつながりません。一つでも辞めてしまう原因の共通項を見出し、抽象化できれば、今後の採用や制度の改善に活かせます。

さまざまな立場からの見え方を考えてみる

一つの「具体」を、異なるさまざまな立場から考えられると抽象化力が高まります。例えば、近所のショップで「決算セール」が開催されているのを目にしたとき。消費者の立場からは「安売り」という抽象化ができますが、お店の立場から見ると「かきいれどき」という抽象化となり、経営者の立場から見ると「販売促進」「在庫処分」「現金化」など違った角度での抽象化になります。慣れないうちは頭の中で想像するのが難しいので、実際に異なる立場の人の話を聞くのがおすすめです。

抽象化を役立てやすい仕事は?

抽象化を役立てやすい仕事は?

ここまでご紹介してきた「抽象化」のスキルが求められる仕事があります。ある具体的な事象を「抽象化」したままアウトプットする仕事として、経営企画や事業戦略、ブランディング、法務などが代表的です。

また、具体的な事象を「抽象化」したうえで、異なる領域で再び「具体化」するという仕事は、商品企画や製品開発、マーケティング、人事などでも多いでしょう。例えば商品企画なら、具体的な商品やマーケットの売れ筋などから抽象化し、次の製品コンセプトを抽出し、自社の強みを生かした新たな製品に具体化していく、といったイメージです。

抽象化をマスターして、仕事でさらなる成長を

ご紹介したように、成長する人・仕事ができる人は「抽象と具体の往復が上手な人」と言われることがあります。私たちは目に入るもの、耳に入るものという「具体」に固執してしまいがちですが、ときには現実世界を客観的に眺める意識づけをして「抽象化」思考を高めていきましょう。

監修:株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ 代表取締役CEO 高田貴久
東京大学理科1類中退・京都大学法学部卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル(ジャパン)でプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当を務める。その後マブチモーター株式会社へ転職し、経営企画部員・事業基盤改革推進本部 本部長補佐として改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年に起業。現在は約100名の社員とともにトヨタ自動車をはじめとした幅広い企業で人材育成を手掛けている。

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