全部がどうでもいいと思う心理とは? 公認心理士監修のもと、タイミングや原因、対処法を解説

仕事や生活において全部が「どうでもいい」と思ってしまう心理とはどのようなものでしょうか。そうした気持ちの背景には心の疲れや価値観の偏りなどが考えられますが、本記事ではどうでもいいと思ってしまうタイミングや原因、対処法などを詳しく解説します。

全部がどうでもいいと思っている人のイメージ

「なんだか、全てどうでもいいな」と感じる瞬間はありませんか?このように日々のやる気を失ったり新しいことに挑戦する気力が湧かなかったりするのは、実は心のSOSかもしれません。今回は、全部が「どうでもいい」と思ってしまうタイミングや原因、対処法について公認心理師の川島達史さんに伺い、わかりやすく解説します。

どうでもいいと思ってしまうタイミングとは?

どうでもいいと思ってしまうタイミングは、大きく分けると2パターンあります。それぞれのパターンについては、以下の表にある通りです。

パターン1

パターン2

よく吟味したうえでどうでもいい
という結論を出した瞬間

よく吟味しないで突発的にどうでもいい
と思ってしまった瞬間

【解説】
どちらかというとポジティブな状態で、気持ちを切り替えて、もっと他の有意義なことに時間を活用しようとしている。

【解説】
考えることすら放棄して「もういいや」とただ投げやりになっている状態。こちらはその場の感情で突発的にあきらめているだけで、本心ではまだ興味や関心が残っていることが多い。

この2つのパターンを踏まえてどうでもいいと思ってしまいがちなタイミングについて見ていきましょう。

不公平な扱いを受けたとき(パターン1)

これはパターン1に該当しますが、職場に不公平な人事制度があったり、特定の人が贔屓されていたりなどの不公平な扱いを受けていると、どうでもいいと感じやすくなります。こうした現象に関連するのは「公正理論(公平理論)」です。

公正理論では、人は自分の努力と報酬が他者と比較して公平だと感じているときはモチベーションが高まりますが、不公平だと思うと著しくやる気が低下すると言われています。すなわち同じ仕事をしているのに、報酬や評価が不公平だと感じたときにはモチベーションが下がり、投げやりな態度に変わってしまうのです。

不可能なノルマを押し付けられたとき(パターン1)

これもパターン1に該当し、心理学の中では「不能心理学」と呼ばれる分野に関連します。人間のやる気は、一般的にある程度頑張れば達成できそうなときが一番上昇しますが、どう考えても達成は無理だろうと思うときには、はなからやる気が起きないものです。

例えば、普段100mを9秒台で走る人が、ある日突然100mを5秒台で走りなさいと言われても現実的に目標達成は難しいので「どうせできない」と思ってしまうのはごく自然なことでしょう。

自分の努力が実らず全てが無駄だったと感じたとき(パターン2)

どうでもいいと思ってしまうタイミングは、「学習性無力感」とも深く関係しています。学習性無力感とは何度努力しても結果が変わらない経験を繰り返すことで、「何をしても無駄だ」という感覚が定着してしまう心理状態のことです。

例えば、ダイエット中なのに体重が全然減らないときには努力した結果が見えず、これまでの努力が全て無駄だったと感じてやる気を失ってしまう、ということが挙げられます。こうしたことはパターン2に該当することが多いでしょう。

仕事の目的や意義を感じられないとき(パターン2)

どちらかといえばパターン2に該当しますが、自分がやっている仕事に対する目的や意義を感じられないと、どうでもいいと思ってしまいます。例えば、社内の使用されなくなったデータの整理・廃棄というような単純作業を、依頼する理由や目的をはっきりと知らされないまま任された場合は、自分が行う作業に意味を見出せず、どうでもいいと思うことがあるかもしれません。

周囲に期待しすぎて裏切られたとき(パターン2) 

これもどちらかといえばパターン2に該当しますが、信頼していた相手に何度も裏切られ、期待することに疲れたときも、どうでもいいと感じやすくなります。こうした相手への不信感から「この人と関わってもどうせ何もいいことない」と無力感を覚え、人や物事への関心が無くなってしまうのです。

また、仕事を家族のためと考えて今まで頑張ってきたという人であれば、いくら頑張ってお金を稼いだところで家族に感謝されないと自身の存在価値を見出せず、頑張る意義を見失ってしまうケースもあります。

何が原因?どうでもいいと思ってしまう心理やそのリスクとは?

