承認欲求とは? 承認欲求が強い人の特徴やコントロールの仕方を解説

「承認欲求」という言葉から、ネガティブなイメージを抱く人も多いのではないでしょうか? しかし人間であれば誰もが持っている欲求の一つ。この欲求の特徴やコントロール方法を、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが解説します。


承認欲求とは

「あの人は承認欲求が強いよね」など、みなさんも「承認欲求」という言葉を普段の会話の中で聞いたことがあると思います。承認欲求という言葉はネガティブなイメージも強く、自分のことを認めてほしいという気持ちの強さを感じてしまう人もいると思いますが、実際にはどんな意味なのでしょうか?

承認欲求は誰にでもある欲求の一つ

承認欲求とは、他人から認められたいという欲求や自分が周囲から一目置かれるような存在でありたいという願望の総称です。程度の差はあるものの、承認欲求とは謙虚な人や奥ゆかしい人にもある、人間らしい欲求の一つ。あなたの心の中にも承認欲求はあります。具体的にどんなもので、どのように付き合えばいいのか、この機会に確認してみましょう。

マズローの欲求5段階説

マズローの欲求5段階説とは、人間性心理学の生みの親ともいわれる有名な心理学者アブラハム・マズローが提唱した理論で、以下の五つの欲求で構成されています。

5 自分の能力を発揮することを求める「自己実現欲求」(SELF-ACTUALIZATION)
4 人との関わりの中で評価されることや尊重されることを求める「承認欲求」(SELF-ESTEEM)
3 仲間や集団内での役割やつながりを求める「社会的欲求」(LOVE AND BELONGING)
2 危険にさらされず安心できる生活を求める「安全欲求」(SAFETY AND SECURITY)
1 食事・睡眠など本能的に求める「生理的欲求」(PHYSIOLOGICAL NEEDS)

人間の欲求をピラミッドのように重ねて説明した「マズローの欲求5段階説」では、承認欲求は第4段階に位置づけられています。これらの欲求は、下にある欲求が満たされると、上の欲求を満たしたくなるといわれています。承認欲求は、本能的な欲求が満たされ、心身の健康や経済的な安心などの安全欲求が満たされ、家族や集団の中でつながりを得たいという欲求が満たされた後に求めたくなる、比較的高度な欲求ともいえます。

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自己顕示欲と承認欲求の違い

承認欲求と似た言葉に「自己顕示欲」というものもあります。両者はしばしば混同されますが、それぞれの意味は微妙な違いがあります。

承認欲求を一言で表すと「人から認められたい」「他人から否定的な評価を受けたくない」という欲求です。一方、自己顕示欲は「目立ちたい」という欲求です。自己顕示欲が強い人は、過剰な自己主張をしたり、自らを実際以上の人物に見せたりする傾向にあります。

承認欲求には種類がある

一口に「承認欲求」といっても、さまざまな種類があります。具体的にどんな欲求があるのでしょうか? 4つのタイプに分けて解説します。

1.称賛獲得欲求

例えば、仕事の成果をアピールしているときに「自分の手柄を認めてもらいたい」という気持ちになる。そういった、他者からの高い評価や称賛を得たいという欲求のことを「称賛獲得欲求」といいます。

2.拒否回避欲求

「手柄を認めてもらいたい」と思う反面、「自慢話だと思われたくない」といった気持ちで印象をよくするように振舞いたくなる。そのような、嫌われたり否定されたりすることを避けようとする欲求のことを「拒否回避欲求」といいます。他者からのネガティブな評価を避けたい人は、成果を上げられる人というよりも、善良な人だと思われるような行動をとる傾向があります。

3.他者承認

「他者承認」とは承認欲求の中でも、他者から認められたい欲求のことを指します。周りそのの評価を気にした行動をとりがちなので、認められようとアピールをし過ぎてしまったり、評価に振り回されて本心とは違う行動をしてしまったりすることもあります。

4.自己承認

自己承認とは承認欲求の中でも、自分で自分を認められるようになりたいという欲求のことです。マズローの欲求5段階説の自己実現に近く、他者承認よりも高次の承認欲求ともいわれています。

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承認欲求が強くなる理由

人はなぜ承認欲求が強くなるのでしょうか? その理由を二つの視点から解説します。

自己肯定感が低い

承認欲求が強くなる理由の一つに、自己肯定感が低いことが挙げられます。自分に自信がなく、肯定できない人は他者からの評価や承認を求めがちです。自己肯定感が高い人の中にも承認欲求が強いタイプもいますが、自己肯定感が低い人の場合、承認されたい気持ちは切実です。

認められた経験や実感がない

認められた経験や実感がない人の中には、評価されることを諦めるタイプの人もいます。しかし、自己肯定感が低い人と同様に、切実に評価を求めてしまうタイプもいます。こういった気持ちが強すぎると、相手に悪い印象を与えてしまうような行動をとりがちです。

