ゼロベース思考とは? 身につけるメリットやトレーニング方法・注意点を解説

ビジネスでは、新しい企画やアイデアを絞り出さなければならないシーンがあります。そんな時に活用できる「ゼロベース思考」について、概要やメリット、トレーニング方法などを解説します。

ゼロベース思考とは? 身につけるメリットや仕事で活用する場面、トレーニング方法を解説

近年のビジネスシーンでは「ゼロベース思考」が注目を集めています。特に新しい企画やアイデアを絞り出さなければならないケースで活用できるとされていますが、具体的にどのような思考のことをさすのでしょうか。今回は、人材育成事業会社で代表取締役を務める高田貴久さん監修のもと、ゼロベース思考の概要やメリットをはじめとした基本情報から、トレーニング方法や活躍できる場面などについて解説します。

ゼロベース思考とは?

ゼロベース思考とは?

「ゼロベース思考」とは、知識や経験、価値観、思い込み、先入観などにとらわれずに、まっさらな状態(ゼロ)から物事、企画を考えることをさします。ビジネスシーンでは「思い込みを捨てよう」と言われ、ゼロベース思考を求められることが多々ありますが、なかなか簡単にできないからこそ、苦労した経験のある方も少なくないでしょう。

ゼロベース思考というと、なんだか小難しいものに聞こえるかもしれません。しかし、ゼロベース思考は「思考法」とされるものの、どちらかというと「心構えや、日々の行動の仕方」の意味合いが大きいです。そのため、ちょっとした工夫や練習をすれば誰でもできるようになります。この記事を参考にぜひ取り組んでみましょう。

ゼロベース思考が注目されている理由は?

近年、ゼロベース思考が注目されている理由としては、まさに「ゼロベース」から結果を生み出すことを求められている点が挙げられます。多くの企業が新しい製品やサービスを次々に生み出していたり、時代に応じた新しい働き方を求められたりするなど、これまでに前例のない事柄が増えています。そのため、思い込みや先入観を捨てたゼロベース思考が注目されているのです。

例えば、仕事に行き詰ったり、新しい企画・サービスを起案する時、経験が豊富な上司に相談したり、過去のデータを用いればなんとか形になることも多かったのではないでしょうか。しかし、世の中の変化が速く、より複雑になったことで、「過去の経験や価値観では答えが導き出せない」時代になってきたのです。そのため、現在では、前例がないことでもゼロから結果を出していく、ゼロベース思考が特に求められるようになってきています。

トレンド思考との違い

ゼロベース思考と似たような言葉として、「トレンド思考」というものがあります。この2つは対極にあり、ゼロベース思考がこれまでの経験や知識を当てにしない思考方法なのに対し、トレンド思考はこれまでの経験や実績・知識をヒントとして結論を出します。

例えば、新商品をつくる時に「これまで同系統の商品は、生産数がいくつあれば足りたので、今回もそうだろう」といった予測はトレンド思考に分類されます。トレンド思考は過去の経験や実績の延長上にある未来を予測するので、再現性が高いのが特徴です。

ゼロベース思考を身につけるメリットは?

ゼロベース思考を身につけるメリットは?

ゼロベース思考を身につけるとビジネスにおいてさまざまなメリットがあります。具体的にどういったメリットがあるのか見ていきましょう。

「一味違った提案」ができる

ゼロベース思考ができるようになると、従来の発想に囚われない柔軟な発想力を身につけることができます。例えば、営業や企画会議の場で行き詰ったり、今までと同じ提案しか出てこなかったりする時に一味違った提案ができるようになるのです。提案の差別化ができると、プレゼンの場などでも有利に立つこともできるでしょう。

「これまでにない製品・サービス」を構想できる

製品やサービスを構想する場合でもゼロベース思考は効果を発揮します。例えば、類似の商品やサービスがあふれているなかで、これまでにない製品やサービスを打ち出すことができます。過去の実績や従来のやり方にこだわらないゼロベース思考を用いて構想された製品やサービスは、斬新なものとして広く認知される可能性が高くなるでしょう。

「これまでにない仕組み」を提案できる

ビジネスでは新規企画の提案やビジネスモデルの構築など、仕組みを新たに立案する必要に迫られるケースも多いのではないでしょうか。「今までと同じ」「前にもやった」という提案では、上司や周りが納得してくれない可能性もあります。その場合、ゼロベース思考をうまく使い、これまでにない提案ができると、自分の評価にも結びつくでしょう。

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ゼロベース思考を身につけるトレーニング方法は?

