絵本は子どものためのものと思っていませんか? 実は大人になってからあらためて読むと、癒やされたり、感動したり、新しい発見があったりと、子どものころとは違った楽しみ方ができます。また、絵本から得たことがビジネスの現場で役立つ側面も!
そこで今回は、絵本コーディネーターの東條知美さんに、ビジネスパーソンが絵本を読むメリットと、おすすめの絵本5冊を教えてもらいました。
ビジネスパーソンが絵本を読むメリットって?
東條さんは、ビジネスパーソンが絵本を読むメリットは次の3つだと言います。
1. “考える力”と“想像力”を鍛えるのに役立つ
「絵本は、ビジネスの現場で求められる“考える力”と“想像力”を鍛えるのに役立ちます。絵本はビジネス書や実用書のように、直接何かを教えてくれるわけではないので、新たな真実や問題解決のヒントを得るためには、自分で考え、想像することが不可欠だからです」(同)
2.今の現実を絵本の中で疑似体験し、捉え直すことができる
「大人は心の中に誰もが持つ“子どもの目”と、すでに多くの経験を持つ“大人の目”の両方で絵本を読むことができます。
大人の目で読めば、自分自身を取り巻く今の現実をしっかりと捉えるための、疑似体験を与えてくれます。絵本の中で起きる問題は、あなたの身の回りで起きる出来事にどこかしら通じるところがあるはずです。それを読み取り、あなた自身の経験値と想像力で、問題解決のシミュレーションをしてみましょう。きっと今の現実的な問題を新たな視点で捉え直すことができますよ」
3.問題解決のための、曇りのない視点を“回復”できる
「映画にもなった『指輪物語』(映画「ロード・オブ・ザ・リング」)の原作者であるJ・R・R・トールキンは、自著の中で、大人にとってのファンタジーを“曇りのない視野を回復するのに役立つもの”と述べました。
仕事を通してさまざまな悩みや徒労を感じても、さらなる成熟を目指すのならば、新しい視点を手に入れ、現実に起きている問題を解決に導き、再構築するという方法を取るでしょう。その問題解決のための新しい視点を手に入れるヒントが、絵本の中にはあります。文章だけでなく絵にもヒントは隠されていますよ」
それでは、東條さんがピックアップした社会人におすすめの絵本5冊をみていきましょう!
仕事に自信を持てるようになりたい人に
『ラチとらいおん』マレーク・ベロニカ文・絵 とくながやすもと訳 福音館書店
「弱虫で自信が持てず、苦手なものからは逃げてばかりのラチ。ある日、強くて勇敢なライオンが現れ、ラチと行動を共にするようになります。ライオンがついていると思うとどんな場面も乗り越えられるラチですが……。というのがあらすじです。
自信は実践を重ねることで自然と身につくもの。“悩んでばかりいないで動こう!”と肩を押してくれる一冊です。バッグに忍ばせておき、元気のない後輩や同僚にそっと差し出すのもおすすめです」(東條さん:以下同じ)
チームの中の自分の役割を再確認する
『グリム童話 六にんぐみせかいあるき』矢川澄子再話 スズキコージ絵 教育画劇
「グリム童話に収められたこのドイツの昔話には、“知恵を持つ男”、“力持ち”、“目利きの狩人”、“鼻息の荒い男”、“足の速い男”、“氷らせる男”というそれぞれの特性を備えた6人の男たちが登場します。この絵本は彼らがチームを組み、それぞれの特性を最大に発揮して難局を乗り越え、宝を手に入れるお話です。
職場やチームで、あなたに求められる役割は何なのか。上司や同僚の顔を思い浮かべながら、自分の役割を再確認できる一冊です」(同)
当たり前を疑うことで企画力が磨かれる
『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケ作 ブロンズ新社
「テーブルの上のりんごは、もしかしたらりんごじゃないのかもしれない。サクランボの一部かもしれないし、小さな星かもしれない……。そんなふうに、当たり前のことを“そうじゃないかもしれない”と考えていくこの作品には、企画力を磨く大きなヒントがあります。
営業、企画、チーム内での会議で、行き詰まってしまうことはありますよね。そんなときこそ、この絵本のように当たり前の事柄を“そうじゃないかもしれない”と考え、他の可能性をひたすら考え、考え、考え尽くすその先に、思いも寄らない素晴らしいアイデアや方法が浮かんでくるかもしれません」(同)
本当にこの職場にいていいのか迷う人に
『はね』曹文軒作 ホジェル・メロ絵 濱野京子訳 マイティブック
「この絵本の作者も述べていますが“良い絵本というのは哲学的なもの”であるといえます。物語の中で“はね”は空へ舞い上がりながら、哲学的な問いかけを自分に投げかけます。自分はどの鳥の羽根だろう? 所属すべき場所はどこだろう? 問いかけをやめない“はね”の姿は、“本当にこの職場でいいの?”と迷うあなた自身かもしれません。
さまよう“はね”に自分を同化して、胸を痛めたり、恥をかいたあの日を苦々しく思い返したり……。結局“はね”の求めた答えは、その場に居続けることによってもたらされました。さて、あなたは……?」(同)
あなたは仕事の先にある未来が見えてる?
『すてきな三にんぐみ』トミー・アンゲラー作 今江祥智訳 偕成社
「“仕事のやりがい”はモチベーションを支える上で大きな原動力となるものです。この作品は、“何のための仕事か?”を明確に意識した三人組の泥棒の仕事の質が、以前とはガラリと変わり、周囲の評判も変わるという、痛快な物語です。
用意周到でミスがないこと、精度を上げることに加えて、“あなたの仕事の先に見える未来”を同時に意識することができたなら、きっと今までにない景色が目の前に広がるはずです」(同)
ビジネスパーソンこそ絵本を!
最後に、これから絵本を開こうと思っているビジネスパーソンへ向けて、絵本を読むコツを教えてもらいました。
「絵本に描かれる内容を、ご自身に引き寄せて読んでみてください。“登場人物はなぜその行動を取ったのか?”“結末が変わるためには、どこでどうすればよかったのか?”と想像することで、あなた自身の価値観、問題意識、そして新たな気づきが浮かび上がってきます。
絵本の中からあなた自身が見いだした気づきは、きっとあなたのこれからの人生や仕事を支える"価値ある哲学"となりうるでしょう」
絵本は、ビジネスパーソンにとっても非常に役立つ読みもの。ぜひ今度書店に立ち寄って、絵本を手にとってみてくださいね!
識者プロフィール
東條知美(とうじょう・ともみ) 絵本コーディネーター。1973年生まれ。新潟県出身。白百合女子大学卒。メディアファクトリー(現(株)KADOKAWA)、国立国会図書館、ビジネス書出版プロデュース会社、絵本作家養成専門学校、都内小学校図書室勤務を経て現在に至る。“大人にこそ絵本を”をコンセプトに、人生のさまざまな場面において活用できる「絵本の力」を作品解説や朗読を通して伝える。リラックスしながら読み深めることの提案、また企業、店舗等における「絵本設置スペース」の提案も行っている。 ブログ「僕らの絵本」。
※この記事は2015/12/11にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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