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承認欲求が強い人の特徴

承認欲求が強い人には、どんな特徴があるのでしょうか? 4つの特徴を紹介します。

1.主張が強い

承認欲求が強いと、他者から認められたいあまりに自分の出した成果などをアピールをし過ぎてしまう傾向があります。その結果、主張が多いコミュニケーションスタイルが癖のようになってしまうこともあります。押しが強すぎる人に出会ったら、言動に注意して観察してみてください。その背景には強すぎる承認欲求があるかもしれません。

2.自分の話や自慢話が多い

称賛を得たいあまり、自分が優れている点をアピールしてしまうというのも承認欲求の強い人がやりがちな行動の一つです。本人にはそんなつもりはなくとも、周りには自慢話のように聞こえるので、称賛を得るつもりがネガティブな評価になってしまうケースも少なくありません。

3.周囲からの自分の見え方を気にしすぎる

特に人からのマイナス評価を避けたい拒否回避欲求が強い人には、周囲からの見え方を気にし過ぎるという特徴があります。他者からの印象を気にするあまり、緊張したり、無理をし過ぎてしまったり、心に負担がかかってしまう傾向があるので注意が必要です。

4.プライドが高い

承認欲求が強い人の中には、潜在的な特権意識が強く、プライドの高さを感じさせる人もいます。プライドが高い人が抱きがちな「自分はできる」といった有能感も、承認欲求を前面に出すような言動につながりやすいです。主張の強さと相まって、周りから嫌悪感を抱かれてしまうこともあるかもしれません。

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ビジネスシーンで承認欲求が強いことのメリット

承認欲求は必ずしも悪いものではありません。特に、ビジネスシーンにおいて承認欲求があることのメリットを2項目に分けて紹介します。

モチベーションを高く維持できる

認められたいという気持ちがモチベーションとなり、努力を続けやすくなるというメリットがあります。欲求というのは強いエネルギーでもあるので、いい方向に生かせれば、仕事に取り組む頼もしい原動力になってくれることでしょう。

仕事の成果が出やすい

他者からの評価や称賛が欲しいという気持ちは、仕事での頑張りにつながります。モチベーションを維持して努力を続けることで、仕事の成果が出やすくなるというメリットもあります。

承認欲求が強いことのデメリット

うまく活用すれば強い味方になってくれる承認欲求ですが、デメリットもあります。以下、3項目に分けてデメリットを紹介します。

失敗した際に意欲が失われることも

デメリットの一つは、批判や低い評価を避けようとする拒否回避欲求が高くなることです。これによりチャレンジングな選択よりも無難な選択をするといった行動だけでなく、行動する意欲自体をなくしてしまうケースもあります。

人間関係の悪化などトラブルとなることも

認めてほしいという気持ちが強すぎると過度なアピールや、自慢話のような話し方をしてしまうことがあります。このようなコミュニケーションスタイルはかえって印象を悪くし、場合によっては人間関係のトラブルにつながってしまうこともあります。

褒められることが目的化してしまうことも

自分が行動をした結果、他者からの評価や称賛を受けるというのが本来の姿ですが、承認欲求が強すぎると、評価を得ることを目的として行動するようになってしまう場合もあります。他者からの評価というのは、自分ではコントロールできないものなので、評価に振り回されて疲弊してしまう人もいます。

承認欲求を抑えたいときの対処法

自分の承認欲求を自覚し、それを抑えたいと感じたときはどうすればよいのでしょうか? その方法を五つ、紹介します。

承認欲求は誰にでもあるものだと受け入れる

承認欲求は誰にでもあるものです。人間性心理学の生みの親ともいわれるマズローは、著書『人間性の心理学』の中で、「われわれの社会では、すべての人々が(中略)他者からの承認などに対する欲求・願望を持っている」と述べています。承認欲求を抑えたいときには、自分の中の「認められたい」という気持ちを否定するのではなく、自分にも承認欲求があることを受け入れ、いい方向に活用できるよう意識していくのがよいでしょう。

他者承認ではなく、自己承認に目を向ける

承認欲求をいい方向に活用する方法の一つとして、自己承認に目を向けるという方法があります。他者からの評価ばかりを気にして行動するのではなく、自分で自分を認めてあげられるような行動を増やしていくのがよいでしょう。これによって自分ではコントロールできない他者からの評価に振り回されることを減らせます。

見返りを求めずに周囲との協働を意識する

承認欲求が強すぎる人にありがちな「自分が自分が」といった気持ちを抑えるためには、周囲と協働を意識する方法がおすすめです。助け合い、共に成果を出していくように心掛けると、自己主張が減るだけでなく、成果を出しやすくなる、印象がよくなるといった効果も期待できます。その結果として承認欲求も満たされるので、周囲と協同することで好循環が生まれます。

SNSでの評価を見られない環境にする

SNSは手軽に承認欲求を満たすことができるツールでもありますが、近年、SNSでの評価を気にするあまり疲弊してしまう「SNS疲れ」が問題視されています。他者と比較して自己肯定感が下がったり、「いいね」の数を過度に気にしてしまったり、もしも自覚があるのであれば一定期間SNSから離れてみるのがおすすめです。

デジタルデトックスも兼ねて、スマホやPCなどのデバイスから離れてみると、心身の健康にいい効果が期待できます。外を散歩する、季節の移り変わりを感じるといった行動は、マインドフルネスのような「今、この瞬間に注目する」という効果も感じやすいので、デジタルデトックスをするときには、併せて試してみましょう。

複数のコミュニティに所属してみる

職場での評価を気にするあまり、ワーカホリックになってしまうといった場合には、趣味で習い事を始めるなど複数のコミュニティに所属するのもおすすめです。仕事など一つの分野で承認欲求を満たそうとするよりもリスクを分散ができ、気分転換によるいい影響も期待できます。

欲求を満たす4つの承認とは?