ゼロベース思考を身につけるトレーニング方法は?

ゼロベース思考はどのように身につけていけばいいのでしょうか。具体的なトレーニング方法をご紹介します。

自分の視野の狭さを確認する

ゼロベース思考は、過去の情報や経験にとらわれないようにするため、視野の広さがポイントになります。そこでまず、自分の視野の狭さを確認しましょう。特に、経験を重ねていくと「(今までこのやり方でやってきたのだから)このやり方であっている」「(これまでこうしてきたのだから)この方法しかない」と実体験にもとづいているがゆえに、ほかの価値観を認められなくなっていることがあります。

さらに、同じような業務や人間関係のなかで仕事を続けていると、自分の視野が狭くなっていることに気がつけないケースもあります。自分の視野を確認するには、いつもと違う場所に行ったり、普段関わりのない人と話をしたりなど、積極的に新しい価値観に触れるようにしましょう。

相手の意見を否定しない

自分の考え方が固まってしまうと、「これはおかしい」「あの人は間違っている」といった具合に、自分の感情・自分の目線で物事を判断しがちになってしまいます。この状態が恒常化すると、この先斬新なアイデアを持っている人がいたとしても、その人が発言しにくい状況をつくってしまったり、周りからはステレオタイプな人と判断されてしまう可能性があります。

ゼロベース思考は、過去の経験や価値観、思い込みなどにとらわれないことがポイントになるため、どんな意見もすぐ否定せず、まずはフラットに受け入れる必要があります。自分の価値観とは違う意見を受け入れると、結果として新しい発想につながったりなど、シナジー効果が期待できるかもしれないという意識を持つようにしましょう。

すべてを受け入れずに疑う視点を持つ

先述したように、相手の意見を否定しないことは確かにポイントなのですが、素直になりすぎて疑わずになんでも受け入れてしまうと、今度は自分の力で考えないようになってしまう可能性があります。これではゼロベース思考は鍛えられません。相手の意見を受け入れつつ、「別の考え方もあるかもしれない」「どこかに穴があるかもしれない」と疑って考えることも重要になります。

「ねらい」と「難所」を見極める

ゼロベース思考を用いて構想を練っていく際は、最初に出たアイデアがそのまま使えることはめったにないので、「ねらい」と「難所」を見極めて、アイデアをより練り込んでいく必要があります。

まず、「ねらい」を見極めるとは、検討の目的を外さないようにするということです。いくらゼロベース思考といっても、何でもアリのアイデア合戦ではキリがないので「最終的に何をしたいのか」「誰にとって、何が実現されていたらよいのか」などの目標を明確に定めて、意見を出し合うようにしましょう。

次に「難所」を見極めるというのは、使えなさそうなアイデアの「使えない点」をはっきりさせ、使えるアイデアに変えていくということです。一見使えなさそうなアイデアをすべて捨ててしまうのではなく、「このアイデアはどこがダメなのか」を見極め、使えるアイデアに変身させることで斬新なアイデアが生まれる確率が上がります。

論理的思考も駆使する

ゼロベース思考によって、新しく出てきたアイデアや構想が広がったあと、より現実的なラインに落とし込んでいく必要があります。その際には論理的思考を駆使しましょう。論理的思考(ロジカルシンキング)とは、物事を抜けやもれがなく、体系的に整理した上で筋道を立てて考える思考法のことをさします。論理的思考をあわせて使うことで提案をより具体化させられれば、アイデアや構想は机上の空論にならずに済むでしょう。

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ゼロベース思考を活用できる場面は?

ゼロベース思考を活用できる場面は?