どうでもいいと思ってしまう心理とはどのようなものでしょうか。その真意や理由、こうした心理を放置するリスクについて解説します。

学習性無力感に陥っている

先ほども少し触れましたが、学習性無力感に陥ると、挑戦や行動をやめて目の前の問題に向き合う意欲を失いがちになります。例えば、何度勉強しても成績が上がらなかったり職場で努力が評価されなかったりすると、こういった心理に陥りやすいでしょう。ひいては、自分自身に対する信頼低下につながることもあります。

あいまいさに耐えられない

どうでもいいと思う心理には「あいまいさ耐性の低さ」が関係します。あいまいさ耐性とは、不確実な状況やあいまいな指示にどれだけ耐えられるかという心理的な能力のことです。この耐性が低いと、上司やクライアントのあいまいな指示や不明確な目標に対して、強いストレスを感じてしまい、「どうせ上手くいかない」「やるだけ無駄だ」と投げやりな態度になってしまいます。

周囲からの承認が得られない

人は他者からの承認や評価を通じて、自分の存在価値や努力の意義を認識するものです。人間の5大欲求を定義したアメリカの心理学者アブラハム・マズローの5段階仮説によると、承認欲求は5段階のピラミッド階層のうち、上から2番目に位置付けられています。そのため、仕事や生活の中で周囲からの承認が得られない場合、「どうせ何をやっても評価されない」と感じ、やる気を失って投げやりな態度に変わってしまいます。

特に上司から罵倒される、頑張りが当然視されて周囲から認められないなどの否定的なフィードバックを受けることが多いと、モチベーションが低下しやすくなるでしょう。

<関連記事>承認欲求とは?強い人の特徴やなくしたい場合の方法を徹底解説

どうでもいいと思う心理を放置するリスクは?

こうしたどうでもいいと思ってしまう心理を放置すると、以下のようなさまざまなリスクが生じます。

・仕事の質の低下
投げやりな態度になると細かい注意を払わなくなるため、仕事の質が低下しミスを生む原因になります。

・人間関係の悪化
投げやりな態度は責任感や誠意の欠如と見なされ、周囲の信頼を失うことにつながり人間関係に悪影響を及ぼす場合があります。

・キャリアへの悪影響
投げやりな姿勢が続くと、上司や同僚からの評価が低くなる傾向にあります。すると、昇進や成長の機会を逃し、キャリアに悪影響を及ぼす可能性も少なくありません。

なお、過度なストレスやプレッシャーによって仕事や生活に対する意欲が著しく低下し、無力感や自信喪失に苛まれる場合もあります。このような状態が続くと抑うつ状態が強まり適応障害を引き起こすこともあるので、不安に感じたら身の回りの誰かに相談したうえで専門機関を受診するようにしてください。

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どうでもいいと思いがちな人の特徴

知らない話題に関心を示さない人のイメージ

どうでもいいと思いがちな人にはどのような特徴があるでしょうか。詳しく解説します。

あいまいさ耐性が低い人

あいまいさ耐性がある人ならば、あいまいな状況をそのままにして放っておける力があります。一方、あいまいさ耐性が低いと、上司やクライアントからのあいまいな指示や不明確な目標に対して、強いストレスを感じてしまいがちです。

自分の知らない話題に関心を示さない人

どうでもいいと思いがちな人は、自身の興味にだけ集中する傾向があり、興味の範囲外の話題には積極的に関わろうとしません。自分が知らない話題が出ても一切の興味を示さず、すぐに違う話題に切り替えてしまうなどの行動には注意が必要です。

結果だけを追い求める人

必ずしも全ての人に当てはまるわけではありませんが、結果だけを追い求める人はそれまでのプロセスを蔑ろにする傾向があります。そのため、自分が満足いく結果が得られないと、他人の努力やプロセスに興味を持てず、どうでもいいと思いやすくなるのです。すると、「そんな言い訳はいいから結果は出したのか」などの相手への配慮を欠いた発言が多くなり、周囲からの反発を呼ぶことになります。

