障がい者の就労イメージを変えたい! 福祉の在り方を変えるローランズの挑戦

2017年5月、原宿にオープンした「ローランズ原宿店」。ここは心身に障がいのあるスタッフが働く、フラワーショップ&スムージーカフェです。

障がい者の就労イメージを変えたい! 福祉の在り方を変えるローランズの挑戦

2017年5月、原宿にオープンした「ローランズ原宿店」。ここは心身に障がいのあるスタッフが働く、フラワーショップ&スムージーカフェです。

緑あふれる店内は連日多くのお客さんでにぎわい、スタッフは花束のアレンジやスムージー作り、接客などの仕事に従事しています。「障がいを言い訳にせず、普通のカフェと対等に勝負したい」と静かに話すのは、株式会社LORANS.(ローランズ)代表の福寿満希(ふくじゅ・みづき)さん。

新卒で入社したスポーツマネジメントの会社から、フラワーアレンジメントの技術を習得して2013年に独立。現在では障がい者のスタッフが働くフラワーショップを3店舗経営しています。障がい者も健常者も同じように働くことで、従来の「福祉」へのイメージを刷新し、ビジネスとして成長させていく。そんな高い目標を掲げて、障がい者雇用の常識を塗り替えようとする彼女の生き方にフォーカスしました。

スポーツマネジメントを学ぶ過程で身につけた花の知識


―大学時代に特別支援学校の教員免許を取得し、新卒でスポーツマネジメントの会社に入社した福寿さん。会社を離れ、独立された経緯を教えてください。

前職では所属するアスリートの社会貢献活動をサポートする業務を担当していました。プロ野球選手が東日本大震災で被災した子どもたちに野球を教えたり、試合でストライクを取った数に応じた金額を動物愛護団体に寄付したり。本当に楽しくてずっと続けたいと思っていましたが、1年半で異動になり、同じ業務ができなくなってしまって……。

でもこの異動がきっかけで、「自分で起こした事業なら、好きな仕事をずっと続けられるのでは?」と考えるようになったんです。事業をしている親の背中を見て育ったので、いつかは自分も独立したいな、という気持ちも前々からありました。


―スポーツ業界から花の世界へと飛び込むきっかけはなんだったのでしょうか?

アスリートの皆さんと働く中で、「自分の腕1本で生きていく」という生き方に憧れを持つようになっていきました。自分のスキルだけで勝負する姿を見て、カッコいいなと。

そこで独立を考えるにあたって、自分の強みを見つけようと過去を振り返ったとき、学生時代に勉強した花の知識が思い浮かんだんです。

―学生時代はどういった経緯で花を学んだのですか?

大学で専攻していたスポーツマネジメントの分野ではスポーツ心理学を学ぶ機会があるのですが、その過程で花や緑が心にもたらす効能についてに触れる機会がありました。

もとからお花が好きでしたし、花の技術と心の知識を、実践を通して深く学び身につけたい、これを強みにしたい、と思ったのがお花の世界へ行くきっかけです。

「石の上にも三年」ではなく「石から降りて先取りする」


―独立直後はどのような仕事をされていたのですか。

会社に在籍していたときから週末に花の勉強をしたり、花の展示会やコンテストに自分の作品を出展したりしていました。そうこうしているうちに、少しずつですが花の世界で人とのつながりが生まれてきて。ある程度スキルが身について、自信が持てるようになった頃、会社を辞めローランズを立ち上げて、フラワーアレンジメントの仕事を引き受けるようになったんです。

―人とのつながりが生まれたとはいえ、会社を辞めて未知の世界に飛び込むのは、相当な勇気が必要だと思いますが……。

花の展示会で知り合ったお客さまの中に、とても私のことを応援してくださる方がいまして。その方が背中を押してくれたおかげでなんとかスタートを切れたという感じですね。よく「石の上にも三年」って言いますけど、その方から「やりたいことに気づけたら、石の上に三年ではなく石から降りて次のキャリアを先取りしなさい」とアドバイスをしてもらいました。私一人で考えているだけでは、ここまで踏み込めなかったと思います。