人間であれば、誰もが持つのが承認欲求。それを満たしてくれる承認とはどのようなものがあるのでしょうか?

承認の種類を知ることで承認欲求と向き合いやすくなる

存在承認

「存在承認」とは、自分の存在を認めてもらうことです。あいさつをされたり、名前を覚えてもらったりしたときに嬉しかった気持ちを思い出すとわかりやすいでしょう。

行動承認

「行動承認」とは、自分がした行動を認めてもらうことです。普段の仕事や頑張りなどに対して褒められたときの気持ちを思い出すとわかりやすいでしょう。

成長承認

「成長承認」とは、過去の自分と比べて成長があった部分を認めてもらうことです。成長したかどうかがポイントで、必ず結果が伴うわけではありません。仕事が効率よくできるようになったといった成長を認めてもらったときの気持ちを思い出すとわかりやすいでしょう。

結果承認

「結果承認」とは、自分が出すことのできた結果を認めてもらうことです。目標数値を達成したことを褒められたときの気持ちを思い出すとわかりやすいでしょう。

それぞれの承認欲求を知っておくことで、自分にどんな欲求があるのか、どんなときに欲求が強くなりがちなのかなど、自分の中の承認欲求と向き合いやすくなります。

【ちなみに】承認欲求が強い人との付き合い方・対処法

仕事や日常生活の中で承認欲求の強い人と関わる際には、どのようなことに気を付けたらいいのでしょうか。ここでは承認欲求の強い人との付き合い方を見ていきます。

相手を否定しない

承認欲求が強い人は「否定される」ということに、強い嫌悪感を覚える傾向にあります。そのような人に対して意見や行動を否定することは、相手にとって精神的な負担を与えてしまう可能性があります。そのため、相手の言葉や行動に対して共感や理解を示すことが大切です。相手が間違っている場合でも、すぐに否定するのではなく、「共感をしてから間違いを指摘する」といった気遣いができるといいでしょう。

 相手の良い部分を褒める

承認欲求の強い人に対しては、評価や称賛を積極的に与えるといい関係を築きやすくなります。他人からの評価や称賛はモチベーションや気分を上げ、さらには相手の自信や自己評価を高めることにもつながります。

相手の話を丁寧に聞く

相手の話にしっかりと耳を傾け、理解しようとする意識も重要です。承認欲求が強い人は、自分の意見や行動に対して、相手からの理解や共感を得られているかどうかを重要視します。そのため相手の話に注意深く耳を傾けて理解しようと努めると、相手から信頼してもらいやすくなります。

 相手をサポートする

「自己評価が低さ」が、承認欲求の強くなってしまう原因であることが少なくありません。その場合、自信を持つことができず、その裏返しとして相手からの承認を求めます。そのため承認欲求の強い人と付き合う場合には、 相手をサポートしたり、励ますことを意識すると相手の自信につながるでしょう。

 ある程度の距離を置くことが必要な場合も

承認欲求が過度に強くなると、他人の気持ちに配慮せず自分の欲求を満たそうとする人もいます。無理に相手を褒めたり、気を使ったりするとそれが自分自身のストレスにもなりかねません。相手に寄り添うという気持ちは大切ですが、時には適度な距離を保つことも必要です。

まとめ

承認欲求は誰にでもある人間らしい欲求で、いい方向に活用することで頼もしい原動力にもなってくれます。自分の中の承認欲求を無理に抑えこもうとせず、自己承認ができるようにする、モチベーション維持に役立てるなど、上手に付き合っていきましょう。

主張や自慢話が多く、嫌だなと感じる相手に対しても「もしかして承認欲求が強い人なのかもしれない」と考えることで、ネガティブな気持ちになるのを予防することもできます。また、部下などの承認欲求を満たすような声掛けをして、モチベーションを上げるといった活用もできます。「あの人は承認欲求が強いよね」といったネガティブなだけの捉え方はせず、ぜひ今日からポジティブな活用を意識してみてください。

【プロフィール】
藤田尚弓(ふじた なおみ)
株式会社アップウェブ代表取締役、コミュニケーション研究家、コラムニスト。さまざまな領域に散見するコミュニケーション研究の調査整理、アウトリーチ活動を行う。また、テレビ出演・監修、雑誌などへのコンテンツ提供も多数。著書に『銀座で学んだ稼ぐ人のシンプルな習慣(総合法令出版)』『NOと言えないあなたの気くばり交渉術(ダイヤモンド社)』。近著に『いい人間関係は「敬語のくずし方」で決まる(青春出版社)』。

※本記事は有識者への取材に加え、編集部で再編集・記事更新を行っております。   

更新日=2023年3月17日 

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