損得勘定だけで物事を判断する人

プラスかマイナスかだけで物事を判断するタイプの人の場合、それが自分にとって有益ではないと判断すると、他の有益だと思う方のことを重視し、それ以外はどうでもいいと思いやすくなります。逆に損得勘定だけで物事を判断しない人は、どんなことにもストーリー性を持たせて考えられるでしょう。そのため、たとえ失敗しようがネガティブなことが起きようが、その過程にある人間の心の動きを楽しむことができるのです。

非生産的な行動を避ける人

損得勘定だけで考える人と似ていますが、効率性だけを最優先に考え、無駄だと感じる非生産的な行動を意図的に避けているとどうでもいいと思いやすくなります。こういった人は周囲に対しても同様に効率性を求める傾向にあるため、人間関係の衝突が起こることもしばしばです。

デメリットだけじゃない?どうでもいいと思う心理学的なメリット

一般的にどうでもいいと思うことは悪いことだと思われがちですが、実は心理学的なメリットもあります。どうでもいいと全く思わない人はあらゆることに時間を費やし、人生の大切な時間を無駄に過ごす場合がありますが、よく吟味したうえで「どうでもいい」と割り切っている場合は問題ありません。

例えば、有限な時間を大切なことに集中して自己投資できる、ネガティブな関係を断ち切ってポジティブな関係を大切にできる、といった心理学的なメリットが挙げられるでしょう。このように状況に応じて適切に見切りをつけられる力が重要です。

どうでもいいと思ったときに避けるべき行動

どうでもいいと思ってしまったとき、事態をより悪化させないよう避けるべき行動にはどのようなことがあるでしょうか。詳しく解説します。

職場での人間関係をリセットしようとする

職場で少しでもストレスがあったり、仕事で大きな失敗をしたりしたときには、人間関係を断ち切れば全てがクリアになると考えてしまいがちです。こうして目の前の嫌なことに正面から向き合わずすぐに人間関係をリセットする癖をつけると、結果として職場を転々とすることになります。

<関連記事>人間関係リセット症候群に陥ったら?その行動や克服法を公認心理師が解説

人や環境のせいにする 

どうでもいいと思うと、つい愚痴をこぼしてしまうことがありますが、ネガティブな言葉は周囲に良い印象を与えないことがあります。愚痴をこぼしたくなる気持ちは理解できますが、特に職場では人間関係の良好さを保つためにも、不満ばかりを口にしないよう気をつけましょう。

お酒やギャンブルに溺れる

仕事や生活でのストレスをお酒やギャンプルで発散しようとするのも、よくある行動の一つです。お酒やギャンブルも適度に付き合うことで気分転換ができるなどのメリットもありますが、投げやりな状態では正常な判断ができずに散財してしまうケースも少なくありません。こういった習慣を続けていると、次第に自分を大切にできなくなり、自暴自棄の行動に結びつくこともあるでしょう。

必要以上に自分を責める

心理学では人間が精神的に追い込まれると、究極的には自責か他責になると言われています。場合によっては、必要以上に自分を責める、他人を執拗に攻撃するかの二択に振り切ってしまうリスクもあるので注意が必要です。

どうでもいいと思ってしまったらどう対処するべき?

温かい心を育む様子

では、どうでもいいと感じたときには、一体どうすればいいでしょうか。その対処法についてわかりやすく解説します。

目標を見直す

どうでもいいと感じて投げやりになっているときは、多くの場合で目標が現実からかけ離れているか、そもそも目標自体に意義を感じていないことが考えられます。そうした状態から脱却するためには、目標を見直すことが大切です。例えば、毎日30分ほどビジネス書を読んでみたり、1日1回、ポジティブな言葉を使って周りの人に話しかけてみたりなど、「簡単に達成はできないけれど、ある程度の努力をすれば達成可能な目標設定」を意識してください。