障がい者に花の技術を教える中で、雇用の問題が浮き彫りに


―障がい者が働くフラワーショップ「ローランズ」。このコンセプトに至ったきっかけを教えてください。フラワーアレンジメントの仕事で、障がい者施設から講師を依頼されたとお聞きしました。

そうですね。施設でのレッスンを通して感じたのは、皆さん本当に一生懸命取り組んでくれるということ。そんな一生懸命な人たちでも、社会に出たら働く場所がないことが残念に思いました。学生時代にも特別支援学校の教育実習に行ったのですが、当時の生徒たちの就職率は15%くらいだったと記憶しています。

私は一緒に働くのであれば、何にでも一生懸命取り組む人と働きたいんです。スキルは後から付いてきますからね。前職の上司には「一番の社会貢献とは、雇用を生み出すことだ」と教えられていたので、私も独立してからは、いつかは雇用を作りたいと思っていたんです。これをきっかけに私のやるべきこと、私だからできることは「働きたいけど働けない人たちのために雇用を作ることじゃないのかな」と考えるようになって、そこに障がい者雇用が紐付きました。

障がい者雇用についての理解が得られず、大きな失敗をしたことも


―フラワーショップだけでなく、スムージーカフェも併設されている「ローランズ原宿店」。障がい者の方がスタッフとして働いていることで注目を集めていますが、オープンの経緯を教えていただけますか。

障がい者の就労に対するイメージを大きく変えるためには、「暗くて、狭くて、遠くて」という従来のイメージから離れるよう、やっぱり都心で出店したいと思っていました。最初に赤坂の物件を借りたんですけれど、最終的に障がい者雇用に対するオーナーの理解が得られず事業がストップしてしまったんです。同じコンセプトで川崎や駒込にもフラワーショップ「ローランズ」をオープンしましたが、やっぱり都心への出店は諦められなくて。

そんな渦中に、障がい者の雇用改革を推進している日本財団から「原宿にこういう物件があるから、挑戦してみませんか?」というお話をいただいたのがオープンのきっかけです。「1週間で返事が欲しい」と言われていましたので、思い切ったチャレンジでしたね。


―東京の真ん中に、こんな緑に囲まれた空間があることに驚きました。カフェにチャレンジされたのはなぜでしょうか?

原宿は100平米ほどのスペースなので、お花の販売だけで採算をとっていくことは難易度が高いと思っていました。だから店舗に足を運んでもらえるきっかけになる、何か別角度の事業を組み合わせたくて、そこに思いついたのがスムージーショップなんです。

店舗を持つ前は恵比寿にアトリエがあったのですが、そのビルの目の前にスムージーのお店があって、週に何度も通うぐらい大好きだったんです! いつかお花屋さんと一緒にスムージーショップなんてできたら素敵だな、なんて思っていましたが、実際作るようになってみると大変で……。原料が5グラム違うだけでぜんぜん味が違ってくるんです! 大変ですが、日々学びや気づきが多いので楽しんでます。



一緒に働くことで、楽しいこともつらいことも共に経験していきたい


―ローランズでは、どんな障がいのある方が働いているのですか?

ローランズ全体のスタッフは60名ほどで、そのうちの75%が障がいや難病のあるスタッフです。

原宿店には25名ほどのスタッフが働いています。スムージーショップは強迫性パーソナリティ障害のあるスタッフがサブリーダーを務めていて、責任者が不在のときには現場をしっかりまわしてくれていますよ。フラワーショップでは難聴のスタッフが接客の仕事をしています。

―健常者と障がい者が同じ空間で働くにあたって、気をつけている点を教えてください。

「障がい」という概念を捨てることです。「障がい者だから、ここまでの仕事しかできない」などは一切考えません。働くことで楽しいこともつらいことも、全部一緒に経験したいと考えています。

―そういう意味では責任を伴う、厳しい環境とも言えますね。

「なんでも対等にやろう」がローランズのモットーです。「自分は障がい者じゃない」「普通の人と同じように仕事がしたい」というマインドの人にとっては働きやすい環境になるのではないかと思います。

