仕事をしていると、人間関係にストレスを感じたり、時間に追われたりして、メンタルが疲れ気味になる人も少なくありません。ときには、友人や同僚と自分を比べて焦ったり、落ち込んだりすることもあるでしょう。疲れや不安な気持ちを無視して頑張りすぎると調子を崩してしまう場合もあります。
インタビュー後編では、若者や女性のキャリア支援に尽力されている十束おとはさんに、メンタルケアの大切さや落ち込んだときの対処法、仕事やキャリアについて悩みを抱えている人へのアドバイスなどを伺いました。
※インタビュー前編はこちら
仕事を変えると、自分も変わる。アイドルも会社員も経験した、十束おとはの道のり
無理にポジティブにならなくていい。フラットな状態になるまでやり過ごそう
――キャリアコンサルタントの存在を知ったのは、アイドル時代に担当していたラジオ番組だったそうですが、どんな番組だったのでしょうか?
大学生の就職活動を応援する番組でした。それまで自分の人生を振り返ることはあまりなかったんですけど、番組内で振り返ってみたとき、「私、大学時代の就活の仕方、間違っていたかも……」と初めて気づいて。「働く」ということについてもう少しちゃんと考えられていたら、自分に合う仕事を選べていたのかもしれないって思ったんです。
当時は、学生さんにもちゃんとした助言ができなくて。それが悔しくて、私もキャリアコンサルタントになりたいと思いました。
――「あのころの自分を救いたい」みたいな気持ちもあったんでしょうか?
それもありましたし、悩んでいる人がもっとフランクに相談できる所があればいいのにと思ったんです。当時の私みたいに、就活で迷ったり、不安を抱えたりしている学生さんはたくさんいると思うので。
キャリア支援について勉強していくうちに、メンタルヘルスの知識や資格も必要だと思うようになって、メンタル心理カウンセラーとメンタルヘルスマネジメント検定の資格も取得し、11月からは産業カウンセラーの資格を取得するために学校に通う予定です。
――キャリア支援においてもメンタルケアは重要なんですね。
そう思います。やっぱり誰しも波がありますからね。今の仕事や未来についてお話をするなら、落ち込んでいるときよりも、メンタルがフラットな状態のときのほうがいいと思うんです。
心の状態によって、言葉の感じ方や自分が置かれている状況に対する見え方も変わりますし、キャリアと同じく体と心も大事だと思っているので、そこを整えるお手伝いもしてみたいと考えています。
――ご自身の経験からもそう感じますか?
そうですね……。私もわりと繊細なほうで、無意識のうちに周りの人に気を使いすぎる癖がついてしまっていて。どこかでガス抜きをしないとダメだっていうのは身をもって学びましたね。
キャリアコンサルタントとして面談をしていても、表情がすぐれていなかったり、ごはんを食べられていなかったり、眠れていなかったり……という方もいるので、そういう場合は、キャリアの話よりも、まずはメンタルや健康のお話から入るようにしています。
――十束さんご自身、メンタルを安定させるために気をつけていることはありますか?
私の場合は、お休みの日に自然の中でぼうっとするのを楽しんだり、お仕事が終わった後に映画館に行ったりしてリフレッシュしています。アイドル時代も会社員時代もあまり休みを取れていなかったので、最近になってアフターファイブ的な楽しみ方を覚えたんです(笑)。
あとは、言われた言葉をすべて真に受けるのではなく、ある程度受け流すこと。相手を自分と同じとは思わず、「この人はこういう考え方なんだ」と思うようにしています。
――「分かっていても、受け流すのが難しい」という人もいるかと思います。十束さんでも難しいと感じるときはありますか?
もちろんあります。嫌な人、合わない人はどこにでもいますもんね。でも、その人にもその人なりのバックボーンや事情があるから、そういう発言や行動に至っているわけで、じっくり話を聞いていくと、共感できなくても、理解できることは多いんです。
相手は自分と違うと認めて、相手を受け入れることができれば、多少はラクになるかもしれません。それでも難しければ、関わらないようにすることも大事だと思います。
無理に自分をポジティブにしなくていいんです。そもそもずっとポジティブな人なんてほとんどいない。山あり谷ありで、落ちているときには無理に浮上せず、やり過ごすことも大切だと思っていて。その中で、自分が少しでも楽しいと思えること、喜べそうなこと、好きなことを選びながら、少しずつ上がっていけば、いずれフラットな状態になれる。そのときに現在や未来について考えればいいんじゃないかと思うんです。
最初はできなくて当たり前。「できない」ことを恥ずかしがらないで
――仕事で落ち込むことがあったとき、転職がよぎることってあると思うんです。そういう場合はどうすればいいんでしょうか。
落ち込む原因にもよるかもしれませんが、一度お休みを取ってリフレッシュすることは大切だと思っています。一度立ち止まって、外から俯瞰して見ることでしか分からないこともあると思うので。
それと、考えていることや感じていることを書き出して可視化することも大事ですね。「自分はこれが嫌なんだな」「こういうところには意外と満足しているんだな」と、いろいろ俯瞰して見られるようになるので、まずは書き出してみるといいんじゃないかなと思います。
――いろいろ考えた結果、転職を決めた人の中には、「今までのキャリアが無駄になってしまうのではないか」「新しい会社でやっていけるのだろうか」と不安を感じる人も多いかと思います。そんなとき、どんな心構えでいればよいでしょうか?