温かい心を育む

人間関係が悪いとネガティブな感情になりやすく、どうでもいいと思いがちになります。これは気分一致効果とも言われますが、ネガティブな状態のときはどうしても投げやりになりやすいので、人間関係を健全に保つべく温かい心を育むことが大切です。

具体的には、結果が出なかったときは一緒になって原因を突き止めたり、相手の興味に関心を示して深掘りしたり、普段から周囲に気を配り思いやりを持って接することを心がけましょう。

モヤモヤの感情を溜め込まず吐き出す

ストレスや悩みを一人で抱え込んで爆発させてしまうことはよくあることです。どうでもいいという心理は、ほとんどの場合怒りの感情と連動しているので、不満があったらしっかりと主張し、話し合いをもって解決していく姿勢が大切になります。一般的に怒りの感情はモヤモヤ、イライラ、怒りという三段階で進んでいくので、モヤモヤの段階でしっかりと話し合って解決するのがいいでしょう。

自分なりの価値を見つける視点を持つ

物事のネガティブな面ばかりを探していると、好奇心を見失いやすくなります。どんな物事でも捉え方次第で面白いことだったり楽しいことだったりの価値を見つけることは可能です。「この仕事は具体的にどんなところが楽しいのかな」と自身に問いかけながら、自分なりの価値を見つける視点を持つようにしましょう。一見つまらなそうに思えるようなことでも、工夫して何らかの面白いポイントを見つけられると、段々とやりがいを感じられるようになるはずです。

あいまいさ耐性をつける

仕事には必ずしも明確な答えがなかったり、進行中に状況が変化したりする場合があります。その際、答えがすぐに出ないことに対して不安や苛立ちを感じることもありますが、この不確実性をいったんは受け入れることが大切です。「自分には無理だ」と思ってすぐに見切りをつけるのではなく、達成できるかわからないあいまいな状況でもできる限り楽しもうと試みてください。

自分が誰かの役に立っている場面を想像する

仕事を続けていると、「この仕事には何の意味があるのだろう」と感じることもあるでしょう。本来のプロジェクト進行とは別に発生する細かな事務作業を行うときにこのような思考になることがあるかもしれません。そんなときは誰かの役に立っていると思えるような想像を働かせましょう。

例えば、プロジェクトの進行に必要な備品をクライアントに送る場合、運搬中に備品を傷付けないよう緩衝材を使いながら丁寧に梱包することで、この荷物を受け取った人はそうした親切な対応に感銘を受けて、笑顔になるかもしれません。このように自分の仕事が誰かの助けになる場面を意識することも大切です。

気分一致効果を上手く活用する

どうでもいいと思うときは、もともと土台の心理がマイナスになっていることが多いものです。これを改善するためには、気分一致効果を上手く活用しましょう。やはり、ポジティブな気分で日々を過ごすとその気分が仕事にも良い影響を与え、意欲が高まります。

例えば、楽しい音楽を聴きながら作業をするだけでも気分が向上するのでおすすめです。ほかにも、天気がいいなどの本当に些細なことでもいいので、何かしら気分が上がるポイントを見つけてみてください。

どうでもいいと思うことは必ずしも悪いことではない

ストレスやプレッシャーから解放される様子

どうでもいいと思うことは必ずしも悪いことではありません。特に心が疲れているときには、日々のストレスやプレッシャーから自分を守るための防衛反応とも言えるでしょう。ただ、こういった癖がつくと本来価値のある情報や体験、ビジネスチャンス、良好な人間関係を失うリスクが高まります。

大切なのは、「本当にどうでもいいと思っているのか」を冷静に見極めることです。自分の心の声にじっくりと耳を傾け、少しでもやってみたいと感じるなら、挑戦することを楽しみながら自分なりに未来の可能性を広げてみましょう。

監修:ダイレクトコミュニケーション 代表取締役 川島達史
目白大学大学院心理学研究科を修了し、現在ではコミュニケーション講座の講師として、心理学や人間関係に関するワークを行う。専門は成人のソーシャルスキルが孤独感・対人不安に与える影響。普段は「コミュニケーション講座」の主催や、YouTubeチャンネル「ダイコミュ大学」による情報発信を行なっている。不安に与える影響。

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