「ゼロベース思考」を身につけると、ビジネスのどういったシーンで活用できるのでしょうか。具体的なシーンを3つ紹介します。

大きな成果をめざす時

ゼロベース思考は、ビジネスで大きな成果をめざす際に効果的に活用できます。例えば、企画を行う際、すでにあるものを改善するようなレベルが求められるのであれば、トレンド思考を用いて情報や過去の経験を踏まえた上で取り組んだ方がうまくいきます。

しかし、既存のものに対する改善ではなく、まったく異なる方向性に舵を切りたい場合には、ゼロベース思考を用いましょう。過去を踏襲しないような新しいやり方を考えた方が、より大きな成果につながりやすくなります。

自由な裁量で仕事を任された時

もし、上司から「好きにやってみろ」と自由な裁量で企画などの仕事を任されたのであれば、その時こそチャンスです。自由な裁量で仕事を任されるケースでは、非連続な成果やより大きな結果を求められることが多いため、失敗を恐れず、ゼロベース思考を使って任された仕事に果敢に挑戦するようにしましょう。チャレンジした結果、成功・失敗のどちらだったとしても、必ずいい経験の一つになります。

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ゼロベース思考の注意点

ゼロベース思考の注意点

ゼロベース思考はすべてのビジネスシーンにおいて活用できるわけではありません。最後にゼロベース思考の注意点について知っておきましょう。

使うべきではない場面では使わない

「ゼロベース思考」は万能なものではありません。ビジネスにおいて、ルールに従って行う局面や手堅い改善が求められている場面など、「ゼロベース思考」を使わない方がいいケースがあります。ここでは、使わない方がいい場面について例を2つ挙げてみました。

決め事に沿って手続きを進める場面

受注や発注のフローをはじめ、生産や部品の手配、経理の精算、法務チェックなど、すでに定型のやり方が決まっている場面では、ゼロベース思考は求められません。これまでの決められた事例に沿って手続きを進めることが必要な場合は、“既存のフローをどう改善していくか”という視点で対応するようにし、ゼロベース思考が必要な場面なのかどうかを見極めるようにしましょう。

過去を踏まえて着実に改善することが大切な場面

製品不良や顧客クレームの改善、業務効率化や残業削減など、これまでの経験を踏まえて改善する必要がある場面では、ゼロベース思考よりもトレンド思考での対応が求められます。過去のデータや知識、経験などを用いらなければならないケースでゼロベース思考を使用すると、結果的に改悪や失敗につながる恐れがあるので気をつけましょう。

上司や関係者に確認してから進める

ゼロベース思考を用いた斬新な話は理解されづらく、反対意見が多く出やすい傾向にあるので、自分が想定していない障壁が発生することもあります。ゼロベース思考で何かを思いついたからといって勝手に実行せず、きちんと上司や関係者に話を通して同意を取った上で、物事を進めるようにしましょう。

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ゼロベース思考が特に必要とされる職種・業界は?

ゼロベース思考が特に必要とされる職種・業界は?

ゼロベース思考が特に必要とされる仕事には何が挙げられるでしょうか。ここでは例として、3つピックアップしました。

IT業界

IT業界は、近年のAIやIoT技術、データサイエンス領域などの発展からもわかるように、業界そのものの動きが非常に早くなっています。そのため、特にゼロベース思考が必要になります。

企画職

斬新なアイデアを出すことが求められる企画職は、ゼロベース思考をもっとも活用しやすい職種であるといえます。従来の企画の改善程度では勝てない時こそ、今までにない新しいアイデアを出す必要があり、ゼロベース思考が役立つでしょう。

商社

商社は時代のニーズにあわせ、次々に新しい商材を売っています。そのため、「今求められているものは何か」「これから求められていくものは何か」をフラットな視点で見ていく必要があるので、ゼロベース思考が使うケースが多い業種といえるでしょう。

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ゼロベース思考で新たな時代を担う人材に!

現在では、過去のデータや知識などの情報に、検索を通してすぐにアクセスできてしまうため、「新しいもの」を生み出すのがどんどん難しい時代になってきたのではないでしょうか。ゼロベース思考は、これまでになかった視点で物事を見られるため、新たなアイデアや着眼点、発想を生み出すのに効果的な思考法です。ゼロベース思考を身につけられれば、斬新な製品やサービスを通して、新たな時代を担う人材となることができるかもしれません。まずは、自分の視野を疑い、目的を持った上であらゆる意見を受け入れることからはじめていきましょう。

監修:株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ 代表取締役CEO 高田貴久

東京大学理科1類中退・京都大学法学部卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル(ジャパン)でプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当を務める。その後マブチモーター株式会社へ転職し、経営企画部員・事業基盤改革推進本部 本部長補佐として改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年に起業。現在は約100名の社員とともにトヨタ自動車をはじめとした幅広い企業で人材育成を手掛けている。

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