―ローランズは就労継続支援A型(※)に分類されるわけですが、A型を選択したのはどうしてでしょうか。

雇用契約を結んで、一緒に働きたかったからです。ここ数年で就労継続支援A型の施設の閉鎖が増えています。だからこそローランズが仕事を通してみんなで成長して、しっかりと売り上げを作り、雇用を守っていくモデルになりたいんです。

障がい福祉ってどこかネガティブなイメージを持たれることがあります。私はそんなイメージを変えて、当たり前の「仕事」として確立させたいんです。そのために、まだまだやりたいことがいっぱいあります。まずは原宿店の接客の質をもっと上げて、スムージーの種類も充実させて、一般のカフェと対等に勝負したいですね!

(※)障がい者と雇用契約を結び、働く場所を提供すること。雇用契約を結ばないケースは就労継続支援B型となる。


ブーケを作成する福寿さん。「好きなお花を束ねちゃえば、誰だって簡単ですよ!」と言いつつ、すてきなブーケを作ってくださいました。

行動によってしか、人生は変わらない


―将来は障がい者のための学校をつくりたいそうですが、具体的にどのような学校を考えているのでしょうか?

障がいのあるスタッフと一緒に働くようになってみると、自分の障がいについて理解しきれていない人が多いことに気づきました。そのため頑張りすぎてしまい、仕事で体調を崩してしまう人も多くて。だから仕事をする上で「自分の障がい特性をどう強みとして活かすか」「仕事に支障となることがあればどう工夫していくか」が大切なのではないでしょうか。それを理解するためにも、もっと自己分析できる場と、業務課題の工夫方法を探求できる場があるといいと思っています。それ以外にも、フラワーアレンジの技術や花屋で長く働くためのスキルを学べる場所をつくりたいです。

その一歩として、ローランズ川崎店を東京の天王洲に移転させました。すでにお花屋さんとしてオープンしていますが、今年度中を目処に、障がいのある子どもたちが花屋の職業体験を楽しめる施設もつくろうと動いています。

―最後に、新しい一歩を踏み出したいけれど、なかなか踏み出せない人たちにアドバイスをお願いします。

起業の際に背中を押してくださった方から「人生は行動によってしか変わらない」と「“一生起業準備中”のままで終わることのないように」という言葉を頂いたことがあります。私はキャリアチェンジを考えるようになってその言葉を実感しましたが、なにごとも行動からはじまるので、小さくても一歩動いてみてほしいです。「あれやりたい」「これやりたい」と思っているだけで、行動しない人って結構いるなって思います。やりたい思いがあるのに行動を起こさないで終わってしまうのは、思っていないことと同じなのではないでしょうか。私自身の経験を振り返って、同じ言葉をアドバイスとして贈りたいと思います。


スポーツマネジメントの世界から、フラワーショップとカフェで障がい者雇用を促進するという新たな世界に飛び込んだ福寿さん。過去の知識と経験を活かして、180度異なるキャリアチェンジを成功させました。「すべては行動からはじまる」を信念に飽くなき挑戦を続けるその姿は、同世代だけでなく多くの世代からの支持をこれからも集めていくでしょう。

(取材・文:舩山貴之/編集:東京通信社/写真:菊池貴裕)

識者プロフィール


福寿満希(ふくじゅ・みづき)
1989年石川県生まれ。大学卒業後、プロスポーツ選手マネジメント会社で選手の社会貢献活動の企画運営などの経験を経て、2013年に株式会社LORANS.を設立。花のビジネスを開始。ホテルロビーの装飾やイベントのフラワーデザインなどを担当。現在都内に3つの店舗があり、フラワーギフトなどの花や緑の仕事を通じた障外者雇用に積極的に取り組んでいる。ソーシャルビジネルとして約60名のスタッフ(うち75%が障がいと向き合うスタッフ)と共にお花屋さんを運営している。

※この記事は2018/06/06にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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