「20万個を超えればヒット」といわれているガチャガチャ業界。そのなかで、2012年7月に発売された「コップのフチ子」は、現在までにシリーズ累計700万個を超える大ヒット商品となっています。
「コップのフチ子」を生み出したのは、「奇譚クラブ」という会社。玩具の企画、デザイン、製造および販売などを行う同社は、なんと社員数わずか10名にもかかわらず、ヒット商品を次々と生みだしています。ヒットする企画を生み出す秘訣は、いったいどこにあるのでしょうか?
今回は「コップのフチ子」の誕生秘話や、ヒット商品を生み出す企画術を、奇譚クラブの主宰である古屋大貴さんが語ってくれました。
フチ子は水草水槽の話から生まれた!?
―大ヒットした「コップのフチ子」ですが、その企画はどのようにして生まれたのでしょうか。
「もともと僕は、マンガ家・映像作家であり、コップのフチ子の原案を考えたタナカカツキ先生のファンだったので、『いつか一緒にお仕事をしたい!』と、ずーっと思っていました。それがあるとき、人の紹介でつながることができたのです。そのときに『やりませんか』とメールを投げたらカツキさんからは『あれ? まだ一緒に仕事してなかったんだっけ? 遅いよ~』なんて返事が来て……それがそもそもの始まりですね。その後、カツキさんの事務所で初めての打ち合わせを行ったのですが、ほとんどが『水草水槽』の話で終わってしまいました」
―水草水槽ですか(笑)。
「そのころ、カツキさんが雑誌で水草水槽のことを書いていて、それに興味を持っていた僕が、我慢できずに水槽の話を振ってしまい……そこからはもうずっと水槽の話でしたね(笑)。最後にさらっと、『じゃあ何か企画考えますね』『よろしくお願いします』と言ったくらいしか、仕事の話はしませんでした」
―なるほど。あまり仕事とは関係のない雑談から、フチ子の企画はスタートしているのですね。
「その後、二度目の打ち合わせは水草水槽のお店でした(笑)。当然のごとく水槽の話ばかりしていたのですが、途中でカツキさんが『そうそう、これ忘れちゃう前に……』と、10枚ほどの企画書を渡してきました。ドラマティックな要素など何一つ無いのですが、コップのフチ子は水草水槽のお店で渡された企画書から生まれたアイデアなのです」
雑談にこそ、アイデアの種がある
―フチ子が水草水槽の話から生まれたとは、驚きですね。
「フチ子に関してもそうなのですが、われわれが外部のクリエイターと組んで仕事をするときは、基本的に企画内容はお任せしています。そのクリエイターの個性が発揮された企画でなければ意味がない。だからこそ、のびのびとアイデアを出してもらうためには、こちらから余計な注文をすることは足かせになると考えています」
―つまり、のびのびとアイデアを出すためには足かせをつくらないことが必要だと。そのために意識して行うことはありますか?
「仕事の打ち合わせでも、雑談ばかりして終わることがよくあります。商品を企画するというのはもちろん仕事なのですが、仕事の話ばかりしていると自由な発想がしにくいのではないかと思うんです。雑談は仕事の場では邪魔なものとして扱われがちですが、場の空気をほぐしたり、そこから思わぬアイデアが生まれたり、相手の本質が垣間見える、という意味では非常に重要なものだと思います」
―仕事の打ち合わせでは、雑談はしてはいけないことのように思ってしまいがちですが、むしろ仕事に関係のない話のなかにこそヒットするアイデアの種が眠っているのですね。
「ヒットするか」より「面白いか」が企画の評価基準
―水草水槽の話から生まれたフチ子のアイデアは、その後どのように商品化されていったのでしょうか。
「奇譚クラブでは、企画書は月に1度の企画会議で発表されます。フチ子も同様です。しかし、実はこのときの会議でどれを商品化するのか、みんなの人気投票を行ったところ、フチ子は3番手の人気だったんです」
―3番手とは、微妙な順位ですね。
「『即売れるもの』といえば、やっぱりストラップやマグネットが主流だったのですが、フチ子に関しては未知の領域でしたからね。だけど、あえてそういった新しいジャンルに挑戦し、先駆者となってこその奇譚クラブ『らしさ』だと思うんです。正直なところ『これはヒットする!』という確信があってフチ子の企画が選ばれたわけではなく、『男女どちらにでも受け入れられそう』『“コップのフチ”という発想が新しい』という要素によって商品化を決定しました。
―フチ子がヒットする確信はなかったと。
「どれを商品化するか選ぶ際に、『ヒットするかどうか』ということはあまり考慮していません。そんなことは考えたところで結論が出るはずがないと思うので。大事なのは『その場にいるメンバーがその企画を面白いと思うかどうか』ということです」
―なるほど。「ヒットするか」より「面白いか」が企画の評価基準ということですね。
「ヒット商品を意図的に生み出せたら苦労はしないのですが、それは難しい話ですよね。しかし、本当に良いものは勝手に売れていきます。人々の心に刺さるものであれば、過剰な宣伝なんてしなくても勝手にブームが巻き起こる。
フチ子がヒットしたのは、正直ラッキーの要素もあると思います。しかし、それを生み出せたのは『これがあったら面白いだろうな』という考えが基礎にあったからでしょう。『売れるもの』を考えるよりも『面白いもの』を考えたほうが、結果として売れるようになる。奇譚クラブは常にその『面白いもの』を追求しているし、その象徴がフチ子なのだと思います」
重要なのは本物を知ること
―「面白いもの」を追求していくには、センスを磨くことも必要かと思います。面白さを見極めるセンスはどのように磨けば良いのでしょうか。
「面白いものを生みだすためには、まずは『本物』を知ることだと思います。センスのある人・ない人っていうのは、こうした良いものを自然と見つけられて、見抜けて、見ているのが好きな人。そうしたセンスを鍛えるためには、芸術・美術・食事など、本当に良いもの・おいしいものに触れるということが大切です。そこにジャンルは関係なく、良いものには良い要素があり、それらを見て目を養うことは非常に重要なことなんです。カツキさんだって、別に大流行していたわけではないですしね(笑)。だけど、カツキさんのつくるものは昔から美しい、『良いもの』なんですよ」
いかがでしたでしょうか。ガチャガチャ業界で異例の大ヒットとなった「コップのフチ子」誕生の裏側には、「『面白いもの』を生み出せば結果として『売れるもの』がでてくる」という、奇譚クラブの仕事スタンスがあったようです。皆さんも、古屋さんの話を参考に、自身のセンスに磨きをかけてみてはいかがでしょうか。コップのフチ子に続く大ヒット商品を生み出すのは、あなたかもしれません。
株式会社奇譚クラブのプロフィール
カプセルトイを中心に商品の企画開発をしている玩具メーカー。「江頭2:50ストラップ」や「土下座 ストラップ」など、どこにも無いアイデアとクオリティをモットーに愛のあるモノづくりをする会社。最近では累計700万個を越える大ヒット商品「コップの フチ子」や、累計300万個超の「ここは俺がくいとめる !お前は先に行くニャ―! 」など個性的な商品で注目を集めている。
※この記事は2015/01/21にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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