最初はできなくて当然だと考えたほうがいいと思います。私もアイドル時代に培った歌やダンスを今は活かせていないし、積み上げてきたものを一度全部崩した感覚があります。
会社員になってすぐは、できないことのほうが多くて、不安を感じていたんですが、ある先輩に「できなくて当たり前だよ」と言っていただいて。確かにそうだよなって思ったら、肩の力が抜けたんです。
できないことすべてに落ち込んでいたら身が持たないし、「できない」と言うのは全然恥ずかしいことじゃない。だから、周りの人を頼りながら、少しずつできることを増やしていけばいいんだと思います。
最初からすべてできなきゃダメだと思う必要はないですし、今まで積み上げてきたものが別の場面で活かされていることって、実はたくさんあると思うんです。ただ気づいていないだけで。私にとっては、それが「人読み」や「あいさつ」でした。そういうものは、誰にでも必ずあるはず。だから無理に探そうとしないことも大事だと思います。
「現状維持」だって悪くない。まずは誰かに相談を
――転職活動の段階ではどのようなことを意識したらいいでしょうか。「今の仕事がしっくり来ていないけど、自分に合う仕事が分からない」という悩みを持つ人も多いかと思います。
私自身もその悩みはよく分かりますし、実際にそうした悩みを抱える相談者の方も多くいらっしゃいます。そんなときは、キャリアの棚卸しをしてみるといいかもしれません。
キャリアについて誰かに話したり、書き出したりしていくうちに、楽しかったことや達成感を抱いたこと、嫌だったことなど、数々の思い出が紡がれていって、それまで見えていなかった価値観に気づけるようになるんです。まずはそれをご自身で知っていただくことが重要かなと。
その上で、job tagなどの職種や業種が紹介されているサイトを見てみたり、適性診断を受けてみたりして、いろんな仕事を見てほしいですね。自分に合う仕事を探すよりも、「やってみたい仕事があるか」という視点で探してみると、興味が湧いてくるかもしれません。
それでも見つからない場合は、「現状維持」でもいいと思います。3年経ったら転職するのが当たり前みたいに言われることもありますが、転職しないことで培われる能力だってあるはずなので、現状維持って実はいい決断だと思うんです。
そもそもなぜ転職したいのか相談者の方に聞いてみると、「周りが転職し始めているから自分も動いたほうがいいと思った」という人も多いんですよね。踏み出すタイミングは今なのか、数年先なのか、先入観を持たずに考えてみることが大事だと思います。とはいえ、現状維持を怖がる方って、結構多いんですよね……。
――そういうとき、キャリアコンサルタントに相談してもいいんでしょうか?
もちろんです。キャリアコンサルタントに相談する=転職だと思われがちですが、まだ転職する気がない方もたくさんいらっしゃいます。キャリアコンサルタントのお仕事って、相談者の方の「人生の棚卸し」と「物語を整える作業」を一緒にやっていくことなんです。
それと、みなさん意外と、人に相談していないんですよね。友達や家族に相談していたとしても、無意識に自分を良く見せようとしてしまったり、話しづらいこともあったりするので、第三者に相談することはとても大事だと思います。
――最後に、十束さんがこれからチャレンジしたいことを教えてください。
キャリアコンサルタントとして挑戦したいことは、いくつかあります。まずは、アイドル業界のセカンドキャリアに向き合うこと、中学生や高校生に働くことやキャリアについて考えるきっかけを提供すること、それから、20〜30代の女性のキャリア支援ですね。
共働きが増えてきているとはいえ、お子さんができると、0か100か、つまり仕事をやめるか続けるか、選択を迫られる状況に直面する女性も多いんです。なので、その人の「いい塩梅」を探れるようなキャリアコンサルタントになりたいなと思っています。
個人的には、パラレルキャリアやスラッシュキャリアといった多様な働き方が認められる世界になってほしいと考えています。私自身もいろんなお仕事をしていますが、そうした働き方は、まだまだ冷たい目で見られることも多いですよね。「いろんなことに中途半端に手を出している人」という感じで。
でも、いろんなところに軸があるのはいいことだと思うんです。ひとつ潰れてもまだやり直せるという自分へのお守りになるし、実績を積めば、新しい仕事につながることもあります。今後も自分の活動を通して、パラレルキャリアやスラッシュキャリアでもやっていけることを見せたいですね。
※インタビュー前編はこちら
仕事を変えると、自分も変わる。アイドルも会社員も経験した、十束おとはの道のり
【プロフィール】
十束おとは(とつかおとは)
2015年8月、フィロソフィーのダンスのメンバーとしてアイドルデビュー。アイドルとしてだけでなく、ゲーマータレントとしても活躍。2020年9月にメジャーデビューし、2022年11月19日、日比谷公園大音楽堂にて卒業した。約1年半のOL生活を経て、現在はゲーマータレント、MC・ライター、さらにはキャリアコンサルタントとして活動の場を広げている。趣味はゲーム、自作PCやガジェット集め、映画鑑賞、アニメ、漫画、アメコミ。
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